初恋ジュースはお湯割りで   作:ポラーシュターン

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甘くて初々しく
弄りがいのある神機とあの人


その区画は神機を調整する整備士たちにとっては仕事場だが、

一日のほとんどをそこで過ごす彼女は、そこが自室よりも落ち着けるとまで言っていた。

 

かくいう自分も、ここの雰囲気は嫌いではない。

 

そこかしこから響いてくる、がちゃんがちゃんと喧しい駆動音も、

慣れてくれば下手な静寂よりも心地良いし、

つんと鼻をつく機械油の匂いも、

活気という言葉を想起させ、どことなく気分が高揚してくるような気がする。

 

そして、その一角をほぼ私物化してしまっている彼女は、いつも通り作業に没頭していた。

 

彼女は一心不乱に何かを弄っていて、すぐ傍まで自分が近づいても反応がない程だったが、

ふと呆けたような顔でこちらを振り向き、そこで来訪者に気がついた。

 

「ん?・・・ああ、キミか!どうしたのこんなところに」

 

極東の筆頭整備士、リッカの顔は、いつにも増してオイルで真っ黒だった。

 

 

 

大抵顔のどこかしらにオイルの跡をつけている彼女だが、

よほど夢中だったのか、その顔は煤と機械油で満遍なく真っ黒になってしまっていて、

くっきりと目だけが白い。

 

その有様に、くす、とつい笑ってしまうと、リッカがきょとんとする。

 

そして何か思い当たるところがあったのか、きょろきょろと服や肌を確認した後、

傍にある神機に映る自分を見て、そこでようやく己の惨状に気が付いたらしかった。

 

「う、気づかなかった・・・普段からガサツだって自覚はあるけど、さ、流石にこれは・・・

酷いなあ・・・」

 

とはいえ、煤はともかくオイルはそうそう取れるものでもなく、

両手にはめた革手袋も同様なので、下手に触ると被害が拡大しかねない。

 

対照的なまでにピカピカに磨かれた神機とにらめっこを続け、

幾分恥ずかしそうにしている彼女に笑ってしまったことを謝り、何をしていたのか訊いてみる。

 

「ん?ああ、うん、神機の調整と研究だよ・・・新型のね」

 

目を丸くすると、リッカはニッと笑って頷く。

新型という言葉に対する自分の反応は、どうやら彼女の期待通りだったようだ。

 

リッカは手元にあった神機のパーツを拾い上げ、弄りながら解説をしてくれる。

 

「設計思想もまだ固まっちゃいないけど・・・新型、第四世代神機が完成した暁には、

間違いなく、キミたちの名前がずっと残ることになるよ」

 

と言うと、と首を傾げる。

するとリッカは、説明するのがいかにも楽しいという風に笑って続けてくれた。

 

「キミたちブラッドの血の力と、アラガミが起こす感応現象・・・

そこに神機を介することで、さらにその効果を増幅、あるいは応用できないかっていうのが、

今の基本思想だからね」

 

見ればリッカが座り込んでいる周囲には、ブラッド隊員の戦闘データや神機のスペック、

様々なアラガミの特殊能力を記載したファイルが散らばっている。

 

それだけでなく、そのそばの壁や床には、リッカが思いつく度に残したとおぼしき、

メモや落書きの類がそこかしこに書き込まれていた。

 

それは神機に並々ならぬ熱意を向け続ける彼女の描く小宇宙であり、

もっと言えば、ゴッドイーターの未来予想図だ。

 

そのほとんどは何が描かれているのか分からなかったが、

「適合率」「安全性」といった単語が要所要所に散見されることから、

ただ神機に関する思いつきだけを書き連ねているわけではないことだけは分かる。

 

彼女のそういう所が、ゴッドイーター達から整備班としての信頼を勝ち得ている最たる要因だ。

 

前線に向かう人物のことを考えてくれている彼女だからこそ、

自分達は安心して己の神機を任せられるのだ。

 

そんな彼女が考えた設計ならば、きっと素敵なものになるだろうと思う。

 

「え、ええ?なんだか照れくさいな・・・というか、それもこれもキミのおかげなんだけどね」

今度はこちらがきょとんとする番だった。

「まあ、もう聞き飽きちゃうぐらい言ったと思うけど。

キミの力のおかげで、いろんなことが分かったんだからね」

 

これ見よがしに、自分の血の力・・・・『喚起』のことが記載された紙束を振って見せるリッカ。

 

「現状キミとキミの神機だけが成せる技、ブラッドレイジシステム。

あれは理論を組み立てたらそれをそのまま実証されちゃった、まさしく奇跡の産物だけど・・・

それはこれまでの集大成にして、言うなれば、これからの神機で実現し得る機能の先駆け。

言ってみれば、未来の形そのものなんだよ」

 

そこまで大仰に言われると今度はこちらが照れくさくて、つい頬を掻いてそっぽを向いてしまう。

 

してやったりとばかりにリッカは含み笑いをしてから、ふう、とひとつ溜め息をついてみせた。

 

「でもま、ちょっと休憩かな・・・分からないことが多すぎてね、大変なんだ。楽しいけどね」

 

どれくらい?と聞くと、最高、という返答。

 

真っ黒な顔で微笑むその様子に、リッカらしい、とつい言ってしまうが、

彼女にとってはそれこそ誉め言葉のようだった。

 

そんな彼女とひとしきり笑い合ってから、上階で買ってきたドリンクを手渡して、こつんと乾杯。

 

そのまま、束の間の休憩タイムの御相伴に預かることになった。

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