このすば! ─カズマがいた異世界最初の街は王都にある王城です─   作:Sakiru
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殺戮の機動要塞

 

 ──今思い返せば、異世界転生なんてものはかなり理不尽だ。

 

 俺やミツルギの場合はあくまでも自分の意志という形を一応保っているが、それでもその選択をするように誘導されたようなものだと、今更ながら思う。

 神様というのは、かなり傲慢で身勝手なものだ。

 もちろん、こんな事はアクアやエリス様には到底面と向かっては言えないけれども。

 チートを貰って楽しく異世界生活を送れるほど、この世界は人に……特に元引き籠もり兼ニートに優しくない。

 どんなに強力な武器を持っていても倒せない敵はいて、どんなに攻撃力が高くてもそれが一時的だったら意味がないし、世界というものは理不尽に満ち溢れていると俺は強くそう思う。

 いやもちろん、良い事も沢山あった。

 例えば、一国のお姫様と仲良くなったり、なんだかんだ良い仲間とも巡り会えたし、数多くの美少女たちとそれなりの仲になったりと……一日の充実度は明らかに此方の方がいいだろう。

 でもだからこそ、何かを失う時の喪失感は大きい訳で。

 そう……。

 

 ──積み重ねたブロックが崩れるのは一瞬なのだ。

 

 そんな事を最期の一句にして心の中で読んでいると、隣に立っているめぐみんが服の袖をぎゅっと強く握ってきた。

 大人の階段を登りつつある俺は、今更そんな事に動揺したりはしない。

 ……ごめんなさい。めちゃくちゃ動揺しています。

 

 主に恐怖の所為で。

 

 震える足に鞭を打ち、前方を見据えていると……とうとうソイツは現れた。

 その巨体に俺は、手を合わせて幸運の女神に祈る。

 

 どうしてこの街なんですか、と。

 

 多くの冒険者達が顔を引き攣らせ振り返り、俺の指示を待つなか。

 俺はゆっくりと深呼吸し……輝く朝日を眺めてから、ソイツに対して宣戦布告をした。

 

「突撃!」

 

 それを合図にして──アクセルに住んでいる全ての冒険者達が恐怖を打ち消すかのように腹から雄叫びを上げ、自身の得物である武器を大きく掲げながら戦場に行った。

 俺達が戦う相手は、超大物賞金首。

 

 その名も──機動要塞デストロイヤー。

 

 

 §

 

 

「カズマ、そろそろ部屋から出てください! 何日籠ってるんですか!」

 

 俺が宿屋の部屋に引き籠って、そろそろ五日目になろうとしていた。

 知人、友人、仲間から「お前の顔気持ち悪い!」と真顔で言われた俺はひどく傷つき、宿屋のオーナーである主人に許可をもらって部屋に引き籠もる事に。

 最初は仲間であるめぐみんも大して気にした様子はなかった。

 どうやら、俺の引き籠もりは子供の癇癪だと思ったらしく、最初の二日は放置。

 更には冒険者ギルドに遊びに行く始末。

 まぁそれでも、一応壁越しに何処に行くのかは教えてくれるので勝手ではないのだが。

 だがそんな態度も、三日目になると変わったようで……仕切りに扉越しに「謝りますから、外に出ましょう?」と優しく慰め、俺をこの絶対領域から出そうとしてくる。

 鍵は閉めてないので強引に開けようと思えば開けれるのに……強行策にでないのはめぐみんの美点だなぁ。

 だが俺は、それに応えるような事はしなかった。

 そう、これは戦争なのだ。

 確かに自分でも顔面偏差値は高くなく、中の中くらいだとは思っているが……それでも「気持ち悪い」と言われる程ではない筈だ。

 そう思った俺は部屋に備え付けられている鏡で自分を見て、めぐみん達に披露した渾身のキメ顔を浮かべる。

 刹那。

 俺は思わず「気持ち悪!」と叫んでしまった。

 ……。

 ……いや、本当は分かっていたのだ。

 ウィズ、ダクネス、受付のお姉さんやめぐみんがそんな質の悪い嘘をつかないことを。

 特に有り得ないのはめぐみんだろうか。

 彼女は仲間をかなり大事にするから、不当に嘘をついて傷つけるような事は絶対にしない。

 これからは、彼女の名前をからかわないようにしよう。

 だから俺が引き籠っている最大の理由は、彼女達の言葉に悲しんでいるからではなく──単純に気まずいからだ。

 四日目になると、腹が空き始めた。

 引き籠もる直前に近くの八百屋や魚屋、肉屋で買った食料が綺麗さっぱり消えたのだ。一日目にやけ食いしたのが悪かったかもしれない。というか、それしか理由がない。

 そして、五日目の今日。

 俺はとうとう、死にそうになっていた。

 餓死で。

 俺が日本で死に天界でアクアと会った時、彼女は俺の死因を馬鹿にして爆笑してきたが……なるほど、確かにこれなら笑えてくる。

 だったら素直にめぐみんたちの元へ戻れよと思わなくもないが、そう決心した時には遅く……今の状態に至る訳だ。

 これが貧困者の気持ちなのだろうか。

 視界はグラグラと揺れ、とうとう幻覚まで見えそうになってくる。

 エリス様にこんな理由で会いに行かないといけないのかと……死を覚悟したその時。

 意識が朦朧とする中、外が妙に騒がしいことに気がついた。

 ドタバタと廊下を走る音がいくつも聞こえる。

 かなり焦っているらしく、度々硝子(ガラス)が割れる音が宿屋に鳴り響いたがそれすらも彼らは無視をしていった。

 ……新手の宿荒らしだろうか?

 主人に怒られても知らないぞー、と他人事の様に考えていると……突如扉がバン! と音を立てながら開く。

 

「カズマ! あと二日ほどは待つ予定でしたが、状況が変わりました! すぐに冒険者ギルドに……──きゃあああ! だ、大丈夫ですか!?」

 

 そこには甲高い悲鳴を上げ、自身の杖を抱きかかえる俺の仲間がいた。

 俺は最期の力を振り絞り──懇願する。

 

「……よぉ、めぐみん。早速で悪いんだけど、食べ物をくれないか?」

 

 

 §

 

 

「まったく、あなたは何をしているんですか! 引き籠った挙句食料が尽き、餓死寸前だなんて馬鹿なんですか!? 馬鹿ですよね!? というか、先日の件で学習しなかったんですか!?」

 

「返す言葉もありません。めぐみん様、この度は本当にありがとうございます」

 

 めぐみんの呆れたような言いように俺は、ただただ感謝の言葉を告げる事しかできない。

 魔法使いのクセに筋力ステータスが俺より高いめぐみんに運ばれた俺は今、奥さんが作ってくれたご馳走をガツガツと腹の中に収めていった。

 やっぱり、奥さんの手料理は美味い!

 一口噛むごとに、力がみなぎってくるようだ。

 肉汁溢れるカエルの唐揚げを口に頬張ると、やけに店内が静かなことに遅まきながら気がついた。

 今の時間帯は昼。

 この宿屋は宿泊していない人でもご飯を食べることが可能なので、この時間帯は最も人が多くなる時間だ。

 荒事が起きたらすぐに仲裁しに行く厳つい主人もいないし、どうしたんだろう……?

 俺が違和感を感じていると、めぐみんはようやく気がついたのかとばかりに。

 

「カズマ、よく聞いてください。今この街は、滅亡の一歩手前です。このままでは、明日の夜にはこの街は瓦礫の塊となっているでしょう」

 

 そんな意味不明な事を言ってくる。

 えっ、今なんて言った?

 滅亡の一歩手前? この街が?

 状況が全くもって摑めない俺に……めぐみんは真剣な表情を浮かべながら更にこう付け加えた。

 

「カズマ、緊急クエストです。相手は超大物賞金首、機動要塞デストロイヤー。ご飯を食べ終わったら冒険者ギルドに行きますよ」

 

 はて、どこかで聞いたことがあるようなないような……。

 首を捻ってこのもどかしさを解消しようとすると──思い返した。

 あぁ、アレだ。

 数日前、ギルドのクエスト掲示板に書かれていた気がする。

 たしかその内容は、『機動要塞デストロイヤー接近中の為、進路予測の為の偵察募集中!』……だったか。

 つまりめぐみんが言いたいのは、そのデストロイヤーがアクセルに接近してるから、早く来いと……そんなところだろう。

 

「カズマ、早くしないと! 全ての冒険者達が今、ギルドに集まっています!」

 

 そう急かしてくるめぐみんに俺はというとお茶をズズっと啜りながら。

 

「ズズっ。……あのなぁ、めぐみん。その、何だっけ? 何とかロイヤーって、大層な大物賞金首なんだろ? なら、駆け出し冒険者しかいない俺達雑魚が勝てる筈がないと思うんだ」

 

 思ったことをそのままぶちまけた。

 名前からして巫山戯(ふざけ)ているが、この世界ではそういったヤツほど強いのだ。

 何せ、不死王(リッチー)が魔道具店を営んだり、出された皿の上でキャベツがペチペチと跳ねたり、女神が土木工事で働いていたりする世界である。

 俺としてはこのまま街から逃げ出して、首無し騎士(ベルディア)討伐報酬金のお金で余生を過ごしたい。

 そんな俺の意見をめぐみんは否定したりせず、分かってますとばかりに寧ろ頷いてくれた。

 ……あれっ、おかしいな。

 何時ものめぐみんなら「我が爆裂魔法で討ち滅ぼしてやろう!」とノリノリで俺を催促してくるものだが。

 

