このすば! ─カズマがいた異世界最初の街は王都にある王城です─   作:Sakiru
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ドッペルゲンガー

 

 それは──俺が強制任務(ミッション)を国から課せられ、ウィズ魔道具店でポンコツ美人店主とそれについて相談をしていた時の事だ。

 

 

『──なぁ、ちなみに他の幹部はどんな奴らなんだ?』

 

『うぅーん……そうですねぇ。例えば……魔王さんより強いと評判の方や、デッドリーポイズンスライムの変異種の方や、モンスターと融合した方や……これは私も詳しくは知りませんが、何処かの国で宰相をしている方もいるそうですよ──』

 

 

 あの時確かに……なんちゃって魔王軍幹部、不死王(リッチー)ウィズはそう教えてくれた。

 その情報を提示された時俺はうげぇと顰め面を浮かべて、これ以上魔王軍とは関わりたくないないなぁと願ったものだが……どうやら俺は、ある意味恵まれているらしい。

 ベルゼルグ王国、その隣国のエルロード王国。

 アイリス王女の外交を無事終え、明日の朝には国を発つ為に最後の夜を過ごす中、そいつは現れた。

 そいつの名前は──

 

「魔王軍諜報部隊長、ラグクラフト? なんだお前、幹部じゃないのか?」

 

「俺を幹部様と同列に語るな! 俺みたいな奴が、誇り高き幹部になれる訳がないだろう!」

 

 ──そいつの名前は、ラグクラフト。

 魔王軍諜報部隊長、ラグクラフトだ。

 こいつは姿形を自由に変えれるドッペルゲンガーの特性を存分に活かし、他国に多大な支援金を寄進しているエルロードに潜入。

 宰相になる事で裏で暗躍していたのだ。

 ウィズが魔王軍幹部だと誤認していたのは彼女がなんちゃって幹部で、正確な情報を取得できていないからだろう。

 心は人間のままと儚げに告白した彼女は、もともと魔王軍に対してさして興味がないのかもしれない。

 友人といえる間柄も、見通す悪魔のバニルだけのようだし。

 此処はエルロード王城の豪華な一室。

 俺とゲーマー友達になったレヴィが、疲れを癒すよう配慮してくれて、あてがわれた部屋だ。

 部屋にいるのは俺とドッペルゲンガーだけで、寝る気満々だったが故に運が悪い冒険者は、三代目の相棒や弓などを装備していない。

 対してあちらは剣を所持していて……何より、どのような攻撃手段を持つか一切分かっていない。

 普通ならここは頼りになる仲間達とすぐさま合流するべき場面であるのだが……唯一の脱出口であるドアはラグクラフトが塞いでいるから脱出不可能だし、そもそも俺は、めぐみん達が何処にいるか分からない。

 ……いやもう一つだけ、窓という脱出口があるが……。此処はレヴィが、是非景色を楽しんでくれと気遣ってくれたお陰で、王城の最も高い位置にある。

 つまり──窓を開け放ちベランダから身を投げ出すと絶対に死ぬ。

 ……。

 あれっ、これってかなりピンチなのでは?

 冷や汗をダラダラと垂らしていると、ラグクラフトは嘆息しながら、

 

「ようやく状況が分かったか。まったく、これだから脳筋は困るのだ」

 

 そんな聞き捨てならない事を行ってきた。

 

「おい待て、俺は脳筋じゃないぞ。本当の脳筋はアイリスやめぐみんの事をいうんだ、訂正しろ」

 

「お、お前、自分の想い人と仲間にそれはあんまりなのではないか!?」

 

 いや、そんな事言われましても。

 全部本当の事だからなぁ。

 お互い油断なく構えながら数分が経ち……やがて、疲れたようにラグクラフトはため息を吐いた。

 

「アイリス王女の姿でお前を騙し暗殺する手筈だったのだが……曲がりなりにも英雄と言われるだけはあるか」

 

