このすば! ─カズマがいた異世界最初の街は王都にある王城です─   作:Sakiru
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女神と不死王の迷宮探索

 

 翌朝。

 季節は本格的に冬になり、アクセルに関わらず殆どの街では毎年その寒さに襲われている。

 天界にいた時は私の曇りなき(まなこ)で下界の様子を視る事ができたけれど、視る事と感じる事は全くもって違う。

 神器であるこの羽衣がなかったら私はきっと、外に出る事さえしないに違いない。

 まぁ仕事があるから無理なんだけど。

 これが社畜の考えなのかしら……。

 そんな益体の考えをしながら太陽がまだ出ていない、暗いメインストリートを独り悲しく歩いていると、集合場所である正門が見えてきた。

 というか、背負っているバッグが凄い重たいんですけど…………。

 少し買いすぎたかもしれない。

 ノロノロとしたペースで歩いているとこんな時間にも関わらず人が一人、門の前に立っていた。

 その人は、黒いローブを目深に被り今まで見た事がないくらいに緊張した顔つきをしていた。

 片手に持っているのは、相棒であろう杖。

 その人は私に気がついたのか元気に手を振りながら、

 

「あっ、おはようございますアクアさん!」

 

「うん、おはようウィズ。待たせちゃった?」

 

「いいえ、大丈夫ですよ。それより……それ全部持って行かれる気ですか?」

 

「うん、そうなんだけど……ちょっと買いすぎたみたいで重たいのよね」

 

「でしたら、支援魔法をご自分に掛けるのはどうでしょう? アクアさん、筋力のステータスが上がる魔法を取得していますか?」

 

 そっか、自分に支援魔法を掛ければ良かったじゃない!

 恥ずかしい、まさかそんな事すら思い浮かばなかったなんて……。

 でも素直に頷くのもなんか嫌だから、

 

「もももももも、もちろんそのつもりだったんだけどね? ほら、支援魔法にも当然魔力を使うじゃない? 少しでも温存しときたかったのよ!」

 

「あぁ、なるほど! 流石はアクアさんですね!」

 

 そう言って尊敬の目で私を見てくるウィズを私は直視する事ができない。

 純粋すぎる……!

 自身に支援魔法を掛けた私は空気を変える様にこほんと咳払いをして、

 

「それじゃあ、行きましょうか!」

 

「はい!」

 

 こうして、世にも珍しい女神()不死王(ウィズ)の臨時パーティーが組まれるのでした。

 

 

 §

 

 

 できるだけ急いだ方がカズマさん達の為になります! と述べるウィズの言葉に従い、私は現在……

 

「ねぇ、ウィズ! ちょっと速すぎない!?」

 

「何を言っているんですかアクアさん! こうして話している間にも、カズマさん達が飢えてるかもしれないんですよ!? 少しでも急がないといけません!」

 

「それはそうだけど! ……ね、ねぇ、ウィズ? 知ってるかしら? 人間は何も食べなくても最低三日は生きる事ができるのよ?」

 

「いえ、それでも善は急げです!」

 

 猛烈な勢いで先を走る不死王(リッチー)を追っていた。

 というか、速すぎる!

 なんで!? 仮にもウィズは元〈アークウィザード〉でしょ! 何で魔法使いが(女神)より速いの!? おかしいと思うんですけど……!

 アレかしら、不死王になるとそんなにステータスが上がるのかしら……。

 アクセルの街から程々離れると……そこには大きな山が一つ忽然と姿を現す。

 当然、道は整備されていないし……そもそも『道』の概念がない。

 だから私達冒険者は獣道を『道』にしてナビゲーターにしている。

 獣道とは獣が通ってできる道の通称。

 そんな獣道があちらこちらに生えている森林の中を、私とウィズは通っていた。

 というか、本当にこの道であってるんでしょうね……?

 受付のお姉さん曰く、キールのダンジョンの道は山の麓を歩くから崖道が多いとか言っていたんだけど……崖道なんて一回も通っていない。

 そもそもここは本当に麓なのかしら?

 どんどん森の中に入って行ってる気がするんですけど。

 まぁ、先輩冒険者のウィズが先導してくれているから大丈夫でしょう。

 なんでも、今私達が通っている道はキールのダンジョンへの近道だとか。

 だから、大丈夫。

 ……と、そんなフラグになりそうな事を考えていると……先に突入して行ったウィズが慌てて戻って来た。

 

「アクアさん、この先に一撃熊がいました! 私が適当な魔法で倒すので、少しだけ待っていてください」

 

「えっ、ちょっと待っ……! 行っちゃった……」

 

 私の返事を待たずに、ウィズは駆け足で来た道を戻って行ってしまい、また独りになってしまう。

 ウィズの指示通りにのんびりと待っていると……──

 

「先手必勝です。『ライト・オブ・セイバー』ッ!」

 

「グビャアアアァアアア!!!」

 

 ──歴戦の魔法使いの上級魔法が炸裂した。

 それと同時に聞こえる、熊とは思えない程の奇妙な叫び声。

 奇襲をかけられた憐れな熊は、何もする事ができないまま、呆気なく殺られてしまうのでした。

 というか、離れた場所に私がその魔法を見る事ができたのだから、ウィズが凄いと認識させられる。

 どれだけ力を込めたんだろう。

 

「ふぅ、終わりましたよアクアさん。……どうかしましたか? 何やら複雑そうな顔をしていますけど…………」

 

「……。ねぇウィズ、あなた何でそんなに強いのに大して儲かっていない魔道具店を営んでいるの?」

 

「アクアさん、流石に失礼ですよ! 私だって、偶には黒字になる事だってあります! 一年に一回くらいですが!」

 

 それでも一年に一回なのね……。

 憐憫(れんびん)の眼差しを向けて貧乏店主を眺めていると──何処からともなく表れたゴブリンの群れが私達を囲い込んでいた。

 話す事に夢中になり過ぎて気が付かなかったみたい。

 私とした事が不覚をとったみたいね……。

 奴らが一心不乱に見ているのは……私──ではなく私が持っている大量の食べ物。

 匂いが漏れしてるのかもしれない。流石はモンスターと言うべきかもしれないわね。嗅覚が鋭い事で。

 私が拳を構え、ウィズが杖を構える中、ゴブリン達はケタケタと笑いながら冒険者から奪ったのであろう錆びた剣を振り回してくる。

 ふっ、馬鹿ね。こっちには女神であるこの私と、ポンコツ店主とはいえ仮にも不死王であるウィズがいるのよ。

 負ける筈がないわ!

 

「ウィズ、あなたはそっちをお願い! 私は目の前の奴らを倒すわ!」

 

「分かりました!」

 

「さぁ、覚悟なさい!『ゴッドブロー』ッ!」

 

 大きく振りかぶった拳が纏めて数匹のゴブリン達に命中し、甲高い悲鳴をあげなから飛ばされていった。

 決まった……!