「私だって今回ばかりは逃げたいですよ。何せ、相手はデストロイヤーですからね。爆裂魔法たった一発じゃ斃せません。しかしカズマ、その……、私達は一応この世界で初めて魔王軍幹部を討伐じゃないですか? その私達が逃げたら世間体が悪いのです。なので、行くだけ行かないと……」

 

「うわっ、出たよ出たよそういった勝手な期待。俺はそういうのが一番嫌いなんだ」

 

「私もそれは同意見ですが、まぁ取り敢えず行きましょうか。それにベルディアと戦う時、あなたがそのような言葉を言ってしまった為、逃げられないのですよ!」

 

 言われてみれば、そんな似たような言葉を確かに言ったような気がしないでもない。

 くそっ、まさかここになって自身に振りかかろうとは……!……仕方がないか。

 テンションがプラスどころかマイナスになる俺たちパーティーは、この非常事態にも関わらず料理を作ってくれた奥さんにお礼を言ってから、宿を出ることにした。

 

 

 ──久し振りに冒険者ギルドを訪ねようと出入り口に立った俺は、何時もとは違うことに気がついた。

 何時もだったらギルドの中からは酒の匂いと男達の賑やかな笑い声が聞こえるのだが……今は一切それが感じられない。

 おずおずと建物内に入ると、そこには多くの冒険者がそれぞれ席に着いていた。

 皆、一様に雰囲気が暗い。

 首無し騎士の時は突っ込む余裕があったのにこの反応、明らかに次元が違う。

 ここは『潜伏』スキルを使って戦術撤退を……しようとするが、何時の間にか来ていたお姉さんに服の襟首を掴まれてしまった。

 

「あぁ、カズマさんようこそいらっしゃました! あまりにも来るのが遅かったのでてっきり逃げたものだと思っていましたが、そんな訳ないですよね! だってあなたはあの魔王軍幹部を屠った英雄なんですから!」

 

「いやー、あはははっ。そんな逃げるだなんてとんでもない。……あっ、そう言えばお姉さんは風邪が治ったんですか? もし治ってないなら宿屋に風邪薬があるの……──」

 

「大丈夫です! ……冒険者の皆さん、カズマさんが来てくれましたので安心してください!」

 

 お姉さんがそう叫んだ瞬間、おぉっ! と盛り上がる冒険者達。

 その反応は英雄が駆けつけたみたいで気持ちがよくなるが、すぐに冷静さを取り戻す事に成功した。

 隣を見ると、めぐみんも目を丸くしている。

 ある一人の男がドタン! とテーブルを叩き割りながら、

 

「お前ら、安心しろ! 俺達にはカズマたちがいるんだ! 絶対倒せるって!」

 

「えぇ、そうよね! だって、この街には最強の〈アークウィザード〉のめぐみんだっているし、蘇生魔法を使えるアクア様もいる! ダクネスは……使えないけど無敵よ無敵!」

 

「そうだ、俺達は無敵だ!」

 

「……俺、この戦いが終わったら結婚するんだ」

 

「死亡フラグ……と言いたいがカズマ達がいればいれば回収しなくて済むよな! おめでとう! ……ですよね、お姉さん!」

 

「えぇ、もちろんです! ……あと、最初の人は後でテーブルの賠償金を貰うのでそのつもりで。それと最後の人、ご結婚おめでとうございます! ……私も結婚したいなぁ」

 

 …………。

 俺は何も言ってないのに、何故かその何とかロイヤーと戦う事になっている。

 アカン、これはアカンやつだ。

 そもそも、さっきとは雰囲気が違いすぎる。

 あれだけ暗かったのに、今は何時ものように明るく……ギルドは何時の間にか平生の喧騒さを取り戻していた。

 呆然としていると、奥からアクアとダクネスがやって来る。

 その顔には、申し訳なさが浮かんでいた。

 

「カズマ、久し振りで悪いんだけどちょっとこっちに来てくれないかしら」

 

「すまないな」

 

「おいアクア、ダクネス。これはどういう事だ! 説明を求める!」

 

「カズマ、今は従ってくれ。緊急を要するんだ」

 

 真剣な眼差しでそう言われたら、従わざるをえまい。

 力なく頷いてやれば、二人は俺とめぐみんを外に引っ張った。

 外に出ると、口を開いたのはダクネスだった。

 声を低くしているのは事の重要性を伝える為だろうか。

 話を纏めると、つまりはこういう事らしい。

 今日の昼頃──機動要塞デストロイヤーが接近している事を偵察隊が冒険者ギルドに報告。

 ギルドはすぐに緊急放送で街の住民に逃げるよう指示を出し、現在この街に住んでいる冒険者達を緊急招集したそうな。

 俺がその放送を聞けなかったのは、腹が空きすぎて意識が朦朧としていたからだろう。

 緊急招集といっても、季節が冬な為、殆どの冒険者はギルドに併設されている酒場にたむろっているので、あまり意味はなかったようだが。

 このままでは、明日の早朝にはデストロイヤーが街に接触し、破壊の限りを尽くすらしい。

 偵察隊を出していなければ、報告はさらに遅くなっていただろう。

 現在は、その作戦会議中との事だ。

 ちなみに、さっきのお姉さんと冒険者達のやり取りはめぐみんが俺を呼んでいるあいだに決めたそうだ。

 彼らはなにも、俺に英雄的行動は期待していない。

 俺が逃げれないように彼らは共謀したのだ。誰も逃がしはしないという、意思が伝わってくる。

 ……これは諦めしかなさそうだな。

 

「カズマ、お前だったらどうする? どのように戦う?」

 

「戦うもなにも、情報がなかったら対処のしようがない。何かないのか?」

 

「何? カズマは知らないのか? どんな田舎者でも知ってるぞ?」

 

 いや、それはこの世界の常識であって、異世界転生をした俺達日本人には通じません。

 女神様に目線を送ると、彼女は俺の意図を汲んでくれたらしくこほんと咳払いしてから。

 

「なら、私が説明するわ! ──機動要塞デストロイヤー、それは歩く天災よ。元々は対魔王軍対策に魔道技術大国ノイズが作ったんだけどね、その実態は超大型ゴーレムなの」

 

「へぇ、元々はゴーレムなのか。作った奴は凄いな」

 

「なんでも、国家予算から莫大なお金を使ったそうですよ。あと、作ったのは研究者であって魔術師ではないです。そんなチートな人がいたら過去に一人は幹部が殺されているでしょう」

 

「なるほどなぁ。あっ、悪いアクア。進めてくれ」

 

「ゴーレムと言っても、外見上はクモのような形をしているわ。その大きさは……、小さい城を優に超えるほどよ」

 

 だったら結構簡単に攻略できそうだ。

 それだけ大きいのなら移動速度は遅い筈だし、めぐみんの爆裂魔法を撃ち込めばいい。

 と、そんな俺の考えを見透かしたようにアクアは更に告げる。

 

「けどね、デストロイヤーに使われているのは魔法金属っていうめちゃくちゃ凄い金属なのよ。その所為で外見に見合わない軽量化に成功しているわ。その速度は馬を超えるのよ。解りやすくいうなれば、電車と同じくらいかしらね」

 

「……」

 

「特筆するのはその巨体と移動速度かしら。踏まれたらどんな固いものでも──そう、例えダクネスでも挽肉(ひきにく)になりグロい事になるのは確定。更にさらにノイズの魔術師が無駄に頑張っちゃった所為で魔力結界が全身をくまなく覆っているの。つまり──」

 

「私の爆裂魔法は効きません」

 

 言葉を切るアクアに続き、めぐみんがそれはもう悔しそうに唇を噛み締め……、負けイベになることを告げた。

 あっ、これはヤバいやつだ。

 めぐみんと俺があまりの戦力差に暗くなる中、ダクネスだけは興奮しているのか頬を赤くしている。

 お前はこんな時に何をしているんだと突っ込みたい。

 数日前の頼れるお姉さんの面影は微塵も感じられない。ここにいるのはなんちゃって聖騎士だ。

 再びギルドに戻った俺達は、少しだけ期待が込められている無数の瞳に迎えられた。

 ……まぁ、状況は分かった。

 俺とめぐみんが用意されていたカウンター席に着くのを見届けたお姉さんがおずおずと話しかけてくる。

 

「……あの、どうでしょうか?」

 

 返答を聞き漏らさんと建物内にいる人間が静かに耳を傾ける中、俺は即答した。

 

「無理」

 

「「「ですよねー!」」」

 

 やってられるかとばかりに酒を飲み始める冒険者を見ながら俺は、お姉さんに事の発端を聞いてみることにした。

 

「あの、何でデストロイヤーはこんな風に暴れているんですか?」

 

「それは、デストロイヤーの開発を担っていた研究者の一人がノイズを裏切ったからだと伝えられています。……まぁ実際は知りませんが……」

 

「うん、それじゃあそのノイズとやらは何かしなかったんですか? 魔道技術大国なんでしょう?」

 

「真っ先に滅ぼされましたね。ちなみに、掛かった日数は半日です。魔力結界が張られている所為でどんな魔法も効きませんから……魔術師だらけの国では対処できなかったようです」

 

 自分で対処できないものを作るなよ。

 と、俺達の会話を聞いていたダストが盛大に音をたてて舌打ちしながら手を挙げた。

 どうやら、何か質問があるらしい。

 何時も酒を飲み酔っているダストは何かの病気に掛かっているのか酒に手を出しておらず、得物の武器を力強く握りながら。

 

「なぁ、だったら巨大な落とし穴はどうよ?」

 

「……随分昔に試したそうですが、機動性能が半端なく、なんとジャンプしたそうです。その場にいた多くのエレメンタルマスターは文字通りの挽肉になったそうです」

 

「「……」」

 

