このすば! ─カズマがいた異世界最初の街は王都にある王城です─   作:Sakiru
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二人の旅路に幸福を!
大罪人


 

 国家転覆罪。

 それは国民が国をめちゃくちゃにしようと画策し、実際に行動に移すことだ。例えば、人類の敵である魔王軍と秘密裏に手を結ぼうものならその罪は情状酌量の余地などなく成立するだろう。あるいは、王城に侵入し、宝物庫にある武器やら防具やらを盗む場合も当てはまる。

 更にいえば、この世界では平民と貴族とのあいだにそれはもう身分の違いがあり、政治の実態は半ば絶対王政に近い国が多い。

 王様が「よしっ、お前死ね!」とでも言えば裁判などやらずに即死刑なんてことはザラにある事ではないか……。

 まぁそうはいっても普通の人はそんなことを企もうとは思わない。幸いにもこの国──ベルゼルグの政治はかなり理が通っているし、王族も民から信仰を得ている。まぁ、貴族は例外だがそれはどの世界でもそうなのだろう。

 そんな国家に叛逆しようなどと、普通の人は思わないし、実際に行動に移せる人は限られてくるのではないだろうか。

 だがそれは普通の人であって、普通じゃない人には当てはまらない。

 そして何故か、俺は今──国から追われていた。

 

「これだから異世界は嫌なんだよ! 俺、何も悪い事していないのに! 頑張っていたのに! ……いや、今は悪い事をしているけれども!」

 

 森の中を疾走しながらそう強く叫ぶ。

 背後からは多数の敵がいる。『敵感知』が反応しているのだから、少なくとも彼らは俺を殺そうとしている筈だ。刹那、俺の横から鉄製の矢が飛来し俺の頬を掠める。

 涙目になりながら毒を吐いていると、それを律儀に拾う少女。顔だけを振り向かせ、お互いフード越しに目が合う。

 

「あのっ、カズマさん急いでください! このままでは兵士達に捕まってしまいます! それとあなたの頑張りは私が知っていますから……!」

 

「でもさ、こんなのってないだろ!?」

 

「うっ……と、兎も角逃げましょう! 少なくとも国外に出れば、追手はこれ以上来れない筈ですから」

 

 そう言った少女は走ることに専念する為か前を見据え、足を動かす速度を上げる。

 俺からしたらたまったものじゃない。

 いくら数多くの戦果を挙げた俺とはいえ、エリートである王族に追いつくのは無理ってものだ。

 出し惜しみなんてしてられないので『逃走』スキルをフルに使う。それでも距離を縮めることはできない現実が……。

 いやもう、チートにもほどがある。

 というか、徐々に彼我の距離が離れている気がするのだが……。

 流石というべきか、少女は俺の気配が消えかけていることに気づき、慌てて駆け戻ってくる。

 そして、外見上は華奢な腕で俺をお姫様抱っこするではないか。あかん、普通なら逆なのに……!

 

「飛ばしますよ!」

 

「えっ? ……ぎゃあああああ────! 」

 

 まだ余力を残していたのか、少女──アイリスはググッと足に力を込めるとさらに加速した。

 俺はめまぐるしく変わる緑の景色をぼんやりと眺めながら、現状について考えをめぐらす。

 頭脳明晰で頼りになる紅魔族の仲間もいない。

 本物の女神様もいない。

 なんだかんだ常識人の貴族様もいない。

 先輩の盗賊もいない。

 あまりにも代償が多すぎる。

 もちろん、この選択をしたのは俺とアイリスだ。

 だから後悔は一切ない。

 ないが──もうちょっと後先を考えれば良かったのかも……。

 俺の名前は佐藤和真。

 魔王軍幹部首無し騎士(デュラハン)──ベルディア、災厄の機動要塞──機動要塞デストロイヤーを屠った冒険者だ。

 そしてそんな英雄の俺は現在。

 一つの罪で国から追われていた。

 

 その罪状は──国家転覆罪。

 

 

 具体的には──第一王女誘拐だ。

 

 

 §

 

 

「冒険者、サトウカズマ! 貴殿には現在、王族が所有する別荘にコロナタイトを意図的に送り破壊した罪で、国家転覆罪がかけられている! 私達と共に来てもらおうか!」

 

