「デミウルゴス?」
リッカはオウム返しに一度その名を口にして、なるほど、と頷いた。
「全身の硬い装甲と、逆にすごく柔らかいけど狙いにくい筋肉・・・
そうだね、特徴がはっきりしてて良いかもしれない」
悩んでいたリッカの顔が心なしか晴れる。
単純な強い弱いではなく、厄介という点で言えば、
奴の有する特徴はかなり面倒な部類だ。
「極東のみんなにとってはもう大した相手じゃないけど、
新米ゴッドイーターが初見で戦うには厳しいよね」
あまり効き目がないのに表面に攻撃を加え続けてしまったり。
無理に弱点を狙おうとして、鈍重ながらも強力な攻撃に直撃してしまったり。
あるいは、複数人で狭い範囲へ攻撃を集中させてしまいがちなため、
接近しにいった味方を誤射してしまったり。
「他のアラガミと一緒だと時間もかかるし・・・
なんだか、ものすっごく強い個体が現れたこともあるって聞いたし」
まさしく、そういう相手を容易く倒せるならどうかという話なのだ。
「いいね。じゃあ、ここからは私の出番だね」
俄然やる気が出てきた、とばかりにリッカは袖を直して立ち上がった。
神機の構想などを書き込むときのボードの前に立って、
彼女は教師みたいにかつんとそれを叩く。
「まず、あのアラガミの弱点はなんといっても、足の駆動部分にある筋繊維。
歩行や攻撃の度に伸縮する、ここを集中的に攻撃するのが定石だね」
貼りつけたデミウルゴスの写真、その前脚部分をこつこつと叩いてリッカは言う。
任務のミーティングのような雰囲気になり、
ちょっと楽しくなってきたのでつい深く頷いてしまう。
彼女も同様に楽しげに微笑んでから、写真の横のボードに対応策を書き加えていく。
「そういう小さい部位を狙いやすいのは自然と、攻撃が線のロングやサイズ。
それよりも、攻撃が点のショートやスピアになるね」
流石はそれを見慣れた整備士なだけあってか、
驚くほど上手に神機の絵を描いていくリッカ。
自分にとっても馴染み深い、各クロガネ装備のシルエットだ。
「ただ大きなダメージを与えるという点では、
バスターやハンマーのような、衝撃を与える攻撃の方が有効だと分かっている」
どかん、とデミウルゴスの足にハンマーをぶつけているイラストを書き加えて、
リッカはそれに丸印をつけた。
「ただ、両方とも取り回しが悪いし、どうしても面の攻撃になるハンマーは、
外縁の堅い所に当てちゃうことも多いはずだよ」
渾身のブラッドアーツを思いっきり膝部分にぶつけてしまったナナが
「腕がしびれるるる」と呻いていたのを思い出す。
以来、彼女は攻撃位置の分散も兼ねて、頭部分を集中的に狙うことで妥協している。
「・・・つまり私たちから見た課題は、小さい部分も狙いやすく、
打撃を与えることのできる神機のデザインだね」
そう言ってボードを眺めていたリッカの口元から、
ふふふ、とそのうちに笑いがこぼれる。
「ようし・・・楽しくなってきたよ!」
と、袖がないのに腕まくりの仕草をするリッカが微笑ましくて、
ついつられて笑いそうになるのだった。
問題提起が終わったところで、二人は考え込みながら神機の案を出し合っていた。
「うーん、既にそういうパーツもあるといえばあるんだけど。
どれも貴重な素材を使ったものだし、扱いが独特すぎるよね」
斬るのが目的でないロングブレードを振るったこともあるが、
それは仕組みがロングなだけのバスターに近い代物だった。
バスターやハンマーがアラガミの強固な装甲にもダメージを与えられるのは、
やはりそれ自体に重量があるためなのだ。
「有効な打撃を与えるには結局重くしないと・・・
でも、それに速度を乗せることができれば、ある程度は軽量化も図れるかも」
重いと強く、速いともっと強い、という発想で生まれたのがブーストハンマーだ。
すると、威力は落ちるかもしれないが、そこから重さを削ればどうだろう、
という安直な発想がまず浮かぶ。
「うーん・・・単純にそれだけだと、逆に安定性も落ちちゃうかな。
あれはバランスを取るのに遠心力も一役買っているから、
軽いとどこに飛んでいくか分からなくなっちゃうかもしれない」
拳大の鉄球が、ひゅんひゅんと弧を描いて、
ネズミ花火の如く高速回転する様を想像して、思わず身震いする。
確かに、それには近づきたくない。
「かといってあんまり速くても、小さいと貫通しちゃうから、
重い意味もないし・・・うん、意外と難題だね」
近いようで遠く、目的と用途が見事に噛み合っていないもどかしさがある。
悩ましげではあったが、
まったく困った様子のないリッカの意欲は流石だと思わざるを得ない。
そんなことを思いながら、
やはり、振るのではなく突く形にしてはどうか、と提案してみる。
「重さと速度を乗せて、となると、刺突というよりは打突か・・・
発想としては、チャージスピアに近いのかな?」
しかし、チャージスピアはむしろ、常に軽くなるように改良が続けられている。
ポール系で唯一縦の動作を要するチャージスピアは、
重量が両手にダイレクトにかかる負担となるのだ。
鋭利な先端の貫通力に、
噴進機構による加速力を乗せるのがチャージスピアの真骨頂であり、
そこに重さはさほど必要ない。
やはり単純な話ではなさそうだったが、
しかし同時に、方向性としてはあながち的外れでもないように思えた。
少なくとも、振り回すよりは安定感があるだろうという漠然としたイメージだ。
リッカもなんとなくそういう感覚があったようで、
ふむ、と呟いてから、こちらに視線を向けて一言。
「せっかくだし、聞いてみようか?」
どこか悪戯っぽい表情で、リッカはチャージスピア使いの二人を呼び出すのだった。