 ダストと俺が黙り込む中、今度はめぐみんが小さく手を挙げた。

 

「あの、でしたら魔王軍と共闘するのはどうでしょう。私が聞くところ、デストロイヤーはどんな相手でも平等に殺戮(さつりく)を繰り返すそうです。被害は魔王軍にだってあるのですから、ここは共闘して……。魔王城を彼らだって守りたい筈です」

 

 おぉ、それはいい考えだ。

 流石はめぐみん。俺がサムズアップすると知能が高い紅魔族はふふんと無い胸を張りながら返してくれた。

 ……だがどうやら、絶望はまだ続くらしい。

 お姉さんは頭を振りながら、

 

「どうやら魔王城にはデストロイヤーを超えるほどの魔力結界が張られているそうなんです。一時期ある高名な魔法使いがカチコミしたせいでその結界の強度は跳ね上がり……。魔王城は依然として健在ですから、彼らが倒してくれはしないでしょう」

 

 その高名な魔法使いにはめちゃくちゃ心当たりがあります。

 ……俺達の会話は思ったよりも声が大きくなっていたらしい。

 シンと建物内が静まり返る中、お姉さんはこれまた静かに言った。

 

「……カズマさん、作戦はありますか?」

 

 

 §

 

 

 あーでもないこーでもないと会議は凄く難航していた。

 ロープか何かで乗り込めないのかと訊けば無理ですと即答され、じゃあ空からの攻撃はどうかと訊けばデストロイヤー内部には自立型ゴーレムが徘徊しており備え付けられているバリスタで撃ち落とされると即答され、ありとあらゆる案が却下された。

 魔道具店のあと片付けをし遅れてきたウィズの登場に一瞬場が盛り上がったりもしたが、いくら歴戦の魔法使いがいてもあまり意味がない。

 せいぜい生存率がほんの少しだけ上昇しただけだ。

 それほどまでに、彼我には圧倒的な差がある。

 せめて魔力結界をぶち壊せれば、めぐみんの爆裂魔法で木っ端微塵にできるのに。

 ……。

 ……魔法が、効かない?

 それはつまり、物理攻撃は効くのか?

 

「なぁ、純粋な力ならどうだ? 例えばアクアの……えっと……──」

 

「──『ゴッドブロー』の事? ……うーん、なんとも言えないわね。『ゴッドブロー』は神の怒りと悲しみを聖なるグーに込めるんだけど……何割かは魔力を使っているわ。いえそれ以上に、デストロイヤーに近づかないといけないから、不可能よ。その前に私が天界でエリスと会うわ」

 

 あぁ、それもそうだな。

 俺は目を閉じ熟考する。

 落ち着け、落ち着くんだ佐藤和真。

 一回冷静になろう。

 俺にはゲーム上とはいえ数多の戦闘経験がある。レイドでも何回か指揮を執り、強敵を打ち破っているではないか。

 相手は超大型モンスター。クモ型で八つ足だから、方向展開はしやすい筈だ。

 つまり、確実に戦うように仕向けなければならない。

 となると戦闘場所は限られるが……残念なことにアクセル周辺には平原しかない。

 近距離、遠距離、双方の攻撃は不可能。

 弓でちょくちょくダメージを与えようにも、魔法金属とやらの所為で生半可な物理攻撃は効かないし、それ以前にゴーレムによって撃ち落とされる。

 まずやるべき事は魔力結界を壊すこと。

 だが、どうやって壊す?

 ……。

 そうだ、さっきお姉さんが言っていたじゃないか。

 魔力結界はノイズの魔術師たちが生み出した、と。

 それは言い換えれば、魔法によって作られた事を意味しているのでは……?

 そして──アクアには確かアレがあった筈だ。

 

「アクア、『セイクリッド・ブレイクスペル』ならどうだ?」

 

 その言葉に、アクアとめぐみんがハッと反応した。

 脳筋のダクネスが意味が分からなそうにしているので、俺はこの場にいる人達全員に聞こえるように大声を出し仮説を説明する。

 

「けどカズマ、アクアのスペルブレイクが魔力結界を壊せる程の威力があるのかは分かりませんよ?」

 

 それを言われると痛い。

 うぐっと詰まる俺を救ったのは、正体は魔王軍の幹部であり、魔王城の結界を壊した張本人のウィズだった。

 

「多分、可能だと思いますよ。それでもギリギリだと思いますが……」

 

「そうね、私も同意見よ。確約はできないわ」

 

 たった一筋の細い希望がウィズとアクアの口から出て、ギルド内は大きくざわつく。

 アクアの『セイクリッド・ブレイクスペル』によって、第一条件はクリアした。

 いや、実際は分からないがそうだと仮定しよう。

 じゃないと話が進まない。

 魔力結界が解けたらそれは──魔法が効くことを意味する。

 つまり、めぐみんの爆裂魔法で爆裂可能だ。

 だが小さい城ほどの物体を、めぐみん一人で倒し切れるとは到底思えない。

 めぐみん曰く、爆裂魔法一発では倒せないらしい。だがもし、もしもう一発あれば……?

 

「なぁウィズ。爆裂魔法って持ってたり……──」

 

「しますよ? 随分前にですが、遊び半分で取ってみました」

 

 遊び半分で、のところでめぐみんがピクリと反応するが、今は無視だ。

 

「お姉さん、この街周辺の地図ってあります? あ、あとペンも」

 

「はい、ありますよ!」

 

 流石はギルド職員、準備がいい事だ。

 俺は地図上を手で指しながら、

 

「よしっ、正門より離れた場所で、デストロイヤーを喰い止めよう。まずアクアが正面に立ち、『セイクリッド・ブレイクスペル』を発動させて、魔力結界を壊す。なんらかのリアクションをしている隙に、両サイドからめぐみんとウィズが爆裂魔法を繰り出す」

 

「カズマ、狙う箇所は足がいいでしょうか? そしたら足を止めることは可能になります」

 

「おっ、それもそうだな。じゃあそれで頼む」

 

 その後、数々の案が採用されたりした。

 万が一を考えてダメ元でも罠を張ったり、バリケードを造ったりと……何時もの活気が戻った俺達は深夜遅くなるまで完全性を求めた。

 そして……とうとう──。

 

「それでは作戦を確認します。まず、アクアさんが魔力結界を壊し、そのすぐ後にめぐみんさんとウィズさんが爆裂魔法、『エクスプロージョン』を発動。足を破壊し尽くせなかったことを考え、魔法職の方達は援護の形で足をまず狙ってください。近接職の方達は万が一自立型ゴーレムが出てきた時の事を考え待機。更に万が一を考え、内部に突入できるよう、〈アーチャー〉職の方達はロープ付きの矢を用意しといてください。そして最後に、この作戦はカズマさんが全指揮権を持ちます。彼の指示に従ってください。……質問はありますか?」

 

 誰も、その確認に答えなかった。

 改めて聞くと、かなり無謀な作戦だと思う。

 首無し騎士(魔王軍幹部)以上の激戦になる事は必須。

 この街──アクセルは本来なら駆け出しの街だ。

 なのにこのロクでもない世界は、何故か俺たちを殺したいらしい。

 死者も出るだろう。……いや、アクアがいるから意味はないが。

 と、そんな事を考えていると、ギルド内にいる全ての冒険者が俺に目を向けていた。

 どうやら、何か言って欲しいらしい。

 その期待に答えるべく、俺は立ち上がり一歩前に出た。

 ……そして。

 

「皆、気がついているか? もしこの街が滅んだら、向かう先は王都だ。俺達が負けたら、王都が滅ぶことになる!」

 

 ざわつく冒険者達。

 

「あっ、ホントじゃん!」

 

「ってことは、私達の死は、この国の死でもある……?」

 

「全くもって気が付かなかった……。流石は指揮官だぜ!」

 

「魔王軍幹部を倒した男は伊達じゃないな!」

 

 ごめんなさい、その事に気がついたのはついさっきです。

 しかし、感嘆の声と同時に上がる疑問の声。

 何故今このタイミングでそんな言葉を告げるのか解らない、そんな表情を俺に見せる。

 俺の狙いはここからだ。

 

「めぐみんから聞いたんだが、なんでもあの後パーティーは開かれなかったようだな。俺達は魔王軍幹部を倒したというのに、だ。……じゃあ今回は? 俺達はただ倒すのか? いいや、違うだろうが! 今回こそは、パーティーを王城で開いてもらう! ……俺はこの国の王女、アイリス王女と仲が良く、それなりの伝手がある。王都を間接的にとはいえ救うんだ、それくらいの報酬があってもいいとは思わないか!? 」

 

「そうだそうだ!」

 

「パーティー、パーティーかぁ! いいねぇ!」

 

「やってやらぁ!」

 

「なら戦おう! 相手は機動要塞デストロイヤー。嘗てないほどの強敵だが、多分、なんとかなる!」

 

「「「おおおおおおお!!!!」」」

 

 よし、これでいい。

 これで冒険者のモチベーションが上がった。

 ダクネス、アクア、めぐみんの三人がうわぁと引いているが、何をそんなに引いているんだろう。

 コソコソと話をしているので聞き耳を立てれば。

 

「おい、あのバカは何を言ってるんだ!? アイリス様と約束していないのにそんな事を……」

 

「カズマさんって、かなり道化(ピエロ)の才能があるわよね」

 

「ですが、指揮官としてはかなり優れているでしょう。ま、まぁ私達は普段のカズマの事を知っているのでアレですが……」

 

 仲間からの言葉がとてもキツいです。

 お姉さんは苦笑い。

 優しく慰めてくれるのはウィズだけだ。

 このようにして、対デストロイヤーの作戦会議は終わりを迎えるのだった────。

 