「それはどうもありがとう。ちなみに、何でアイリスの姿にしたんだ? ハニートラップをするのなら普通、アリアさんみたいな大人にするのが定石だろ?」

 

「えっ?」

 

「……えっ?」

 

 ラグクラフトは俺の返答に驚愕し、間抜けな顔になった。

 いや、のっぺり顔だから俺の完全な想像だが。

 その表情のまま、ぽつり呟く。

 信じられない、といった具合に……

 

「……お前、ロリコンじゃなかったのか?」

 

「ちがわい!」

 

「いやいや、まず年端もいかぬアイリス王女の事を好きだという時点で犯罪だし、あの爆裂娘も仲間にいるのだろう? てっきりそういう趣味なのかと」

 

「違うって言ってるだろうが! ……謝って! 謂れのない誹謗中傷をした事を謝って!」

 

「す、すまない……」

 

 俺の癇癪に、思わずっといったように謝罪するラグクラフト。

 コンチキショー!

 どうして皆俺の事をロリコンだって……!

 いや、確かにそう判断されてもおかしくはないと自分でも思うけれども!

 勢いよく地団駄を踏んでいると、敵はどうやら親近感が湧いたのか……、

 

「戦う前に……俺の過去を聞いてくれるか? お前だったらきっと理解してくれると思うんだ」

 

 ……そんな事を言い出した。

 その根拠は何処から出てくるのだろう。

 魔王軍の手の者の話に共感できるとは到底思えないが、ここは聞きながら何か打開策を模索しよう。

 時間稼ぎも作戦のうちだ。

 戦闘態勢をゆっくりと解くと、ドッペルゲンガーもまた剣を下ろし……──苦労話を語り始める。

 きっと、遠い目になっているのだろう。

 

 

「──あれはそうだな……三十年以上も前になる。この国の内政官の募集に何度も何度も応募した俺は、ようやく採用された。……あの時は嬉しかったよ。職務に就いたその日から俺は馬車馬の如く働き……そこに休暇なんてなかった。今にして思うとおかしいな、週末は休みがあると募集要項に書かれていたのだが。……カジノに入り浸り仕事をロクにしない同僚。カジノ狂いの王族や、それに賛同する貴族達。ある日俺は思った。『あれっ、これって何もしない方が魔王様の利になるのでは?』と。何度も何度も魔王様宛の(ふみ)に愚痴を書き、助けてくださいと懇願したくらいだ」

 

 それは、一人の(おとこ)の過酷極まる人生だった。

 てっきり話をしながら隙を突いてくるものばかりだと思っていたが、本当に共感して欲しいらしい。

 敵ながらいたたまれなくなった俺は椅子を二脚取り出し、真面目に聞いてやる事にした。

 その際、ロングコートを着る事を忘れない。

 冬もあと少しで明けて春になるが、季節の変わり目は風邪を引きやすいのだ。

 コップに水を注ぎ、それを渡す。

 ぷはーと一気飲みしたラグクラフトは礼を告げてから、こんこんと苦労話を続けた。

 ──真面目に働き、汚職や悪事に手を染める事なく誠実に仕事をこなす彼は、あっさりと信用された。

 どんどん出世をしていく事に喜べばいいのか、それとも悲しめばいいのか。

 そんな複雑な気持ちになりながらも出世をして、とうとう念願であった宰相の地位に抜擢される。

 ここまでは順調だった。

 順調すぎて逆に、内心慌てていたぐらいだ。

 しかし、彼の苦労はここから急激に加速する。

 彼は気づいてしまったのだ。

 エルロード王国、その隠された実態に。

 とてつもない財政赤字に、膨らんだ借金。

 他国には支援金を寄進せねばならず、財政は好転しなかった。

 更には黄金竜(ゴールデン)が金鉱山に住み着き、ますます天秤が下に傾く絶望。

 それから目を背け、連日連夜遊びに遊ぶ王族や貴族達。

 

「分かるか? この国の人間はな……初代国王がギャンブルで当てた、山のような財産を食い潰したのだ。国を破綻にまで追い込むその間抜けさに、一周回って尊敬したよ。そしてそれを回復させたのが……──」

