このすば! ─カズマがいた異世界最初の街は王都にある王城です─   作:Sakiru

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首無し騎士と臆病な冒険者

 

 魔王軍幹部、首無し騎士(デュラハン)との戦いが始まる──その一週間前のことだ。

 アイリスの案を取り敢えずこの国の重鎮であるシンフォニア家のクレアに聞かせようと急いで街に戻る中。

 おんぶしてもらっている分際のめぐみんが耳元で──

 

「カズマカズマ! もっとゆっくり帰りましょう! 身体があっちこっち揺れて、正直今にも吐きそうなのですが!」

 

 ……そんな苦情を言ってきた。

 だがしかし、俺はそれに応えてやる気はさらさらない。

 何故なら後方にある古城には()()幹部がいるのだ。

 俺としては一刻も早く立ち去り安全な街の中に避難し、願わくば、そのまま安寧の時を過ごしたい。

 そして出来るならもう二度と近付きたくない。

 

「断る! もう少し我慢しろ」

 

「うぅー」

 

「カズマ様、早く行きましょう!」

 

「あぁ、分かった! おいめぐみん。帰ったら今晩の夕飯は唐揚げ三個奢ってやるから、それで我慢してくれ」

 

「四個でお願いします」

 

 意外に大丈夫なのではと突っ込みたいが、その話は後にすることにして、俺たちは全速力で街へと向かっていった。

 

 

 

§

 

 

「魔王軍幹部だと──!? えぇい、貴様は何をしているのだ!? アイリス様をそんな危険な場所にお連れになるなど……!」

 

 ダスティネス家の屋敷に、そんな叫び声が響いた。

 ──突然だが。

 王都から派遣されてきた騎士団の人たちには、当然、宿はない。いや、宿そのものはあるのだが冒険者たちが寝泊まりしているのでどこも空いていない。

 なので騎士たちは馬小屋に寝泊まりするか、もしくは野営テントを設立し、アクセルの外壁付近にて生活を送ることを余儀なくされている。

 だが重鎮であるシンフォニア卿のクレア、王族であるアイリスは別だ。それなりに設備が整っており、且つ、安全な場所がどこかと言われると、ダクネスの実家しか見付からなかったらしい。

 流石は王家の懐刀と言われているだけあって、ダスティネス家の所有する屋敷はとても広かった。

 何百億エリスが必要になるか見当もつかない。

 そしてそんな屋敷の大きな部屋の一室で、俺たちは今、事の顛末を話しているのだが……白スーツがギャーギャーと煩くてしょうがない。

 部屋に居るのは、ダクネス、ダクネスの親父さん、アイリス、クレア、騎士団隊長に俺と……そして何故か、この街の領主がいた。

 領主の名前はアルダープと言うのだが、あまり良い噂は聞かない。

 街の住民たちからは嫌われ、冒険者達からも嫌われている。(まさ)しく悪徳貴族だ。

 そんなアルダープなのだが、奇妙な事に犯罪歴は一切ないらしい。

 ……なんでも、決定的な証拠がないとか。

 嫌々居る、というのが丸分かりな態度で座っている悪徳貴族様は下卑た目でクレアやダクネスの事を視姦していた。

 アイリスやめぐみんがそれに含まれていないのは……、まあ、まだマシだろう。

 しかし俺から言わせてもらえば、クレアはアイリス限定でロリコンだし、ダクネスはドMなのでそれを知らないアルダープには少しばかり同情するのだが。

 俺は部屋にいる全員をゆっくりと見回してから。

 

「取り敢えず、だ。アイリスが考え、俺がそれに追加した作戦を言おうと思う。反論や意見は聞いた後にしてくれ。今回の幹部との戦いの舞台は、ここ、アクセルだ。正確には街の外だが……下手したら街の中になるかもしれない。……まずだが、討伐隊の人達が来るまでは何も行動はしない。だが準備が整い次第──俺とめぐみんで再び爆裂魔法を撃ちに行く。そして奴を挑発する。挑発の仕方は俺に任せてもらうとして、冒険者や騎士団の人たちは街で待機。怒った奴が来るタイミングで迎え撃つ──以上だ」

 

 最初に口を開いたのは、隊長だった。

 何時も全身を重い金属鎧で包んでいるからか、初対面の人からすれば恐怖の対象になるかもしれない。

 だが隊長とは王都で何回か会って話をして意気投合しているので、そんな事は決して起こらない。

 兜から低い声を出して。

 

「サトウ様、それでは街の住民たちが危険です。街を決戦の場にする必要はあるのでしょうか?」

 

「そうだぞカズマ。流石にそれは……」

 

 ダクネスも同調する中、俺はというとこの街付近の地図をポケットから出し、皆が見えるように大きく広げた。そして一点を指差す。

 

「いいか、まずここがアクセルだ。そして街から十キロメートルほど離れた場所にデュラハンが居座っている古城がある。そして古城から西五キロメートルの位置にはもう一つ古城がある。つまり何が言いたいのかというとだな──」

 

「なるほど、つまりカズマは住民達をこの古城に移動させようと言うのだな!」

 

 ──そう。

 隊長やダクネスの言う通り街を戦場にした場合、住民たちが命の危機に晒される。

 それだけは避けなければならない。そのために彼らには一時的に避難して貰うわけだ。

 ダクネスは了承したようだが、しかし、隊長はどうやら違うらしい。

 やはり街を戦場にする事に中々同意出来ないのだろう。それに彼の過去も関係しているのかもしれないな。彼の名誉のために詳しくは述べないが。

 だがしかし、そうしなければならないのだ。

 

「隊長が言いたいことも分かるつもりだ。だがもし仮にだが本来の予定通り古城に攻め込むとしよう。敵も馬鹿じゃない。当然、配下のアンデッドモンスターはもちろんだが、罠も沢山設置されているに違いない。奥に進めば進む程に仲間は減っていき、首無し騎士(デュラハン)と戦えるのはどれだけの人数になっているか見当もつかないだろう。……だが、逆にこちらにおびき寄せられたら話は別だ。作戦はいくらでも考えられる」

 

「なるほど……。では次の質問ですが、幹部がアクセルの街に来ると断言出来るのですか?」

 

 ──ふっ、そう来ると思った。

 俺は自信満々に胸を張って隊長の顔を見る。

 

「安心しろ、奴は必ず来る。クレア、確認だが幹部はアンデッドモンスター、デュラハンで間違いないな?」

 

「あぁ、そのように報告を受けている」

 

 なら問題ない。

 いや、あるとすればそれは……。

 

「もし爆裂魔法を撃った後に襲われたら、俺たちは死ぬんだよなぁ」

 

「なっ、だったら駄目じゃないか!」

 

「うん、だから『テレポート』を使える魔法使いが必要だ。俺はそれにレインさんを指名する」

 

 その言葉を言った瞬間、クレアが机をバタン! と大きく叩いて。

 

「それは無理だ、レインには仕事がある。もし彼女が居なくなったら色々と困るのだ」

 

 ほう……、そうなのか。

 だが白スーツよ、お前は気付いていない。

 それがブーメランである事に!