 

 §

 

 

 翌朝。

 アクセルの正門前には、数多くの冒険者と避難指示を無視し残った住民たちによって即席のバリケードが組み上げられていた。

 そしてその中には親方達と、水の女神の姿が見られる。

 あーでもないこーでもないと言い争いをしている親方とアクアを見ると、本当に変わったんだなぁと感慨深い気持ちになった。

 というか、アクアにはひと仕事あるのだから、そろそろ配置について欲しい。

 デストロイヤーの進路方向上にはこれまた即席ながらも罠が多く張られていた。

 バリケードの前には〈クリエイター〉職の人達がゴーレムを作る魔法陣を描いている。

 と、そこまで見たところで見慣れた金髪が視界に映った。

 その女はこの街随一の固さを誇る〈クルセイダー〉で、両手剣を地面に深く刺し仁王立ちしている。

 それはまるで……、私を倒してから先に行けと告げているように見えないこともない。

 俺は緊張でガタガタ震えているめぐみんに一声掛けてから小走りで聖騎士に近づいた。

 

「お前、なんで此処にいるの? お前の役割は万が一の突撃部隊だろ? そこにいても役に立たないし、持ち場に戻れ。それともアレか、もしかしてデストロイヤーに踏まれたいとか思っているのか? もしそうなら……」

 

 ──作戦から外すぞ、と告げようとしたところで、ダクネスは違うと小さく首を横に振った。

 

「カズマ、いくら私でも街の存亡がかかっている非常時にそんな欲望には従わないさ。お前は、私がそう見えるのか?」

 

「ごめんなさい見えます」

 

「んな!?」

 

「いやだって、この前クリスからお前の普段の様子は聞かせてもらったしなぁ。彼女には感謝しろよ? ……というか、何処にいるんだ? 昨日だってギルドにいなかったし今日もいないし……」

 

「……色々と言いたいが、まぁそれは置いておこう。クリスは三日前からアクセルから離れている。なんでも、仕事が大量に溜まっているそうでな……」

 

 クリスの仕事というと、盗みだろうか。

 冒険者ギルドならぬ、盗賊ギルドが実はあったりして、クリスはその構成院とかだったりするのだろうか。

 

「まぁ、分かったよ。で、話を戻すとだ。ダクネス、お前、此処から離れる気は?」

 

「ない。私は確かにドMで変態かもしれないが、一人の聖騎士であり、エリス様の使徒だ。そして私の正体を知っているお前なら、分かるだろう?」

 

「……貴族としての責務か? お前って時々、変なところで頑固というか我儘というか……」

 

「そうではなく、私自身の意志でこの街を守りたいと思っているんだ。それに……、そんな事は、そこそこの付き合いになるカズマなら分かっているだろう? むっ、なんだその笑いは……、呆れているのか?」

 

「そうだよ。けどまぁ、今回は呆れじゃなくて尊敬の気持ちが大きいけどな」

 

 

 §

 

 

 めぐみんの元に戻ると、そこにはしゃがんで人の字を書いている魔法使いがあった。

 俺の気配を感じてか、おずおずと顔を上げるめぐみんと目が合う。

 

「あああ、あのっ! ……ややや、やっぱり逃げる事ってでき……、できたりしませんかっ?」

 

「無理」

 

「……ですよねー」

 

 俺はめぐみんの希望を一刀両断した。

 地に膝をつくめぐみんを見て俺は、爆裂娘でも緊張するんだなぁと場違いな事を考える。

 

「私がやらなきゃ……! 私が……!」

 

 言い聞かせるように自分に告げる仲間をどうにかしなければ、そもそも戦闘にすらならない。

 ダクネスの決死の覚悟は伝えない方がいい気がする。

 ますます緊張するだけだろうし……。

 まぁいざとなったら俺がなんとか焚きつけよう。

 

 

 ──そして反対側では。

 

「ちょっ、ちょっとウィズさん! 頭から煙出てるけど大丈夫なの!?」

 

「……だだだ、大丈夫ですよ。ただ、朝日がとても眩しくて……」

 

 リーンとウィズが、何やら話し込んでいる。

 

  『読唇術』スキルのお陰である程度の言葉は読み取れるが、俺はウィズに、だったらローブを着てこいよ! と全力で突っ込みたい。

 仕事を終えたアクアがダクネスの隣に立ち、俺に合図を送ってきた。

 それは即ち、戦闘準備が整った事を意味している。

 

 

 ──今か今かと敵を待ち侘びる中、受付のお姉さんの悲鳴にも似た叫び声が、平原に響き渡った。

 

『冒険者のみなさん、そろそろデストロイヤーが接近してきます! 街の住民の皆さんは、万が一に備え街ではなく外で避難してください! みなさんの勝利を、心からお祈りします!

 

 

 ──機動要塞デストロイヤー。

 

 アクア曰く、その呼称名は日本から来たチート持ちの誰かが適当につけたそうだ。

 声を大にしてソイツに不満を言いたいが、なるほど、確かにそんな厨二めいた名前をつけたくなる気もする。

 まず見えたのは、巨大な頭。

 クモを模型にしているだけあって、魔力金属とやらで作られたその造形はとても気持ち悪い。

 そして一歩足を動かす度に伝わる震動が、否が応でも奴を天災だと伝えてきた。

 

「なななな、なんですか、アレは……! カカカ、カズマ、ほほほほ、本当に勝てるのですか!?」

 

 めぐみんが顔を見上げてそう言ってくるが、それに返答する余裕なんて一切ない。

 正直言おう、デカ過ぎる。

 ウィズの爆裂魔法の威力は知らないが、めぐみんの仲間である俺が断言しよう。

 ハッキリ言って、勝つのはゼロに等しい。

 

 ──敗北。

 

 そんな二文字が頭の中で浮かんだが、落ち着け、俺はこの作戦の指揮官だ。

 指揮官の焦りや不安はすぐに周囲に伝播する。

 だから俺は引き攣りそうになる口をなんとか堪え、拡張器の魔道具に声を出し、〈クリエイター〉職の皆さんに指示を下した。

 

『ゴーレムを生成しろ! 強さは度外視だ、なるべく多くのゴーレムを作れ! 』

 

「「「『クリエイト・アースゴーレム』ッッ!!!」」」

 

 慌ててゴーレムを作り、彼らは突貫するように指示を出した。

 本来の予定なら量より質だったのだが、これでは多少ゴーレムが強くなっても意味がない。

 だったら多くを製造し、少しでも情報を手にした方がいいに決まっている。

 ゴーレム達は主の指示通りに動き、デストロイヤーに向かって行った。

 その後ろ姿に哀愁が漂っているのは気の所為だと思いたい。

 ゴクリと固唾を飲んで皆が見守る中、クリエイターの誰かが叫んだ。

 

「生きろ! 生きるんだゴーレー! お前は、こんなところで死ぬ奴じゃ無いはずだ!」

 

 それを区切りに、沢山の声援がゴーレムたちに送られる。

 だが、現実とは無情なものだ。

 デストロイヤーは迫り来る敵に戸惑いもせずそのまま進行を進め──ゴーレムを踏み潰し、蹂躙する。

 土が割れる音が大きく響き、冒険者達はパニックに陥ってしまった。

 

「待て、落ち着けお前達! まだ距離はあるから狼狽えるな! それでも冒険者か!」

 

 ダクネスが聖騎士の役割を全うして檄を飛ばすが、誰もその言葉を聞いてはいない。

 逃走していないだけまだマシだ。

 めぐみんが顔を青くし涙目になる中、俺は冷静に状況を確認する。

 使えそうなのは、俺、ウィズ、ダクネスに……そして頼みの綱であるアクアだ。

 アクアがテンパっていたらすぐに逃亡を指示していたが、幸いにもまだいける。

 いける筈だ……!

 そうやって自分を奮い立たせていると……やけくそになったある一人のウィザードが、中級魔法である『ファイアーボール』を放った。

 マナタイト結晶まで使った上に自身の全魔力を込めたのか、炎の球は肥大し原形を取り留めていない。

 そして魔法は一直線に進みデストロイヤーの顔に当たるその瞬間──薄い膜が巨体を覆い、それは渾身の魔法を無効化した。

 

「嘘……だろ!?」

 

 その光景にウィズを除くこの場にいた全ての冒険者が口をあんぐり開けてしまう。

 アレが魔力結界か。

 最強の攻撃力と防御力を誇る要塞。設置した罠も意味がなく、轟音を轟かせるそれは──すなわちデストロイヤー。

 その破壊の限りを尽くす化け物が、俺達を襲う。

 だがそれは、まだ早い!

 俺は女神に助けを求め、次の一手を繰り出した。

 

『今だアクアッ、頼むッ!』

 

 アクアは任せなさいとばかりに力強く頷き、そして──

 

「『セイクリッド・ブレイクスペル』ッ!!」

 

 ──周囲に複数の魔法陣が女神の周りに浮かび、それは白い光の玉となって彼女の手に収束される。

 アクアは大きく振りかぶると、それを撃ち出した!

