初恋ジュースはお湯割りで   作:ポラーシュターン

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華麗なる槍捌き

「オスカーで、打撃・・・ですか・・・?」

 

エリナは自分とリッカの話を聞いても、いまいちピンとこない様子だった。

 

意見を聞くのはもちろん、やはり使っているところを見せてもらった方が、

インスピレーションも得られるかということで、場所は訓練用スペースへ移っていた。

 

その中心で愛機たるチャージスピア、

オスカーと名付けている神機を大事そうに抱えたエリナは、

モニタールームから聞こえてくるリッカの声に首を傾げていた。

 

自分は同じ訓練スペースに同室していられるが、

訓練中は原則としてゴッドイーター以外は入れない。

 

しかし、リッカのその声色から、

スピーカー越しでも彼女が幾分わくわくしているのが分かった。

 

『うん、まあ、それは整備士の戯れ言だと思ってくれていいからさ。

まずは普通にスピアの扱いを見せて欲しいんだ』

「はあ・・・」

 

言われるままに、おずおずとオスカーを構えるエリナ。

 

『じゃ、ダミーを出すよ』

 

貫き通すこと一辺倒のチャージスピアに、打撃用途とは何を考えているのだろう。

エミールにでも任せりゃいいのに。

 

エリナの顔にはありありとそう書いてあったが、まずは普通にということで、

神機を構え、生成途中の訓練用ダミーを見つめるエリナ。

 

特に気負う事なく、肩の力を抜いたその立ち姿はなかなか様になっていて、

頼もしく見える。

 

と、その様子をモニターしているリッカの声。

 

『いやー、なんだか懐かしいね。初めてチャージスピアを握ってテストしてくれた、

昔のエリナを思い出すよ』

 

ぎくり、とエリナの肩が強張るのが後ろで見ていても分かった。

 

その頃というと、自分はフライアにいるかどうかという時期だ。

つまりゴッドイーター歴は、実はエリナとはほとんど変わらないことになるし、

少なくともチャージスピアの使用経験で言えば、間違いなくエリナの方が先輩なのだ。

 

そう思うと確かに感慨深いものがあって、エリナの背中をまじまじと眺めてしまう。

 

たまらず、エリナが恥ずかしそうに叫んだ。

 

「そ、その時のことは忘れてください!」

 

ところがリッカは全く意に介さず、

その時の思い出をこちらに語って聞かせるように言う。

 

『ふふ、キミは知ってる?

初めてチャージグライド機構を使ったとき、

エリナったら、その勢いに身体を持っていかれてね。

思いっきり訓練場の壁に激突しておっきな穴を――――』

 

「わ、わー!わー!!」

 

苦難の過去を暴露されたエリナが慌てて大声でそれを遮ろうとしていた。

 

まだ実戦配備前だったチャージスピアの試験運用に際し、

エリナはだいぶ頑張ったのだと聞いている。

 

そしてリッカが調整面でかなり苦労したとも聞いていて、

その件で、エリナはリッカに頭が上がらないのだそうだった。

 

「せっ、先輩聞かないで!聞くなー!」

 

そんな苦い記憶を掘り返され、エリナが顔を真っ赤にして喚いている。

 

・・・そこへちょうど、オウガテイルの形をした訓練用ダミーが目の前に現れた。

 

途端、その時の自分の行動と重ねたのか。

あるいは、そんな過去そのものを打ち破らんとでもしたのか。

 

エリナが凄まじい勢いで足を踏み出し、

同時に握りしめたオスカーから、溜めに溜めたオラクルが迸った。

 

 

「あぁもおおおおっ・・・もうあの頃の!わたしじゃ!なぁーいッ!!」

 

 

・・・オラクルと一緒に、色々なフラストレーションを解放したに違いない。

そんなエリナの渾身のチャージグライドが、ダミーアラガミの中心を貫いた。

 

その迫力たるや、ダミーとはいえオウガテイルがちょっと可哀想になるほどのもの。

 

 

・・・と、それを眺めていた自分とリッカから、思わず似たような声が漏れた。

 

ブラッドアーツに匹敵するのではという威力で放たれたそれにも感心だったが、

驚くのはそこではなかったのだ。

 

 

何より目を引いたのは、その後に見せたエリナの所作だった。

 

チャージに用いたオラクルが尾を引き、

エリナは塵と化したダミーを通り抜け、一瞬で訓練場の反対側まで飛んでいる。

 

明らかに中型や大型を相手にしたときに使うような、

高出力チャージグライドを放った神機はまだ余力を残していて、

このままでは昔の再現が如く、向かいの壁に激突してしまう。

・・・と思った、瞬間のことだった。

 

エリナは突撃姿勢を解きつつ、だん、と訓練場の床を蹴り込み、

同時に穂先を僅かに下に傾けた。

 

ジャンプしかけたエリナを、下向きに働いたスピアの推進力が床に縫い止める。

 

そのままブレーキをかける気なのか、片足の負担が大きすぎるのでは、

と危惧したのも束の間。

 

エリナは上半身と腕を捻り、スピアの力を横方向のベクトルに転換していた。

 

あえて軸を傾け、神機に引っ張られたエリナの身体はくるんと回転する。

 

そして今度は両手で神機を回し、

一方向へ勢いがつかないように腕の中でくるりくるりと上手に力を逃がして、

ちょうどそれを終え、自身が真後ろを向いた頃に両足が接地。

 

少し、ずざあ、という擦過音がしたが、

その時点でスピアの推進力はほとんど消費されていた。

 

最後に、ポールを一回転させつつ展開状態を終了させ、

神機内部に残された余分なオラクルを吐き出す。

 

・・・一連の動作が終わったその時、

やっとダミーが消滅したというマーカーが床に表示されていた。

 

 

そして、ふしゅう、と神機オスカーが出力を落とし。

同時に、ふう、とエリナが息を吐く。

 

 

・・・その、残心にも似た間を待って。

 

 

『お見事』

 

というリッカの声と共に、

二人だけのギャラリーはスピーカー越しと訓練場の反対側から、

大きな拍手を送っていた。

 

「ぅえ・・・?」

エリナは目を丸くして狼狽えていた。

 

『申し分ない威力のチャージグライドはもちろん、今の無駄のないブレーキ動作! 

素晴らしかったよ、エリナ』

 

「え、あ、はい、ありがとう、ございます・・・?」

 

そこまで手放しで称賛されると思っていなかったのか、

いまいち反応の薄い礼を返すエリナ。

 

本人にとっては、何度もチャージグライドの推力に振り回されているうちに、

自然と身に付けただけの動きのようだった。

 

しかしあれなら、通り過ぎた直後でも相手の動きにすぐ反応できるし、

すぐさま次のチャージに移ることもできる。

 

なによりいくつもの曲線を描いたその事後動作は、

神機から放出されるオラクルの軌跡も相まって、華麗だった。

 

そんな繕いのない本音を告げると、

エリナはようやく実感が追いついてきたようで、こくん、とわずかに喉を鳴らし。

 

「ありがとっ、先輩っ!」

と嬉しそうに言った。

 




あとがき:
the 2nd break3巻のネタがちらほら。露骨なエリナ軸のお話、あしからず。
くどめな描写では、スローモーションで舞うオスカーとか、帽子についてるひらひらとか、視線を吸い寄せる白い何かとかそこらへんを想起してくれると嬉しいです。

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