  アクセルの冒険者ギルドに、そんな声が大きく響き渡った。

 声の主はこの国──四大貴族の一家であるシンフォニア家の主、クレア。

 頭の中に何度もその言葉が反芻し、室内にいた多くの冒険者やギルド職員は呆然と立ち尽くすしかない。

 もちろん、それには俺も含まれている。

 僅か数メートル先に立っているのは、クリアと、レインさんと──そして俺の友達でもあり、だがそれ以前にこの国の第一王女であるアイリス。

 三人とも顔に表情はなく、この上ない真顔で……その内面を推し量ることはできそうになかった。

 静寂が場を支配する中、先に我に返ったのは受け付けのお姉さんだった。

 ギルド職員だからか、有事の際に慣れているのだろう。だが顔には困惑の色が多大に含まれており、膝がガタガタと笑っている。立っているのもやっとだろうに……。

 

「あの……シンフォニア卿、それはどういう意味ですか? カズマさんが国家転覆罪……?」

 

 おっかなびっくりという風にお姉さんが訊ねると、クレアは表情を崩さぬまま淡々と答える。

 

「ふむ、無理もない。貴殿、名は?」

 

「……ル、ルナと申します」

 

「それではルナ……いや、この場にいる全ての者達に説明しよう!」

 

 高らかに叫び、クレアは机の上に乗りやや芝居がかった様子で俺を鋭く指した。普段ならお姉さんがそれに文句を告げる場面だが、この状況ではそれは無理ってものだ。

 

「貴殿ら、冒険者の諸君があの災厄の化身……機動要塞デストロイヤーと戦い、勝利を収めたことは我々も知っている。あのままヤツが破壊のかぎりを尽くしていたら、この国は甚大なる被害を被り、また進路上には王都があった。貴殿らの武勇を我々は尊敬している。……だが、問題はここからだ。調査によると、サトウカズマ、貴様は『ランダムテレポート』を指示したそうだな。その理由も知っている。……テレポート先には人が密集している場所にしか登録していなかったそうだな」

 

 まさかと思いつつ、俺は訊ねる。いやいや、それは流石に……

 

「おい、もしかしてコロナタイトは王族の別荘に転移し爆発したのか?」

 

「あぁそうだ。だが何、我々も貴殿を捕まえようなどとは思いもしない。いや、しなかった。何せ、貴殿らこの街の冒険者は、国を救った英雄だからな。……まぁ、多少は賠償金を求めるが、報酬金から補填できるからそこは安心して欲しい」

 

 だったらなんで国家転覆罪で捕まらないといけないんだ。

 頭が混乱し上手く思考ができない。

 唖然としている俺の横では、頼りになる紅魔族が我を取り戻したのかマントをバサッと翻しながら立ち上がる。

 目が紅くなっているのは顔を見ずともそこそこ長い付き合いなので解ってしまう。

 紅魔族の習性を知っている全員がズサりと後ずさる中、めぐみんは残っているであろう理性を掻き集め低い声で言った。

 

「……だったら何故、カズマを国家転覆罪などという謂れのない罪で捕まえるのですか? 矛盾がありすぎですよ」

 

「最後まで話を聞くのを私は望もう。……そう、確かにそこの魔法使いの言う通り、それでは捕まえようなどとは思わないし、何より動機がない。つまり、先程言ったコロナタイトを意図的に望んだ場所に転移させるのは不可能だ。……だが、一つだけ問題がある」

 

「……問題ですか?」

 

「そうだとも。サトウカズマ、貴殿はなんでも不死王(リッチー)しか使うことができない『ドレインタッチ』を使えるそうだな。あぁ、その事は既に我々は知っているから誤魔化す必要はないぞ。さて、本題だ……貴様、それを何処で手に入れた?」

 

 と、ここでクレアはレインさんに目配せをして、あるものを出させる。

 それは、俺が何度かお世話になっている嘘を見抜く魔道具。嘘をついたらベルが鳴るその魔道具が、俺には死神が持つ鎌に見えてしょうがなかった。

 クソっ……何が『私達と共に来てもらおうか!』だ。俺を捕まえる気満々じゃないか!