 

「あんただったのか」

 

 根が真面目だったのか、このドッペルゲンガーが頑張ったそうな。

 魔王から出された命令はスパイ活動。

 優秀な宰相はどんどん新しい政策を打ち出し、その全てを成功させていった。

 なんとか赤字を消し借金を返済したラグクラフトはある日、一人酒を飲んでいた。

 ここまで長かった……! と達成感に満ち溢れていると、ふと思ったらしい。

 それはさしずめ、天啓のよう。

 

「『ここまでやる必要なかったんじゃないか?』とな」

 

「あんた馬鹿だろ」

 

 俺の真っ向からの指摘に、馬鹿な宰相は呻いた。

 聞いてるこっちが悲しくなるのだが、どうしよう、この憐憫の気持ち。

 

「それでな、ちょうどその日に魔王様から手紙が来たのだ。『ここ最近報告来てないけど大丈夫か?』……私はその時、感涙の涙を流したよ。そうだ、俺はバカ王族ではなく、魔王様に仕える身なんだ! 今こそ動く時!」

 

「それで不可侵条約を結んだと」

 

「その通りだ。久し振りに会った魔王様は俺を労わってくれてな……。あの忌まわしきアクシズ教団の所為でどれだけ魔王様が心を痛めているか……お前に分かるか?」

 

 それはちょっと分かんないです。

 そんな俺の脳内突っ込みは届かず、ラグクラフトは軽く息をつき…………

 不意に、『敵感知』が反応する。

 俺達はすぐさま椅子を蹴るようにして立ち上がり、充分な距離を取った。

 

「俺の話を聞いてくれた事に関しては感謝する。……だがしかし、数々の幹部様を斃し、そして俺の計画を妨害したお前には死んでもらおう。サトウカズマ、お前は大変危険な存在だ」

 

「それはこっちの台詞だ。いやまぁ、確かにあんたの話は聞いてるこっちが悲しくなるけれども。そこはそれ、敵になるのなら容赦はしない。俺の名前は佐藤和真。数多の敵を屠った者!」

 

「ふはははっ! 威勢が良い事だが……武器を手にしてないお前が俺に勝てるとでも? ──それと、その名乗りはレヴィ王子に悪影響を与えるから止めてもらおうか

 

「そんなの知るか」

 

 軽口を叩きつつ、俺は冷静に思考する。

 ……悔しいがラグクラフトの言う通りだ。

 先程と違うところは、俺がドア側に立ち逃亡する事ができるところだけ。

 しかしそれをやれば、魔王軍諜報部隊長という大物を易々と逃がす事に直結してしまう。

 更にはドッペルゲンガーの特性を活かして……再びこの国で暗躍するかもしれない。

 いや、それは彼の愚痴から察するにないだろうが……それでも国内は疑心暗鬼の闇に陥ってしまう。

 一緒に話している人はもしかしたら偽物かもしれない、そんな恐怖を抱くのだ。

 エルロードという国が衰退する、そんな未来も十二分に起こり得る。

 故に、ここで倒さなくてはならない。

 だがしかし、それは簡単にいきそうにない。理由は簡単で、決定打に繋がる技が俺にはないからだ。

 剣がないから牽制できないし、弓もないから遠距離での攻撃も不可能。あるのは、ロングコートの胸ポケットに入っている一本の投げナイフだけ。

 擬似的な『狙撃』を使えばあるいは……と考え否定。いくら俺の運が高いとはいえ、そんなに上手くいかないだろう。

 攻めあぐねているのは、こちらだけでなく向こうもだった。おおかた、俺の『ドレインタッチ』や奇襲を警戒しているのだろう。

  『クリエイト・アース』からの『ウインドブレス』による目潰し戦法も、トッペルゲンガー特有ののっぺり顔の所為で効かないだろうし……。

 これはアレだな、動いた方が負ける展開だ。

 つまり、先手をどう繰り出し……あるいは、どう捌くか。

 兎も角、あの剣をなんとかしたい。

 そうすれば形成は逆転するのだが……どうすれば……? と考えたところで、ある事を思い出す。

 ここ最近全然使ってなかったから、その存在を忘れてしまっていたのだ。

 それは、俺の必殺技。

 ……俺は無言で手を翳し、ラグクラフトを強く睨めつける。

 彼もまたそれに応えるように、剣を構え直した。

 

