狂う、狂った物語   作:ウ″ァイス

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上も下も戦場

どうやら気付いたのは自分だけではなさそうだ。そう思った道化にはそう思えるだけの理由があった。理由としては接近してくる物体になんらかの反応をきたしたのか、それとも道化が気付かせるようなバカをしてしまったのかどちらか。

 

ただバカをしてしまったことに関しては道化に覚えなどまったくなかったので除外。まあ気付かぬうちになにかしてしまったということはよくあることなのだが、それでも今回に対してはまったく覚えがないので完璧に除外だと、そう道化は思いたい。

 

「反旗旺盛ね……」

 

「GAAAAAAAAAAAAッ!!」

 

人の言葉ではないその声。まったくもって動物の鳴き声や吠える声に近いがまたこれは別物だ。そもそも下手をすれば成人男性とタメを張れるぐらいの巨大差を持った丸っこく、所々触手の生えたそれがただの動物だなんて道化にとっては思いもしたくなかった。

 

「さてどうしよう?」

 

今だ民家の上を飛び跳ねて行ってる物体を追ってはいるが威嚇の叫びを上げられた。それはこれ以上ついてくるのならなにかしらするぞって意味だろう。だと言って道化に物体を逃す意味(わけ)がない。

 

反撃を恐れるのならそもそもが追わなかったらいいだけ。ただ興味本位だけで追っているのなら道化だって厄介事(面倒事)のようなこの事象に深く立ち入ろうとはしない。

 

必要だからこそ道化は物体を追っているのだ。

 

「まあともかくに、わたしも屋根上に上がりますか……」

 

人間の脚力と思えないような跳力。トンっと軽やかに道化は走りながら屋根上にえと飛び上がり、物体と同じ台《ステージ》に乗っかる。

 

「GAAAAAAAAUUUUッ!!」

 

それを敵対行動と認識した物体はドンと屋根上に身体を押しつけて止まり、道化へと向きあい。そして勢いよく道化の下へと飛び跳ねた。

 

「速っ!?」

 

あまりにもの速さにそれは大砲の弾丸に見えた。正直それを直撃して道化も、道化が立つその屋根上も耐久力的に耐えれるわけがない。粉砕。その一言に尽きる。

 

当たるのは勘弁したいと道化は足を動かしたいところだがそうもいかないわけがある。

 

「あー……」

 

こんこんと屋根上を叩く足がそれを教えてくれる。道化がいるのは民家の屋根上なのだ。“人が住んでる”家の上だ。

 

「避ければ悪人?」

 

人様に迷惑をかけるものがそう言われるのならそうなってしまう。時間も深夜といった具合ではなく、街の家の電気はそこら中で付き、街頭以外で街を明るくしている。いくら“人払い”の術式で街行く人々を避けていようが、限界がある。

 

屋根を破砕する音など街中に広まりそうな轟音。驚いた家の住人も、他の家の住人も気付いて騒ぐのが眼に見えた。そうなれば道化の顔も見られてしまう。

 

この世界の警察の厄介になるのは御免被りたい身としてはそれは避けるべきなのだろう。ただでさえ“追われる”身なのだ。

 

「ほんと厄介だよね……。どこも警察機関っていうもの、はっ!」

 

右腕に道化の魔力特徴である蒼の刃を構成。手首から短い短刀のようなそれをさらに魔力を注いで伸ばし、形を丸めていく。見れば見るほど打撃武器《バット》になったそれをその場で低く腰を落として構えたが、如何せん。急ごしらえのこの構え(フォーム)

 

打てるのだろうか。

 

「GAAAAAAAAAッ!!」

 

「やああああああっっ!!」

 

吠える両名。どれも街中では近所迷惑であるそれに気付く者は誰もいはしない。右腕手首に添えた左手と右腕に精一杯の力を込めて振るったバットは空振り(ストライク)することもせず、運良くなのか芯のど真ん中へと当たり。

 

「GAAAUUUUUッ!??」

 