 ……けれど何も焦る必要はない。

 なんの為に、ウィズ魔道具店であのような茶番をしたと思っている。それは、教えて貰った……ではなく教えさせたという事実を作る為だ。

 だから大丈夫の筈──……いや、ちょっと待てよ?

 クレアは今なんて言った? 『それを何処で手に入れた?』と、俺の聞き間違いでなければ彼女はそのように言った。

 何処でと聞かれたら、ウィズ魔道具店でとしか答えるしかない。

 もちろん、あの茶番劇を告げれば俺の無実は証明される。無論、何らかの罪には問われようが軽い罪だろう。……だが、次に危険な立ち位置になるのは不死王のウィズだ。

 ヤバい、これはヤバい……! 過去最大規模にヤバい!

 脳が警戒音をガンガンと鳴らし続ける。

 あぁもう、これはもう黙るしかないじゃないか。だって、めぐみんの静止を聞かずに教えてもらったのは俺なのだから。

 

「……」

 

「答えられないようだな。なに、別にそれでも構わん。黙秘権は適応されるのだから。兎も角、そういう訳だから、一旦我々と共に来てもらおう。貴様の問われている罪は──国家転覆罪。魔王軍の手の者である可能性が高い貴様を我々は一時捕らえる」

 

 冷徹な表情でそう告げたシンフォニア卿は、魔道具を戻させ……どこから取り出したのか手錠を持って近づいてくる。

 室内は不気味なほどに静寂に包まれていて、誰も言葉を発しない。

 いや、違った。此処には爆裂娘がいる。

 

「『黒より黒き闇より深き漆黒に……──』」

 

「ちょっ、落ち着いてめぐみん!」

 

 めぐみんが爆裂魔法の詠唱を始めようとして、クリスが慌てて止める中、とうとう俺の両手にはガチャっと音を立てながら分厚い手錠が掛けられる。

 クレアとレインさんと目を合わせてマジ? と尋ねても、彼女達は何も答えなかった。無機質な瞳がふっと逸らされる。

 しかし、アイリスは違った。

 クレアと入れ替わるようにして俺に近づき、見る者を凍らせる絶対零度の目付きで見てきた。それに俺は初めて恐怖を抱く。

 

「アイリス、こんなの嘘だよな? 俺がそんな大それた事なんてできないのは知ってるだろ?」

 

 無様にもほどがある俺を、アイリスはただ眺める。

 語る事など何もないのか、ただ黙って見返すだけだけ──ではなかった。

 王女は俊敏な動きで急接近してきたと思ったら、小さな口を開く。けれど、音が生じない。完全なる無音だ。

 

『カズマ様、今は取り敢えず私達と共に来てください。でないと、貴方の身が危険ですから。……それと、ごめんなさい』

 

「……!」

 

  『読唇術』が発動し、アイリスが言った事を理解したその瞬間……気づけば、俺の頬は勢いよくぶたれていた。

 幼い少女のものとは思えないほどに威力があるそれをなんの抵抗をする事もなく喰らった俺は、勢いのまま後ろに倒れ、派手な音を立てながらテーブルとぶつかる。

 テーブルの上に乗っていた皿が床に落ち、硝子(ガラス)が割れる音が盛大に響く中……

 

「大嫌いです、あなたなんて」

 

 アイリスはそう言葉を残して俺の元から離れて行った。一瞬の出来事に何も反応出来ずに居ると……これまた入れ替わるようにしてシンフォニア卿が近づいてくる。

 

「それでは、只今を持って冒険者サトウカズマの身柄を正式に拘束する。我々と共に王都に来てもらおう」

 

 こうして俺は、国を救った英雄から一転──犯罪者の汚名を着せられることになるのだった。

 

 

 §

 

 

「『テレポート』」

 

 レインさんが転移魔法を唱え──転移したのは木々が生い茂る森の中だった。

 少なくとも、王都付近ではない。

 森なんてものはなかった筈だし……なにより、あのバカでかい王城が見えないのだ。

 だが代わりにというべきか……目の前にはそこそこ大きい屋敷が建っている。

 これは一体どういう事なのだろう。

 先程アイリスが秘密裏に口パクで教えてくれた『貴方の身が危険です』……その発言と関係があるのだろうか?