 俺は直立不動な体勢で立っている隊長に声を掛け。

 

「なぁ隊長。本当ならシンフォニア卿はここにいらっしゃらないはずだよな?」

 

「え、えぇはい。私も驚きましたよ、何せクレア様がいらっしゃるのですから」

 

 俺たちの会話を聞き、身体をびくんと震わせるシンフォニア卿。

 視線を横にふいっと目を逸らしているのは、自分の罪を認めているからだろうか。

 俺は傍にいて退屈そうにしているアイリスの耳元にこしょこしょと囁き。

 

「なぁアイリス。どう思う? お前の護衛仕事を放り出しているんだぜ? 主として叱らないといけないと思うんだ」

 

「はい、そうですね! ……クレア、ベルゼルクの名の下に命じます。今すぐレインを呼びに行ってきて下さい。それと一週間分の仕事を終わらせてからここにきなさい。それが終わるまではこの街に滞在することを許しません」

 

「……はっ! 失礼します、アイリス様!」

 

 俺は何も間違ったことは言っていないのに、白スーツは部屋を出る瞬間俺をぎろりと一瞥してから出ていった。やれやれ、困ったものだ。

 これで良いですか? と目で聞いてくるアイリスにしっかりと頷いてやれば、嬉しそうに彼女は微笑んだ。

 

「よし話を戻そう。他に質問はないか? 無かったら、この作戦を決行しようと──どうしたおっさん」

 

「おっさんではない! アルダープ様と呼べ、この平民が!」

 

 意外や意外、話に食って掛かってきたのは現在進行形でダクネスの胸をガン見しているアルダープ様だった。

 実家に居るからか、ダクネスはいつもの金属鎧の冒険者装備ではなく、綺麗なドレスに包んでいた。

 さらには着痩せする体質なのか、ダクネスの凶器()がデカデカと主張をしていた。

 そんな大きい山を堂々と見るその態度は同じ男としてある意味尊敬に値するのだが……。

 それにしても、あれでチラ見と思っているのならそれは間違いだろうに。

 そんな事を思っていると、爆裂魔法の反動により一人だけ椅子に座っているめぐみんがこちらを振り返って。

 

「カズマ、気を付けて下さいね。あれ程ではないですが、正直なところ、カズマもあれの一歩手前なので」

 

 そんな衝撃的で認めたくない事を告げてきた。

 いやいやいや、いくら何でもそこまでは……。

 

「マジで?」

 

「マジです」

 

 ぐさっと重く心が傷つけられ、俺はもう一度アルダープを見る。

 腹が横にだらしなく広がっているアルダープ。

 ダクネスの胸をエロい目で見ているアルダープ。

 ……。

 …………。

 

 

「……? なんだこの平民が!」

 

 ──ああなりたくはないので、これからは気をつけるとしよう。

 そんな重大な決心をしていると、領主様は大量の唾を吐き散らしながら、

 

「アクセルを戦場にした場合、破壊された建物はどうするつもり──おい、どうしたその目は?」

 

 ……。

 あれっ、何だろうこの違和感。

 言ってる事は至極まともで客観的に見れば民の生活を心配する領主の鏡なのだが、どうにも怪しい。

 あれか、王族であるアイリスが居るからそういった処世術をしているのか……?

 俺が疑いの目を向ける中、めぐみんがぽつりと。

 

「アルダープのおじさん、素直に自分の家が破壊されないか心配だと言えばいいじゃないですか……。大丈夫です、自分の住処を失うことは中々に堪えますからね、恥ずかしがる必要はありませんよ?」

 

「誰がおじさんだ! ……あぁそうだ、他の者の家などどうでも良いわ! あの屋敷を造るのに幾ら掛かったと……!」

 

 良かった、俺の勘違いじゃなかった。

 しかし……、これは困ったぞ。

 住宅や公共施設が壊れた場合どうなるのだろうか。

 もしかして全額負担とか……?

 いやいやいや、魔王軍幹部という大物と戦うのだ。こちとら命を賭けるのだ、流石にお金は取られたりしない……はず……だよな?

 だんだんと不安になって挙動不審になる俺に対してアイリスが、一度頷いてから、このように言った。

 

「──分かりました。そちらは国で払いましょう。流石に全額とはいきませんが……」

 

「ありがとうございます、アイリス様! おいおっさん。王族とはいえ、小さな女の子にここまで言わせているんだ、当然これで文句はないよな?」

 

「おっさんではないと何度言わせる気だ! ……感謝致します、アイリス王女。それでしたら、私からは何もございません」

 

 そんな嬉しい事をアイリスが言ってくれる。

 アルダープ様はお金を工面してくれると聞いてからかすごい上機嫌だ。

 ぶつぶつと何やら呟き、鼻歌を歌うしまつだ。

 気になったので試しに『読唇術』スキルを使ってみると。

 

『フハハハハハ! よし、適当な平民を雇って混乱に乗じて屋敷を破壊させよう! そして夢の新築に変えよう! なに、大丈夫だ。王族の言葉があるのだからな!』

 

 そんな馬鹿な事を考えていた。

 よし、そうしたら裁判を起こして牢屋にぶち込むとして……。

 

「他に否定的な意見はあるか? なかったらこの作戦を決行しようと思うんだが、それで良いか?」

 

 最終確認をすると、最後にダクネスがおずおずと手を挙げた。

 皆の視線がダクネスに集まる中、彼女の頬がほんのり赤くなっているのは単純に照れているせいだと思いたい。

 ──まさか感じているんじゃないだろうな……。

 ダクネスの性癖を知っている俺とめぐみんが半眼になり彼女を見ていると、流石に場を弁えているのか、咳払いをこほんとしてから進言した。

 

「今回の作戦だが、騎士団が強制参加なのは分かるが……冒険者たちはどうするつもりだ? ここは駆け出しの街アクセルだぞ。低レベルである冒険者たちが作戦に自主的に参加するとは思えないし、強制的に参加させるわけにもいかないだろう。どうするつもりだ?」