「お前が何かをする前に、俺の剣がお前を切り裂く。無駄な抵抗は止めろ。話を聞いてくれたお礼に、せめて苦しませずに殺したいんだ」

 

「断る」

 

 改めて、敵の様子を確認する。

 漆黒の人影が纏っているのは何もなく、手にしているのは切れ味が良さそうな剣のみ。

 

 ──どれだけの時間が流れただろうか。

 

 俺は暗器を取り出し、滑らかな動作で投擲する。

 流石は魔王軍、俺の先手をひらりと舞うようにして避けてみせた。更には回避しながら前進するという……超が付く程の高等技術を披露する。

 宰相のクセに戦闘もできるとか!

 

「ちいっ!? やはり隠していたか! だがこれで俺の勝ち……──」

 

「『スティール』ッッ!」

 

 ラグクラフトが一歩踏み込み、長剣を振るう前に──俺は本命のスキルを発動させた。

 それこそ俺の必殺技、『スティール』。

  『スティール』の成功条件はいくつがあるが、その最も大きな要因は、先輩盗賊曰く幸運のステータスの彼我の差によるものが多いそうな。

 そして次に、レベル差。

 最後に、体力差。

 

「なっ────!?」

 

 ここ最近急激なレベルアップを果たした俺は……持ち前の運の良さによって、あっさりと敵の剣を強奪する事に成功した。

 剣を振り切った状態で空振りし、突然の出来事に頭がついていけずに呆然とするラグクラフトに俺は、心臓付近に奪った凶器を突き刺した────。

 

 

 

「──面目ない!」

 

 ドッペルゲンガー、魔王軍諜報部隊長ラグクラフトを単身で斃した俺の活躍はすぐさま城中に伝わった。

 城で寝ていた全ての人が叩き起され……正装を慌てて着込んできただろうレヴィ王子が、若干気崩しながら俺に土下座している。

 そしてそれは、彼だけでない。

 エルロード王国に仕え、王城に滞在していた貴族達も土下座をするという……常識に当てはめれば有り得ない光景だ。

 睡眠を邪魔されやや不機嫌なめぐみんやアイリスといった子供勢が突然の展開に目を白黒させる中、今しがた到着した大人のアリアが何があったのかを俺に訊ねてくる。

 

「……あの、サトウ様。いったい何が?」

 

「ラグクラフトがドッペルゲンガーで、俺を暗殺しようとしてきたんですよ」

 

「……!?」

 

 時間が深夜であるのにも関わらず、突然明かりがついた王城に、街の人達も慌てていた。

 それは当然だろう。

 不安の声は断片的ながらも此処まで届いている。

 中には戦争ではないか!? と騒ぎ立てる人もいるようで、騎士団の人達が必死になって事態を鎮圧しようと頑張ってくれている。

 俺の功績が伝わるのも時間の問題だろう。

 

「いや、レヴィ王子が直接関わっていた訳じゃないんだからさ、そこまで気にしなくても……」

 

 未だに頭を床に擦り付けるレヴィ王子にそう言うと、けれど彼はその姿勢のまま叫ぶ。

 

「俺が……いや、俺達が馬鹿だった! 思えば色々とおかしかったのだ。魔王軍との密談をする際、何故嬉嬉として自分から率先して行くのかとか、条約相手とはいえ何故魔王をあんなに擁護するんだとか、気づいて然るべきだった!」

 