 頭を懸命に働かせていると、クレアが近づき俺の手錠に鍵を差し込んで解除した。

 俺は思わず、懐疑的な目を彼女に向ける。

 

「なぁ、外していいのか? というか、ここ何処? ……えっ、何? もしかして俺、此処で死ぬの?」

 

「少し黙ってろ」

 

 何この人、怖っ!

 チビりそうになっていると、クレアは再びレインさんの『テレポート』で何処かに消えてしまった。

 流石は大魔法使いである。多大な魔力を使う『テレポート』を二回連続で使えるとは……。

 

「カズマ様、話は中でしましょう。外は寒いですし……」

 

 どうやら、話は此処ではなく屋敷の中でしたいらしい。

 仕方がないかと思い溜息を吐きながら一歩踏み出した時、後ろから服の袖が掴まれた。

 この場に残っているのは、俺と、アイリスしかいない。

 長い間見つめ合っていると……不意に女の子は頭を深く下げた。

 

「申し訳ございませんでした、カズマ様。あのような態度を取ってしまい……私達は友達なのに……!」

 

「あぁうん……正直泣きたくなったし、今も痛いけど……でも、理由があったんだろ? だから大丈夫だ。──まぁ取り敢えず、久しぶり、アイリス」

 

「……! はい、お久しぶりです、カズマ様!」

 

 

 ──屋敷に入り案内されたのは、そこそこ大きいリビングだった。

 ピカピカに磨かれているキッチンや高級そうなソファーに冷蔵庫など、生活に必要なものは揃っているようだ。

 ……これ、総額幾らくらいするんだろ。

 ビクビクしながらソファーに座ると……思わず意識が昇天しそうになった。間違いない。これは王城にあった物と同じくらいに優れている。

 押せば返す、とはこのようなことをいうのだろう。身体はソファーに沈むが、かといってそのままではないこの弾圧……これが本物のリッチか……!

 危うく寝そうになるが、ここは我慢だ。

 何も説明されていない中熟睡するほど、俺の肝は据わっていない。

 レインさんとアイリスが対面のソファーに深く腰掛け、屋敷内は異様なほど静まり返る。

 最初に口を開いたのは、俺……ではなく第一王女の教育係兼護衛の貴族だった。

 何時もの影の薄さはどこへやら、恩師は背筋をピンと伸ばし真っ直ぐに俺のことを見つめ……やがて立ち上がったのかと思うと深くお辞儀をする。

 

「この度は申し訳ございません、サトウカズマ様。貴方様には大変不愉快な思いをさせてしまい、なんと謝罪すれば……」

 

「す、ストップレインさん! えぇと、それより説明お願いできますか? 国家転覆罪とか急に言われたかと思えば、こうして何処ぞの屋敷に連れてこられて……しまいには手錠も解かれるし……何がなんだが」

 

「はい、それでは説明させていただきます。アイリス様、私めが説明してよろしいでしょうか?」

 

「構いません。カズマ様に解りやすいようにお願いしますね?」

 

「もちろんでございます」

 

 俺は瞬きせず、レインさんの顔を凝視する。何時もならその豊満な丘を見るであろう俺の目は、この時ばかりは真剣そのものに変化した。

 彼女は一度軽く頷いてから、

 

「まずですが、端的に述べますと……カズマ様、貴方には謂れのない国家転覆罪が掛けられています」

 

「……その理由はなんですか?」

 

 そう尋ねるとレインさんは気まずそうに目を逸らした。それはもう凄まじいほどにである。

 なんだろう、ものすごく嫌な予感がする。というか、それしかない。

 そうこれは、俺が初めて死に天界でアクアを連れていこうと馬鹿な考えをした時のような……

 

「えぇとですね……なんて言いますか……他貴族の嫉妬が主です」

 

 ……。

 ……今なんて?