 加速し、一直線に光の玉は進み、デストロイヤーとぶつかる。

 魔力結界が発動し一瞬せめぎ合うが──硝子(ガラス)が割れるかのようなそんな甲高い音が鳴り、粉々に砕け散る。

 

「やった!」

 

「おおおおお! 流石はアクアちゃんだぜ!」

 

「アクア様万歳!」

 

 冒険者達が喜んでいるが、せっかく作ってくれた好機を逃す訳でにはいかない。

 アクアがサムズアップしながら、

 

「カズマ! 次の指示を出しなさい! すぐに結界が修復されるわ!」

 

『解った! ウィズ、めぐみん。爆裂魔法の準備を! タイミングはそれぞれに任せる!』

 

「解りました、カズマさん! ……『我の望みは其の破壊。汝に破滅を、汝に絶望を、そして汝に祝福を施さん。嗚呼、世界を滅する其の禁句は──』

 

 ウィズが魔法の詠唱を始めるなか、俺はガチガチに固まっている仲間を見る。

 戦闘になれば解けると思っていたが、そんな簡単に上手くはいかないか。

 俺は俯いているめぐみんの目をしゃがみこんで下から覗き込んだ。

 

「おい、めぐみん」

 

「私がやらなきゃ……私がやらなきゃ。私がやらな──……カズマ……?」

 

 瞼には綺麗な雫が溜まっている。

 俺はそれを優しく取り除きながら、励ましの言葉を頼りになる仲間に贈った。

 

「めぐみん。お前の爆裂魔法は凄い。それは仲間の俺が、一番よく知っている。だから爆裂ソムリエの俺が断言しよう。大丈夫だ、お前だったらアイツを木っ端微塵に爆裂できる!」

 

「でででで、でも! もし失敗したら……?」

 

「その時はその時だ。まぁ俺を信じて撃ってみろ。絶対に成功するから」

 

 そう笑いかけてやれば、めぐみんは力がいい具体に抜けたのか、笑い返してくれた。

 

 そして──なんと俺を力強く抱きしめてくる。

 

「「「!?」」」

 

 近くにいた冒険者と当事者の俺が突然の行動に目を剥いて絶句する中、抱擁を終えためぐみんはデストロイヤーに身体を向け、爆裂魔法の詠唱を始めた。

 アンデッドに身を堕としながらも心は人間のままだと告げる経営が常に下に傾いている不死王(ウィズ)と。

 爆裂魔法をこよなく愛し、その為なら茨の道を歩き続けられる爆裂娘(めぐみん)

 その二人が放つ爆裂魔法は──最強。

 先に詠唱を始めていたウィズを追い越さんとばかりに高速詠唱するめぐみん。

 そして────。

 

「「『エクスプロージョン』ッッ!!!」」

 

 ────同じタイミングで放たれた人類最強魔法は、超大物賞金首を爆裂する為に襲いかかった!

 

 

 §

 

 

 ──足を破壊することに成功した。

 自分の足を破壊された機動要塞はその役割を果たす事ができなくなり、とんでもない地響き、轟音を平原中に響き渡らせながら底部を地面に着けて、慣性の法則に従ってそのまま地を滑る。

 そしてそのままダクネスとアクアが立っている所にまで進み、このままでは二人が危険……!

 だが幸いにも、二人の目と鼻の先に要塞は停止し、そのまま動きを止めた。

 めぐみんの爆裂魔法では完全には爆砕できなかったのか、こちら側では足の破片が降り冒険者を襲い、彼らは悲鳴を上げる。

 あちら側からではウィズを褒め称える言葉が聞こえてくるから、彼女は爆裂しきったらしい。

 

「ウィズは凄いですね。私の二倍……いや、三倍は威力がありましたよ」

 

「……? どうした、らしくないな。てっきり、『カズマ、もう一度私に機会を! ウィズには負けませんから!』とか言うのかと思ったんだが」

 

「失礼な。今回の私の任務は足を破壊する事であってウィズと爆裂魔法の威力を競う事ではありません。ですから、私としてこれで満足です」

 

 心の底からそう言っているのだろう。

 めぐみんはやり切った表情を浮かべていた。

 これで立っていたなら凄くかっこいいのだが……地面に倒れ伏しているとなんだが色々と台無しである。

 俺はめぐみんを背負い、そのままアクアとダクネスのいる所まで移動した。

 ウィズも反対側から合流し、作戦に参加した戦士全員が集まる。

 お疲れと言いながら……、俺は改めて、機動要塞の巨体を仰ぎ見る。

 おお……! と感嘆の声を上げる冒険者達。既に勝ちを確信しているのか、彼らは笑みを浮かべていた。

 やったか!? みたいなフラグを作る馬鹿はいないようで、話が通じてとても助かる。

 このまま動かなければベストだが、それでもなんとかしないと困るだろう。

 

「よし、一旦街に戻って作戦会議だ。それじゃあお前ら……──」

 

 行くぞ、と声をかけようとした時だ。

 それは本当に唐突に。

 

『この機体は、機能を停止しました。チッ、これだからあの馬鹿は困るんですよね。えっ、これ録音中? じゃあカットお願いしますね。こほん。取り敢えず、搭乗員の人達は至急退避してください。繰り返します……』

 

 途中、変な言葉が聞こえたりしたが、そのアナウンスは延々と同じ言葉を繰り返した。

 録音中と言っていたから、多分再生されるようになっているのだろう。

 めぐみんが不安そうに、

 

「あああ、あのカズマ!? これってもしかしてもしかすると……!」

 

「あぁ。どうやら戦闘はまだ続くらしい」

 

 

 §

 

 

 アナウンスの声を聞きながら、俺達は現在緊急の作戦会議を開いていた。

 リーンが焦ったように口を開き、

 

「ねぇカズマ。これって、かなりヤバいんじゃないの!?此処にいたら危険なんじゃ……!?」

 

 うん、知ってる。ていうか、言わなくてもそんな事は全員が察知している。

 

「私が考えるに、このままではボンッと爆発すると思うのですが。多分、退避命令を下すその理由は、排熱と、デストロイヤーの機動エネルギー消費ができなくなったからだと思われます。魔法使いのリーンだったら分かると思いますが、言い換えればこれは、身体に溜まりに溜まった魔力が内側から爆発するようなものです」

 

 ただでさえ怖がっているリーンをさらにいたぶるかのように、めぐみんは淡々とそう、客観的に事実を言った。

 ヒイッ! とか細い悲鳴をあげるリーンに同情しながら俺は、次の作戦を考える。

 一番の問題は、この巨体が爆発したらどれだけの被害が出るか分からないところだ。

 そして次に、何時爆発するか。

 そもそも俺達は動力源すら知らないのだから、何もできそうにはない。

 できる事といえば、逃走しかない訳で。

 ……だがそれは、多分ダクネスが許さないだろう。

 独りになったとしても、聖騎士は矜恃にかけて爆発するその最後まで両手剣を地面に刺すに違いない。

 俺は指揮官だ。

 故に、死者は出したくない。ここは土下座でもなんでもしてダクネスを説得するしか……!

 

「あぁ、私のお店が!」

 

 ウィズが悲嘆にくれた表情で泣き叫んだ。

 うぐっ……、良心がかなり痛むが仕方がない。

 そう、これは仕方がない事なのだ。

 勇敢と無謀とを履き違えてはならないと、俺のネット友達が言っていた。

 だから俺は、その忠告に従おう。

 俺は拡張器に口を近づけ、

 

『今から、指示を出す。残念だが作戦はしっ……──』

 

 ぱいだと告げようとした、その時。

 ある一人の冒険者が、ぽつりと呟いた。

 

「俺は戦うぞ。戦わないと、あの人達に申し訳が立たない!」

 

 おい馬鹿止めろ。

 それはお前の私情だろうが。周りの人間を巻き込むんじゃない。

 そう告げようと思い口を開いたが、それに呼応するように冒険者達は……、

 

「俺も行くぜ。俺達は仲間で、同士だろう? 独りで行こうとするなよな」

 

「もちろん、俺もだ。何でレベル五十にもなってこの街にいるのか、今思い出したよ。ありがとな」

 

「何時もお世話になってるんだ、今行かなかったら最悪だろうが!」

 

「……俺も行こう。俺も、愛する妻がいるからな」

 

 宿の主人の気持ちは分かる。

 が、それ以外の理由がイマイチ分からない。

 共通の人について何やら言っているみたいだが……。

 ダストが片手でハンマーを振り回しながら、

 

「カズマ、俺達は行くぜ。例えそれが命令違反でもな! これは俺達の使命なんだよ」

 

 そうニカッと笑いかけてくる。

 昨日からダストのキャラの変わりようが凄いだとか、いや勝算はあるのかとか、お前らが言ってる人は誰なんだとか問い詰めたいが、彼らを引き止めるのは野暮ってものだろう。

 シンと皆が俺の言葉を待つ。

 聞こえてくるのは……、

 

『この機体は、機能を停止しました。チッ、これだからあのバカは困るんですよね。えっ、これ録音中? じゃあカットお願いしますね。コホン。取り敢えず、搭乗員の人達は至急退避してください。繰り返します……』

 

 ──俺は拡張器を片手に持ち、背負っているめぐみんを落とさないように注意を払いながら大声を出した。

 

『今から、最後の指示を出す! この指示に強制力は一切ない! 逃げ出したい奴は逃げて構わないし、此処に残るのも自由だ。その人達は今から去ってくれ』

 

 ──誰も逃げ出さなかった。

 

『今から俺達は機動要塞デストロイヤー、その内部に突入する! 中には戦闘型のゴーレムがうようよいるだろうから、ハンマーで粉砕にしてやれ。なんでも噂だと、研究者がいるらしいからソイツをとっちめろ! もしいないなら、怪しいものを探せ! 分かったか!?』

 

「「「おおおおお!!!」」」

 

 冒険者達が自分の得物を高く掲げるなか、〈アーチャー〉職の人達が前座とばかりにフック付きロープの付いた矢をデストロイヤーに向け放った。

  〈アーチャー〉職には『狙撃』というスキルがある。

 それは、矢の飛距離を格段に上げ、かつ命中精度を上げる優れものだ。

 俺も所持しているが、貧弱〈冒険者〉の為本職には到底かなわないだろう。

 スキルによって強化された矢はデストロイヤーの甲板部分に上手く引っかかり、ロープを引っ張るとピンと張り詰めた。

 