 私がドヤ顔で格好つけていると──ウィズも終わったのかフゥーと息を吐いているところだった。

 周りにある木が余波で若干燃えているから炎を生み出す魔法を使ったに違いない。

 一応念の為水を出しておきましょう。

 

「お疲れ様です、アクアさん。それと火の鎮火ありがとうございます。火事になったら危ないですからね。……それじゃあ行きましょうか。もしかしたら初心者殺しがいるかもしれないですから急ぎましょう」

 

「何その、初心者殺しって? 名前からして怖いイメージがあるんですけど……」

 

「初心者殺しは、自分より弱いモンスターの付近に隠れて、戦いで疲れた冒険者を襲う非常に狡賢いモンスターです。こう、猫が大きく……かつ凶暴化した姿ですね」

 

「へぇー、そうなんだ。ところでウィズ? 気の所為かしら、あっちから凄い速さで私達に近づいてくるサーベルタイガーみたいな動物が近づいてきてんるんですけど……!」

 

「えっ、そうなんですか? 凄いですねアクアさん。私が見えないのに見えるなんて! 凄い視力がいいんですねー。流石は女神様でしょうか! あと、さーべるたいがーって何ですか?」

 

 そう呑気に褒めたたえてくるウィズだけど、今はそんな状況じゃない!

 私は慌ててその化け物を見る。

 木々の合間を速度を落とす事なく疾走する姿は単純に凄いとしか言いようがない。

 図体が大きい割に、何であんな速く移動できるのかしら。

 そしてとうとう、ソイツは私達の前にその全容を現した!

 

 それは、一言で言うと猫科の猛獣。

 

 地球で言うところの虎やライオンを遥かに超えるその大きさに加え、全身が黒い体毛で覆われている。

 そして口には、サーベルタイガーみたいな二本の大きな牙が生えていた!

 

「ガォオオオオオ!!!」

 

 天に吠え、雄叫びを上げる勇姿に私は思わずおぉ! と歓声の声を出してしまう。

 ペットに欲しいかも。

 私が魅了されていると、ウィズが魔法の詠唱をしながら私を守るように一歩前に出て、

 

「アクアさん、気をつけてくださいね!」

 

「分かってるわ! ウィズ、支援魔法を掛けてあげるから、ちょっと待ってなさい!」

 

 そんな掛け合いの声を出しながら戦闘態勢を取る私達。

 初心者殺しは私達を敵と見なしたのか爪を研ぎ、口から涎を垂らし、そして鼻息を荒くする。

 

「行くわよ、ウィズ! 『セイクリッド・マジックアップ』ッッ!」

 

「──キャアアアアア!!!!」

 

 私が魔力を上げる支援魔法を掛けると──何故かウィズは悲鳴を上げなから地面を転がり始める。

 ……えっ。

 敵である初心者殺しと私が顔を見合わせて魔法使いを見ると……ウィズは涙目になりながら、

 

「私、一応不死王ですから支援魔法効かないみたいです! いえ、正確には女神であるアクアさんのが効かないといいますか……!」

 

「えええええ、何よそれ!」

 

 という事は、回復魔法の『ヒール』も効かないんじゃ?

 寧ろ、ますます痛くなるのでは……?

 転がり回っているウィズの肩を掴み『ヒール』を掛けてみると…………

 

「痛い痛い痛い痛い! アクアさん、やめてください! 凄い痛いです! ……肩を掴むのもやめてください! このままじゃ浄化しちゃいます!」

 

 身体を透明にして懇願してくる不死王。

 私が手を離せば、ウィズはハアハアと息を荒げながら……私達の馬鹿なやり取りを忍耐強く待ってくれた初心者殺しを見て、

 

「あの、ありがとうございました。そしてごめんなさい。『インフェルノ』ッ!」

 

 なんと、上級魔法を撃つ!

 

「ピニャアアア!!!!」

 

 

 そうして、サーベルタイガーは獄炎の炎に焼かれたのでした……。

 

 

 

 ──なんて可哀想な初心殺し……。

 私は彼──彼女かもしれないけど──を想ってウィズをキッと睨みつける。

 

「アンタ、人間の心がないわけ!?」

 

「えええええ!? そ、そんな事言われましても……私不死王ですし……。あっ、でも心は人のままですよ?」

 

「普通今のは、律儀にも待ってくれた初心者殺しと正々堂々と戦うところでしょ!」

 

「うっ……それを言われると痛いですが…………。でもアクアさん、あのまま戦ってたらますます戦闘が長くなってカズマさん達が危ない目に……──」

 

「良くやったわウィズ! 流石は不死王ね! それじゃあ行きましょう」

 

 あっさりと手の平を返す私を、ウィズは何か言いたげにジッと見ていた。

 

 

 §

 

 

 現在。

 私達は今、キールのダンジョンの目の前にいた。

 そう、私達は無事に目的地である迷宮(ダンジョン)に到着する事ができたのよ……!

 けれど何故かしら。

 そんな感慨深い思いも、空を見れば無くなってしまうのは何故かしら。

 私はジト目と熟練の魔法使い見る。

 気まずそうに視線を横にふいっと逸らすウィズの目を私は超至近距離で見つめた。

 

「ジー」

 

「あ、あの……アクアさん。迷宮に行かないんですか? せっかく此処まで来たんですから、潜ってみましょう!」

 

「えぇ、そうねウィズ。私もそれには同意見。だって、今行ってもカズマさん達はアクセルにいるでしょうからねー。……私が何を言いたいのか分かる?」

 

「すみませんすみません! 本当にすみません!」

 

 ペコペコと平謝りしてくるウィズ。

 私は思わず──日が暮れて暗くなった空を何でこんな風になったんだろうと思いながら黄昏れるしかなかった。

 

 

 

 ──変だなとは思っていた。

 

 受付のお姉さんによれば、キールのダンジョンへと行くにはまず山へと向かい、その麓にある獣道を通る必要があるのだとか。

 けど、ウィズを先頭にして行進して行った私達が通った道は山の中にある森林。

 決して、麓なんかではない。

 もう一度言う。

 決して、麓なんかではない。

 

「なんで近道をしたのに、正規ルートより時間が掛かってるのよ!? 私達がアクセルを出たのは朝よ! しかも早朝よ!? なのに何で!」

 

「……その、何と言いますか。私がこの場所に来たのは何十年も前なんですけど、何分昔の事ですから道を忘れてしまったみたいで……。それに、かなり道が変わっていて……」

 

 言葉を濁す使えない先輩冒険者に私は天まで届けとばかりに思いっ切り叫んだ!

 

「ふざけるんじゃないわよおおお! ねぇ、どうしてくれるの、どうしてくれるの!? これじゃあ私達馬鹿じゃない!」

 

「すみませんすみません! 本当にすみません!」

 

「ハァ────。……もういいわよ、私もなんだかんだ言いながら楽しめたしね」

 

 そうニッコリと笑いかければ、ウィズもそれに釣られたのか柔らかい、それは柔らかい笑顔を浮かべて……。

 思わず私はステータスにものを言わせて懐に忍び込み、

 

「『ヒール』」

 

 迷宮前で、不死王(リッチー)の悲鳴が響き渡るのでした。

 

 

 

 ──制裁を受けて、煙を出しながら透明になっている不死王(ウィズ)を尻目に見ながら、私は今後の事を考えていた。

 目的は達成できなかったから、正直此処にいる意味はないけど……迷宮(ダンジョン)に挑戦してみたいという気持ちが湧いてくるのは冒険者の性かしら。

 いえ、実質もう引退しているようなものだけど。

 そんな突っ込みを脳内でしつつも、私は改めてキールのダンジョン……その出入り口を見る。

 山の岩肌に、奥を窺い知れない──真っ黒な迷宮の出入り口。

 天然の洞窟のような迷宮だけど、少し身を乗り出して中を見てみれば、そこには綺麗に整備されている階段が見渡せた。

 私は一人うんと力強く頷いて、

 

「ウィズ、今から迷宮探索するから付き合ってくれる? それでさっきのはチャラにしてあげるわ」

 

「もちろんですよアクアさん。それにしても久し振りですねー、迷宮に潜るのは。最後に潜ったのは、私が不死王(リッチー)に成り果てるその直前でしょうか」

 

「へーそうなんだ。ところでウィズ、あなたって何歳なの? さっき、何十年も前って言ってたわよね? つまりウィズはババ……──」

 

「──それ以上言ったら、分かりますね?」

 

 怖っ、この子怖いわ!

