狂う、狂った物語   作:ウ″ァイス

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この閉じられた部屋で

息も絶え絶えにしながら少女は肩を揺らす。今まで生きてた中で最高に最強な自身の拳は目の前に立ちふさがる壁を打ち壊すことに見事に成功したのだ。だけど払った代償は大きかった。両手は鋼鉄以上に堅い扉を殴り続け、すでにボロボロ。

 

手の皮膚はズル剥け、骨が見えてる部分もそこそこ、真っ赤な紅い血に塗れた両手を見てやっと少女の肉体は自覚した。

 

「っっ〜〜〜!?」

 

そう、信じられないような痛みが少女を襲ったのだ。ボタボタと雫の様に零れ落ちてく紅い雫はこれでもかというように足下に水溜りを作り、少女は自身がどれだけの血を流したのかも理解した。死んでいてもおかしくはなかった。今だ両手が原型を残してることが不思議なことだったのだ。

 

だけどその代償に少女たちは解放されたのだ。この閉じられた世界へやから。

 

「っと、……やってられない!けどまあわたし頑張った」

 

そう振り返りながら笑顔でいう少女の顔は今にも倒れそうなほど青かった。

 

「じゃあわたしは行くよ。またね」

 

少女の後ろにいた少年少女たちがなにか言う前に蒼い髪の少女は真っ赤な両手を滴らせながらその場を離れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋からすぐに離れたのはわけがあった。とても簡単な理由だ。

 

「まあしょうがないとはいってもちょっと傷つくかな〜」

 

みんな怯えていたのだ。それはしかたないと言っても堪えるものはある。誰もこんな両手を血塗らせたしかもバカみたいな怪力を持つ者に近付きたいという者はいないだろう。いつその力が自分に振られるか恐ろしくてたまったものではないだろう。

 

「血も止まってきたかー」

 

すでに両手から出る紅い雫も止まり、ズル剥けてた皮さえも治り始めていた。人とは思えないほどの治癒力に化物じみた怪力。自身がどれほど人間から遠ざかってしまったのかと少女は一人悪態をついた。

 

そしてこのかげりなく続く廊下に悪態をつきたくなってきたところだった。すでに部屋から出て数十分は経っているというのに、歩けど歩けど見えるのは薄暗い廊下のみ、窓もなにもない。扉も何も見当たらない。在るのは左右にある壁と廊下のみ。

 

「もう勘弁してよ〜……」

 

数十分とはいえ、血を流しながらこの薄暗い廊下を歩き続ければ気力もなくなってしまうのも無理はない。気力どころか体力も残っているかどうかになっていた。

 

肉体の疲労に後押しされて、その場にしゃがみ込む少女。疲労と同時に長く続く廊下を歩き続けたがために、精神が参ってしまいそうになっていた。

 

「手が潰れてもいいから壁を殴り壊そうかな……?」

 

歩くと言う選択肢が抜け落ちるぐらいに少女は参っていた。しかし、灰色で塗りたくられた壁はどうみてもコンクリート、またはそれに似た素材で作られたそれは、いくら怪力であろうと手が潰れる程度の犠牲ではすみそうにはないだろう。

 

「さすがにそれは意味がないことがら止めてほしいかな?だってここは地下だし、いくら壁を壊して進んだところで出口には出られないんだよ」

 

不意に少女の耳へと聞こえた声。俯かせていた顔を上げれば、そこには白衣を着た一人の青年がいた。

 

「やあやあ。初めましてだね?お初に目にかかるよ被験体さん、僕はしがない科学者だよ」

 

ニコニコとまるで優しそうな笑顔を見せながら青年は少女にそう名乗った。笑顔によって細められた目にかかる紫色の髪を鬱陶しそうにしながら青年は少女にそう名乗った。

 

「科学者……?ってことは」

 

「そう。君たちをあの部屋に閉じ込めたのは僕たちがしたことだね。だが、勘違いしないでくれよ?なにも理由なく閉じ込めたわけじゃないんだね」

 

ただ実験をするために君たちを集めたんだよと続ける科学者に少女は怒りを感じるしかなかった。だが、それと同時に少女は科学者に恐怖を実らせた。実験をするためにと言った青年が少女を見る目はまるで“物”を見る様な視線だった。

 

「いや、しかし君は素晴らしいね。その力……ぜひ研究させて欲しいかな?どうだい。給金は弾むけど?」

 

「っ……断じてお断りよ!」

 

「えー残念だなー。君と僕とならまた新たなステージへと登れると思うんだけどなぁー」

 