 王子の言葉に、貴族達も同調する。

 いや、でもなぁ……。

 警戒心を緩和する為にラグクラフトは宰相になっていた訳だし……何より、魔王からの命令を半分忘れるくらいにはこの国を思って働いていたからなぁ……。

 俺だったら絶対気づけない。

 だから気にするなと言っているのだが、彼らは中々納得がいかないようだ。

 最初は田舎者だと舐めていた。

 しかし俺達が彼の邪竜を退治し、更には密かに政治の中枢を支配していたドッペルゲンガーから一国を救った所為で、これではどちらが君主か分かったものではない。

 困った、これは本当に困った。

 うむむ……そもそも護衛役である俺が、こんな事をさせていいのだろうか。

 なんだろう、主の活躍の場を取っている気がする。

 なのでその主に助けを求めると、彼女は困ったように微笑みながらこう言う。

 

『私がドッペルゲンガーを斃した訳ではありませんから……カズマさんの好きなようにしてください』

 

  『読唇術』スキルが発動し、そのような内容を読み取ると同時に、俺は無言で謁見の間の中央まで進み、土下座している友人の元に近づく。

 恐る恐る顔を上げたレヴィに、俺は笑い掛けた。

 

「王子。いや友よ。一国の君主がそう軽々と頭を下げてはならぬ」

 

 その言葉にレヴィはガバッと身体を起こし、ほんのりと頬を朱色に染めた。恥ずかしいのだろう。

 俺は一人の友人として、更に言葉を続ける。

 

「友よ。もし今回の事に負い目を感じているのなら……私の願いを叶えてくれないだろうか?」

 

「も、もちろんだ! 俺が出来る事なら……いや、出来ない事でも叶えてみせる! それが贖罪だ!」

 

 堅苦しい言葉を使って俺と友人が盛り上がってる中、後ろではひそひそと仲間達が囁き合っていた。

  『聴覚』スキルを使うまでもないその音に耳を澄ませると。

 

『お姉さん、アレが男の友情ってヤツですか?』

 

『あはは……恐らくそうかと。ですがその、控えめに言って……──』

 

『ちゃばんげきですね!』

 

『……アイリス、これからはカズマの言う事を一々覚えなくていいですよ』

 

『そうですよ、アイリス様! その、確かにサトウ様は偉大な人物だと思いますが……何もかも肯定するのはどうかと……』

 

『……そうですか?』

 

『『そうです』』

 

 なんか言っているが無視だ。

 こほんと俺は大袈裟に咳払いをして、劇団俳優のようにこれまた大袈裟に。

 

「友よ、私の願いは────。こほん。……これからもベルゼルグと仲良く頼むよ。お互いが窮地に陥ったら助け合う、それが友達だろ?」

 

 その言葉に、謁見の間にいた全ての人達が俺の事を眩しそうに見つめた。

 神様を見るような目になっているのは、流石に気恥しい。

 レヴィは照れくさそうに頬を掻き、それが原因となって和やかな空気が場を支配した。

 そこに、最初にあった緊迫とした雰囲気は微塵もない。

 俺はこの世で数少ないゲーマー友達に手を差し出して、その約束の言葉を口にする。

 

「またゲームをしよう!」

 

「……! あぁ、もちろんだ! 次戦う時までに腕を上げて、カジノ大国の王子として恥じぬようにするとも! そして勝つ! だからまた、ゲームをしよう!」

 

 

 §

 

 

 《ドラゴンスレイヤー》だの《救国の英雄》だのとお祭り同然に騒ぐエルロードの王都を竜車から眺めながら、俺は思う。

 そうそれは、真面目に働き過ぎた宰相のようにふと思い立った。

 

 ──俺今回、凄く活躍をした気がする!