 アレね、顔は笑っているけど目は笑っていない状態が初めて分かったわ。

 街に戻ったら、カズマさんに教えてあげましょう。

 

 ウィズに歳を聞いては駄目だと。

 

 

「そう言うアクアさんは何歳なんですか? 少なくとも、私よりは歳上ですよね?」

 

 どうやらこの女は、自分が歳下ですよアピールをしたいらしい。

 それは全くもって見当違いだというのに、馬鹿なものね。

 私は勝ち誇ったように笑みを浮かべながら、ちっちとばかりに指を振り、

 

「いいウィズ、よく聞いてね。女神様にそんな事を聞いちゃ駄目だと普段なら言うけど、友達のあなたには特別に教えてあげるわ。まず私がいた天界はね、下界との時間の流れが違うのよ。例えば、ある世界では一分の時間でも天界だったら一秒とかだったりするのよ。つまり、私の歳は分からないわけ! けど少なくとも、あなたよりは歳下だわ」

 

「あっ、つまりアクアさんはババ……──

 

「──『ゴッドブ……──』」

 

「ごめんなさいごめんなさい! ……アクアさん、この話はやめませんか? 血が流れてしまいますから」

 

「そうね、それが一番だわ」

 

「それじゃあ、行きましょうか!」

 

 こうして、私とウィズの迷宮探索が幕を開けたのです。

 

 

 §

 

 

 意気揚々と迷宮(ダンジョン)の内部に入ると、灯りもないのか迷宮内は真っ暗だった。

 流石は難易度が一番低い迷宮、ランプに税金が使われる訳ないわよね。

 まぁ私は女神だからこの真っ暗でも見える訳だけど。

 こういう時、私の曇りなき眼には自分でも凄いと実感しちゃうわ。

 自画自賛していると、不死王(リッチー)の性質だからか、この暗さでも視る事ができるウィズが花歌を歌いながら隣を歩いている事に気がついた。

 

「どうしたのウィズ? 凄い元気じゃない」

 

「いえ。今は時間帯が夜ですし、迷宮内は太陽の光が刺さないですから楽なんですよ」

 

 そんな、引き籠もりみたいな事を言う不死王。

 ……いや、それがアンデッドの性質だから分からなくもないけど…………。

 

「それにしても、全然モンスターが襲い掛かってこないわね。アレかしら、神聖な女神である私を怖がっているのかしら?」

 

「あのアクアさん。普通なら逆ですよ? 女神であるアクアさんはピカピカ光っているので、寧ろモンスター……それこそアンデッドは寄り付くはずです」

 

「だからあの時もアンデッドナイトが私に群がったのね……。ねぇウィズ、なんか私、夏の夜にポツンと立って虫を集める街灯の気分になるんですけど……」

 

「えっと、それは……。と、兎も角! 確かにおかしいですね……。死者の魂も特にないようですし……」

 

「アレかしら、カズマさん達が殆どのモンスターを倒したとか……?」

 

「そう考えるのが妥当ですけど、カズマさんが率先してモンスターと戦う姿は思い浮かばないと言いますか」

 

「それもそうよね。 クリスは〈盗賊〉だから戦闘能力はあまり高くないし、〈冒険者〉もそう。戦わずに『逃げ』を選択した方が効率的よね」

 

 そう、カズマとクリスのパーティー編成では戦いに向かない事は一目瞭然。

 普通のモンスター相手だったら戦えるでしょうけど、アンデッド相手には物理攻撃は効かないから、『敵感知』を駆使して逃げに徹するのが定石(セオリー)の筈。

 知能のステータスがあまり高くない私でもそれくらいの事は思い浮かぶんだから、私より遥かに頭が良いカズマだったらすぐにそう考えるでしょう。

 ……だったらなんでこんなにも少ないのかしら?

 

「ねぇウィズ。迷宮探索ってこんなにも簡単なものなの? 正直、期待外れにも程があるんですけどー」

 

「いえ、いくら世界で一番難易度が低い迷宮と呼ばれていても、普通なら敵がうようよ彷徨いているものですよ。それにですね、私が人間の頃にはゴールに辿り着くまでに一週間もの時間が必要とする迷宮もあったんですよ?」

 

「へー、そうなんだ。じゃあ今度、その話聞かせてちょうだい! 凄腕冒険者であったウィズが一週間も必要するなんてさぞかし凄い迷宮だったんでしょう?」

 

「はい、機会があったらお話ししますよ」

 

 そんな約束をしながら堂々と道の真ん中を通って歩いていると……何時の間にかゴール付近にまで辿り着いてしまっていた。

 それにしても……本当に暇だわ。

 あまりにも暇だから、大声で叫んでモンスターを呼びつけようかしら。

 そしたら多少は楽しくなるってものよ。

 そんなろくでもない事を考えていると私達は行き止まりに遭遇してしまった。

 隣にいたウィズがこちらを見て、

 

「アクアさん、どうしましょう? 此処まで来たら迷宮探索は達成と言っても過言ではありません。此処は帰って……あの、どうかしましたか? 壁に張り付いてスンスンと何やら嗅いで……」

 

 後ろからドン引きしている声が聞こえるけれど、今はそれどころじゃない。

 気のせいかもしれないから私はウィズに近づいて、彼女の匂い──正確には彼女の存在が生み出すアンデッド臭を忘れないように何度も嗅ぐ。

 ……やっぱり、間違いないわ。

 そう確信をする私。

 

「あの、アクアさん? その……恥ずかしいと言いますか……」

 

 身体をモジモジさせるウィズに、不覚にも一瞬可愛いと思ったけれど、すぐに実年齢を思い出して白けてしまった。

 そしてそれを敏感に感じ取り、魔法の詠唱をするのは止めて欲しいんですけど!

 私はこほんと咳払いをして神妙な顔を作ってから、

 

「アンデッドがいるわ」

 

 そう、呟くのだった。

 

 

 

 ──私の言葉を聞いたウィズは真面目な顔になって、すぐに四方を確認する。

 いや、行き止まりだから意味はないんだけど。

 私は見かけ上は壁になっている箇所をペチペチと叩いて……、

 

「やっぱり間違いないわね。この壁──いいえ、扉の向こうにはアンデッドがいるわ」

 

「よく分かりますねアクアさん」

 

「ふふん、この私にかかれば余裕よ余裕!」

 

「でもどうやって開けるんですか? 見たところドアノブなんてものはありませんし……」

 

 ウィズの言う通り、ドアノブなんてものはない。

 じゃあ秘密のボタンがあるのかと聞かれれば、やっぱりそのような類の物もない。

 もしかしたら道中にあるのかもしれないけれど、そんな『もし』の話をしたところでループになるだけなのは自明の理。

 土木工事によって培われた私の観察眼が効力を発揮して、私は突き当たりの壁の一部分を触る。

 やっぱり、私の目に狂いはないわ。

 私はウィズにも分かりやすいようにその箇所に手を当てて、

 

「ウィズ、魔法でこの壁ごと破壊しましょう!」

 

「えぇっ!? あの、本当にそれでいいんですか……?」

 

「いいのよ、だって迷宮(ダンジョン)内だし、相手はアンデッドよ? こそこそ隠れるなんて、そんなの許せないわ!」

 

 なるほど、確かにこれがカズマさんが愛読していた漫画の展開だったらこの扉を開ける為に迷宮内を探し回った後に強敵と戦うのがお約束なんでしょう。

 だけどね、此処は迷宮なのよ……!