『突撃ー!』

 

 俺の合図で、勇者達はロープを伝い凄まじい勢いで登っていく。

 鎧を着てるのになんでだとか、よくそんな体力持つなとか色々と指摘したいが、今の彼らには理屈は通じないのだろう。

 アクアやウィズもそれに追随するのだから、何も言えなくなる。

 指揮官の俺が、此処にいては意味がない。

 

「ダクネス、お前はここで待機だ。めぐみんを護ってくれると助かる」

 

「ん、分かった。気をつけろよ、カズマ」

 

 俺は背負っているめぐみんを引き渡そうとして……それができなかった。

 というのも、どこにそんな力があるのかめぐみんが離れようとしないからだ。

 

「私も行きます」

 

「おまっ、今はそんな我儘を言っている場合じゃ……!」

 

「行かせてください」

 

「けど、ロープを登る力も体力もお前にはないだろうが」

 

「『ドレインタッチ』を使ってください。そしたら魔力が戻ります。あとは根性です」

 

 めぐみんはそう強く主張した。

 ダクネスが聞き慣れない単語を聞いたのか不思議そうに、

 

「なんだ、そのスキルは?」

 

「魔力の受け渡しができるスキルだよ。でも俺の魔力を渡したら、今度は俺が……」

 

「なら、私のを使ってくれ。私はこの全身鎧では流石に登れないし、取っているスキルもこの場では意味がない。なら、めぐみんの助けになろう」

 

「ありがとうございます、ダクネス!」

 

「あぁもう、分かったよ!」

 

 時間が惜しいのでやけくそ気味に俺は『ドレインタッチ』を発動させた。

 あぁもう、本当にどうなっても知らないぞ!

 手っ取り早く作業を終わらせた俺とめぐみんは、ダクネスに一旦別れを告げてからロープを登り始める。

 思ったよりも距離が多いし、疲れるな。

 数分後、ようやく登りきった俺はゼェハァと息を荒らげてめぐみんを待っていた。

 置いていくことも視野に入れたが、流石にそれはよろしくないだろう。

 

「ゼェ……ハァ……」

 

「ほらっ、しっかりと掴まってろよ!」

 

「ありがとう……ござい……ハァ……ます……」

 

 俺以上に息を荒らげながらも登りきっためぐみんを背負い、俺はデストロイヤー内部に突入する。

 そしてそこにあったのは……!

 

「死ねっ、このゴーレムがッ!」

 

「オラオラァ!」

 

「研究者を探せ!」

 

 数多くのゴーレムの残骸だった。

 冒険者達は現れた敵に見境なくハンマーを振り回し、ゴーレムを粉砕していく。

 此処は本来なら駆け出したの街。

 その街の冒険者が蹂躙するのは異常だが、まぁ良しとしようか。

 彼らが思う存分に暴れられているのには、〈アークプリースト〉であるアクアの存在が大きいに違いない。

 どんな重傷を負っても、すぐに『ヒール』の上位回復スキル『セイクリッド・ヒール』で傷が治り、戦線に復帰できるのだ。

 それはさながら、無限の兵団といっても差し支えない。

 俺とめぐみんがその光景にドン引きしていると、奥から大量の悲鳴が木霊した。

 そちらに目を向けると、そこには三体の超大型ゴーレムが冒険者達を屠っているではないか。

 一昔前のロボットを思わせる、無骨で無駄に大きい、四角く角張った人型ゴーレム。

 ウィズが上級魔法の『インフェルノ』を繰り出しているが、このゴーレムにも魔力結界が施されているのか灼熱の炎は火の手を上げるだけだ。

 アレは一体なんなんだと首を傾げていると、天井から唐突に。

 

『えー、この放送を流すって事は、余程のピンチなんでしょうか? 全く、もうちょっとゴーレムを強く設計すればよかったのに……。まぁそれはいっか。こほん。デストロイゴーレム、起動!』

 

 なるほど、機動要塞のゴーレムだから、デストロイゴーレムか……。

 何その安直な名前!

 しかし戦闘能力はかなり高くあるように作られているようで、覚醒している冒険者達をバッタバッタとなぎ倒していった。

 魔法使いのエキスパートであるウィズが使えないなら、残る手は物理攻撃しかない訳だが……ゴーレムのクセに無駄に機動力があり、振られるハンマーをいとも容易く避け切っている。

 そして俺は、一体のゴーレムと目が合った。

 ソイツは素早い動きで俺とめぐみんに向かってくる。

 アクアが『セイクリッド・ヒール』を倒れた冒険者に掛けながら焦ったように、

 

「カズマ、なんとかして! このままじゃ全滅もあり得るわ!」

 

「そんな事を言われても! えぇっと、どうすれば……!?」

 

 ゴーレムの弱点といえば、それはなんだ?

 魔法も効かない、物理攻撃も見た感じ効かなそうだし……どうすればいい?

 と、背負っているめぐみんが天啓を得たのか、早口気味に口を開いた。

 

「カズマ、『スティール』ですッ! あのゴーレムはあくまでも機械にすぎません。何かしらのパーツを失えば動きを止めるでしょう! でもすぐに手をはな……──」

 

「『スティール』ッ!」

 

 何かめぐみんが言いかけていたが、俺はそれを遮って空いている左手でスキルを発動させた。

 スキルはどうやら無事に発動したようで、ゴーレムは動きを止める。

 そして俺の左手には、収穫したゴーレムの頭が……。

 めぐみんナイス、と感謝の言葉を告げようとした瞬間、俺の左手はゴーレムの頭を持ちきれずに重力に従って地面に急降下した。

 

「ちょっ、きゃっ!」

 

 めぐみんがドサリと床に落ちるが、今は手を離した事に謝っている余裕はない。

 俺の左手を下敷きにしているゴーレムの頭が、ざまぁと言っている気がする。

 

「ぎゃー! 手が、手がああああ!」

 

 なんとか左手を救出しようするが、これがもの凄く重い。

 蹴ったり殴ったりしたが、魔力金属で造られたその表面には一切傷がつかないし、微塵も動きはしなかった。

 高ステータスを誇るアクアがおりゃああ! と蹴り、俺を助けてくれる。

 

「アクア様、ありがとうございます!」

 

「それはいいんだけど……もうちょっと後先の事を考えなさいな」

 

「そうですよカズマ。私の言葉を最後まで聞かないから、そうなるのです」

 

 反論できない。

 意気消沈する俺を慰めるかのように、アクア様が『ヒール』を掛けてくれる。曰く、一応の処置だそうな。

 めぐみんが手を差し出し、俺はその華奢な手を掴んで立ち上がる中、戦況はどうだと目を向けると──戦況は一変していた。

 先程までは冒険者達が超大型ゴーレムから逃げていたのに、今は勇猛果敢に襲いかかっている。

 心做しか、動きが何時もより早くなっているような……。

 おおかたアクアの支援スキルだろう。回復スキルを掛けると同時に掛けたのだろうか。

 

「おら、死ね! この木偶の坊が!」

 

「おぉ、身体が軽い! 流石はアクア様!」

 

「「「アクア様最高!」」」

 

 アクア様コールがデストロイヤー内部にて大きく響く中……士気が急上昇した冒険者達に敵はいない。

 強化された冒険者達によってあっさりと倒されたデストロイゴーレム達は最期に呻き声を機械音で出しながらドサリと地に伏した。

 おおおおお!!! と勝利の雄叫びを上げる駆け出し冒険者達。

 デストロイゴーレムは戦闘型ゴーレムのリーダー的立ち位置だったのだろう。導く者が消えた瞬間、彼らはすぐに逃亡を開始した。

 ……AIでも仕組まれているのだろうか。

 そんな哀れなゴーレムたちを──冒険者達は嬉々として破壊していく。

 これではどちらが侵略者か分かったものではない。

 同じ事を思っているだろう仲間がドン引きしながらも、

 

「と、取り敢えず奥に行きましょうか。多分、ラスボスがいる筈です」

 

「そ、そうだな。……な、なぁめぐみん、俺達は正義だよな?」

 

「……。……も、もちろんそうですよ!」

 

 俺たちは言い聞かせるように何度も首を縦に振った後、先行するアクアやウィズ達の背中を追いかけた。

 

 

 ──そして、俺達はとある扉の前に立っていた。

 多分、この扉の向こうには国を裏切った大罪人が俺たちを待ち構えているだろう。

 つまり、最後の戦いが待ち構えているのだ。

 俺はウィズに向かって。

 

「魔法で扉ごと壊してくれ」

 

「解りました! ……『灼熱の業火を、其に! その身体全てを、燃やし尽くそう!』 ──『インフェルノ』ッ!

 

 焔が広がり、扉を溶かす。

 俺は大きな声を出して、

 

「突撃!」

 

「「「おおおおお!!!」」」

 

 

 §

 

 

 部屋の中に入った俺は、ラスボスと対面──するようなことはなかった。

 何故なら部屋の最奥には、白骨化した人の骨があったからだ。

 多分この人は、お姉さんが言っていたデストロイヤーを乗っ取り国を裏切った研究者だろう。

 だけど、二人分あるのは何故だ?

 なんとも言えない雰囲気になるなか、アクアが前に出てふむふむと何やら頷き。

 

「二人とも、既に成仏しているわ。アンデッド化どころか、未練の欠片も残さずにスッキリと」

 

 聖職者が祈りを捧げる中、俺はその言葉を脳内で反芻していた。

 成仏? スッキリと?