 

 おお……! 凄くまともな意見が出た。

 俺がほへーと感動していると、気に障ったらしい。

 こめかみをひきつかせながら睨んでくるダクネスに俺は自信満々に。

 

「安心しろ、手は考えてある」

 

 そんなフラグになるようなことを言うのだった。

 

 

 

§

 

 

「──というわけで、魔王軍幹部を倒そうと思うんだが」

 

「「「舐めてんのか」」」

 

 冒険者ギルドにて、なるべく多くの冒険者達を(つど)い、少しの間貸切状態にした俺は現在、そんな演説を高らかにしていた。

 しかし誰も賛成してくれない。

 一人の男性冒険者が声を張り上げて。

 

「なんでそんな奴と戦わないといけないんだ! レベル差を考えろ!」

 

 その言葉に同調するかのように声を上げる他の冒険者。

 中には得物に手を掛けて、脅している奴もいるのだから、これだから気性が荒い冒険者は恐ろしい。いやもう、本当に怖いんですけど!

 しかしここで弱気になるわけには行かない。俺は嘆息してから、小さな声をやや大袈裟に出して一言ぽつりと放つ。

 

「もし戦わなかったら、俺たちは街から追い出されるんだろうなぁ……」

 

「「「……!?」」」

 

 ぎょっと目を剥く冒険者たちを気にせずに俺は言葉を続ける。

 

「街から追い出された俺たちはこの先他の奴らから笑われるんだろうな……。まともなクエストも受けさせて貰えず、同僚からは馬鹿にされる毎日。そんな生活が待っているのか……」

 

 少しずつ話を聞く姿勢になっている彼らを見て俺は、ここが踏ん張りどころだと定めて。

 

「けど、もし魔王軍幹部なんて大物を倒せたら……! 俺たちは凄腕冒険者として名を馳せるだろう! 街の市民からは感謝され、世界で最初の魔王軍幹部を斃した猛者として、俺たちの名は世に伝わるに違いない! さらに今回は騎士団の人たちもいるから、成功率はほぼ百パーセントだ! そして皆、ここにいる女の子を見ろ!」

 

 そう言って俺はめぐみんの横に座って甲斐甲斐しく爆裂娘を介護しているアイリスを指し、

 

「この方は第一王女のアイリス様だ! 野郎共、王族の彼女が危険を冒してまでこんな辺鄙な場所に来て下さったのだぞ!? これに応えず、何が冒険者だ! 違うか!?」

 

 刹那。

 男達の野太く低い声と、女達の細く高い声が建物内を支配し、響き渡った。

 

「そうだ! 魔王軍なんて敵じゃないぜ!」

 

「そうよそうよ、私たちは出来る子だわ!」

 

「……ふっ、とうとう俺にも出番が来たか」

 

「あっ、受付のお姉さん。この戦いが終わったら僕と結婚して──はい冗談ですすみません。だから警察を呼ぼうとしないで下さいお願いします!」

 

 大いに盛り上がっている勇者たちを俺は眺め、驚きのあまり絶句しているダクネスに向かって胸を張って一言。

 

「なっ、上手くいっただろ?」

 

 俺のドヤ顔にこめかみをひくつかせるダクネス。

 

「何が、『なっ、上手くいっただろ?』だ! お前がやった事は──」

 

「おっと、それ以上言うのはやめてもらおうか」

 

 そう、別にこれは洗脳だとか、暗示だとか、催眠とか、そういった類のものではない。

 断じて違う。

 違うったら違う。

 ただ、恐怖に怯えている冒険者たちに活を入れただけだ。

 口元を震わせるダクネスを無視し、俺はアイリスの元へ向かって畏まった態度を取る。

 まだ爆裂魔法の反動の怠さから抜け出せていないめぐみんが何時もの俺とは違う事に目を剥く中。

 

「アイリス様。大変申しにくいのですが、こたび戦う彼らに激励の言葉をかけてくれては貰えませんか? きっと勇気を貰い、活躍するでしょう!」

 

 純粋なアイリスでも、俺が何をやっているのかは大体察しているらしい。

 アイリスの顔には呆れと、それ以上に楽しそうな色が浮かんでていた。

 分かりましたとばかりに頷き席を立つアイリスを建物内にいる全員が注目する中──

 ────しかし。

 何分経ってもアイリスは喋らなかった。

 …………えっ。

 ざわざわと騒がしくなるが、アイリスは無表情のまま石のように立っているだけ。

 これはもしかして…………。

 俺は屈んでアイリスの耳元に囁く。

 

「大丈夫か?」

 

「……その、大変申し訳ないのですが、私、こういった事はまだ無理なようです……」

 

 何と、そういう事らしい。

 しかしそれは仕方がない事だ。

 王族とはいえ、アイリスはまだ十二歳の女の子。日本ならまだ小学四年生だ。

 ただでさえアイリスは人見知りがちなので、こういった大勢の人間がいる前で演説するのはまだ無理かもしれない。

 それを考えられなかった俺に落ち度があるだろう。

 ……なら別の手を行使するだけの事。

 俺は話を聞いているように何度も頷き、分かりましたとばかりに華麗に礼をした。

 幸い周りに居るのはめぐみんとダクネスだけなので、遠巻きに今の状況を見ていた人からすれば、俺の行動はすなわち、何か言伝(ことづて)を聞いていたように見えただろう。

 

「皆、アイリス様はこのように仰った! 『あなたたちのご健闘、そして手に入れる武勲を切に楽しみにしております。作戦が成功したら、特別にパーティーを開きましょう!』と!」

 

「「「おおおおおおおおおお──!」」」

 

「野郎共、覚悟はいいかぁああああ!?」

 

「「「おおお────!」」」

 

「決行は約一週間後! それまでは待機! 解散!」

 

 こうして、正式に魔王軍幹部討伐作戦が決行される事が決まるのであった。

 

 

 ──冒険者や騎士団がそれぞれの寝床に帰り、残ったのは俺とめぐみん、ダクネスにアイリスとギルド職員だけ。

 いつの間にか日は暮れて夜になっていた。

 俺はしゅわしゅわと呼ばれる飲料水を初めて頼んでみることにした。めぐみんとアイリスはりんごジュースを頼んでいた。

 ちなみに会計は俺……ではなく、ダクネス持ちである。流石は貴族!