 そう、迷宮に安全なんてものはないの!

 私の力説に、ウィズは納得したらしい。

 

「そうですよね……! それじゃあ今から『ライト・オブ・セイバー』でこの壁ごと破壊します!」

 

 力強く頷き、不死王(リッチー)の顔になった魔法使いは噛み締める様に魔法の詠唱を開始する。

 支援魔法を掛けたいけれど、先程のように邪魔をしてしまうのは分かりきっている事。

 魔法の詠唱を終えたウィズが魔法名を告げようとした……

 

 ──その時。

 

 私が示していた箇所がクルリと横に一回転して突然開いた。

 私達が何かした──しようとしてたけど──訳じゃないから、あちら側が故意に開けた事になる。

 奥からは切羽積もった様なくぐもった声が出され……

 

「ちょっ、ちょっと待ってくれないか?」

 

 ──そう制止の声を出すがもう遅い。

 

「『ライト・オブ・セイバー』ッッ!」

 

「……!? 『プロテスト』ッッ!」

 

 

 §

 

 

 ウィズの渾身の魔法を受けてなお辛うじて生きているそのアンデッドの名は──キールと言った。

 はて、何処かで聞いた事があるようなないような……。

 私が首を傾げているとウィズは余程興奮しているのか目を輝かせて私の方を見て、

 

「アクアさん、この方はこの迷宮(ダンジョン)を作った人です! ほら、この迷宮はキールのダンジョンでしょう?」

 

「あぁ、そうそうそれね! で、何でそんな昔の人が不死王になっている訳? 聞くだけ聞いてあげるわ」

 

 そう、お伽噺になって世界にその名を轟かせているキールは実は──不死王(悪い魔法使い)だった。

 扉の向こうにあったのは小さい部屋だった。

 小さなベッドに椅子にタンスに、そしてテーブルがあるのみ。木製ではなく金属製なのは、腐る事を考慮しているからでしょう。

 そして椅子に、その不死王(リッチー)は半分透明になりながらも座っていた。

 着ているものは、ウィズが着ているような真っ黒いローブ。

 肉は身体から落ちてしまったのか、全身は骨で作られていて、かなり恐ろしい。

 そう、これこそが本当の不死王だ。

 その不死王……キールは痛たたと呟いた後こほんと咳払いをして、

 

「それでは改めて、冒険者の皆さんおはよう。いや、時間が分からないからこんにちはかな? それともこんばんは? すまないね、何せこうして起きるのは久し振りだから体内時計も機能しないんだ」

 

「今の時間帯はこんばんはかしら」

 

「ではこんばんは、と。挨拶も交わした事だし……そうだな、少し老害の話を聞いてくれないか?」

 

「えぇー、ぶっちゃけこんな場所にいる奴の話のなんてこれっぽっちも興味がないんですけどー」

 

 そう、私は早く帰りたいのだ。

 早く夕ご飯を食べたい。

 というか、声帯が無いのにどうして声を発せられるんだろう。何かの魔法か魔道具かしら?

 話を聞こうとしない私に対して、ウィズはまぁまぁと私を宥めながら興味深そうに同類を見る。

 その視線に気づいたキールは、

 

「おやおや、そちらのプリーストのお嬢さんに気を取られてしまったが、あなたは私と同じだね?」

 

「えぇ、はい! そうです、不死王のウィズです。今はアクセルの街で魔道具店を営んでおります」

 

「ほぉ。今の世では不死王が働けるのか。時代の流れは早いものだ……」

 

「いえ、もちろん隠れていますが……。それでも中々に楽しいものですよ? ……それにしても私、初めて同類に会いました!」

 

「それなら私もそうさ。何せ不死王になる為には禁忌を犯さないといけないからね。その術はもう、後世には伝わっていないだろうから、当然それに比例して不死王の数も減るというもの」

 

 キールの言う通り、不死王になる事は不可能に近い。

 何故ならそれは、私達女神がその方法を失くしたからだ。

 だから、不死王になる為には野生の不死王に会って教わるか、それか魔王や公爵級くらいの悪魔といった大物に教わるしかないのだ。

 でも確か、キールが生きていた時代では望めばその方法を知る事はやろうと思えばできた筈。

 特に、キールのような国で一番と謳われた〈アークウィザード〉ならそれを知る権利がある筈。

 

「いやぁ、まさかこんな所で同類と会えるとは人生とは面白いものだ」

 

「そうですね、それは私も共感できちゃいます。何せ私達、不死王ですからねー」

 

 ひとしきりうんうんと頷いた後、キールはポキポキと音を鳴らしながら白骨化した手を差し出した。

 どうやら、記念に握手をしたいらしい。

 ウィズが嬉しそうに手を結ぶ中、その手は私にも向けられた。

 

「あなたは、普通の〈アークプリースト〉ではないのだろう? 深い眠りに入っていた私を起こす程の神聖力に、その膨大な魔力。あなたは……本物の女神だね?」

 

「えぇ、そうよ。私の名前はアクア。水の女神アクアよ! 流石は魔に身を落とした者、よく気がついわね」

 

「なに、これくらいは簡単な事さ。……それじゃあ少し、話を聞いてくれ…………」

 

 意外に、この不死王は良い奴なのでは……?

 女神の勘がそう私に告げている。

 先程とは違い聞く態度を取った私をキールは満足そうに見てから、ぽつぽつと話し始めた。

 

 ──昔昔のあるところに一人の男の〈アークウィザード〉がいました。

 その魔法使いはたまたま街を散歩していた貴族のお嬢様を遠目から見て、一目惚れしてしまいます。

 けれどこの世界では身分の差は激しく、その恋は叶わないものでした。

 邪念を振り払うように男は魔法の鍛錬に没頭し……いつしか国一番の〈アークウィザード〉になりました。

 持てる魔術を使い国に貢献するその姿勢は民から絶大な人気を得て、その噂は王都にある王城──国王にも耳に入ります。

 当時の王はいわゆる賢王であり、男のその功績を讃えたいと思い王城で宴を開きました。

 これは、とてつもなく栄誉な事です。

 王城で招かれた男は、部屋で賢王と対面します。

 男同士、腹を割って話そうと王が言ったのです。

 部屋には、男二人だけで護衛すらいません。

 その中で、王は言いました。「その功績に報いたい。どんな事でも、どんなものでも、そなたの願いを一つだけ叶えよう」と。

 魔法使いは言います。「ならば王。私の願いを聞いていただきたい。──私には一つだけ、どうしても叶わなかった願いがあるのです」と。

 訝しがる賢王を魔法使いは不敵な笑みを浮かべ見てから堂々と言いました。

  「アンタの妾を寄越せ!」と────。

 

「私はそう言って、貴族のお嬢さんを攫ったのだよ。いやぁ、若さ故の過ちと言うかなんと言うか……あの頃の私は青春をしていたな」

 

 キールがそんな事を自慢げに語った。多分、ドヤ顔をしているに違いない。

 