丸みを帯びたその黒い物体を凹ませながら空へとかっ飛ばした。衝撃に屋根がミシミシと嫌な音は立てたが道化は聞かないことにする。

 

「これなら」

 

空なら物理被害を気にすることもない。だが懸念は今だ上空で戦っている魔導師たち。少し開け場所でもあれば物体をそこに誘導したいとこだが街の地理に詳しくない道化にそんな場所がわかるはずもない。

 

「我ながら考えることは苦手ってね……。誰に似たかな?」

 

思い浮かぶのは姉のような存在の少女だが、今もこれからもきっと会うことはない。思い出したことでうっすらと微笑みが顔に浮かび上がり、件の少女に会いたいと思ってしまった。

 

できるはずがないことなのに。

 

「我ながら考えなしね……」

 

閑話休題《ともかく》。戦闘中に雑念など入れてる場合ではない。先から口調もだいぶ崩れがちなことから道化は集中。真剣に物体の後を追って打ちのめす。それから昔の思い出に浸ればいいと思いなおした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイスバレット!」

 

灰色のスフィアが二三個周りに展開。そこから撃ちだされる氷の弾丸は先と同じく殺意の塊だ。

 

「完璧に殺す気よね……」

 

迫る弾丸を回避しながら少女は今だ動かない白衣の男を見た。注目すべきは金髪の少年ではなく、力も何かもかもが未知数なその男。

 

少年が無事であったことから男は少女の一撃を防いだ事実がある。防御力に関しては申し分ないだろうことは確実。だったら他の戦闘力は?

 

「らァァァァァッッ!!」

 

気付けば少年の周りに増えてるスフィア。その数は最初の邂逅と同じかまたはそれ以上。また物量で押しつぶそうとでも思ってるのだろうが、そう何度も同じ手に苦渋を味わう趣味など少女は持ち合わせてない。

 

「ロードカートリッジ」

 

『OK CARTRIDGE ROOD』

 

ニ発。デバイス(パイロクイーン)から飛ばされた薬莢の数だ。それだけでなけなしの魔力も多少はマシになるというものだ。弾丸に込められた魔力を撃ち出すことで取り出して制御化に置くカートリッジシステム。魔力が残り少ない時にこれほど便利な技術があってよかったものだと常々少女は思う。

 

その分対価は失敗《ミス》れば墜ちるというだけ。簡単なことだ。

 

「業火炎武っ!」

 

『BLASTER EDGE』

 

火を噴く砲身。唸り上がったそれをあえて直線状にせず、鞭のように振舞う。もはやそれは刃ではなくて鬱陶しい()を喰らう蛇だ。

 

別に刃だからといって剣のように使えなど言われる筋合いなどない。炎は最初から形無きもの。それをどういうふうに使うなど使い手の勝手だ。

 

「喰らいなさい」

 

クルクル、クルクルと少女はその場で舞っていた。足下には地面もないはずなのに、まるで足場があるようにその場でクルクルと回る。つられて周る蛇の尾を壁状にと少女の身体の周りとぐろを巻くように蠢く。

 

ほら、なにも通さない要塞が完成だ。

 

「ん~。やっぱりあれだね。カートリッジのドーピングはいつ見てもせこいとしか言いようがないね?」

 

「喋ッてる場合か!?てめェも少しは手伝いやがれッ!」

 

要塞の城壁ともいえる炎の壁を観察している男だが、どうにも動く気配がない。そうこうしてる間にも要塞は鉄壁に変わっていくというのに。

 

「まあそう怒らないでよラーグ君?」

 

へらへらと笑う科学者は少年の名を告げ、ラーグはただ自分の名がこの場で呼ばれたことを疑問に思った。

 

「てめェ……どういうつもり」

 

「この場の解決方法は至極簡単だよ。なんといってもここに僕がいるということだけでそれは決まったも同然」

 

ラーグの言葉を遮ってまで言う男にラーグは戸惑いを隠せない。元から真っ当な考えを持ってないことを知ってはいたが、ここに来て尚さらに理解できない。

 

「どれだけ城壁が堅くとも内側というものは脆いものだよ」

 