 運ばれたしゅわしゅわを口に運び、一口飲んでみると……こう、身体がしゅわしゅわした。

 炭酸飲料ではないみたいだが、こう、しゅわしゅわするのだ。

 それ以上の表現をすることは誰にも出来やしないだろう。

 俺は先程から仏頂面になっているダクネスに、

 

「お前は頼まないのか?」

 

「……。……ええい、上手くいったから良かったものの、失敗したらどうするつもりだったのだお前は!?」

 

 そんな分かりきったことを激しい剣幕で聞いてくる。

 俺は懇切丁寧に答えてやった。

 

「知らん」

 

「……!?」

 

「俺は運が良いからな。大抵の事は上手くいくものさ」

 

 そう、俺は運だけは良い。

 もしかしたら幸運の女神様であるエリス様のご加護がこの身に宿っているのかもしれない。

 きっとそうに違いない。

 エリス様と言えば、ここ最近は同じ女神であるアクアを見る事が少なくなってきた。

 きっと真面目に働いているのだろう。

 約束の半年後はまだ少し先だが、これだったら本当に改心するかもしれない。

 そんな取り留めのない事を考えていると、アイリスが沈んだ表情を浮かべている事に気付いた。

 ……さっきのことを気にしているのだろうか。

 

「アイリス、大丈夫か?」

 

「……私は駄目ですね。せっかく無理を言ってこの地に来たというのに……私は何も出来ていません」

 

「いやそれは違うぞ。元々の作戦はアイリスが考えたんだ、充分貢献してるって。……それと悪かったな、正体を勝手にバラして……」

 

 俺のフォローと謝罪にアイリスはふるふると首を小刻みに振って。

 

「それでも、殆どの作戦はカズマ様がお考えになったものです。……自分の不甲斐なさに呆れてものも言えません」

 

 これはかなり重症なのかもしれない。

 しんと静まり返る中、机に突っ伏しているめぐみんが俯いているアイリスに優しい口調で、

 

「良いですかアイリス。あなたはまだ子供なのですから、それが普通なのです。失敗したと思うのなら、次の糧にすれば良いでしょう」

 

 そんな格好良い台詞を、格好良くない姿勢でめぐみんは言った。

 だがその言葉は充分すぎる程に伝わったらしい。

 先程までの沈痛な表情はそこにはなく、元気で明るい表情を浮かべたアイリスはめぐみんを尊敬の目で見て。

 

「はい、ありがとうございます、めぐみん様!」

 

 

 

§

 

 

 それから一週間が経ち、アクセルでは現在。

 

「まだだ、俺はまだ死ねない!」

 

「くそっ、こんなところで俺は……!」

 

「ひゃひゃひゃひゃひゃ、アンデッドモンスターなんて余裕余裕! あれっ、攻撃が効かない、だと……!? うわぁぁぁ、助けてぇええ!」

 

 中々のパニックになっていた。

 戦場を見渡せるよう、高台にいた俺とめぐみんは冒険者や騎士団の人達の悲鳴を聞いて、ある重要なことに気付いた。

 というか、今更感が半端ないのだが……。

 

「なぁめぐみん。アンデッドってさ、普通の攻撃は効かないのか。あっ、つまり、通常攻撃だな」

 

「そうですね……、アンデッドは魂だけの存在といっても過言ではありませんから、単純な物理攻撃は一切効きませんね」

 

「……。よしめぐみん! 爆裂魔法を撃ってまずは部下を全滅させようぜ! お前の爆裂魔法なら余裕なはずだ!」

 

「カズマ、それは無理ですよ。だってあんなに混戦していたらアンデッドばかりか、冒険者や騎士の人達も巻き込んでしまいますからね」

 

「ですよねー……じゃないわ! ヤバい、これはヤバいぞ! 俺たちは駆け出し冒険者だぞ? 魔法使いだっているにはいるが何故か知らんが敵に魔法はあんまり効いてないようだし……」

 

「単純なレベル差と……見たところ魔力障壁が施されていますね。多分、上級魔法でなければ致命傷を与えられないでしょう。……。……あああああのカズマ!? これってかなりピンチなのでは!?」

 

 詰んだ。

 まさか、配下の雑魚すら倒せずこうもあっさり負けるとは思わなかった。

 

「めぐみん、何か良い案はないのか!? お前、知能が高い紅魔族だろう!? 今こそ真の力を解放するべきだと思うんだ! 呪われし魔力を解放させるんだ!」

 

「なっ!? そ、それを言うのならカズマだって何か考えて下さいよ! そもそも今回の作戦はカズマが指揮官でしょう! 指揮官はいつでも自信もって指示をするものだと思いますから、私なんかの意見なんか聞いても意味がないと思うので、私は何も言いません!」

 

「お前、こんな時だけそれはないだろう!」

 

 そうしている間にも、冒険者達は倒れていく。……地味に息があるのは何故だろうか。

 ギャーギャーとみっともなく騒いでいると、ズサッと後方から足音が聞こえた。

 こっちは今取り込み中なのだ、誰かに構ってる暇は全然ない。

 そう思い、八つ当たり気味にめぐみんと一緒に首を向けると──そこにはデュラハンが立っていた。

 顔を青くしながら目を合わせる俺たちを他所に、デュラハンは腰から立派な一振りの剣を抜き、こちらにその鋭利すぎる切っ先を向けて──

 

「お前が指揮官か?」

 

 ……そんなことを尋ねてきた……!

 兜から低い声を出された俺は思わず、ふいっと顔を背けて、

 

「いいえ違います。指揮官はこの女の子です」

 

「……!? ちょっ、カズマ!?」

 

「ほう……、なるほど。見たところそこの小娘……、あの頭がおかしいと評判な紅魔族か……。なるほど、なるほど……。勝負は決したと言っても過言ではないが、一言だけ言わせて貰おうか!」

 

 そう言うデュラハンの声には怒気と殺気が含まれていた。……自分の首をズイっと前に差し出し、

 

「お前たちは一体何なのだ!? 毎日毎日爆裂魔法を撃って、しかしやっと止めたかと思ったら突然昨日、真夜中に撃ち、大声で俺を挑発し、さらにその後肉をこんがり焼くとか! ……よし殺そうと出向いてみれば『テレポート』を使うとか……! 騒がしいにも程がある! 近所迷惑を考えろ!」

 

 ──魔王軍に近所迷惑とか言われても反応に困るのだが。

 ……。

 ……戦況は絶望的だ。

 せめて、雑魚扱いのアンデッドを何とかできたら話は違うのだが……。

 

「ふっ、まぁいい。アクセルに来させようとし、それを成功させた小娘には敬意を表そうではないか! その挑戦を受けて立ち、城にいた全ての兵力を持って来てやったぞ!」

 

 いらない気遣いです。

 デュラハンはそう言ってめぐみんを褒め称えるのだが、悲しきかな褒める相手が違う。

 めぐみんは真顔になりながら俺を指差した。

 

「いえ、指揮官はここにいる男なのですが!」

 

「なん……だとッ!? 小僧お前……、何故そのような嘘を吐いたのだ!」

 

 いやむしろ何で信じるのか俺が聞きたいのだが。

 俺がそう答えようと、口を開いた……

 ──その時。

 

「『ゴッドブロー』ッ!」

 

「なっ──ぐはああああああ!?」

 

 アクアが背後から奇襲を仕掛け、デュラハンの背中を豪快に殴り、金属鎧に包まれた騎士を吹き飛ばした!