ニコニコと見ている者を嫌悪させるような青年の笑顔が怖くて溜まらなかった。まるで残念そうにしていないその口ぶりも少女を畏怖させるには充分だと言えた。

 

「痛くないよ?痛いのは最初だけだからさぁー。だから君を調べさせてくれないかなー?」

 

「痛い、痛くないの前に!……わたしはあなたみたいな下種の道具になるつもりはないんだけど」

 

「……もったいないなー。もったいない。科学の発展とは常に犠牲は付き物だよ?嫌がってたら何も進展はしないんだ」

 

両手を広げて少女へと迫る青年。

 

「ここは僕を助けると思って実験体(どうぐ)になってくれないかなー?」

 

「来るなっ!?わたしに近付くな変態っ!」

 

後ずさりながら青年へと罵声を上げるが青年は気にもしない。依然変わらず、少女へと迫っていた。青年から発せられる嫌悪感と恐怖感に肉体がついていけなった。まったく少女の身体は少女の言うことを聞こうとしなかった。立って逃げることすら困難になっていたのだ。

 

「無駄だよ。君は抵抗できずにここで僕の実験体(どうぐ)になるんだ。それはもう決まったことさ。神様に祈ろうが、悪魔に願おうがこれは決して崩されることはないんだ。だから諦めなよ。どうしてそんなに意地を張るんだい。実験だって痛いことばかりじゃないよ?苦しいことばかりじゃないよ?……それはもちろんそういうことが多いのかもしれないけど、きっと楽しことだってあるよ。君はまだしてもいないことになぜそう嫌がるんだい?せめて一度実験考えてほしいやってみてからなと僕は思うのだけれど……君はそこに関してどう思うのかな?」

 

無理だった。限界だった。怖かった。気持ち悪かった。この青年が、科学者が、目の前でニコニコとまるで子供受けしそうな笑顔をする人間が……。彼は、青年は、男は、人間は、まるで化物(ニンゲン)のように見えて堪らなかった。

 

身体が震えていた。涙が出そうだった。青年の手が少女の腕へと伸びた。だけどそれは

 

「わ…たし……に、触れるなぁあああ!!?」

 

少女を掴まなかった。青年の手を払うように振られた少女の腕は青年の手を“すり抜けて”いき、止まらない腕の勢いに身体が引っ張られ、少女はその場に倒れるように伏せた。

 

「えっ?」

 

「あちゃー……」

 

あまりにものできごとに理解が追いつかない少女だが、その疑問は青年が答えることになる。

 

「バレたから言うけど、実は君の目の前にいる僕ってただのホログラムの塊なんだよねー」

 

けらけらとまるで少女を嘲笑うかのように言う青年は続ける。

 

「まあ例え地下(ここ)実体(にくたい)はなくとも地上(でぐち)には僕の本体があるからね。君は決して逃げられないよ?いや、逃がしはしないよ」

 

「……黙れ」

 

「もう君は僕の術中のなかだ。つまりは籠の鳥。わかる?今の君の状態がどういうふうになっているかが。君の頭にはたーーっぷりと僕の恐怖がさぁ、入力(インプット)されているのさ」

 

「わたしの目の前から消えろぉお!」

 

立ち上がり、振るう拳が青年のホログラムを貫く。ただの映像だというのならすでに恐怖はない。ただ見ているだけでおぞましいその笑顔が少女の目の前にあるだけだ。そう自身を思いあがらせながら、少女は拳を振るったのだ。

 

「あらら。まあこのまま君をここに放置しておくわけにはいかないからね。地上へと繋がる回廊を開けてあげるよ。ほら、君のすぐよこに」

 

青年の口元を拳が通過する。そして霧散するホログラム。少女は顔色を青くさせながらも、がちんと鍵があくように開いていく壁の一部を見たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そこにはまた一つの通路があった。また歩くのかと、気分が落ちそうになった少女だが、あの青年がなにか用意している可能性がないこともないだろうと仮定して慎重にその通路のなかを歩きだした。

 

だが今度はそう時間がかからなかったと言えるだろう。数分もしないうちに通路の終わりが見えたのだ。少女の身体よりでかい木製で作られたであろう両開きの扉。ドアノブではなく取っ手が付けられ

ており、引いて開く形になっている。

 

ごくりと粒を飲み込みながら少女はこの先に待ち受けるものを想像する。もしかしたらなにもないかもしれない。青年が扉を開けてすぐそこに待ち受けているのかもしれない。ただ地上へでる階段が永遠と続いてるのかもしれない。少女を捕えるために派遣された人々が待ち受けてるのかもしれない。考えれば考えるほど少女に不安が募る。

