初恋ジュースはお湯割りで   作:ポラーシュターン

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鋼鉄に息づきを

 

例えば。

 

手下として、脆弱ながらも即席のアラガミを生成する力を持った感応種、

イェン・ツィーというアラガミがいる。

 

それが神融種になったとしたら。

 

そしてもしも神融種の特性を、その感応能力にも応用できるとしたら。

 

つまりは・・・神機を自身の一部とするだけではなく、

また手下の生成に周囲のオラクルを利用するのではなく。

 

()()()()()()()()()()()()()能力を手にしてしまったら。

 

 

それはゴッドイーターの手にする唯一つの武器が、

その場で敵へ寝返ることを意味する。

 

 

感応種が神融種へと変じた前例はないが、

神融種が血の力に似た感応能力を得た事例は既にある。

 

リッカは、そういう事も在り得ると言う。

 

ほんの僅かにでも可能性があるのならば、その危険を無視することは出来ないと。

 

 

「私たちの技術も進んでいる。でもそれは本質的には戦っている相手と同じもの・・・

神機が、人の手に収まるアラガミであることは変わらない。最初から、今でもね」

 

神機は偏食因子によって並大抵のことではアラガミに捕喰されず、

また使い手のゴッドイーターを捕喰してしまうようなことのない性質を持っている。

しかしその設計に「神機が自ら変質することを選ぶ」ような事態は想定されていない。

 

・・・もちろん、万全の状態からそのような事は起き得ない。

 

だがなんであれ、外的要因という例外は存在する。

 

「これまでになかった要因・・・感応波に対する対策を、私たちは施し切れていない。

そこに追加した機能によって、

より危険な目に遭うようなことには絶対にしたくないんだ。

ただでさえ・・・神機はそのリスクを孕んでいるから」

 

ギルがわずかに身じろぎしたのが視界の端に映った。

 

そのリスクが顕在化するのを、彼は自身の眼で見たゴッドイーターであり、

その結果に関わりもしたのだ。

 

・・・腕輪の破損という、最も容易に起き得る外的要因が生み出した結末に。

 

 

「方向性が間違っているっていう意味じゃないよ。とっても魅力的だ。

・・・本音のところをいえば、いますぐ思いつきを実行に移してみたいよ」

 

そのためには、今のこの設計思想は諸刃の剣なのだ。

そうリッカは結論付けていた。

 

創作意欲を懸命に自制しているという風に、リッカは半笑いの表情で語る。

 

「私たちはね、既に経験として学んでいるんだ。

先に進むことのみに技術を費やしたものが、どうなるかを」

 

今度はギルだけでなく、自分も身体を揺らすことになった。

 

 

神機兵。

 

誰も傷つかずに済むようにと設計されたはずのそれが何をもたらしたかを、

ブラッドは知っている。

 

そしてその末路は今、アラガミの一部として極東を徘徊している。

 

 

「だから、その方向に進むにはもっと知識が必要なんだ。

神機が持ち主に牙を剥くようなことが絶対にないように・・・

何重にもセーフティ機能を施して、はじめて使えるものにすべきだと思う」

 

自分もギルも、それに口を挟むことなどできようはずもなかった。

 

作り手としての矜持と熱意を、リッカは天秤の上に乗せている。

 

ただ面白いというだけで、それを片方に傾けることはできないのだ。

 

 

「・・・ね、楽しい話じゃなかったでしょ?」

と、リッカは眉を下げた表情で笑って、申し訳なさそうに言った。

 

 

自分もギルも顔を見合わせてから、いや、と同じような顔を浮かべる。

 

確かに、楽しい話ではなかったかもしれない。

 

だが聞いて後悔はしていない。

 

むしろ、彼女の熱意が浮ついたものではなく、そして消えたわけでもなく。

今も確かに、静かに燃え続けていることを再確認できて、安心していた。

 

 

「うん、ありがとう・・・って、いや、お礼を言うのもヘンだね・・・」

 

頬をかきながら、リッカがそんなことを言っていた。

 

そんな様に笑いながら、元気づけるようにギルが言う。

 

「先見の明、と言うんだろうな。流石だと思う」

 

いやあそれほどでも、というリッカのへらっとした返し。

 

「・・・だが、そんなに悲観することばかりでもないだろ」

 

ギルがそう言ったのを聞いて、リッカはその目を細め、

口端に薄い笑みを浮かべていた。

 

それはまさしく、そう言ってもらいたかった、という、嬉しそうな表情だった。

 

 

確かに、神機とアラガミ、その境界は今やあやふやなもので、

ゴッドイーターの手の内にあるそれが、

突然その境を跨いでしまうような危険をも内包してしまっているのかもしれない。

 

 

でも。と思う。

 

使い手は、作り手の考えを知らなかった。

だが、作り手も知らないことを、使い手は知っている。

 

そして、たとえ誰も実態を知らなくとも、確かにそれを感じ取ったことはあるのだ。

 

ブラッドレイジシステムを使い、己の神機と、感応波で心を交わした自分が。

あの日、休眠状態だったはずのロミオの神機に助けられた極東支部の皆が、

それを知っている。

 

神機は自分達と一緒に戦ってくれている。

 

それは強制しているわけでもなければ、

ちょっとのことで裏切られるようなものでもない。

 

その絆を繋いでいるのは他ならぬ、彼ら自身の意志でもあるのだと。

 

「・・・いつか私も、ちゃんと彼らの声を聴けたらいいな」

と、リッカが神機保管庫の扉を眺めながら、情感的に呟いていた。

 

彼女は眠っている神機にしか触れた事がない。

 

ひょっとすると、そちらの方が彼女にとっては切なる願いなのかもしれない。

 

もしそれが叶ったら、それはもっと素敵な未来を呼び込むのだろうな、と思った。

 

「うーん・・・間接的でもいいから、どうにか出来ないかな?

・・・例えば、そう、偏食因子を表面にだけ組み込んだ、偏食手袋とか・・・」

 

自分で言った傍から、何を考えているのやら。

 

呆れつつ、安心もする。

 

「・・・それこそ、きちんとセーフティを考えて作ってくれよ」

 

心配そうに言ったギルの言葉に一度きょとんとした後、

リッカが最初に、くす、と笑みを零して。

 

 

・・・束の間、三人で朗らかに笑い合ったのだった。

 

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