 ふぅーと息を吐きながらも、アクアは決して警戒を怠らず、拳を構える。

 軽快にステップを踏みながら素振りするその姿は女の子にしては案外似合っているのだが……。

 

「なぁ今までどこにいたんだ? 冒険者ギルドにはさっきいただろ?」

 

「もちろん私もすぐに行こうとしたんだけどね、アイリスが──」

 

 重要なことを言おうとしているのか、アクアが真面目な顔になり重々しく口を開こうとした時。

 

「カズマ、めぐみん! 大丈夫か!?」

 

 急斜面の坂をもの凄い勢いで登ってきたダクネスが俺たちを庇うように前に出て、倒れているデュラハンへと剣を向けた。

 というか、よく全身鎧で登れたな。

 

「あっ、ちょっ──」

 

 アクアが続きを言いたそうにしているが、今はそれどころじゃない。

 ああ、そうか……。

 これが本当の戦いなのか!

 ぶっちゃけた話、これまでのクエストはめぐみんの爆裂魔法で終わってしまっていたために味気ないと思っていたのだ。

 俺が場違いにも感動しているとデュラハンが剣を杖にしてよろよろと緩慢な動きながらも立ち上がる。

 やはり幹部だからかとても手強い。

 アクアの『ゴッドブロー』を背中から直に受けてなお未だ生きているとは……。

 しらずにじわりと俺が後ずさる中、

 

「ええい! お前たちは本当に何なのだ! 普通、こういうのは雑魚を倒してから戦うというものだろう! それが代々受け継がれてきた伝統であり、美学なのだ!」

 

 剣をぶんぶんと振りながら、そんな意味が分からないことを喚き散らすデュラハンさん。

 俺はそんな奴に呆れを隠せない。

 

「いや、戦いに伝統とか美学とか言われましても。めぐみんもそう思うだろう?」

 

「いえ、私は深くデュラハンに同意します!」

 

 えっ。

 全員が──アクアやダクネスでさえ──こいつは一体何馬鹿なことを言ってるんだとめぐみんを見るが、それに気付いていないのか彼女は瞳を紅くしてうんうんと頷き……

 

「分かります! 分かりますとも! デュラハン、あなたが言うことは分かります! 戦闘において、イベントは必須! 何故戦うのか? どうして敵なんだと問い詰めるその展開! そう、それがなければ面白くない! カズマもそう思いますよね──ちょっ、痛い! 痛いじゃないですか!」

 

「お前は何馬鹿な事を言ってるんだ」

 

 そうしている間にも、下からは悲鳴の声が絶えない。

 しかし倒れ伏している人たちは何故か生きているのだから不思議だ。

 デュラハンもそれを不思議に思ったのか片手に持っている首を傾げて。

 

「何故王都の騎士たちはともかく雑魚のひよっ子冒険者達を殺せない!?」

 

 いや、むしろ俺がその答えを聞きたいです。

 そしてその問いに答えたのはアクアだった。

 大きな声を出し高笑いしながらアクアは驚いているデュラハンに向かってドヤ顔を向ける。

 

 

「あはははは! ねぇ、そんな簡単なことにも気付けないの!? 気付けないんですかそうなんですか? 魔王軍幹部という者が恥ずかしいと思わないんですかああああ!? プークスクス!」

 

 めちゃくちゃ煽るアクア。

 あれだな、前から思っていたが女神だからか敵勢力には容赦がないらしい。

 煽りに煽られ、それにデュラハンは。

 

「なんだと!? それくらい分かるわ! ……分かる、わか……る……うぅむ…………」

 

「はい時間切れ! 答えはね、『宴会芸』スキルの奥義の一つである『死んだフリ』でした! これはスキルを取っていなくても使用できる優れもの! どうカズマ、凄いでしょ!」

 

 得意げに胸を張るアクア。

 うん凄い。凄いからさっさとどこかに逃げてもらえないだろうか。

 誰も居なかったら爆裂魔法で即爆殺するのだが……。

 一方デュラハンは衝撃的すぎる答えに意識が戻っていないのか、体全体をふらふらさせて困惑していた。

 

「馬鹿な……。『死んだフリ』だと? そんなものがあったなんて……」

 

 まだ立ち直れてないらしい。

 この機を逃すほど俺は馬鹿ではない。

 何とか雑魚扱いのアンデッドを倒せる方法はないか?

〈アークプリースト〉であるアクアを突撃させて浄化させるか!? いや駄目だ、そんな都合良くいくはずがない。

 デュラハンに未だ剣を向けているダクネスを突撃させるか!? いや駄目だ、アンデッドモンスターに物理攻撃は効かないから意味がない。

 くそっ、何かないのか!?