 

「あの、もう一回お願いします」

 

「……他貴族の嫉妬です。あるいは、逆恨みといいますか……」

 

 レインさんを見た。目を逸らされた。

 アイリスを見た。目を逸らされた。

 俺は思わず、芸術といっても遜色ない壮大な絵が描かれた天井を仰ぎみる。

 そこにいたのは、一人の女神。多分、これはエリス様だろう。流石は国教、知名度が高い事である。

 幸運を司る女神の周りには、青髪の女性──多分、アクアだろう。水の女神が先輩という話は、意外にも周知の事実のようだ──がいる。

 その周りに沢山の見目麗しい女神が居る中、反対に居るのは魔王軍と思わしき怪物達。ゴブリンや初心者殺しはもちろんのこと、首無し騎士(デュラハン)不死王(リッチー)、ラスボスである魔王が盛大に表現されている。

 天井にこの絵を描いたのが誰かは知らないが、きっと首が曲がってしまっただろう。覚えていないが、地球でも世界史にそんな人がいた気がするのだ。

 じっくりとその芸術を堪能した俺は、顔を元の位置に戻した。

 そこには、未だ気まずそうな表情を浮かべている恩師と……涙目になっている友人の姿がある。

 そんな彼女たちに向かって俺は一言。

 今思っていることを盛大にぶちまけた。

 

「舐めてんのか」

 

「「すみません、本当にすみません!」」

 

 平民が貴族と王族を謝らせるとは、それこそ教科書に載りそうな出来事である。

 俺は長く、そして重いため息を数秒ほど吐いた。

 レインさんから聞かされた内容を整理しよう。

 俺に国家転覆罪が掛けられているのは、やはり間違いないらしい。シンフォニア卿が冒険者ギルドで仰っていたように、その内容は『王族が所有する別荘の破壊』か。

 だがそれは聞くに、恐らく表の理由だ。

 

「つまり何、俺の成し遂げた功績を他の貴族達はあまりよろしくないと思ったわけか?」

 

「はい、そうです。──順を追って説明しましょう。まずこれは確認ですが、カズマ様があげた武勲は『魔王軍幹部、首無し騎士の討伐』『機動要塞デストロイヤーの破壊』です。もっとも、最終的にトドメをさしたのは仲間であるめぐみん様ですが、彼女は貴方の指揮下で実行しました。ここまでで間違いはありませんよね?」

 

「あぁ、そうだな。うわっ、こうやって言われると背中が痒いというか……うん、変な感じだなぁ。街の奴らは俺のことをロリコンだとかハーレム野郎とか言ってくるから、違和感が半端ない」

 

「…………」

 

  『ロリコン』の単語が出た瞬間、レインさんは一瞬不審者の目で俺を見てきて、隣に座っている子供を守る仕草をする。

 庇護されている子供はその意味が分からないのか、首をコテンと傾げるだけだ。

 可愛いなぁと思うあたり、存外にも俺はロリコンの気質があるかも……いや、違う。俺は単に子供が好きなだけだ。

 その筈だ。

 なんとも言えない雰囲気になる中、俺はこほんと咳払いをして、話を進めてくれと目で催促する。

 幸いにもレインさんは意図を汲んでくれて、目付きを少しだけ柔らかくしながら説明を再開するのだった。

 

「兎も角、カズマ様は人類に多大な貢献を致しました。それは疑いようのない事実です。魔王軍幹部の際は私達が目撃しておりますし、デストロイヤーの際はその場にいた多くの冒険者達が証人となります」

 

「いやぁ、それほどでも……──」

 

「ですが、それを不審に思ったのが貴族です。こういっては大変失礼ですが、たかが〈冒険者〉がそのような偉業を達成できるでしょうか?」

 

「いやでも、レインさんも言ったでしょ? 俺はあくまでも指揮をしただけですって」

 

「……まぁここまでは、疑問に思うこそすれ貴方の並外れた能力だと納得できます。今年のキャベツの収穫の際にも、大層ご活躍したそうですしね」

 

 ……さっきから凄い褒められているのに、全くもって嬉しくない。というのも、レインさんが無表情で淡々と告げてくるからだ。

 アイリスに助けを求めようにも、口パクで『レインも我慢していますから、お許しください』といった内容のものが送られてくる。

 ……本当にそうなのだろうか?

