初恋ジュースはお湯割りで   作:ポラーシュターン

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情熱に息継ぎを

リッカが悩んでいる。

それに気づいたのはギルが最初だった。

 

彼曰く、

最初は漠然とした違和感だったのだが、

最近になって、やはりいつもと違う、と思い始めたのだそうだ。

 

次いで、

ダミアンさんから「そういえばたまに憂鬱そうにしている」という話を聞いて、

その違和感は確信へと至る。

 

そういう視点で思い返すと、自分も心当たりがある。

 

ふとした時、彼女が愛想笑いをする。

 

それだけ聞くと、それぐらいおかしくはないと思う。

もちろん、誰だってそういった振る舞いをすることはある。

 

しかしそれが決まって神機の話で盛り上がっている時だ、となると、

なるほど彼女に限ってそれはおかしい、となる。

 

彼女が本当に熱意を込めているはずの事に関して、

そういう表情を見せるようになったのだ。

 

そして何より奇妙なのは、

憂鬱そうにしている、というほど分かりやすい違和感ではなかったこと。

 

ナナに訊いてみた時には、

「二人ならとっくに相談に乗っていると思っていた」という驚きを返されてしまった。

 

それほどリッカの変調は周囲に分かりやすく、

最近気づいたというのはむしろ、自分達だけのことらしかった。

 

それは、彼女が自らの変化を分かっていて、

自分とギルには隠そうとしているという事だった。

 

 

果たして、それは何故なのか。

 

 

「あちゃ・・・伝わっちゃったか。二人とも鋭いね」

悩んでも仕方が無いと、二人は率直にそう訊いていた。

 

そして彼女は、最初に片手を額に当てている。

 

それは思いのほか軽い調子ではあったものの、

隠し事がばれてしまった、という素振りだ。

 

「あー・・・自分でも、らしくないとは思ったんだけどね・・・

やっぱり変に意識すると余計にダメだね」

 

と、彼女は独白する。

 

隣で話を聞いているギルも、心配そうにそんな彼女の仕草を見つめている。

 

「実は・・・」

そしてリッカは、一つ深呼吸をしてから、

少しの微笑を浮かべ、あっけらかんと言った。

 

「・・・新世代神機の開発をね、やめた方がいいんじゃないかって思ってるんだ」

 

 

「ん、な」

ギルが絶句して、身を乗り出していた。

 

信じられない。それが本心だった。

 

「急に、どうしたんだ」

「急にじゃないよ。ずっと考えてた」

とリッカは笑顔で言う。

 

その笑みが、

神機を弄って楽しそうにするいつものリッカと変わらないものだったので、

二人はますます混乱する。

 

三度の飯より冷やしカレー、それより神機を愛するのがリッカではなかったのか。

 

そう言うと、リッカは驚く二人を面白そうに見てから、

「もちろん作ってみたいとは思ってるよ」

と言った。

 

「最終的な目標にしているのは変わらない。

ただ、やめた方がいいっていうのは、一時的にでも・・・うん、

今の計画については、凍結させるべきじゃないかって話。

・・・あ、こないだ協力してもらったのとはまた別件だよ?

あっちは絶賛考案中さ」

 

完全に諦めたわけではないと知って、

ギルが、自分のことのように肩を落として安堵しているのが見えた。

 

とはいえ、不可解であることに変わりはない。

 

興味と好奇心を燃料に、これまでひたすらに邁進してきたリッカなのだ。

 

自分もギルも、それに少なからず関わっているからこそ、その情熱を知っている。

それがここへきて、急に冷え込んだとは思えなかった。

 

「うん、まあ・・・言い方が悪かったかな。

ただ、ここで一度立ち止まって、振り返ろうって思っただけだよ」

 

なんでもないことのように言うが、それで納得できる話でもない。

 

「理由を聞かせてくれないか」

「・・・うーん」

 

リッカは頬をかいて迷う仕草をする。

 

それは不思議と、言いたくない、という素振りには見えない。

 

それよりかは、二人に聞かせたくはないという配慮からきているように見えた。

 

「バレちゃったし、仕方ないね・・・」

 

リッカはそこまで聞かれて尚はぐらかすのも逆に不安にさせると思ったのか、

白状するように溜め息をついて、言った。

 

ただ、楽しい話にはなりそうにないよ、と彼女は前置きをする。

 

そうしてから、リッカは二人を交互に見比べつつ、話し出す。

 

「今、もっとも期待されている神機の可能性、

それはどんな風になっていくか。ギルはもちろん知ってるよね」

 

「・・・ああ。レトロオラクル細胞を使った、より高度で複雑な制御システムだ」

と、ギルが頷いて、不敵な笑みを浮かべる。

 

非常に個体数の少ないアラガミ、キュウビが持つ特殊なオラクル細胞は、

これまでの技術に革命をもたらすと言われている。

 

それを神機に組み込んだら、という話をしていたギルが、

とても活き活きとしていたのをよく覚えている。

 

リッカもそれを聞いて、うんうん、と頷いている。

 

「そう、それが実現できるのは、持ち手の意志を汲み取った、

神機の自律駆動・・・自ら考えて動く神機。

・・・それはね、それは、素晴らしい機能だと思うよ。今すぐ作ってみたい」

 

だが彼女は「でも」と言った。

 

「・・・これは、もしこんなアラガミが現れたら?という仮想敵を想定した話だよ。

なんなら妄想だと思ってくれても構わない」

 

いつの間にか、リッカは好奇を覗かせる開発者の顔から、

ゴッドイーターの命を預かる、整備士の顔になっていた。

 

そして、彼女はそれを口にし、自分もギルもその内容に、言葉を失う。

 

「神機をアラガミにするアラガミ」

「―――――」

 

すでに、使い手に血の力がなければ神機を停止させる、

という力を持ったアラガミは存在している。

 

しかも、その現象を引き起こすのは限られた個体ではない。

感応種、その全てである。

 

ならばその性質に特化した感応種が現れるという可能性は、充分すぎるほどにある。

 

それどころか。

 

今の極東には、神融種、と呼ばれるアラガミがいる。

 

神機を喰い、自らの身体の一部として取り込むことで、

限定的にせよその力を振るうことを可能としたアラガミ。

 

それらに類するアラガミは、広義で言えばまさしく、

リッカが危惧する能力を既に手にしているのではないだろうか。

 

即ち・・・「己の手足」という形で()()()()()()()()()()()()種として。

 

 

「堕天種にはじまり、感応種、神融種・・・アラガミは進化し続け、

時が経つほどに多様化も進んでいる。それに対して私たちはこれまで、

ずっと後手に回ってきた」

 

新種のアラガミが現れる度に、ゴッドイーターは危険に晒される。

そんな事を何度も繰り返し、

・・・彼女はそんな現場を、その結果を何度も見てきたのだろう。

 

リッカは遠い目をしていた。

 

「だから今度こそは、と思うんだ。

現れうるアラガミの能力を、あらかじめ想定した設計を」

 




あとがき:
吸ってばかりでは続かず、一度息継ぎを挟むからこそ次が美味しい。
それはリッカさんの情熱もそうだろうし、甘ったるい話もそうかと思いまして。
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