差し出されたそれが何なのか、楠リッカはしばらく頭の中で答えがつながらないでいた。
ギル達が持ってきたそれはあまりに突拍子もなく、想像もつかないものだったのだ。
しかし、それがお詫びやらなんやらを兼ねた品だという説明を聞いて、リッカは。
「ぷふっ・・・あははははは!」
・・・吹き出してしまった。
お腹が痛い。
こんなに笑ってしまったのはいつぶりだろうか。
失礼だと頭の片隅で思わないでもなかったが、
やめようと思ってすぐやめられるレベルではなかった。
それぐらい笑ってしまった。
「いや・・・ごめん、ごめん。だって二人があんまり・・・ふふ、あははは」
まだ笑いの波に苛まれながら、リッカは懸命に詫びる。
二人は変わらず一つのものを差し出している。
可愛らしくラッピングされたその小袋には、小麦色をした円形の何かが数枚入っている。
リッカが笑ってしまったのはその、あんまりにも「らしくない」チョイスだった。
しばらく顔を見せないと思ったら、という意外性がさらに面白い。
未だにちょっと信じられなかったリッカは、目端に涙を浮かべながらその袋を指して、
「だって・・・手作りのお菓子? 二人が? 私に?」
と訊いた。
二人が持ってきたのは、千倉ムツミより作り方を教わったクッキーだった。
後腐れなく、食べればなくなってしまうが、想いは込められるもの。
そんな発想で選んだ、手作りのお菓子という選択肢。
・・・なんとまあ、可愛らしいことか。
男女が逆転したかのようだった。
「ふ、ふふ・・・」
やっと笑いが収まってきたリッカは、二人の顔を窺う。
笑われたのが心外というわけでもなく、甘んじて笑われましたという神妙な表情。
それを見たリッカはなんとなく、その心中を察した。
そして今度は、呆れからくる苦笑いが浮かぶ。
流石に、大真面目にそれを選んだわけではないらしい。
思えばなんだか、元から覚悟して来ているような顔だったのだ。
「・・・あのさ、二人とも狙ってきてるでしょ?」
その言葉で、リッカの苦笑は二人に伝播したらしかった。
二人は、リッカにただクッキーを受け取ってもらおうとしたのではない。
・・・ちょっとした埋め合わせのために、
手作りクッキーなんかを渡そうとする自分達がどんなに滑稽か。
そのおかしさ自体を、リッカに
「はは、ずっるいなあ・・・笑わないわけないじゃない」
リッカは目元を拭いながら、それを受け取る。
二人の様子から、苦肉の策でそうしたらしい、というのがありありと分かって、
それもまた、くすぐったくなるような感覚にさせられる。
悔しいが、大成功、というわけだった。
捨て身のプレゼントを終えたギルが、
リッカの反応に安堵してか、ふうと息をついていた。
「・・・顔から火が出そうだ。こういうのは、これっきりにしたい」
「いやあ、何度でも笑っちゃいそうだから、いつだっていいよ?」
悪戯っぽい笑みを浮かべてやると、ギルは顔を引きつらせていた。
思いもよらぬ贈り物に、リッカは上機嫌でそれを眺めていた。
「これってまさか、アバドンの件の埋め合わせ? やりすぎだよ~」
元から気にしていないのに、そういう暴挙に出るところがまたおかしい。
幸運を呼ぶアラガミというのはあながち間違いでもない、とリッカは思う。
名前を使っただけでこんなサプライズを呼び込むことになるのであれば、大したものだ。
「・・・・喜んでくれたようで、何よりだ」
ギルはそう言って微笑んでいたが、それは若干疲れたような色も混じった表情だった。
それに微笑み返してから、リッカは両手で持ったその袋を見下ろして、
「これ、食べていいかな?」
と訊く。
するとギルと隊長、二人分の「どうぞ」が返ってくる。
「もちろんだが、味は保証しないぞ」
「ふふ、いただきます」
リボンを解いて、中からクッキーを一つつまんで、かじる。
さく、という食感と、ほの甘い風味が広がる。
残りは、エミールかムツミちゃんの淹れてくれた紅茶と一緒に食べたい、と思った。
「うん、美味しいよ」
と言った時、二人が安心したように顔を見合わせていたのを、リッカは見た。
・・・その時、どんな表情を浮かべただろう。
思い返しても、よく覚えていない。
ただ、口をついて出たのは、自分でも少し驚くほど声の上ずった、
気持ちを乗せた言葉だった。
「あ、言ってなかったね・・・ありがとう!」
それからは、久しぶりに神機やアラガミ、
そして仲間たちの話題に華が咲いて、つい時間も忘れて語り合っていた。
途中から自作のお菓子を持ってきたナナ、
エリナやエミールも様子を見にやってきて、その場はちょっとしたお茶会の様を呈した。
二人がクッキーの件を必死に隠そうとしているのがまた面白かった。
聞けば、なんやかんやと悩みぬいた末の贈り物だったらしい。
もはや何にもやもやとしていたのか分からないぐらいの事に、
そこまで全力で報いようとしてしまう人達の、
底抜けのお人好しぶりに感謝し、呆れ、笑ってしまう。
それこそが、一番の贈り物なのに。
リッカは頭の片隅で、そんなことを思っていたのだった。
別視点から描く喋らない主人公は死ぬほど空気だって今気づきました。
次回からはちょっとゴッドイーターらしく。