 

 王都に着くまではグリフォンやら初心者殺しやらといった大物モンスターと戦い主を護衛し、王子の出した条件付き試練を一人で見事に達成し、黄金竜相手に囮役をこなし、そして止めのドッペルゲンガーの単身撃破。

 これはもう、本当に英雄といっても差し支えないレベルの偉業だと思う。

 ベルゼルグ王国に戻ったらクレアやレインさん達の驚く顔が思い浮かべる。

 

「ここ最近思うのですが」

 

 とめぐみんがちょむすけの毛を撫でながらぽつりと呟いた。

 ゲームをしていた俺とアイリスが反応すると、彼女は視線を上げる事なく続ける。

 

「──ここ最近思うのですが。カズマは毎回毎回何らかの騒動に巻き込まれていますよね。これはもう、一種の呪いだと思うのですが」

 

「確かにめぐみんさんの言う通りですよね。首無し騎士然り、殺戮の機動要塞然り、国家転覆罪然り……。いえ、呪いに関しては眉唾物だと思いますが」

 

「おい、そんな怖い事を言うなよ」

 

 物騒な会話を本人の目の前でするその気概にある意味感嘆しながらも、内心はそうかもしれないと自然と納得もしていた。

 思えばキールのダンジョン……その最奥でバニルと対面した時、彼は俺の事をこう評した。

 いや、見通したというべきかもしれない。

 

『汝、破滅と幸福をその身に宿す冒険者よ。見通す悪魔と契約する勇気はおありか?』

 

 ……。

 なんだろう、もの凄く不安になってきた。

 思い返してみれば、バニルからその内容を深く訊ねてはいなかった。

 迷宮内ではそんな時間はなかったし……奴と次に会ったのはウィズ魔道具店で、契約の対価を支払う為だったし。

 意図して避けていた、とも今なら思えるが……次会ったら聞いてみる事にしよう。

 重い雰囲気が車内を包む中、気が利くアイリスがこほんと咳払いをして。

 

「カズマさん、めぐみんさん。今回は護衛任務を請けてくださって、本当にありがとうございました。あなた達のお陰で、無事に外交を終える事ができました。国に帰ったら、宴を開きましょう!」

 

 俺とめぐみんはアイリス王女に深々と頭を下げ揃って告げる。

 

「「ありがたき幸せ」」

 

「あぁいえ、その! そのような堅苦しい姿勢はもう大丈夫ですから! カズマさんは兎も角、めぐみんさんは疲れていたでしょう?」

 

「えぇそれはもう! ……という事はつまり、今からは普通に友人として接して良いのですよね?」

 

「はい!」

 

 そう言って、二人の女の子は仲良く話を始めた。そこに王族や平民といった身分の差はなく、傍から見るとそれは、仲が良い友達同士にしか見えない。

 それより俺は、『カズマさんなら兎も角』の当たりについて言及したいのだが。

 きゃいきゃいと賑やかな会話に耳を傾けながら俺は、荷物からある物を取り出す。

 それは、王都で買ったお土産だった。

 エルロードせんべいとエルロード饅頭。

 ちなみに前者がめぐみん用で、後者がアイリス用。

 

「ほらお土産な。何でもこれはエルロードで売れている商品のようでな、そこそこ高かったんだぞ?」

 

「あのカズマ、確かに私やアイリスは食べるのが好きですが、だからといって女の子のお土産にそれはあんまりなのでは。アイリスもそう思いますよね?」

 

「わあっ! これは何ですか? まんじゅう? とても美味しそうですね!」

 

「……」

 

 めぐみんが何か苦情を言ってきたが、彼女とは違って器が大きいアイリスは満面の笑みでエルロード饅頭を受け取り、もぐもぐと食べ始める。

 

「カズマさん、このおまんじゅうとても美味しいです! ありがとうございますっ!」

 

「なら良かったよ。ほらめぐみん、食べてみるといい。美味しいぞ?」

 

「そうですよめぐみんさん。あっ、一個交換しませんか?」

 

 俺とアイリスは共謀して催促した。

 歳下の女の子の反応にめぐみんは複雑な表情を浮かべたが、観念したかのように齧り始める。

 刹那、味が気に入ったのか知らないがバキバキと音を立てながらめぐみんはせんべいを食べた。

 その様子をしばらく眺めてから俺は、御者台にてリザードランナーの手綱を握っているアリアの隣に座り、冷や汗と脂汗を垂らしている彼女に対して。

 