 ──そう思った時だった。

 

「お待たせ致しました。ベルゼルグ・スタイリッシュ・ソード・アイリス、カズマ様の指示に従い戦います!」

 

 全身を鎧で包み、騎士風の格好をしたアイリスがクレアやレインさんを引き連れて登場したのは。

 

 

 

§

 

 

「王族は強いんです! えいっ!」

 

「「「ビャアアアアアアアアアア!!!」」」

 

「『ライト・オブ・セイバー』ッッ!」

 

「「「ビャアアアアアアアアアア!!!」」」

 

「これぞシンフォニア家に伝わる奥義! 『スラッシュ・ソード』!」

 

「お前たちー! くっ、アドモス、カーマ、シミラー! おのれ……、王族め!」

 

 アイリスたちが登場してからは、それはもう凄かった。

 アイリスが『付呪(エンチャント)』が付与された青色の光が灯っているロングソードを縦横無尽に振り回し、アンデッドたちをバッサバッサと切り払っていく。

 レインさんは上級魔法を使って、敵を雷の魔法で丸焦げにして、それは高台に居る俺たちの所までその余波が伝わってくる程だ。

 めぐみんは羨ましそうに活躍しているレインさんを見ていた。やはり普通の魔法を使いたくなるのだろうか。

 ──……これを機に、上級魔法を取ってくれると非常に助かるんだけどなぁ。

 クレアは家に伝わっている奥義を使って一撃必殺でアンデッド達を切断している。

 なんかもう、凄いとしか言い様がない。

 これはもう彼女たちだけで勝てるのではないかと思っていると、アクアがこんなことを囁いた。

 

「さっきの話の途中だけど、アイリスが『私も参加します!』と言って暴れていたのよ。それはもう、凄い暴れようだったわ。何せ高スペックの私でさえ、止めるのに苦労したんだから……」

 

「いや待て。じゃあなんでアイリスが戦場に来たんだよ? 止めたんだろ?」

 

「一旦は落ち着いたんだけどね……。『お願いします、アクア様。私を連れて行ってください! 何もしないで待ってるだけなんて、私にはできません!』って言われたら、止めることなんて出来ないわよ。……まあ、けど、良かったじゃない。アイリスたちが来てくれたお陰で、あと半分になったし!」

 

 そう言われてもう一度下を見てみれば、配下のアンデッドたちが半分程倒れ伏していた。

 だがしかし、魂があれば復活出来るのか再生しようとしているのもいる。

 そうなってしまえば大変面倒なので、〈アークプリースト〉であるアクアにあとを任せた。

 

「頼めるか?」

 

「まっかせなさい!」

 

 自信満々に頷いたアクアは手際よく坂を滑り降り、その魔法を唱えた!

 

「行くわよ! 『ターンアンデッド』ッ!」

 

 次々と浄化され、天に昇っていくアンデッド達の魂。

 それをデュラハンは歯軋りしながら、

 

「あぁああ! お、『おれのかんがえたさいきょうのあんでっどへいだん』が!」

 

 慟哭の悲鳴を上げる。

 仲間思いなのか、デュラハンは剣を取りながら彼らの元に向かおうとする。

 

「お前たち! 今助けに……!」

 

「行かせはしない! アクア、ここは私がデュラハンと戦うから、アイリス様たちと協力してアンデッドナイトを倒せ!」

 

「分かったわダクネス! 良い? 真面目に戦いなさいよ! 迷える死者の魂よ、今私が浄化して──えっ、なんで全員こっちに来るの!?」

 

 格好良いやり取りを邪魔するように、ナイト達はアクアの元に集まって行った!

 アイリス達と戦っていたナイトも戦闘を止めてアクアの方に行くのだから、その数は計り知れない。

 追いかけられているアクアは悲鳴を上げながら『ターンアンデッド』を連呼しているが、魔力障壁とやらがあるからか、弱っていない相手にはいまいち効いていないようだ。

 

「『ターンアンデッド』、『ターンアンデッド』ッ! カズマさん、助けて! 助けてくださいカズマ様あああああ!」

 

「クレア、レイン、アクア様に助力致しますよ!」

 

「「畏まりました、アイリス様!」」

 

 あっちには強い人たちがいるから多分大丈夫だろう。

 こうして戦力が分断される中、こちらでは現在ダクネスがデュラハンと対峙していた。

 先程までの睨み合いのような牽制目的ではなく、互いが互いを殺そうと構えている。

 そんなダクネスが静かな声で後ろにいる俺たちに、

 

「カズマ、めぐみん。ここにいては危険だ! もう少し離れてくれ!」

 

 その言葉に素直に従い距離をとると──遂に戦闘が始まった。

 

「行くぞ、デュラハン! 私の名前はダスティネス・フォード・ララティーナ。幸運の女神、エリス様を心の底から崇拝している〈クルセイダー〉だ!」

 

「ほう……、上級職の〈クルセイダー〉とはな! 良いだろう、俺の名前はベルディア! 嘗ては騎士だった男だ。そして今は魔王様に忠誠を誓っている! 女騎士よ、受けて立つ!」

 

 名乗り終わり、雄叫びを上げながら、ベルディアに向かって剣を振るダクネス。

 だが俺は忘れていた。

 女騎士が不器用だということを……!

 このままじゃ……!

 めぐみんも思い出したのだろう。次に起こるであろう恥ずかしい展開に俺達がすっと目を逸らす中──何と、振られた剣はベルディアの剣にしっかりと当たった!

 ガキィン! と金属同士が接触する音が反響する中、俺とめぐみんは思わず叫んだ。

 

「おい、どうしたんだダクネス! お前不器用じゃなかったのかよ!?」

 

「そうですよダクネス! あれは嘘だったのですか!?」

 

「……!? カズマ、めぐみん、今それを言わないでくれ! 私だって驚いているのだ! こうして攻撃が当たることに!」

 

 俺達以上に、当の本人が驚いていた。

 鍔迫り合いをしているベルディアが不思議そうに、

 

「……? どういうことだ?」

 

「ふっ、普段の私は不器用すぎて『両手剣』スキルを取ってるクセに攻撃が当たらなくてな! ……まぁ私としてはモンスターの攻撃をこの身に受けられるので万々歳なのだが……。今日は何故だが知らんが攻撃が当たるらしい!」

 

 ダクネスはそれはもう嬉しそうに剣を振っていた。

 ……途中、奇妙なことを言っていたが、聞かなかったことにしよう。うん、それが良いな。

 今のダクネスはまるで小説やアニメの主人公のように覚醒していた。

 主人公といえば、魔剣使いの人が頭の片隅に思い浮かんだが、カミルギさんは現在武者修行に行っているらしい。

 こういう時こそ活躍の場なのに、もったいない奴だ。

 俺とめぐみんは活躍している主人公を遠巻きに眺める事しかできない。

 

「行け、ダクネス!」

 

「頑張ってダクネス!」

 

「今こそ、ダクネスの真の力を!」

 

「「「ダクネス、ダクネス、ダクネス!」」」

 

 そして数分後には『死んだフリ』を止めた冒険者や騎士達が俺たちのいる所に来て声援を送っている。

 いや、アイリスたちの所に行けよと突っ込みたいのだが、行ったところでやられるのは分かっているのか誰も行かなかった。実に正しい判断である。

 

「や、止めろっ! そんなに応援するな! ……恥ずかしい! 私が欲しいのはこういう責めではない!」

 

 ドM変態のダクネスでも、恥ずかしいという感情はあったようだ。

 羞恥心の基準がよくわからん。

 だからだろうか。

 動きが一瞬遅くなり、それを狙われたのは。

 

「そこだ!」

 

「なっ──ぐはッ!」

 

 ベルディアはその一瞬の隙を突き、ダクネスを下に落とした!