 

だけどいつまでも取っ手に手をかけているだけのままでは進まないのもまた事実で、このままあの青年に好きに弄ばれるのも少女にとって勘弁……つまりいいかげんにしてほしいといったところ。

 

なにが待ち受けていようとただその(かいりき)を持って進むだけだと己を勇気づけた少女は思いきって両扉の扉を引いた。

 

そこには

 

「ふむ……、遅かったな。では始めようではないか」

 

ごつごつとした真黒な西洋騎士を思わせるような鎧を着た一人の男が、その手に剣を持ちながら待っていたのだ。

 

「いや、無理じゃないこれ?」

 

少女に素手で刃物に勝てる自身などこれっぽちも存在していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不可不思議な弾丸が少女の視界で飛び舞う。少女がそれを避けるたびに削られる床や壁を見て、当たればただですまなくなりそうなことは充分に承知だった。

 

真っ赤な血の色を象ったような赤い弾丸に少し気後れしながらも、少女は走った。この端から端まで合わせて五十メートル以上はありそうな部屋のようなエレベータのような空間を。

 

「どうしたっ。避けるだけでは意味がなかろう!」

 

「んなこと言われたって……」

 

正直言って少女は泣きたくなっていた。相手はその手に持つ剣に加えて、不可不思議な力を使うのだ。力についてはなんとなく少女には答えがわかってはいたが、それでもすぐにそれを攻略できるかと言われてできるわけもなく、絶賛少女は非常にピンチだった。

 

男の眼前に回る赤い三角形から作られていく弾丸を横に飛び、上に飛び、または前に飛びと。走って、走って、走りながら少女はこの打開策を考える。

 

「……うん。無理だ」

 

だがそれが出ることはなかった。

 

「レギオンっ」

 

『OK MASTER』

 

下げていた剣を構える男。誰かの名を呼ぶように叫ぶとそれに答えたのは男が持つ剣。

 

「来ないのならば……こちらからいかせてもらうまでだっ!」

 

『SONIC MOVE』

 

剣が言う。それだけで男は走る少女の視界から消えた。後に残るは、少女に向かう深紅の弾丸のみ。

 

「疾風……一閃っ!」

 

『SONIC BLADE』

 

背後から振りかかる銀色の刃。触れるものすべて断つ音速の刃は背後から少女へと振り下ろされた。

 

「速っ!?」

 

前は弾丸、後ろは刃、左右も弾丸。少女に逃げる道などなかった。そう。少女が“覚醒”していなかったら。

 

男も気づいた。少女から立ち上った蒼い魔力(オーラ)に。だがそれだけで刃は止まることなどないのだ。実際にそうだろう。だが魔力が形を成してしまえばそれは別なのだろう。そう。男が放つ深紅の弾丸のように。

 

「ハンドソニックっ!」

 

少女の右手に形成された蒼で塗りたくられた人振りの短剣。手首から伸びたそれは振り下ろされた銀色の刃を防ぎ、そして少女は続ける。

 

「ディレイ!」

 

男の剣を受け止めた少女はそのまままるでステップを踏むようにタタンとリズミカルに地面を何度か蹴った。ただそれだけで少女は男の視界に残存を残して弾丸の包囲網から抜けたのだ。

 

「……ほう」

 

男の唇がニヤリと釣りあがった。しかし男が放った深紅の弾丸は少女ではなく少女の残残を貫いて男へと牙を向けるのだ。

 

だが

 

『PROTECTION』

 

それは弾丸と同じく深紅の壁によって防がれる。

 

「うそっ!?それずるくない?!」

 

「ズルなどではない。楯の魔法を持たぬ貴様が悪かろう」

 

漆黒の鎧に傷一つ付けずに男は弾丸の雨から生還した。どことなく少女が見れば、その顔は唇が釣り上がり、なにが嬉しいのか見るものをどこか笑っているように錯覚させる。

 

「そういえばまた名乗っていなかったな。それがしはセルゲイ。セルゲイ・オクトリオ。なに……しがない傭兵だ」

 

「わたしは……フェル。フェル・アフシル。しがない孤児をやっているわ」

 

その名乗りに満足そうに顔を綻ばせて男、セルゲイは己が剣。レギオンを突きだすように構えた。そして少女フェルはセルゲイの剣をいつでも対応できるように眼をこらす。右手に形成された短剣はそのままにフェルはただ次に来るであろう剣戟に備えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

最初に動いたのは言わずもがなセルゲイだ。

 