「……? サトウ様、それはいったい? 大変涼しい風が送られてくるのですが……」

 

「扇子といって、扇いで風を起こす道具ですよ。お土産として、おひとつどうぞ」

 

「ありがとうございます。エルロードではその、あまり良い事が起こりませんでしたから、充分に観光できなかったんです。めぐみん様にもご迷惑を掛けしてしまい……」

 

「あいつは何時も人様に迷惑を掛けているから気にしなくて大丈夫ですよ。それと、どのような事が降り掛かったんですか?」

 

「それはちょっと……あまり言いたくありません」

 

 単に興味があって聞いたのだが……そんなになのか。知らぬが仏、という言葉を素直に受け入れるとしよう。

 ぼんやりと青空を眺めていると、アリアが小さな声で俺の名前を呼んだ。

 竜車内を意味深げに一瞥した事から、あまり聞かれたくない話題らしい。

 俺達は音量を落とし、声を潜めながら。

 

「サトウ様、今回は誠にありがとうございました。国家転覆罪を訴えた私に寛大な対応をしてくださり……更にはこのようなお土産も。感謝の念しかございません」

 

「いえいえ。寧ろ、お礼を言いたいのは俺もですよ。今もこうして危険極まりない御者台に乗っていますし、何より、戦闘の度に強力な支援魔法を掛けてくれて……とても頼りになりました」

 

「ふふふっ。アイリス様がサトウ様をお好きになる理由がなんとなく分かりました」

 

 アリアは微笑しながら、そんな事をさらりと口に出した。

 そんなに分かりやすいのかなぁ……。

 俺は頬をポリポリと掻きながら、

 

「その、何時ですか? 何時気づいて……?」

 

「いえ、めぐみん様が教えてくださったのです。ほら、エルロードに到着したその日、私の我儘で自由時間となったでしょう? その際、彼女が『二人きりにしてあげてください』と懇願してきまして……」

 

 良い仲間をお持ちですねと、歳上のお姉さんはからかうようにそう言った。

 唇に人差し指を押し当てるその様はとても絵になっていて、俺は思わず見惚れてしまう。

 俺は煩悩を消すべく頭を何度も振ってから、めぐみんについて考えた。

 アリアの言う通りで、俺は最高の仲間と共に冒険を何時もしているのだろう。

 爆裂道を極めんとする彼女を、最初は他人事だと思っていたが……今心の底から応援したいと思っているのだから不思議だ。

 以前ダクネスにも言ったが、本当に人の縁とは面白い。こんなにも長い付き合いになるなんて思いもしなかった。

 そんな風に感傷に浸っていると、アリアはますます声を小さくして、

 

「その、アイリス様の件については陰ながら応援しております。流石に堂々とはできませんが……何か困った事がありましたらご相談ください」

 

「助かります!」

 

「最後に。……国に戻ったら恐らくですが、国王陛下がいらっしゃると思います。ですので充分お気をつけてください」

 

「その話詳しく」

 

 ズズいと身体を屈ませると、アリアは真剣な面持ちになって。

 

「一つは、アイリス様の外交成功を祝う宴に参加するつもりでしょう。あの方はアイリス様を溺愛していますから。二つ目は、私とシーア卿の沙汰を下す為です。正式な罰が下されるかと思います」

 

 なるほど。

 一つ目は親馬鹿極まりない理由だが、二つ目があるから充分な理由になるのか。

 国王陛下に連れ立って、第一王子も帰還する可能性が高いそうな。

 なんだろう。

 嫌な予感しかしないのだが。

 久し振りに再会した愛娘の変化に、実の父親がどのような感想を抱くのか……。

 想像するだけで頭が痛い。

 王女に悪影響を与えた、そんな不敬罪で死刑判決が言い渡されない事を、俺は強く願うのだった。

 嗚呼、アクア様エリス様……どうか女神様のご加護をください!

 








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