「えっ、ちょっ待、それ先輩無茶!無茶だって!」
エリナが洒落にならないとばかりに必死に止めようとしていたが、
やろうとしていることが危なすぎて近づけないでいる。
ぎゅおん。ぎゅおん。
『うーん・・・まあ、そういう発想になるよねえ』
『・・・止めなくていいのか、あれは』
ぎゅおんぎゅおん、ぎゅるおおん。
神機から異様な音がするが、まだいけるという手応えが伝わってくる。
それはチャージスピアの持つ機能・・・チャージグライドの為の、
オラクルを溜める機構から発されている音だった。
先端がハンマーになったゲテモノスピアも、
それ以外はチャージスピアなのだから当然、チャージグライドが出来る。
問題は、その形状でやったらどうなるか、というところだ。
『さっき普通に突いても、つんのめってたし・・・
あれって基本、通り過ぎることを前提とした出力だからさ・・・』
『つまり、ぶつかった時点で破砕できなければ隊長は・・・・・・トマトか』
「せ、せんぱーい!!」
流石に心配そうなその解説と、
それを耳にしたエリナの若干涙声なシャウトが聞こえてくる。
が、漠然と、いけると感じていた。
形をどんなに変えても、自分の神機、そのコア部分は唯一のものだ。
それが、これくらいは問題ない、と訴えかけてくる。
少なくとも、衝撃の過負荷で破損するのは急造で取り付けたハンマー部分で、
替えの利かない主軸部分は問題ないという確信があった。
本気で止めようとしないリッカやギルもそんな予測を立てているのだろう。
・・・自分の身に関しては、何かしら考えがあるはず、
という信頼を寄せてもらっているのだと思いたい。
そして、それは概ね間違いではない。
むしろ近くにいてはエリナの方が危ないので、離れて、と注意してから前を見据える。
ボルグ・カムランの盾の表面で、憎たらしい顔が歯を剥いている。
これを派手に砕いてやる、と意気込みを腕に込める。
すると、うぉん、と手の中の相棒が一瞬強く振動したのを感じて、
自然と笑みが浮かんできた。
なにも、自分が飛んでいく必要はないのだ。
打撃面を広くして、充分な質量に加速をつけ叩きつける。
神機にそれができるパワーがあることは既に実証済みなので、
あとは安全性、安定感の問題。
であれば。
『あ』
と、リッカが声を上げた。
それは今まさに身構え、全力で突撃するものだと思っていた神機使いが、
・・・てこてこと何気なく歩いて。
限界まで力を蓄えた神機。その先端を、こつん、と盾に押し付けたからだった。
そして一度接触した神機は、盾の表面からほんの僅かに先端が離れる。
その間には、拳一つ分の空隙ができる。
・・・その瞬間。
ボルグ・カムランの盾は、凄まじい爆音と共に放射状に弾け飛んでいた。
「~~~~っ?!」
声にならない悲鳴を上げて、エリナが両耳を塞いでいた。
しかしそれも、砕けた盾の一部が散弾のように飛び、
反対の壁に派手にぶつかる轟音で掻き消される。
・・・ようやく静寂が訪れた時、辺りには砕け散った破片と、
それらが個々のオラクル細胞となって霧散していく黒い煙がいくつも立ち上っていた。
そして、その衝撃が過ぎ去った直後。
『完璧!!』
急に響いたそんな声に、放心していたエリナが、びくーんと肩をすくませていた。
『今の、すごく参考になるよ!二人ともちょっと上がってきて!』
というリッカの興奮した呼びかけに急かされて、
エリナが慌てて立ち上がり、当惑顔で自分の隣についてくる。
そしてモニタールームへ集合すると、
リッカとギルが今のリプレイ映像を、食い入るように見つめているのだった。
「てっ・・・手を離したぁ?!」
素っ頓狂な声を上げたのは、エリナ。
どうやってあれを壊したのか・・・というか、何をしたのか。
そう訊かれて答えた方法は、極めて単純なものだった。
「信じらんない・・・それであんなことになるの・・・?」
「でも・・・なるほどね。それならチャージグライドに使うエネルギーを、
余すことなく対象に伝えられる・・・」
突撃するのではなく・・・その距離を可能な限り短くし、
溜めた力を一瞬にして解き放つ。
ただしそれを持ったままでは腕ごと持っていかれてしまう危険があるので、
その瞬間、ポールを握る手をゆるめておく。
すると、神機は手の中を滑り、
僅かな距離を高速でスライドして目の前の物体を思いきり叩く。
・・・という、単純な構図だ。
「進まず、ただ突くためのチャージグライド・・・
そうか、そういうブラッドアーツを、隊長は使ったことがあったな」
と、ギルが合点がいったように言ったので、それには微笑んで頷き返していた。
仕組み的にはその通りなのだ。
ただ重すぎるために、腕で突き出すことを諦め、
勢い全てを神機任せにしたのが今回のアレンジだった。
「その結果があれで・・・これか」
ギルが複雑そうな表情でその手元を見る。
そこにはクロガネ型のチャージスピア・・・
その先端がひしゃげてしまった、自分の神機がある。
「うーん・・・外装は見たまんまだし、出力系にもかなりの負荷がかかったから、
ちょっと休めないとダメだねこれは」
と、検分していたリッカが結論付ける。
予想通り、取り付けていたハンマー部分は、衝突の際に吹き飛んでしまっていた。
そのため刀身部分はフレームごとがたがただが、
基幹部分に損傷はないとのことだった。
リッカ曰く、ブラッドレイジ終了時のように、
全力を出し切った反動・・・いわば、バテている状態らしい。
たった一度の突きでそこまでなのだから、
よほど無茶をさせてしまったのだろうと、苦笑せざるを得ない。
おつかれさん、と心の中で労いの言葉をかけてから、
休眠状態のそれをリッカに預けることにしたのだった。
あとがき:
やっと主人公らしい無茶をして頂きました。多分チャージドライバー系列の黒BA。