 

「ですがクレア様が仰ったように、貴方が本来なら不死王しか取得できない『ドレインタッチ』を使っているのも事実。さらにいえば、首無し騎士を道連れにしてお亡くなりになったのにも関わらずこうして生き返っています。嘘を見抜く魔道具も万能ではないので……」

 

「あぁ、なるほど。うん、確かに言われてみれば魔王軍の手の者と思っても仕方がないか……」

 

 そりゃ、他の貴族様も疑うだろう。

 なんだったら俺だって疑う。

 と軽く現実逃避していると、今まで黙っていたアイリスがとても言いずらそうに小さな口を開く。

 

「それと、カズマ様の経歴です。国の総力を持って調べましたが、あなたの出身国であるニホンなどという国はこの世界に存在していませんでした」

 

「おい、そんなこと言ったらミツルギや他の勇者候補はどうなんだよ! アイツらも同じ……──」

 

「……それが、彼らは『トウキョウ』とか、『サイタマ』とか、『ホッカイドウ』と答えていまして……この世界には確かにそのような国があるのです。特にトウキョウは大国なのです」

 

 アイリスの言葉に俺は驚愕せざるを得ない。

 ……よくよく考えてみれば、クレアはあの時『出身地は何処だ?』と尋ねてきたような気が……。いやでも、普通ここは和の心をもって故郷である「日本」をだな……。

 というか、明らかにそれは転生者のせいだろう。彼らは自分が産まれた県にちなんで、その名をつけたに違いない。

 ヤバい、完全に詰んだ。

 クソっ、あの時めぐみんに適材適所と言って爆裂魔法を撃たせるんじゃ……いやでも、ウィズはアンデッドだからアクアの神聖な魔力を渡せなかった気が……いやいやでも、それこそ俺がやったようにアクアから俺、俺からウィズに魔力を繋げば良かったのでは……。

 頭を抱えながら現実逃避していると、演技をやめたレインさんがお茶を注いでくれる。

 彼女の目には同情の色が過敏に含まれていた。

 俺は恐怖のあまりガタガタ震えるコップを懸命に口に運び……

 

「何これ、凄く美味しいんですけど!」

 

「それは良かったです。このお茶はお茶の聖地であるシズオカから取り寄せているものでして、かなり高価なんですよ」

 

「へぇ、そうなんですか。……あの、さっきから気になっていたんですけど、この屋敷はなんですか?」

 

 いやもう、それでも予想はある程度はついているのだが。

 俺の質問に答えたのは、王族だった。

 

「此処ですか? 王族が所有する別荘ですが……」

 

「えっ、いやでもそれは俺が転移させたコロナタイトの所為で爆破したんじゃ?」

 

「はい、それはそうなんですが……。その、他にも沢山別荘はありまして……此処はその一つです」

 

「なぁアイリス。それだけあるのなら一つや二つくらいなくなってもいいと思うんだよ」

 

「……私もそれは議会で告げたんですが……論点が違うと言われました」

 

 悔しそうにアイリスは首を横にふるふると振った。

 ふむ、中々にこの国の貴族というのは話が通じない奴らばかりのようだ。まぁ、脳筋が多いから仕方がないかもしれない。

 というか、なんでこの身を呈して国を救ったのに謂れのない罪で捕まらないといけないんだ。……なんでもこの世界では「国家転覆罪」に問われた場合、大半は死刑判決を言い渡されるらしい。

 いくら王族のアイリスと四大貴族の二柱が俺の無罪を主張していようとも、精々が禁固刑止まりだろう。

 そこまで考え、俺は違和感を感じた。

 自惚れではないが、俺にはかなりの後ろ盾がある。

 ダクティネス家やシンフォニア家、そして王女であるアイリスがいるのだ。更には聴衆からの支持もそこそこある俺に対してあのような強硬策に出るとは、そんなの無謀じゃないか?

 俺だったらそのようなことはしない。どうしてもソイツを殺したいのなら「国家転覆罪」なんて回りくどいことはせずに「暗殺」する。貴族なのだ、暗殺者を雇うことなんてすぐにできるだろうし、自慢ではないが俺はめっぽう弱い。モンスター戦よりは対人戦向きのスキル構成な俺だが、それでもプロには勝てないだろう。

 となると、何かしら理由があるのか?