 

「あの、そんな事って起こるんですか? いえもちろん、アクアを疑うわけじゃありませんが……。これは多分……──」

 

「二人で悲しく死んでいった、みたいな感じじゃないのか?」

 

 めぐみんと俺が疑問の声を上げ、それもそうだなと冒険者達はざわつき始める。

 と、アクアが何かを見つけたようだ。

 それは、机の上に乱雑に置かれた一冊の手記。

 多分それには、何故こうなったかの経緯が書かれている筈だ。

 昔の言葉なんて普通なら読めないが、今読もうとしているのは女神だ。

 女神アクアはこほんと咳払いしてから、静かに読み始める。

 

「〇月〇日。この世界に生まれてから、最高の日々を送っている。まぁもちろん、あの御方のお陰なんだけどね。これからは毎日、感謝の気持ちをあの御方に伝えようと思う。……まぁ、それは置いといて、なんと! ノイズのお偉いさんがわざわざ俺を訪ねて国家企画に誘ってきた。なんでも、超大型のゴーレムを作るらしい。ふっ、とうとう俺の時代が来たか。取り敢えず、その国に行ってみようと思う」

 

 ──それは、男の人生だった。

 

「〇月〇日。今日話を聞いてきたんだけど……、無理だろ! まず予算が少なすぎ! 舐めてんのか! 辞退する旨を伝えると、『もし逃げるなら、分かってるな?』と剣を首筋に当てられた。此処は魔道技術大国じゃないのかよ! 普通そこは魔法だろ! ……上司を拝み倒したり禿げた国王に土下座したりしたけど、無理だった。どうしよう、俺、どうしよう!?」

 

 ──全員の視線が白骨化した骨に向けられる。

 

「〇月〇日。どうしよう、設計図の提出期限が今日までなんですけど! うーん、これ、俺の人生終わったな。やっぱり調子に乗って『俺が世界一の科学者だ!』とか言うんじゃなかったな。一本の線も書かれていない白紙を眺めていると、俺の大嫌いな蜘蛛が出現した。思わず、悲鳴をあげながら手で叩き潰しちゃったよ。うわぁ、気持ち悪い! 用紙には蜘蛛の痕が残っていて……、どうしよう、こんな上質な紙、弁償とかできないよ!? だって、ヤケ酒に全財産スったからな! ……まぁいいや、このまま出そう。取り敢えず出せばいいんだよ」

 

 ──こめかみを引くつかせためぐみんが爆裂魔法の詠唱を始め、俺が慌てて止める中、アクアは尚も続ける。

 

「〇月〇日。ヤバい、あの設計図が通っちゃったよ! なんでだよ、こんちくしょう! それ、蜘蛛の気持ち悪い汁ですよとか言える度胸なんてチキンの俺にはありませーん! 部下のウザい女が『なんでクモにしたんですか?』 って聞いてきたけど、『クモが最強だから』って答えちゃったよ。それを真に受けるあの女に罪悪感を感じるのは初めてだ。……あっ、でも俺、所長に昇進するらしい。ひゃっほう! 今日は女を抱こう!」

 

 ──俺が白骨化した骨を蹴飛ばそうとすると、めぐみんが慌てて止めてくる。アクアは真剣な表情のまま、さらに言葉を重ねた。

 

「〇月〇日。女を抱くのもそろそろ飽きてきたな。っていうか、どんどん形になっていくんだけどさ、俺いらなかったんじゃない? まぁどうでもいいや。今日の夕飯は最上級の肉にしよう! ……あっ、その前に動力源を考えないとな。給料貰えないからな。正直、完成しても動かないと思うけど、アレだ、超レア鉱石のコロナタイトがあれば動くかもな。そう言っておこう。無理だと思うけね」

 

 ──………。

 

「〇月〇日。どうしよう、持ってきちゃったよ! なんでも明日は機動テストをするらしい。馬鹿か。動く訳ないじゃん! とうとう俺の人生も幕引きか。あっという間だったなぁ。よしっ、今日は最後の晩餐だ。思いっきり飲もう! 中枢部分にあるコロナタイトを見ながら飯を食べていると、あのウザい女が絡んできた。……なんでも話があるらしい。まぁ最後くらい聞いてやるかと真面目に聞くと、なんと、俺の事が好きなんだとか! えっ、マジかよ! ……何時も絡んで来たのは、照れ隠しらしい。本物のツンデレ初めて見た! だったら俺も悪い気はしないし美人だからな、ついオーケーしちゃった! あと、俺が何もしていないのは知ってるらしい。つまり彼女は、明日の今頃には俺が牢屋の中にいると知っている訳だ。それなのに告白するなんて……。これが人の愛かぁ! 一日しか一緒に過ごせないけど、楽しく過ごそう! とうとう俺もリア充だぜ!」

 

 ──殺意が湧いてくる。というか、ウィズがめちゃくちゃ怖いです。やはり、恋人が欲しいとか思うのだろうか。

 

「〇月〇日。目が覚めたら、酷い揺れだった。どうやら、機動したらしい。えっ、なんでだろう? 記憶にあるのは、彼女と一発ヤッた後、一緒にコロナタイトの前で土下座して……遊び半分で彼女が『インフェルノ』をしたくらいかな……。あっ、それじゃん! おぉ、遅延性かよ! ……その後、彼女ともう一発ヤッた」

 

 ──アクアが俺たちの殺意が気になってしょうがないのか、ビクビクと震えている。安心しろ、お前には向けてないから。

 

「〇月〇日。状況を把握した。そして俺達の人生は終わった。多分これは、暴走だな。一応は俺も科学者だからそれくらいは分かる。……どうしよう、俺達、国家転覆罪で死刑だよ!? 絶対指名手配されているって! 多分、彼女にも掛かっているに違いない。クソッ、せめて『テレポート』で逃げてくれ! ……えっ、一緒に愛の逃避行をしようって? それはいい考えだ! 俺はお前のことを愛しているぜ、マイハニー!」

 

 と、そこで最後なのか、アクアが困ったように。

 

「……お、終わり」

 

「「「舐めんな!」」」

 

 アクア以外が、見事全員ハモった。

 

 

 §

 

 

「よしっ、俺以外は退避だ。全員で行ってもしょうがないしな」

 

 コロナタイトがある場所は、手記曰くデストロイヤーの中枢部分。

 これ以上は危険だと判断し、俺は退避命令を出した。

 冒険者達は不満そうにしながらも、指揮官の指示に従いぞろぞろと隊列を組んで脱出口に行く。

 だけど中には、指示に従わない奴もいて。

 俺はため息を吐きながら──めぐみん、アクア、ウィズを半眼になって見た。

 

「お前ら、人の話聞いてる?」

 

「聞いていますよ? けど、仲間を置いて逃げるだなんて、できる筈がないじゃないですか!」

 

「そうよ! ……それに私は女神としての役割があるしね」

 

「私も微力ながらお手伝いします」

 

 ぶわっと涙が出そうになるが、我慢、ここは我慢だ。

 後悔はないのかと目で問うと、頼もしい仲間達は力強く頷く。

 俺たちはそのまま、デストロイヤーの中枢部分に向かった。

 

 

 ──コロナタイト。

 

 それが何かはイマイチ分からないが、ハッキリしてるのは、それがデストロイヤーの動力源である事。

 そしてその超希少な鉱石は攻められた時の最後の砦なのか、鉄格子に守られていた。

 攻撃魔法を使って鉄格子を破壊しようにも、余波でコロナタイトが爆発したら意味がない。物理攻撃も似たようなものだ。

 コロナタイトは赤い光を放ち続けていて、試しに手を鉄格子越しに翳すと。

 

「熱っ! 『フリーズ』!」

 

 直に触れていないのにこの惨状だ。

 ウィズが『ブリザード』を使うと、数秒は冷まされたがすぐに赤々と燃え始めてしまう。

 そして心做しか、それは時間が経過するにつれ大きくなっているような気が……。

 

「マズいですね、このままだとめぐみんが先程外で言ったようにボンッてなりますよ。どうしましょうか……!?」

 

 そう悩むウィズを見て、俺が思う事はただ一つ。

 

 無理。

 

 いや、冗談でも嘘でもなくこれ以上は無理だ。

 上級魔法でも数秒しか冷ますことができないなんて、それはもう無理だ。

 めぐみんに目を向けると、知能が高い紅魔族でも同じ結論に達したのか弱々しく首を振るだけ。

 なら最後はもちろん決まっている。

 神頼みしかあるまい!

 

「あの、アクア様。ここは、封印とかってできたりしませんか? ほろ、よくあるだろ? RPGとかで……」

 

「カズマ、それはあくまで創作の中での事よ。此処が天界だったらできなくもないけどね」

 

「ですよねー」

 

 そうガクッと首を下げていると、ウィズがおずおずと……。

 

「あの……でしたら『テレポート』はどうでしょうか?」

 

「あぁ、その手があったか! 流石はウィズ!」

 

「い、いえそれでも私が転送先に登録しているのはアクセルと王都と、世界最大の迷宮(ダンジョン)だけでして……。あと、魔力が……」

 

 魔力に関しては問題ない。

 めぐみんが魔力を俺経由で渡す中、俺は転送先を考える。

 だったら、その迷宮にすればいいのでは……?

 

「カズマ、恐らくウィズが言っている迷宮はあそこでしょう。世界最大の迷宮なんて、そこしかありませんから。で、そこは一種の観光名所になっていましてですね、沢山の人がいるわけですよ」

 

「……なるほど、じゃあどこに転送するんだ?」

 

 俺の質問に、うぐっと言葉を詰まらせるウィズ。

 俺達三人がおろおろする中、紅魔族は言った。

 

「だったら『ランダムテレポート』はどうですか? 何処に転送されるか全くもって分からないですが……」

 

 もし人が密集しているところにコロナタイトが飛ばされたらどうなるんだよ!

