初恋ジュースはお湯割りで   作:ポラーシュターン

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無謀な無茶も無駄でなく

 

がきーん。

 

がっきーん。

 

数分はそんな音が続いていたと思う。

 

それはボルグ・カムランの盾を叩き続ける、オスカーの奏でる金属音。

 

しかしその高い音は響きこそ耳に心地よいものの、

それゆえにぶつかっているもの同士が欠けることも削れることもなく、

派手に弾かれあっていることを示している。

 

やがて一歩引いたエリナが、溜め息をついてオスカーを下ろす。

 

 

そしてその苦々しい表情から、口をついて出たのは、

「・・・無理。ぜったい無理」

という、妥当な諦めの言葉だった。

 

 

その言葉通り、奮闘も空しく、目の前の盾には傷一つついていなかった。

 

『オーケー、ごめんね、そこまでで良いよ。オスカーは大丈夫?』

と、スピーカーからそんな声がする。

 

あんまり無茶な使い方をしては神機に負荷がかかってしまうので、程々に。

 

というのがエリナに付け加えられた条件だった。

 

「はい、まあ・・・チャージグライドも使ってないですし」

 

はじめから無理っぽい空気を感じていたエリナも、

愛機を傷つけないようにと、いくらか表面を突いてみただけだ。

 

ただその時点で、仮に全力を出しても結果は明らかだろうという、

確かな手ごたえを得てしまっていたのだった。

 

『普通、ボルグ・カムランと戦う時は当然、盾を避ける・・・

ハンマーやバスター、あるいはショットガンなんかで破壊してもらった後、

結合の弱まった部分に突き込むといいダメージになったりもするが』

 

『そうだね。つまりこの手の装甲には、

本来ショートブレードやチャージスピアでは有効なダメージを与えられない。

・・・じゃ、どうするかって話だけど』

 

チャージスピアの使い手と整備士の、冷静な考察が聞こえてくる。

 

エリナはそんな話を聞きながら、

そびえ立つボルグ・カムランの盾を見上げ、胡乱げな表情を浮かべていた。

 

チャージスピアの扱いは格段に上達したエリナだが、

それ故に、己の神機ができる範疇では無理だと分かってしまっているのだ。

 

その判断は決して間違いではなく、

そもそもリッカの無茶振りも、事実の再確認という意味合いが強かった。

 

 

しかし新しい挑戦のためには、時にそんな常識から外れたことをする必要がある。

 

 

『ということで、キミの出番だよ』

 

「・・・先輩?」

 

エリナが振り向いた時、自分はちょうど自前の神機を持ってきたところだった。

 

そしてその神機を見て、エリナがあんぐりと口を開ける。

 

「せ、んぱい・・・なに、それ」

 

唖然とした、むしろちょっと引き気味の表情でエリナが指を指す。

 

チャージスピアに換装してきた己の神機には、

およそそれとは思えない即席のカスタマイズが施されていたのだ。

 

『うん、とりあえずで考案したチャージスピアの派生品だよ』

なんということもないようにリッカが解説する。

 

それを聞いても、依然エリナの口元は引きつっていた。

 

「・・・派生っていうか・・・」

 

そして、言って良いのか悪いのか迷った挙句、つい口から出てしまったという風に、

 

 

「・・・・・・・・・魔改造なんですけど」

 

と、呟いた。

 

自分も複雑な表情でその穂先を見上げる。

 

全体としてはチャージスピア。

 

しかし、鋭利な刃でもって敵を貫くはずのそこには。

 

 

・・・頭部を上向きにしただけの、クロガネ型ブーストハンマー。

 

その鎚部分が、槍の先端にそのまま突き刺さっているのだ。

 

 

 

あまりの異様に、絶句、という様子のエリナ。

「・・・オ、オスカぁー・・・」

 

無意識にか、彼女はそんな悲壮な声を上げ、

両手で抱くように己の愛機に寄りかかっている。

 

その顔には、オスカーにはあんな風になって欲しくない、

という切なる思いが滲んでいた。

 

流石にちょっと心外だったが、

これも一時的な、研究のための犠牲だろうと割り切ることにする。

 