「つまり、こういう事? アンタが好きになった貴族のお嬢さんは王様の(めかけ)さんだったと。けどそれは、彼女の両親がご機嫌取りに勝手にやったにせず……王様はお嬢さんを可愛がらず正室や他の妾とも折り合いがつかずのバッドエンドまっしぐらだったと。それであなたは要らないんだったら寄越せと……そういった訳?」

 

 私の確認に、普通なら喉がある場所でカタカタと骨を鳴らしてから、キールは頷いた。

 

「そういう事だな。先に言っておくが、王は愚王ではないぞ。何せ、私がその言葉を言った瞬間『どうぞどうぞ! いやぁ、本当に助かった。私も中々にその()に対しては困っていてな。娘の家柄はあまり高くないから堂々と可愛がれないし、もしやったら他の奴らが煩い。喜んで差し出そう!』と、言ってくれたのだ」

 

 なんと、王様も話に一枚噛んでいたらしい。

 まぁ言われてみればそれもそうよね。だって、なんちゃって妾とはいえ身分がそれなりにあるし、いくらキールとはいえすぐには娘さんを攫えないか。

 

「でだ、王が裏で色々と細工してくれたお陰で私はお嬢さんと会えたのだ。あの時は緊張したなぁ。……告白したら二つ返事でオッケー貰って、王とそこで別れて王族しか知らない秘密の抜け道を使って愛の逃避行をしたわけだ。あっ、ちなみにそこで眠っているのがそのお嬢さんだよ。鎖骨のラインが綺麗だろう?」

 

 そう言われてベッドを見ると……そこには一人の遺体があった。いや、遺体と言っても骨なんだけど。

 ……どうやら相当に愛の逃避行が楽しかったようで後悔もなく成仏している。

 鎖骨のラインが綺麗とか言ってるけど、どう反応したらいいか分からない。

 

「その後は国王軍とドンパチやってなぁ……。あらゆる場所に逃げたよ。そうだな、他国はもちろん行ったし、秘境なんて場所にも行ったり……ドラゴンの巣にも行ったな。お嬢さんはそんな生活だったのに、文句を一つも言わなくて、寧ろ楽しいと言ってくれたんだ。あれには救われたし、嬉しかったなぁ……。しかし人間の身では限界があってね、私はある時重傷を負ってしまい──不死王になる事を決意したんだよ。それで最後に辿り着いたのが此処。お嬢さんを看取ったこの地で私は眠る事にしたのだ」

 

 それは一人の魔法使い(キール)の人生だった。

 

 私が反応に困っているその隣ではウィズが大量の涙を流している。

 どうやら、感動のあまり泣いているらしい。

 ……いやもちろん、私もそれなりには感動している。目の前の男が漢なのは充分理解したし、尊敬もできる。

 けどなぁ、どうしよう。

 これが悪い不死王だったら浄化するのだけれど、そんな話をされたら罪悪感が湧いてくる。

 そんな私の内心の葛藤を見透かしたのか、不死王が言った。

 

「でだ、私を浄化してくれないか? あなたはそれができるだろう? 何故ならあなたは女神なのだから」

 

 こうして、私と不死王の迷宮探索は終わりをつけたのです。

 

 

 § ──カズマ──

 

 

 話を終えたアクアは、どうだったかと目で問うてくる。

 俺とめぐみんは顔を見合わせて……同じ言葉を言った。

 

「「それ、作り話?」」

 

「違うわよ!」

 

 ふむ、どうやら違ったらしい。

 いやでもなぁ……。アクアを疑う訳ではないのだが……そんな漫画やアニメの展開があるのだろうか。

 

「それでその後はキールを浄化して、泣くウィズを落ち着かせてから『テレポート』でアクセルに戻ってきた訳!」

 

 なんだろう、釈然としない。

 何故俺達を救護しに迷宮に行ったアクアとウィズの方が迷宮(ダンジョン)探索をしたと思えるのだろうか。

 

「ところで、何故アクアはそんな眠りについていた不死王を起こせたのですか? 私はそれが気になって仕方がありません」

 

 俺達の前に座っている女性(ひと)が実は女神だからです。

 ……とは、流石に言えない。

 言って信じてもらえるかどうか怪しいし……下手したら俺とアクアがキチガイ判定されてしまう。

 

「よくぞ聞いてくれました! 土木工事の正社員は仮の姿、私の本当の姿は女神! 私は女神アクアなのです!」

 

 立ち上がり、何やら変なポーズを取るアクアをめぐみんは数秒ジーっと音が出る程眺めた後、ゆっくりと席を立ち上がり女神宣言している女に近づく。

 そして私は分かっているとばかりにアクアの肩をぽんぽんと優しく叩いて、

 

「アクア、今日はありがとうございました。そんな狂言を口にするなんて、疲れているに違いありません。不死王(リッチー)を浄化したのですから、多大な魔力を酷使した事でしょう。今日はもう宿に帰って寝ましょうか」

 

 そんなあたたかい言葉を告げるではないか。

 …………。

 アクアが涙目になって俺を見るが……俺は諦めろとばかりに弱々しく首を振るだけ。

 

「私、もう帰る……」

 

 そんな言葉を残して、アクアは冒険者ギルドから出るのだった。

 ちゃっかり自分のお勘定を置いていくのは立派なのだが……世の中とは上手くいかないものである。

 

「カズマ、私達ももうお開きにしますか?」

 

「そうだな、そうするか。お姉さん、お金を此処に置いとくから!」

 

「はい、分かりました! またのご来店をお待ちしております!」

 

 忙しそうに酒場をあっちこっちする受付のお姉さんは律儀にもその言葉を言うのであった。

 またのご来店もなにも、この場所は冒険者ギルドであって飲食店ではないのだから、明日も当然来るのだが。

 見れば、若干目の下に隈ができている。

 ……今度、日頃のお礼で何か渡そう。

 冒険者ギルドに出ると月は天高く昇り、キラキラと輝いていた。

 魔道具である時計を確認すると、既に深夜十時を過ぎようとしていた。

 入り始めたのが六時半頃だから、かなり長居していた事になる。振り返って中を確認すると、そこにはまだ大勢の冒険者達が酒を飲んでいる。

 彼らにとって、夜は今かららしい。

 少し憧れるが今はその願望を抑え込まなくてはならない。

 そう決意を固め、前を見据えるとめぐみんが気になったのか、

 

「あれ、結局帰るんですか? 酒飲みに参加したそうな目をしていたのでまだいるのかと思ったのですが」

 

「いやさ、俺もそうしたいよ? けどさ、大人の俺は子供のお前を宿まで送り届ける義務があるんだ」

 

 それにムッとした顔で俺を睨むめぐみんだが、何も怖くない。寧ろ可愛いと思えてしまうのは、おかしいのだろうか…………?

 

 ハッ、目を覚ませ佐藤和真!

 

 相手は子供である。そう、子供だ。

 俺は子供が純粋に好きなだけ。

 俺はロリコンなんかじゃない。

 俺はロリコンなんかじゃない!