紫色の魔法陣。三角形の形作ったそれは小さく、男の拳大ほど。そんなちっぽけな魔法陣《もの》でいったいなにができるというのだ。そうラーグは言わずにいられない。

 

だが。

 

「惜しいね。本当に……。あまり魔力を使うと彼女に気付かれるから僕は君を殺すという選択肢をとることができない。君は運に味方されてるとしか思えないね」

 

その意味は本気を出す気はないということだとラーグはそう思った。一応はラーグに魔法を教えた師匠みたいな存在ではあるが、男が戦ったとこなど、今まで見たことなどなかった故に。

 

ラーグですら男の真価を図り損ねてしまう。

 

「まあそれでも君が僕に勝つことなど不可能だけど、ね」

 

ポンと陽気な音が男の掌からした。見れば鷲掴みできる具合の丸まった紫色の塊が男の手の上に。

 

塊は右腕。魔法陣は左手。

 

どちらも男の魔力特徴である紫色をしているので器用に二つの魔法を起動していることになる。ラーグは今だ並列思考(マルチタスク)などというものはしたことがないが、本場の魔導師でそれができないのは欠点に近くなるかもしれない。

 

科学者ということに関しては男は有能だ。それなりに頭は良い。

 

その賢さを持ってしたら並列思考など男にとって至極簡単なことであるのかもしれない。

 

「さあ悲鳴()を奏でろ-小さな爆弾魔(リトルボーイ)

 

ポイっと。まるでに道端に空き缶を捨てるように。神社の参拝客が賽銭を投げるように。軽く。それが当たり前のように男は塊を投げ捨てた。

 

「はァ?」

 

爆弾魔《リトルボーイ》と言われたことからそれはまごうことなく爆弾。それが目の前に軽く投げ捨てられた。どれだけの爆発力を備えられてるのかもわからぬそれが、今ラーグの目の前の中をさ迷うように投げ捨てられた。

 

意図できない行動。あまりものことから声が漏れ、思考が停止。炎の向こう側にいる少女もそれを見ているのなら男がなにをしたいのかわからないだろう。

 

爆弾が目の前に捨てられたというのに男は焦りもしない。どれだけ小規模だろうがこの至近距離で爆発すればラーグも男も無事でいられる保証なんてありはしない。

 

止まった思考が加速した。

 

 

「な、なッ!!?」

 

言葉にならない。だがそれよりも動くことが先決。平然とした男をよそにラーグはその場から逃げようと動くが。

 

「大丈夫、大丈夫」

 

続いて男は魔法陣を爆弾に向けて“投げ捨てた”。

 

「自滅するほど僕はバカじゃないよ?」

 

紫色の魔法陣は男の手から離れて尚その輝きを失わない。今や爆発寸前のそれを包み、魔法陣ごと目の前から消えた。

 

「超短距離転送。まあ僕の十八番(おはこ)だね」

 

刹那轟音。燃え盛る炎の内側から新たに火の手が上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

安心はしていなかった。いくら強固の壁だろうがそれを維持し続けるにも魔力も足りない。ただの時間稼ぎに過ぎなかったのだが、それでもいくらか手を考える時間をとれると思っていた。

 

やはり懸念は男だったのだが、自ら手製の爆弾をその場に投げ捨てたのを見て何がしたいのかと疑問に思っただけ。

 

「なっ-!?」

 

目の前にその爆弾が転送()んでくるまでは。

 

紫色の光を孕んだそれはすでに爆発寸前。所々罅のように砕けたそこから紫色の光を漏らしながら、逃げる猶予も与えずに炎という壁に阻まれた密室の中で爆発。

 

『PROTECTION』

 

跳ね上がる右腕。瞬間的に搾りかすのような魔力で張った楯も雀の涙ほどしか効果はなかった。

 

空を揺るがした爆発音。ズンと低い音で煙を上げ、その下から出てきたのはボロボロの魔導師(少女)

 

純粋な魔力で作られた爆弾であったために物理的な被害だけだったがそれでも羽織っていたマントは破れ、身体中にズキズキと打撲のような痛みを押し付ける。

 