 

「おい卑怯だぞ!」

 

 俺が堪らず声を上げるも。

 

「お前たちの方が余っ程卑怯だわ!」

 

 そんな正論を言われたらぐうの音も出ない。

 

「ダクネス、大丈夫か!?」

 

 倒れているダクネスに声をかけてみるが返答はない。

 もしかして死んでいるのではと一瞬思ったが、〈プリースト〉の女の子が急いで診たところ、どうやら気絶しているようだ。

 

「ダクネスなら大丈夫! っていうか、あんなに高い所から落ちて無傷だなんて、なんて凄い防御力なの!? 多分、高い所から落ちたショックが原因だと思う!」

 

 気絶の原因が予想外すぎる。

 流石は〈クルセイダー〉と言うべきか……。

 

「よくもダクネスを……! お前だけは許さない! おいお前ら、囲め囲め! そしたら後は楽勝だ!」

 

 なんという死亡フラグ。

 だがなるほど、それも一理あるかもしれない。

 様子を見てみようと傍観してみると、男の意見に賛同した冒険者達が四方を取り囲んで攻撃のタイミングをはかっている。

 地味にピンチだと言うのにベルディアは落ち着いていて……突如自身の頭をポーンと高く上げた。

 何をしてるんだと思いベルディアの頭部を見ていると、目線が下を見ていることに気づく。

 そうか、そういうことか──!

 

「おい気を付けろ! ベルディアに死角はない!」

 

「ほう……、気付くか小僧! だが遅い!」

 

「「「「ぎゃああああああ!!!」」」」

 

 四人の冒険者達が倒れる。そして息をしていないことから死んでいることが分かった。

 

 死。

 

 それは人を惑わせ、余裕をなくす。

 俺たちが歴戦の戦士だったらそんな事は起こらなかっただろう。

 だが何度も言うがここは駆け出しの街アクセル。

 同業者であり、大切な仲間が死んだことをようやく知覚した冒険者達は構えている武器を捨て悲鳴をあげながら街の方に逃げて行った。

 誰も責められはしないだろう。だが俺は──そのような感情を抱いていなかった。『死』という概念そのものに対応しているのかもしれない。

 隣に立っているめぐみんがガクガクと震えて、

 

「かかか、カズマ! どうするのですか!? 流石にもう誰も助けてはくれませんよ!? ダクネスは気絶していますし、アクアやアイリス達たちアンデッドナイト達と交戦中です!」

 

 袖を強く握って、焦ったようにそう言ってくるめぐみん。

 俺だって正直逃げたいのだが……それは無理だろう。

 

「ハハハハハ! まさかこれ程までに苦戦するとはな! だがそれも終わりだ!」

 

 ベルディアが血が付着している剣を向けてきた。唐突に迫る『死』の気配。

 ……考えろ、考えるんだ佐藤和真!

 何かこの状態を打破できる要素はないか!?

 相手はデュラハンだ、思い出せ。何か弱点になるようなものは……。

 …………そうだっ!

 

「『クリエイト・ウォーター』ッ!」

 

「何!? ……チィイイイイ!」

 

 俺は水を生成する初級魔法を使い、ベルディアへと向ける。

 そしてその攻撃をやや大袈裟に避ける首無し騎士。

 ──デュラハンは水の上を渡る事ができない。

 何故ならそれは、彼が所持している首無し馬が水の上を渡れないからだと言われているからだ。

 だがこの世界のデュラハンはどうやら──ベルディアの場合だけかもしれないが──見たところ、そんな馬は持っていないようだ。

 ならその適性はベルディアにあるのではないか……?

 正直博打にも程があったが、幸運にも、俺の予想は的中していたらしい。

 何度も『クリエイト・ウォーター』を使用し、一方的な水の掛け合いをする中、俺は棒立ちしているめぐみんに声を掛ける。

 

「めぐみん、アクアをすぐに呼んでこい! なるべく早くだぞ! ……頼むから早めに頼む!」

 

「分かりました! ……カズマ、死なないで下さいよ!」

 

 そんな死亡フラグを勝手に作っていっためぐみんは走ってアクア達が去っていった方向に向かって行った。

 対峙する小者と大者。

 こうして向き合うと分かる、敵の強さが……!

 流石は魔王軍幹部!

 

「確かに俺は水が弱点だが……。お前の仲間が再び戻ってくる頃には、ここにあるのは無残な死体だけだろう!」

 

 余裕ぶっこいているベルディア。

 確かに俺とベルディアとのレベル差は歴然としているが、俺を舐めてもらっては困る。

 

「行くぞベルディア! 『ライト』!」

 

 そう唱えた瞬間、太陽が出ているにも関わらずに刹那の瞬間──溢れんばかりの光が生み出された。

 

「目がぁああああああ!!!」

 

 先程の尊い犠牲になった冒険者達との戦闘でベルディアに目がある事に気付けた。これだけでも彼らの死ほ無駄ではなかった。

 のたうち回っている間にも俺は次々と魔法を唱え続け……。

 

「『クリエイト・ウォーター』、『クリエイト・ウォーター』、『クリエイト・ウォーター』ッ!」

 

 水をぶっかけまくる。

 ベルディアが視界を取り戻した時には、彼の全身はびしょ濡れの状態だった。

 はぁはぁと息を荒くするベルディアなのだが、正直言って俺もかなりきつい。

 魔法を使うにあたって、魔法を行使する者はその代価に魔力を使う。

 俺が使っていたのは初級魔法故に魔力消費はかなり少ないのだが、元々の魔力量が並の量しかない俺は何度も使うと体がだるくなり、バテてしまうのだ。

 

「ええい、もう油断するのはやめだ! 小僧、貴様を酷く殺して──」

 

「『セイクリッド・ターンアンデッド』ッ!」

 

「──ひぎゃあああああ!!!」

 

「連れてきましたよカズマ!」

 

「やけに早かったじゃないか、めぐみん」

 

「ええ、アクア達がアンデッドナイトを浄化させて此方に向かっている最中だったので、すぐに合流できました。アイリスたちももうすぐ来ますよ」

 