 

「カズマカズマ、私だってあと少ししたら誕生日を迎えて法的には成人になるのですが!」

 

「えっ、今なんて?」

 

「ですから、もう少しで成人……大人になると言っています! ですから、その子供扱いをそろそろやめて欲しいのですが!」

 

 そう訴えるめぐみんの主張を横に流しながら、俺は日本ととこの国……ベルゼルグの相違を思い出す。

 めぐみんの大人になる発言から察するに、彼女の年は十三歳という事になる。

 何故ならベルゼルグでは十四歳から成人扱いされるからであり、またその歳から結婚できるからだ。

 となると、めぐみんとは実質二歳離れのようなものか……。

 そして俺の基準では、二歳離れならロリではギリギリない訳なのだが……。

 

「えっ、なに……。お前、ロリキャラじゃなかったのか!? マジかよ!」

 

「勝手に私のキャラ付けをしないでもらおうか! ……ふふん、分かりましたか? これからは私を子供ではなく一人の女の子として扱っ……──どうしました? 安心したように息を吐いて」

 

「ありがとうめぐみん! この前お姉さんから聞いたんだけど……ここ最近俺、子供好きのロリ魔さんて言われてるんだよ! ほら、見た目からしてお前はロリだし、この前のアイリスの一件があるだろ? それからロリ魔さんなんて不名誉な渾名(あだな)が勝手に付けられてさぁ……」

 

 そう、これで安心だ。

 これからはめぐみんの事をできが悪い妹みたいな感じではなく、できが悪い後輩みたいな感じで接していこう。

 いやー、安心安心。

 足取りが軽くなり、スキップまでしそうな俺にめぐみんは淡々に冷静と。

 

「いえ、ロリコンかどうかはさておいて……アイリスの件はヤバいですね」

 

 ピタリと固まる俺を放置してめぐみんはさらに言う。

 

「どうするのですかカズマ? あれは多分、子供の微笑ましいものではなくて、本気の発言だと思いますが……」

 

「マジで?」

 

「マジです」

 

 …………。

 即答され、俺はどうしたらいいものか迷う。

 仮にだ、仮にめぐみんの言う通りだとしよう。

 相手は一国のお姫様で、アイリスは国民から絶大な人気がある。

 対する俺は、ただの平民。

 それに補正として『魔王軍幹部を倒したパーティーのリーダー』というものが付けられるが、それでも大して役には立たないだろう。

 

「なぁめぐみん。もしかして俺、かなり危ない橋を渡っているんじゃ?」

 

 おずおずと尋ねるとめぐみんは視線を横にふいっと逸らして……

 

「ま、まぁ大丈夫ですよ! あの子も馬鹿じゃありませんから、カズマが予想しているであろう事は起こらない筈です!」

 

「だ、だよな! よしめぐみん、帰るか! うん、そうしよう!」

 

 俺達は何もなかった事にして帰路につく。

 帰りにめぐみんの誕生日プレゼントに何が欲しいのか、そんな事を話しながら────。

 

 

 §

 

 

 翌朝。

 今日は宿で朝ご飯を食べる事にした俺とめぐみんは奥さんの手料理を待っていた。

 何気に此処でご飯を食べるのは初めてだから、期待に胸を膨らませてしまう。

 朝の会話を楽しんでいると……一匹の猫が俺達の座っているテーブルに近づいてきた。

 

 ──黒猫。

 

 その黒猫は器用にテーブルを支えている支柱をそれは見事な容量で登り、こちらを見てくる。

 ……癒されるなぁ。

 俺がホッコリ和んでいると……めぐみんが黒猫を抱きしめるではないか。それはまるで、これは私のですよと主張するかの様にギュッと。

 

「めぐみん、その黒猫お前が飼っているのか?」

 

「はい、そのようなものですよ。この猫とはかなり前……それこそカズマと仲間になる前からの付き合いでして……」

 

 その発言に呼応するように、黒猫がにゃーと鳴いた。

 なるほどなぁ。

 めぐみんにもそんな存在がいたのか……と思っているとめぐみんが黒猫の頭を優しく撫でながら、

 

「ちょむすけ、何処に行ってたのですか? ここ最近見かけなかったので心配だったのですよ?」

 

 …………。

 

「……。……なぁ、今なんて言った?」

 

「はい? いやですから、ここ最近この猫……ちょむすけは……──」

 

「今なんて?」

 

「……? あぁ、名前ですか。ちょむすけですよ」

 

 マジか…………。

 俺が同情の眼差しをちょむすけに向けていると、奥さんが料理を運んできた。

 

「はい、どうぞ! いっぱい食べて大きくなるんだよ! ……この猫は誰のだい?」

 

「あぁ、すみません! もしかして、猫禁止でしたか?」

 

 俺が代表して頭を下げる中、奥さんは違う違うとばかりに手を振って、笑い掛けてくる。

 

「アンタらのならいいんだよ。ここ最近は捨て猫も多くてねぇ。この街は大きな犯罪は少ないのに、そういった小さな犯罪が多くてねぇー。……大事にしなよ!」

 

 そう言い残して、奥さんは台所の方に消えていった。

 中々に良い事を言う女性(ひと)だったなぁ。

 俺の脳内女性尊敬ランキングが変わってしまうかもしれない。

 一位は恩師であるレインさんだが、彼女は恐らく不動の一位になる事だろう。

 

「カズマ、それでは頂きましょうか」

 

「そうだな。あたたかいうちに食べた方が美味しいしな」

 

 俺達は手を合わせて一言。

 

「「頂きます!」」

 

 

 

 ──美味しいご飯を食べた後は一応冒険者装備に着替える。

 いつ緊急クエストが出てもいいように準備しておくのは基本中の基本だ。

 奥さんに行ってきますと告げてから──ご主人は今、隣町に行っているらしい──宿を出て、俺とめぐみんは冒険者ギルド……ではなく、ウィズ魔道具店にへと足を向けていた。

 宿生活を送るようになってからはウィズの店を待ち合わせする場所にする必要がなかったので──めぐみんとは同じ宿を取っている──中々足を運ぶ機会がなかったのだ。

 

「それにしても、本当に寒いですねー」

 

「そんな軽装だからだろ。そもそもローブの下は下着類を除けばたった一枚じゃないか。それに下半身も肌をそんなに出して……お前もしかして痴女?」

 

「ちがわい! ……私だって、服を買いたいなぁとは思うのですよ? そりゃ、私も女ですから。ですけど我が家は貧乏なものでして……私だけあたたかい服を買うのは少々……いえかなり気が引けるのです」

 

 いや、だからってそれは……。

 突然黙ったのでめぐみんは俺が気分を害したと思ったのか慌てているがそうではない。

 俺は今、少しだけめぐみんの両親に怒りを抱いている。

 更に聞いたところ、ベルディア討伐報酬金も殆ど実家に送ったのだとか……。

 いやもちろん、部外者である俺が口を出す事ではないし、してはならない事も重々承知だ。

 確か、ベルディア討伐報酬金が三億エリス。それを俺とめぐみんで山分けしたから──死んだ俺の分をどうしようか迷っていたらしいので、俺の金はそのままあるのだそうだ──一人当たり一億五千万エリス。

 それだけの金が必要なのだろうか……?

 子供の俺には人生においてどれだけの金が必要か分からないが、それでも一億五千万エリスもの金が必要とは到底思えない。

 その事を言及するとめぐみんは、

 

「そうですね……ウチが普通の一般家庭だったらそれだけのお金があれば充分でしょう。しかし私の家は魔道具店を営んでいまして……」

 

 視線を気まずそうに横に逸らし、言葉を濁すめぐみんを見て、俺は確信してしまった。

 

「つまり、あまり繁盛していないと」

 

「……はい。一応弁解しますと、父の魔力は凄いのです。なんせ、紅魔族で最も魔力量があるだろうこの私の父ですから。しかし父は、その……妙な方向に力を使いますといいますか…………」

 

 めぐみんのお父さん、娘さんにそう言われていますよ!