『SONIC MOVE』

 

無機質ながらどこか深みのある男の声を発する剣がそう唱えると同時にセルゲイは地面を蹴る。ただそれだけでフェルの視線が追いつけないような速度を出して肉薄する。

 

「見えないなら……」

 

だがフェルは無謀にも視界を頼ることを止めた。どう眼を凝らして見ようが見えないものは見えないのだ。それならそうでフェルにはフェルなりのやりかたがある。だからこそフェルは眼を頼ることを止めた。

 

「それはそれでやりかたがあるよね?」

 

刹那、フェルはタタンと軽くステップを踏んだ。そしてフェルの眼前からレギオン()を振り下ろすセルゲイ。

 

「最初から来るのはわかってるんだから……」

 

だがその刃はただフェルの残像を通過したに過ぎなかった。

 

残像(わな)残して待ってればいいじゃない?」

 

セルゲイの背後から手首から伸びた蒼の短剣を振りかぶる。セルゲイは大振りした後で、その背中は隙だらけだ、深手は負わせられないとしてもそれなりのダメージ()は与えれるだろうと踏んでの行動だ。

 

玄人であるセルゲイに勝てる見込みなどフェルには端からなかったと言っていいだろう。だがそれでも鼻っぱしをおかせることぐらいはできるだろう。だからこそのこの初手。

 

なんとかして攻撃を与えたいところだった。

 

「惜しいな。真に惜しい……もう少し実戦経験があればそれなりのいい勝負ができたのかもしれん。だがそれがしも仕事でな。そうもやられてはいかんのだよ……」

 

だがこの玄人(せんし)はそれすらさせてはくれないようだった。

 

振り下ろした短剣が弾かれる。何事かと見ればセルゲイは剣を振り下ろしたままそのまま回転切りの容量で背後に即座に振りかえったのだ。短剣を弾いた。セルゲイの剣から深紅のオーラが纏われ、そ

の言葉を紡いだ。

 

「疾風…」

 

『SONIC BLADE』

 

「一閃!」

 

それは必殺の一撃。当てれば必ず相手を殺す滅びの刃。だが言いかえればそれを外せば自身に大きな隙を作らせる諸刃の剣(じゃくてん)なのだ。

 

振り下ろされる刃を見てニヤリと笑ったのはセルゲイ()ではなく、フェル(少女)なのだ。

 

「かかった!スキル……ディスト―ション!」

 

空間が歪む。フェルの眼前を対象とした空間が揺らぐように、まるで波で荒れる海のように揺らいだのだ。

 

「なんとっ?!」

 

セルゲイは理解した。罠にかかったのは自分だったと。初手を意識しすぎてニ手目を意識しなさすぎたのが敗因だったのだろう。それは玄人《せんし》としてあるまじき事態だというのに。ここが戦場ならセルゲイはとっくに殺されているとまではいかないが追い詰められたネズミほど恐い物はないというのだろう。

 

よく言うのである。窮鼠、猫を噛む……と。

 

揺らいだ空間にあわせるように剣の軌道は変わる。波に流される水のように。その切っ先はすでにフェルを捉えていない。

 

「少しは痛いどころか済みそうじゃないんだろうけど、セルゲイは鎧があるし、大人だから大丈夫だよね?」

 

少女はそういい弾き上げれていたその手をぐっと強く……握りしめた。

 

魔力解放(オーバードライブ)……」

 

「我感服せし…か」

 

「これがわたしの全力全開っ!」

 

フェルの右手に取り巻くように蒼色の魔力が渦巻いた。そしてそれは

 

「ぶ・ち・ぬ・けぇぇえええっっ!!」

 

拳と供にセルゲイの肉体を撃ち抜いたのだ。

 

蒼い奔流がセルゲイを貫き、鋼すら打ち壊す拳がセルゲイの漆黒の鎧を砕き、彼の意識を刈り取った。

 

「っは、は……はっ」

 

肩を落とし胸を前後させる少女、フェルの目の前には腹の部分が砕けた黒い、漆黒の鎧を着る男が一人。その手に容易く人の命を奪ってしまう剣という武器を持ちながらも男はその場に仰向けに倒れて

いた。意識はないのだろう。瞼は閉じられていて、起き上がる気配もなく、例え瞼が開いていたとしてもそこにあるのは白目をむいた瞳だけなのだろう。

 

「うん。わたし頑張った……!」

 

顔に大量の汗を滲ませながらも少女は両手を上げてガッツポーズ。

 

すなわちぐっと掌を握りしめた。この勝利を噛み締めるために。

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