というよりはそうしないとやっていられないので、

気持ちを切り替え、気を引き締めてボルグ盾の前に立った。

 

実験として、この槍だか鎚だかよく分からない神機でこれを壊そうというのだ。

 

自分考案、リッカデザインの試行錯誤の結晶・・・ではないものの、

アイディアの卵、原石といっていい試作神機である。

 

しかし横から見るとやはりというか、かなり異様な光景らしく、

エリナが視界の端で「え、本当にそれでやるの?」

というニュアンスの表情を浮かべていた。

 

『あ、正直安定性とか度外視だから気をつけてね。

流石に折れたりはしないだろうけど、振り回すのはナシだよ』

 

そんな物騒な忠告を耳にして青ざめつつ、神機を構える。

 

・・・それだけで、嗚呼これは振り回すとかやりたくても無理だな、と実感した。

 

ブーストハンマー以上にフロントウェイトなその形状では、

正直スピアの形に構え続けるのも厳しいのだ。

 

ハンマー部分のブースターに点火できない仕様のこの状態で横に振ろうとすれば、

 

そのまま重心を持っていかれて手からすっぽ抜けるか、

代わりに自分が飛んでいくだけだろう。

 

意地で姿勢を維持し、視界を何割か覆ってしまう神機のシルエット越しに、

ボルグ盾の般若面を睨みつける。

 

『じゃ、手始めに一発、景気のいいのをよろしくね』

『ケガするなよ』

という激励を貰って、無理やり気合充填。

 

ぐっと腰を落とし、片足を踏み出した直後。

 

その重さに負けないように、両手をできるだけ勢いよく前に出す。

 

盾に描かれた顔の眉間辺りをまっすぐに突き上げたつもりだったが、

その狙いは、途中から重すぎる先端部分に引っ張られるような形で下に落ちた。

 

結果的に、そのスピアともハンマーともつかぬ神機は、山なりの軌道を描きつつ、

意図していなかった落下の勢いを加えて、盾の口辺りに激突した。

 

・・・そして同時に、踏み込み、

途中から引っ張られていた勢いが急に手元から消えてしまったせいで、手が滑った。

 

 

ごぉん。ごちん!

 

「わっ!」

『・・・ありゃー』

 

・・・踏鞴を踏んだ自分は、

神機と一緒に追撃するような形で、盾に頭突きをかましていた。

 

 

「ちょ・・・先輩、大丈夫?!」

おでこをさすりながら、大丈夫、と駆け寄ってきたエリナに告げる。

 

華麗にブレーキを決めてみせたエリナの手前、情けないな、と笑ってしまうと、

エリナは気の毒そうに首を振った。

 

「いや、いくら先輩でも無理ないよ・・・だって、これじゃん」

 

指を差して示すのは、もちろん足元に転がった、

チャージハンマーとでも言うべきゲテモノ神機だった。

『いやあ、いい音がしたね・・・あ、神機の方ね』

 

というのがリッカの感想。

 

そんな呑気な、と横でエリナが呆れた顔をしている。

 

ギルもちょっと気まずそうに、

『ああ、まあ・・・予想通りではあったが』

と評していた。

 

 

その後、リッカは乾いた笑いでその結果を記録していた。

 

『あはは、改良が必要なのは・・・まあ、誰が見ても明らかなのは置いといて。

・・・やってみて、どうだった?』

 

感想を訊かれ、ボルグ盾を見上げる。

 

チャージハンマーで殴打した場所には、

くっきりと擦過痕が残っているが、へこみというほどの傷はなかった。

 

かなり間抜けな構図だったので、

それを見ていた三人も今頃、中々のがっかり感に襲われているだろう。

 

 

しかし、今のが全力かというと、そうではない。

実際にやった感覚というのは、確かに見ている時とは思いのほか違うことを、

その時、自分は痛感していた。

 

・・・なんとなく、何か掴めそうな気がする。

 

「え、先輩・・・ホントに?」

目を丸くしたエリナに笑いかけて、もうちょっとやらせて、と神機に手を伸ばす。

 

見えていなくても、「そうでなきゃ」と

リッカがいまごろ不敵な笑みを浮かべているだろうな、と思ったのだった。

 

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