 めぐみんも分かっているのか、泣きそうな表情だ。

 赤々と輝くコロナタイトは、とうとう白く輝き始めた。

 これはアレだ、もう少しで爆発しようとしている!

  『ランダムテレポート』?

 残された手がそれしかないのなら、それに賭けるしかないだろうが……!

 

「ウィズ、頼む!」

 

「で、ですがカズマさん!」

 

「いいかウィズ、世界は無駄に広いんだ! なら人が住んでいる場所より、無人の場所の方が多い筈だ! 安心しろ、全責任は指揮官の俺が持つ! 何せ俺は、かなり運がいいからな!」

 

「だったら私も力になるわ! 『ブレッシング』!」

 

 俺とアクアの言葉に、ウィズは頷き声高に詠唱を始め……。

 

「『ランダムテレポート』ッッ!!!」

 

 

 §

 

 

 コロナタイトを『ランダムテレポート』させた俺達は、転送先が近くじゃない事を祈りながら、デストロイヤーから脱出した。

 甲板に立つ俺達はそのまま、ロープを降って地面に降り立つ。

 俺たちの無事を見た冒険者達が歓声をあげ、勝利の雄叫びを上げる中、ダクネスがぽつりと呟く。

 

「私の、敵を嗅ぎつける嗅覚が香ばしい危険の香りを嗅ぎとっている。お前たち、気をつけろ! まだ終わっていないぞ!」

 

 敵を嗅ぎつける嗅覚も何も、どうしたらデストロイヤーが動くんだ。

 デストロイヤーのコアであるコロナタイトはウィズが飛ばしたし、動力源がないのだから動ける筈がない。

 と、俺のそんな思考を読んだかのように。

 

『あー、あー、はじめまして。俺の名前は……うーん、えっと……なんだっけ? まぁなんでもいいや。取り敢えず、ラスボスって名乗るよ。これを聞いてるって事は、コロナタイトをなんとかしたんだろう! いや、正直に言うわ、アンタら凄すぎ! 』

 

 唐突に、男性の声のアナウンスが流れた。

 多分この放送を告げている奴は、研究者だろう。

 俺たちが呆然と立つ中、更に放送は流れた。

 

『うん、俺と彼女もさ、ここまで来たら素直に倒されようと思った訳だよ。けどさ、それだと面白くないじゃん? やっぱり人生、楽しまないとね! ……という訳で、コロナタイトが活動を停止したら、別の動力源を起動させるねー! あっ、だけど安心して。デストロイヤーは動かないよ? ただ爆発するだけ。ヒントをあげると、相殺したらどうかな? 安心して、爆発の威力は少なめにしておくから! それじゃあ、最期に……さようなら!』

 

 ……。

 うん、つまり、アレだ。

 どうやら、まだ戦いは続くらしい。

 だがまぁ、ヒントをくれたんだ。

 多分奴は、相殺できるならしてみろ! と思いながらその助言をくれたのだろう。

 無理もない。

 そんな手段、人類が持ってるとは思えないしな。

 だけど残念だ。

 こっちには、めぐみんとウィズがいる。

 本来ならウィズだが──ここは爆裂娘の出番だろう。

 適材適所ってものだ。

 

「めぐみん、いけるな?」

 

「もちろんです! と言いたいのですが魔力が足りません。先程ウィズに渡してしまいましたし……」

 

 そう悲しそうに目を伏せるめぐみんに、アクアが横から。

 

「だったらあたしのを使うといいわ!」

 

 あれだけスキルを使っても底が尽きないなんて、なんていう総魔力量。

  『ドレインタッチ』を使おうとすると、ウィズが。

 

「あの、スキルを使うんでしたら皮膚の薄い部分かつ、心臓部に近い場所がいいですよ!」

 

 その言葉に、ヒィッと怯えるアクアとめぐみん。

 俺がこの非常事態にセクハラをするのではないかと、危惧しているらしい。

 失礼にもほどがある。

 俺は手をワキワキさせてから、両手で──背中、ではなく首根っこをガシッと掴んだ。

 

「おぉ、なんか今日のカズマは凄いですね! いつもこれくらいだと助かるのですが」

 

「えっ、そうなのめぐみん? 私はこういった非常時でしかカズマと冒険できないから知らないのよね」

 

「何時もの私達は、生きているのが不思議なくらい危険な立ち回りをしていまして」

 

「仲間を募集したら?」

 

「それができたら苦労しませんよ」

 

 ……。

 怒鳴りたい衝動を我慢し、俺はアクアの魔力をめぐみんに渡す事だけに専念した。

 そして、十分な魔力がめぐみんに渡され。

 魔法使いは杖を構え、詠唱を開始する──。

 

『黒より黒く闇より暗き漆黒に我が深紅の混淆を望みたもう。我は破壊者、我は破壊の化身。我が希望は其の破壊。ただそれだけ。命じる! 其に破壊の鉄槌を────!』 ──、いきますよ、『エクスプロージョン』ッッ!!!

 

 ──刹那。

 

 機動要塞デストロイヤー〕爆発と『エクスプロージョン』の爆裂がぶつかりあった────!

 

 

 §

 

 

 いくらめぐみんに魔力を渡したとしても、デストロイヤーを破壊する事は不可能だ。

 あくまでも目的は爆発の相殺だから、粉砕しなくても大丈夫な訳だが……なんと、めぐみんはそれを成功させたのだ。

 めぐみん曰く、「アクアの魔力の濃度が濃かったのが原因でしょうね。あとは、爆発に爆裂が加わり、威力が増大したのかと……」……らしい。

 いや、威力が増大しちゃ駄目じゃんと思ったが……、上手くいったからよしとしよう。

 兎も角、デストロイヤー迎撃戦から数日が経過し、今日はその報酬金が授与される事になっている。

 その金は作戦に参加した全ての人に渡され、協力してくれた街の住民にも配られるという太っ腹だ。

 だから今日の冒険者ギルド内は異様な熱気に包まれ、今か今かとその時を人々は待ち侘びている。

 俺とめぐみんは既に先の戦いで大金を手にしているのでかなり余裕があり、冷静だ。

 また余談だがアクアは受け取らないらしい。曰く、「私は女神として当然の行動をしただけよ」との事。

 この時ほど、女神を崇めた時はない。

 仕事が終わり街に戻ってきたクリスがちびちびとジュースを飲みながら、

 

「いやー、まさかあたしがいない間にそんな事があっただなんて。キミ達は凄いね!」

 

「ありがとうクリス。まぁ俺は指示しか出していないけどな」

 

「何を言ってるんですか! カズマがいなかったら私達は負けていましたよ!」

 

 そんな風に和気藹々と話していると、俺はダクネスについて考えていた。

 ここ最近、ダクネスは冒険者ギルドどころか、アクセルにもいない。なんでも、貴族としての仕事があるのだとか。

 気になった俺がダスティネス家を尋ねると、ダクネスの親父さんにそう言われた。

 別れる寸前、親父さんに「私たちダスティネス家は君を守る。英雄を見捨てたりはしない」と言われたが、アレはなんだったのだろう。

 と、考えに耽っていると出入り口の方で冒険者達がざわついている事に気がついた。

 何かあったのだろうか?

 そちらに視線を向け、様子を見ていると……突然そちらにいた冒険者達何やら慌てたように姿勢を取る。

 

 ──それはまるで、君主に忠誠を誓う姿で。

 

 そしてその波は俺達が座っているところにまで伝わり、その原因を知る事が可能になる。

 そしてそこにいたのは──アイリスだった。彼女の数歩後ろにはクレアとレインさんもいる。

 なるほど、これはきっと王族直々に報酬金をくれるんだろう。

 

「おおっ、凄いな。おいめぐみん、これはもしかして、パーティーもお願いできるんじゃないか?」

 

「……いえ、それにしては様子がおかしいと思います」

 

「あたしもそう思うな。ちょっと、ううん……、かなりおかしいよ」

 

 ふむ、言われてみれば確かにおかしいな。

 三人とも表情は石のように固いし、雰囲気もそれに比例するように重たい。

 無遠慮に眺めていると、アイリスが気がついたのかこちらに振り向き、目が合った。友達は一瞬嬉しそうな顔になるも、すぐに表情を引き締める。

 

「いました。クレア、レイン、行きますよ」

 

「「畏まりました」」

 

 主は従者を連れ、俺達に近づいてくる。

 そして、ある地点で止まった。

 まるでそこが境界線のように。

 

「なぁ、おい、どうなってるんだ?」

 

「私だって知りたいですよ……!」

 

「あわわわわ……!」

 

 動揺する俺達を完全に無視し、クレアが一歩前に出て俺を真っ直ぐに見つめる。

 何故だろう。

 何故だろう、クレアと話すのは初めてじゃないはずなのに、背中に冷や汗が流れるのは。

 何故だろう、レインさんが悲しそうな目を向けてくるのは。

 何故だろう、俺の友達が──アイリスが、あなたは知らない人ですとばかりに冷たい目で俺を見るのは。

 本能が聞くなと警報を鳴らす。

 今すぐ逃げろと告げてくるが、俺はそれをなんとか理性で堪え──。

 

 遂に、その言葉がクレアの口から放たれた。

 

「冒険者、サトウカズマ! 貴殿には現在、王族が所有する別荘にコロナタイトを意図的に送り破壊した罪で、国家転覆罪が掛けられている! 私達と共に来てもらおうか!」

 








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