咄嗟に張ったプロテクションの魔法も役に立たず、逆にそのせいで爆弾に近付いた右腕が一番被害を(こうむ)った。

 

「-っ。……折れたわね」

 

だらりとぶら下がった右腕は痛覚はありしも、動かすことができない。肘上辺りがポッキリと半ばから折れてる。

 

「どうだい。小さな爆弾魔(リトルボーイ)のお味は?」

 

嫌らしく笑うその男。

 

小さな爆弾魔とはよく言ったものだ。その爆弾の規模は小さいその身からは考えられないほどの大爆発だ。

 

「まったくもって最悪だわ……」

 

そう最悪な状況だ。

 

「わたしはここでなぶり殺しにでも合うのかしら?」

 

利き腕が折れた。砲撃は撃とうにも片腕で撃てるほど柔な衝撃ではない。接近戦などもっての外。足はまだ生きているが、二人から逃げれる自身も腕もない。

 

本当に状況は最悪だった。

 

 

 

 

 

 

 

爆弾が空を覆い尽くす。毒々しい紫色のそれは少女の視界いっぱいの空一面を覆い尽くしながら今か、今かと、爆発する瞬間を待っていた。

 

「逃がしはしないよ。いくら全力でやれないからと言っても、手負いの君程度……殺せないわけがないだろう?」

 

自らを科学者と名乗った男は少女に向けてそう言う。男は少女を生かして返すつもりは()はなかった。先までは殺す気など一ミリとも思っていなかったのだが、気が変わったとでも言おうか。

 

既存の限界を超えるカートリッジシステム。そしてそれを扱えるだけの技量と度胸。実力で言えば今はまだラーグが一歩前に出ているだろう。だがそれは少女がカートリッジシステムを使わなければの話。ならばラーグもそのシステムっを導入すればいいだけの話なのだが、それも無理だ。なぜなら少女に足りないのは実戦経験。

 

今まで組織に組みし活動してきたラーグは数々の実戦を経験した。だが、少女は魔法を扱えるようにだけを目的とした修業と、数少ない模擬戦だけ。いくら魔法を使えるようになっても経験がなければ上手く扱えないのは道理であり、そして多く実戦を経験したラーグが少女より強いのは当たり前の話である。

 

そう当たり前の話なのだ。

 

だが少女はそれをカートリッジシステムの恩恵だけで上回った。本来ありえる話ではないのだ。

 

「生かして、逃がせば任務の障害となりえそうと判断したからね。容赦はしないよ」

 

それはすなわち少女の戦闘におけるセンスの高さが織り成す力である。

 

「冗談じゃないわ……。こんなとこで死んでたまるかってのっ!」

 

折れた右腕を力ないようにぶら下げ、左手に持ち直したパイロクイーンを突きだす。身体を動かすたびに鋭い痛みが右腕から発せられるが、少し顔を顰めるだけで少女は諦めもしない。

 

「ブラスター!」

 

『BRASTER EDGE』

 

パイロクイーンから噴射される炎の剣。

 

「本来遠距離戦が本元のわたしが近接用の魔法を用意するなんておかしいと思わなかったかしら?」

 

「そうかい?いくらロングレンジだとしても、近距離に潜り込まれた時のために用意するものだと僕は思うけどね」

 

男が言ううのもごもっともだ。遠距離。つまりロングレンジを得意としてても、どうしても近距離に潜り込まれたときに対応ができないようであれば、それはすなわち死を意味する。本来魔法は非殺傷という設定にして使うのが正しいのだが、少女も、男も、ラーグも魔導師ではあるが、魔導師ではない。

 

「僕らみたいな犯罪組織に身を置く者なら誰だって死ぬ可能性があるからね。保身のために用意しておくものさ」

 

「そう……そうでしょうね。でもね、わたしは違うわ。わたしも本来の魔導師と同じよ?ただ試験を受けずに探し物を探しているだけの魔導師よ。殺傷設定なんかも本来なら使うことないわ」

 

探し物。探し人とも捉える事ができるが、少女がこの二人にそれを伝えることはないだろう。それよりも本題である。

 

「わたしの魔法における才能は完璧な砲撃型と偏っていたわ。それこそ砲撃以外の魔法を使おうと思えば失敗するぐらいに」

 

たまにいるのだ。魔法における才能が完璧に偏っている例が。補助型や、近接型。そして少女のような砲撃しかできないような魔導師が。

 

ならばどうして少女が砲撃以外の魔法を使えた?