 それにしても非常に勿体ない。

 紅魔族は知能が高いのではなかったのか……。

 

「ちなみに、赤字だったらウィズと同じくらいですね」

 

「それもう駄目じゃん! 駄目にもほどがある!」

 

 今度めぐみんには服を何着か買ってやろう。

 幸い金は沢山あるから、使っても問題ない。

 俺がそんな重大な決心をしていると、何時の間にか小さな魔道具店の前に着いてしまった。

 まだアクセルは人が住んでいるからいいが、恩師のレインさん曰く……紅魔族が住んでいる紅魔の里は凄い離れているとの事。いや、『テレポート』が使えるから距離はないに等しいが、問題は立地だろうか。

 なんでも、紅魔の里の周りには強いモンスターしか生息していないらしい。

 そんな所に行けるのは余程の凄腕冒険者くらいだけだ。

 当然、それに比例して訪れる人は減少する。

 これは本格的にめぐみんの実家はヤバいかもしれない。

 ………………。

 いやいやいや、まだ決めつけるのは早い。

 俺は先程までの考えを打ち消す様に扉を押し、ウィズ魔道具店の中に入る。

 カランコロンと扉に設置されている鈴が気持ちよく鳴り、奥からははーい! とウィズの声が聞こえた。

 程なくして、店主が奥からやってくる。客を待たせまいと急いだのか道中爆音がしたが気のせいだろう。

 ところどころローブを焦がしながら、ウィズは律儀にもお辞儀して。

 

「カズマさん、めぐみんさんおはようございます。そしてようこそ、ウィズ魔道具店へ! 今日は何をしに?」

 

「昨日のお礼をしたいと思ってな。本当に昨日は心配を掛けたな。ありがとうございました」

 

「私も。ありがとうございましたウィズ」

 

 俺とめぐみんが揃って頭を深く下げるとウィズはあわあわと手を振りながら、

 

「や、やめてください! お礼を言う必要はありませんよ、友人を助けに行くのは当たり前ですし……餓死しそうになる気持ちは痛いほどによく分かりますから!」

 

 そこで共感されても非常に対応に困る。

 俺はめぐみんの耳元にこしょこしょと囁いて、

 

「なぁ、ぶっちゃけお前の実家とこの店、どっちが貧しいんだ?」

 

「……そうですね。やっぱりウチでしょうか。私の一家は父、母、私、そして妹と四人家族だったのでその分お金が掛かりますからね」

 

「……? 何を話されているんです?」

 

「いや、何でもないよ! ウィズ、今日は買い物に来たんだが、何かいい商品はあるか?」

 

「まぁ、ありがとうございます! ……ちょっと待ってくださいね?」

 

 そう言ってウィズは店内を物色し始めた。

 自分の店なのに何が置いてあるのかを把握していないのだろうか?

 その事を尋ねると貧乏店主は気まずそうに目を逸らしながら……

 

「ほら、お客様がいらっしゃらないと商品だけがどんどん置かれるんですよ。中には五年前に棚に置いた物もあるんですよ?」

 

「……。……ウィズ、お前もう冒険者に戻れよ!」

 

「あはは、でもこの生活も楽しいんですよ? それに、約束がありますから」

 

 ……約束?

 どうやらこれ以上は話す気はないのかウィズは黙々と商品を手に取っては棚に戻していく。

 これは時間が長丁場になりそうだと察知した俺は、設けられている椅子に座る事に。

 二つあるうちの一つの席は既にめぐみんが座っていた。

 

「それにしてもカズマ、これからどうしますか?」

 

「それはどう意味だ?」

 

「そろそろアクセルから出るべきではないですか?」

 

「却下」

 

「……!? な、なんでですか!?」

 

「まず第一に、レベルの問題だな。俺達はまだレベルが二十にも上っていない駆け出し冒険者だぞ? いくら魔王軍幹部を倒せたからって、油断はしちゃいけないと思うんだ。第二に、この街の居心地が良すぎて離れられない」

 

 そう、気づけば俺はこの世界にかなり順応していた。

 知り合いも多いし、友人もそれなりに多い。

 彼らと別れるのはなるべくしたくないのだ。

 

「……それもそうですね。私もこの街には愛着がありますし……。なら当面はまだこの街に滞在しましょうか」

 

 そんな風に仲良く談笑していると品定めが終わったウィズが多くの魔道具を抱えながら近づいて、テーブルの上にドンと置く。

 

「かなり厳選しました! これだけの魔道具があれば、お気に召す物があるでしょう!」

 

 そうだよな、これだけあれば、一つくらいまともな物がある筈だよな。

 そんなフラグになりそうな事を考えながら俺は、近くにあった手の平サイズのキューブを手に取った。

 

「なになに? 『死んでも生き返るキューブ』凄っ、何これ凄い!」

 

 これは是非買おう!

 これがあれば、すぐに生き返る事ができたのか……!

 天高く掲げてこの出会いに感謝していると……ウィズは補足説明をするのか口を開いた。

 

「あっ、でもその魔道具はある程度の魔力──それこそアクアさん並みの魔力がないと使えませんよ? それにその魔道具を使ったら死者は生き返る代償に使用者は死にます」

 

「舐めてんのか」

 

 反射的に俺は、地面にガラクタを投げつけてしまう。

 あぁ、商品が! と嘆いている店主に賠償金を渡そうとすると彼女は大丈夫です、もう時期廃棄する予定でしたのでと言ってくれた。

 …………。

 どうしてこの店に売っているアイテムはメリット以上にデメリットの方が大きいのだろうか。

 俺がげんなりしていると、めぐみんがある魔道具にへと手を伸ばしていた。

 形は、ポーションの類だろうか。

 硝子(ガラス)の容器の中には、透明な液体が入っていた。

 

「ウィズ、これはなんですか?」

 

「あぁ、それはアクアさんが作った水ですね! なんでもアクアさんの体質からか……触れた液体を水にするんですよ」

 

「えっ、何それ。……アクアも苦労しているんだなぁ」

 

「それでですね、誤って触れてしまった水なんですが……なんと、これが凄いんです! これは最早、聖水と言っても過言ではありません!」

 

 そう力説するウィズ。

 俺とめぐみんがやや引いていると俺は物は試しにと断ってから蓋を開けて一気飲みする。

 …………。

 

「うん、水! けど美味い!」

 

 なるほど、ウィズが聖水と言うだけはある。

 地球で一回飲んでその後は飲んでいない百円のミネラルウォーターより断然美味い!

 これは健康にもいいのではないか……?