 

「レインさん、俺を国家転覆罪で処刑しようとしている貴族はどれくらいいるんですか?」

 

「そうですね……およそこの国の貴族、その三分の二でしょうか。そしてその筆頭には、四大貴族のうちの二柱であるマルクス家とシーア家がおります」

 

「……他には……?」

 

「あとは殆どが中貴族です。反対に小貴族はカズマさんを擁護しております」

 

「大貴族はどうなっているんですか?」

 

「それが大貴族は現在国王様と一緒に魔王軍と戦っておりまして……。ご存知の通り、王族や貴族は強い人が多いのです。大貴族は昔から続いている一家も多いですから、それに比例して戦争に出兵しております」

 

 なるほど……。

 この国の国王と第一皇子、さらには大貴族が魔王軍との戦いに出向いている訳か。アイリスは王族といってもまだ幼く、その実権はないに等しいだろう。

 顎に手を当てて打開策を考えるが、そんな都合良く出る筈がない。

 もういっそのこと、めぐみんの爆裂魔法で王城を粉々にしようか……と無鉄砲な案を出したところで、白スーツがまだ帰っていないことに気づく。

 

「クレアは何処に行っているんですか?」

 

「クレア様ならアクセルに戻ってめぐみん様やアクア様など、カズマ様のお仲間に説明しているところです。他の街に噂が広まるのは時間の問題ですから、せめて彼女達の誤解は解かなくてはなりません」

 

「……めぐみんが爆裂魔法を撃たないことを切に願います」

 

「うぐっ……そう、ですね。本当になんてお詫びを申し上げればよいか……」

 

「あれ? でもクレアはどうやって此処に戻ってくるんですか? 『テレポート』を使えるのって、レインさんだけですよね?」

 

「あぁ、それでしたら簡単です。明日の早朝、迎えに行く手筈になっています。私は一日につき二回しか『テレポート』が使用できなくて……本当に申し訳ございません」

 

 そう何度も深く頭を下げる恩師を見て、俺は慌てて止めさせる。多分俺があんな風に強引でこの別荘に転移させたのは、俺が敵陣営に捕まるのを防ぐ為だろう。

 ならば感謝するのが道理だし、助けてくれている彼女達を責めるのはお門違いだ。

 それよりも、どうしたら良いかを考えなければならない。

 

「あの、なんとか助かる道はないんですか? 俺の罪の理由は、魔王軍の手の者だと疑われているからなんですよね? それを払拭できればいいんじゃ……?」

 

 俺の確認に、今度はアイリスがレインさんの代わりに答えた。その美貌を歪めながら、ぽつぽつと告げる。

 

「……現状、カズマ様が助かる方法はゼロに等しいです。先程も言いましたが嘘を見抜く魔道具は万能ではありませんから、例え反応しなくても、彼らは様々な卑劣な手を使ってあなたを罠に嵌めようとするでしょう」

 

「だったら、アイリスの親父さん……国王陛下が俺の事を無罪だと言えばいけるんじゃないか?」

 

「それも残念ながら無理です。私がカズマ様と懇意の仲なのは周知の事実となっています。お父様が告げても、私という賄賂を使ったとしか思われないでしょう。──本当に、危険だったのです。あと少しでも私達が間に合っていなかったらカズマ様は今頃……」

 

「死んでいたってことか?」

 

「……はい……」

 

 まだ十二歳の少女にはその言葉の重みに耐えられないのだろう、泣きそうな顔になりながら頷いた。罪悪感が湧いてくるが、仕方がないんだと無理矢理割り切る。

 でも今の言葉で、違和感はますます大きくなった。

 アイリスの言葉や、今のやり取りを黙って眺めていたレインさんの表情から俺は「暗殺」されていた可能性が高い。

 マルクス家とシーア家とやらが扇動しているようだが、奴らもまた一枚岩ではないことか?

 そう……例えばマルクス家はまだ穏便派で裁判をやるよう訴えているが、シーア家は問答無用で殺すべきだと主張しているとか。

 疑問は尽きない。

 いや、こうしてアイリスが俺を匿っている時点で彼女達にも危害が及ぶ可能性があるのでは?

 

「な、なぁアイリス達は大丈夫なのか?」

 

「……? と言いますと?」

 

「いやほら、議会は一応、俺のことを大罪人の候補にまでしたんだろ? そんな俺を守って大丈夫なのかなって思ったんだが……」

 

「あぁ、そのことですか。大丈夫ですよ。仮に攻撃してきても私達は無事です。私達は強いですし、それに……」

 

「それに?」

 

 と間抜けた声を出す俺に対してアイリスは今日初めての笑顔を見せてくれる。

 

「──私達は友達ですから!」

 








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