 よし、これで勝ちは確定だ。

 水の女神であるアクアに、圧倒的な強さを持つアイリスにレインさん、クレアがいるのだ。

 これでようやく戦いが終わる……。

 ──そんなことを思ったからなのだろうか。

 身体から力が抜け……、いつの間にか復活していたベルディアに──呆気なく人質にされたのは。

 ベルディアは身体の半分が消えかけているもののしっかりとした力で俺を捕まえていた。

 そして首には、剣の刃が密接に当てられる。

 この世界に来て、これは一体何度目だろうか。

 流石に慣れたのか冷静にそんな場違いなことを考えていると、彼方(かなた)から猛烈な速さでアイリスがこちらに来る。

 外見上は傷一つないので安心していると、

 

「カズマ様、今ナイトたちを倒して──!?」

 

「おっと、剣の柄に手を伸ばしている幼き姫よ、そして拳を構えているアースプリーストの女。下手に動かない方が良いぞ。もし一歩でも動けば躊躇うことなくこの小僧を殺す」

 

「卑怯ですよ! ダクネスと戦う直前、『嘗ては騎士だった男だ!』と言っていたのは嘘だったのですか!? 騎士がそんな卑怯な戦い方をして良いのですか!?」

 

「そうだそうだ、卑怯だぞ!」

 

「これだから悪魔は嫌いなのよ!」

 

「ええい喧しい! ……俺が望むことはただ一つ、安全な場所に俺が辿り着けるまで攻撃してこないことだ! そもそも俺はこんな駆け出ししかいない街を襲うつもりはなかったのだ。本当なら調査だけで済ませるはずだったのに……。しかしお前たちが挑発したからこうなったのだから、別に良いだろう?」

 

 ぐっと言葉に詰まるめぐみんたち。

 

「そう……それで良い。お前たち冒険者は仲間を大事にするからな、それが(あだ)となったのだ!」

 

 ──もし。

 もし、めぐみんたちが大人しくベルディアを取り逃したらどうなるのだろう。

 交渉条件はベルディアが安全域に入るまで攻撃しない事。……だがそれは言い換えれば誰も奴に近づけないという意味だ。

 果たして魔王軍幹部であるこいつは俺を約束通り解放するだろうか?

 ……自分で言うのも何だが、俺はベルディアからしたらそれはもう嫌われることをした覚えがある。

 こいつはどうやら騎士としての矜恃を未だに持っているようだが、果たしてそれが俺に適用されるだろうか。

 ……何だろう、殺される気しかないな。

 …………。

 くそっ、こうなったら…………!

 

「めぐみん、爆裂魔法を撃て!」

 

 そう、俺は命令した。

 全員がぎょっと目を剥く中、俺はそれに構わずに言葉を続けた。

 

「どの道俺は駄目だ! きっと俺はこのなんちゃって騎士に殺される!」

 

「誰がなんちゃって騎士だ!? それにそんな非道なことはせんわ!」

 

「嫌です、嫌ですよカズマ! もし私が撃ったらカズマを巻き込んでしまいます!」

 

「そうですよカズマ様!」

 

 首を激しく横に振っていやいやと抗議するめぐみんとアイリス。

 歳下コンビが納得できない中、アクアにクレア、レインさんといった大人組は何を思ったのか、綺麗な涙を流していた。

 兎も角、俺は安心させるように微笑んで。

 

「めぐみん、実は俺、この前『テレポート』を習得したんだ。お前が撃つ直前に脱出するから、安心してくれ」

 

 俺の言葉に安堵の息を吐くアイリスに、安心しきった顔になり、涙を拭くアクアとクレア。

 だがめぐみんとレインさんだけは違った。

 ……そう、俺は嘘を吐いている。

 まずだが、そもそも俺は『テレポート』なんて高度な魔法は習得していない。そのためのスキルポイントが足りない。

 流石は本職の魔法使いだ。

 そのことを理解しているめぐみんとレインさんだけは、悲しそうな顔を変えなかった。

 爆裂魔法を撃つ、ということに慌てるベルディアは俺を放そうとするが、意地でもそうさせないでいると……観念したのかめぐみんが爆裂魔法の詠唱を始める。

 

「『黒より黒く闇より暗き漆黒に我が深紅の混淆を望みたもう。覚醒のとき来たれり。無謬の境界に落ちし理。無行の歪みとなりて現出せよ!踊れ踊れ踊れ、我が力の奔流に望むは崩壊なり。並ぶ者なき崩壊なり。友を殺し、我が宿敵を討たん。願わくば、友に祝福を施さん──」

 

 思えば、めぐみんの詠唱を最初から真面目に聞くのは初めてかもしれない。

 

「離せ、離せと言っている! 貴様、本当は『テレポート』なんて取っていないのだろう!?」

 

「断る。それとネタバレすんなよ、空気読め」

 

「えっ、カズマさん本当なの!? めぐみん止めて! すぐに中止して! 私の蘇生魔法でも、骨がないと無理よ!?」

 

 なんと、アクアは蘇生魔法が使えるらしい。

 が、どうやら蘇生は出来ないようだ。

 

「カズマ様! 逝っちゃ駄目です! ……めぐみん様、すぐに魔法を中止して──なんで止めるのですか、クレア、レイン!?」

 

「申し訳ございません、アイリス様。……しかしそれではあまりにも……!」

 

「カズマ様、どうか……」

 

 悪いアイリス。

 男には引き下がれない時があるんだ、分かってくれ。

 

「『──万象等しく灰塵に帰し、深淵より来たれ!これが人類最大の威力の攻撃手段、これこそが究極の攻撃魔法』ッッ!!────『エクスプロージョン』ッッッ!!!」

 

 魔法を唱えためぐみんの顔には大量の涙が溢れていた。

 

「カズマ様ああああ!」

 

 ああ……、呆気ない第二の人生だったなぁ……。

 アイリスの泣き声がやけに耳に大きく残り……ベルディアが必死に逃げようともがく中──次の瞬間、視界を覆い尽くさんばかりの真っ白い光が──────。

 

 

 

§

 

 

「佐藤和真さん、ようこそ死後の世界へ。あなたはつい先程、不幸にも亡くなりました。短い第二の人生でしたが、あなたの生は終わってしまったのです……と言いたいのですが、ジャンヌ様と以前約束をしていましたね? なのですぐに下界に戻ってもらいます」

 

 そんな柔らかい声によって目を覚ますと、俺はそんなことを一方的に告げられた。


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