 

「正確にいえばブラスターエッジも砲撃なのよ」

 

そして炎が唸りを上げた。

 

 

 

 

 

 

少女の才能は確かに偏っていた。使える魔法は少しの補助や砲撃だけ。敵に近付かれてはシールドを張って殻に籠るしか防御方はなく、すなわち近付かれれば落ちてしまうほどに本来なら接近戦は弱かった。

 

そう本来なら。

 

だが少女は魔法のほかに炎熱変換という才能があったのだ。魔力を自由に炎へと変換する才能が。それが少女に光の兆しを見せた。

 

砲撃しかできないなら砲撃だけをする。だがそれに炎熱変換を使ってアレンジして使えば。

 

「例えそれが元が砲撃魔法だとしても使い様が様々になるのよ!」

 

『SPARKS』

 

噴射していた炎が枝分かれしていく。噴射口から無数の火の弾となったそれは弾幕を張り、空に舞う。それこそ紫色に染まった空を塗りつぶす様な勢いで赤が広がる。

 

まるで一つの火から迸る火の粉のように。

 

「へぇ……」

 

「関心してる場合かッ!」

 

大小様々な火の弾。それは先に空を覆い尽くした爆弾へと手を伸ばす。一度刺激すれば爆発してしまうそれに炎などぶつければ。

 

「そうだねー。離脱するしかないかな?」

 

爆発。

 

そう爆発だ。一つの威力は小さめに設定されたそれだが、それでも空を覆い尽くすようなその量と、その広がった範囲。けして遠くない距離どうしに設置された爆弾は一つでも爆発すれば近くの爆弾へと連鎖していく。

 

つまり連鎖爆発だ。

 

少女の反撃の際に男が最も危惧してはいたが、これまでに少女が使ってきた魔法は単純な砲撃と、近接用の魔法。砲撃ならば爆弾を動かして回避することが可能だった、近づいてくれば爆弾を差し向けてやるつもりだった。

 

だが。

 

「奥の手なんて隠しておくものよ」

 

男はどうやら少女を舐めていたようだ。どちらもが探し求める者を同じとした者同士。いずれ出会うだろうと監視し、今回初参戦のこの少女。

 

ずいぶんとしたたかであった。

 

ニッと笑いながら爆風に紛れて消える少女と一緒に男とラーグは爆風が届く前に転移した。

 

 

 

 

 

 

 

近くの空でどでかい爆発音が響き、空を揺るがした。もうすでに真夜中に差しかっかた時間ではあるが、こんな近所迷惑な大音量。たとえ空高くでも、地上まで響いたであろう。

 

道化は手汗を握りながら、爆発音が下方向へと睨みを利かせた。この距離では道化に気付かないだろうが、それでも睨まずにはいられなかった。

 

もし、数秒でも結界が遅れてたら地上の人々が騒ぎだすところだったのだ。

 

そして

 

「……最悪」

 

「GAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

現在道化は物体から飛び出た触手のようなものに手足を絡めさせられ、捕まっていた。しかも現在進行形で落下中。

 

かっ飛ばした空でトドメを差す算段であったが、急な結界処置をしたために道化は空でありながら致命的なほどに隙を見せてしまった。それも間近で、だ。

 

魔力の結晶体ともいえる物体には落ちたところでダメージはなさそうだが、道化は人間だ。空数百メートルを何の補助もなしに落ちれば死ぬに決まっている。

 

飛び立とうにも絡まった物体が重すぎて飛べもしない。他人のミスを匿ったせいで道化は死の間近であった。

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