 めぐみんも俺に釣られて飲み、

 

「凄い美味しいですね! ……ウィズ、これを商品として扱ったらある程度は売れると思いますよ!」

 

「本当ですか、めぐみんさん!?」

 

「はい、紅魔族の私が言うのですから間違いないです」

 

「まぁ、待てよめぐみん。いくら美味いとは言っても所詮は水だ。これ単体では到底売れないだろ」

 

「それもそうですね。だったら他の商品とセットにするのはどうでしょうか? そうすれば客はお得な感じになって買う事でしょう」

 

「なるほど! 本当に助かります!」

 

 にこにこ笑うウィズはなんだかとても嬉しそうだ。

 そうだ、これを機に何故売れないのか徹底的に調べるとしよう。

 殆どの商品が言いづらいがガラクタと言っても差し支えない物ばかり。

 

「なぁ、此処に置いてある商品って自分で作っているのか? それとも仕入れているのか?」

 

 もしこれで自分で作っているのなら色々と諦めよう。

 だが幸いにもどうやら違うらしい。

 ウィズは違いますと首を振り、

 

「いえいえ、此処で売っている大半の物品はある職人さんから買い取っているものです。その方は紅魔族で、私は尊敬しているんで──どうしました? お二人共顔を青ざめて……」

 

「ちょっと失礼」

 

 俺は一言ウィズに断りを入れて、めぐみんを引き連れて店から出る。

 俯いているめぐみんの態度から察するに、俺の考えは九分九厘的を得ているだろう。

 トンガリ帽子を深く被り、何も反応しないめぐみんに俺は屈んで視線を合わせて……

 

「なぁ、ウィズが言った紅魔族の職人ってさ……もしかしてお前の家の……──」

 

「……はい、多分そうだと思います…………」

 

 なんという事だ、こんな事が起こるものなのか。

 どうしようか……いや本当にどうしよう。

 俺の計画では、その碌でもないなんちゃって商人と手を切るように進言するつもりだったのだがそれはできそうにもない。

 多分、めぐみんの実家の収入はウィズに転売しているものと等しいはずだ。

 ウィズが契約を切ったら貧乏店主は報われるが、なんちゃって職人は大打撃を受ける事は必須であり……最悪野垂れ死ぬかもしれない。

 

「カズマ……どうしましょう? 正直、ウィズに対して罪悪感が凄いあるのですが! 」

 

 どうしようって、そりゃあもちろん。

 俺は不安に駆られている女の子の肩を安心させるようにガシッと掴むと。

 

「いいか、俺達は何も知らない」

 

「ちょっ、それでいいんですか!?」

 

「めぐみんいいか? 善意でご飯は食べれないんだ。──そう、例えばそれは孤児院。拠り所がない子供を庇護するシスターや神父を俺は尊敬しているが、その経営は常に下に傾いているんだ。この街はまだクリスという聖女やダクネスの実家が寄付しているからそう見えないかもしれないが、他の街だったらこうはいかない筈だ」

 

「うぐっ、それは……そうですが……しかし…………」

 

「もしめぐみんが善意でウィズに真実を告げたとしよう。ウィズは救われるが、お前の家は救われない。めぐみんには確か妹がいるんだったよな?」

 

「えぇ、まだ幼いですが……」

 

「だったら尚更だ。これは仕方がない事なんだ!」

 

 真剣な表情になってそう告げると、めぐみんは折れたのかガクッと首を下に傾け……弱々しく頷いたのだった。

 説得を終え、俺達が再び店内に入るとウィズが懐疑的な目を向けてきたが、俺は愛想笑いをして流す。

 王城にいた際に、貴族達の愛想笑いは何度も見たからからそれを参考にした。

 つまり、俺の愛想笑いは完璧なもの。

 

「あの、カズマさん。……ええっと、なんと言いますか……その笑い方は外でしない方がいいと思いますよ」

 

 優しいウィズはかなり言葉を柔らかくしてくれたが、どうやら気持ち悪いらしい。

 ショックを受けていると、ウィズは俺とめぐみんに一つずつ商品を渡してきた。

 それは、リストバンドだった。

 俺は緑色で、めぐみんは紅色。

 これは何だと視線で問うと、店主は余程自信があり興奮しているのか大きい胸を揺らす程に前屈みになる。

 眼福です、ありがとうございます!

 鼻の下を伸ばしていると……足に痛みが。

 犯人は、一人しかいない。

 犯人……めぐみんは呆れながら口パクで、『アイリスに告げますよ!』と脅迫してくるではないか。

 思うんだが、二人とも仲良くなり過ぎだろ。

 一ヶ月俺の意識はなかったから、その影響があるのかもしれない。

 そんなやり取りを陰でしていると知らないウィズはやや早口になりながら、

 

「このリストバンドはですね、素材にマナタイトと呼ばれる結晶が使われています」

 

「まなたいと?」

 

 そんな物、聞いた事も無い。

 レインさんも特に言ってなかった筈だから、初めてその単語を聞いた事になる。

 俺がクエスチョンマークを浮かべていると、めぐみんが説明してくれた。

 

「カズマ、マナタイト結晶とは魔法を使う際に魔力を肩代わりしてくれる大変便利な物です。使い捨てですが」

 

「そう、そうなんですよ! 普通なら使い捨てなんですが、このリストバンドは先程話に出た紅魔族の職人さんが血のにじむ様な努力の末、使い回しが可能になったんです!」

 

 おぉ! それは凄い! めぐみんのお父さんも案外凄いじゃないか!

 めぐみんも父親の功績に目を輝かせている。

 

「まずですが、簡単な原理を説明しますね。めぐみんさんが仰ったように本来ならマナタイト結晶は使い捨てです。しかし、職人さんは考えたそうです。『そうだ、遊び半分に弄ってみよう!』と。大量のマナタイトを購入した職人さんは全て結晶を砕き、一つに纏めました。……マナタイト結晶とは、言い換えれば魔力の塊みたいなものです。一つに纏めたら、魔力が合わさります。その合わさりが、外部から魔力を吸う性質を生み出しまして……。リストバンド内にある魔力が枯渇したら装備者から魔力を吸い上げる事で再度使用可能になります」

 

 凄い、本当に凄い!

 これは掘り出し物ではないか!

 

「流石にめぐみんさんの爆裂魔法は肩代わりできませんが、上級魔法五発分までなら可能ですよ。めぐみんさんの場合あまり意味がありませんが、恐らく魔力枯渇で倒れる事はない筈です。デメリットとして、使用したら再度充填されるまでに五日かかります」

 

 それはとても嬉しい。

 毎回めぐみんをおぶるのは疲れるからな。

 デメリットも許容の範囲内だろう。

 よし、買おう。

 めぐみんも欲しそうにソワソワしているし、ここは紳士として買おうではないか。

 俺は財布をポケットから出しながら。

 

「ちなみにいくら?」

 

「一つにつき、七千五百万エリスです」

 

「今なんて?」

 

「一つにつき、七千五百万エリスです」

 

 ……。

 俺は悲壮にくれながら、財布をポケットに戻すのだった。

 

 

 ──結局、ウィズ魔道具店では何も買えなかった。

 しかし此処に来た理由は、昨日のお礼をする為だ。

 その目的を果たさなければ来た意味がない。

 俺は十万エリスを渡そうとしたのだが断られてしまった。

 いや、金で解決するのは悪いとは思うのだが……。

 頑として受け取らないウィズを見かねためぐみんが今日の昼ご飯を奢ればいいのではと提案し、それを実行する事になった。

 ウィズは外出をする準備をしながら……世間話をするかの様にニコニコと笑みを浮かべて。

 

「あっ、そうでした。……随分遅くなりましたけど、魔王軍幹部討伐おめでとうございます! ベルディアさんを倒すなんて、凄いですね! あの方は騎士だからか魔法に弱いので、それを突いたんですねー」

 

 そんな事を言ってくるではないか。

 俺とめぐみんは照れ笑いを浮かべながらそれに応えようと……

 

 ──して、おかしな事に気がついた。

 

 めぐみんがおずおずとウィズに質問する。

 

「あの、随分詳しいみたいですが、もしかして知り合いですか?」

 

 その言葉にウィズはさも不思議そうな表情を作り……次の瞬間ポンと合いの手をして。

 

「あぁ、言ってませんでしたか? 私実は、魔王軍の幹部なんです」

 

 サラリとそんな重大な事を告げるのだった────。

 








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