「え?髪型?」
設計図から顔を上げて、リッカはこちらと目を合わせた。
その拍子に、後ろで束ねた髪がぴょんと跳ねる。
リッカはそれに手をやってから、先程投げかけられた質問に、ああ、と声を漏らす。
「あー、うん。ちょっと前はこうしてなかったよ。それがどうかした?」
イメチェン?と訊くと、リッカは何を言っているのかまるで分からない、という顔。
やはりというか、彼女はそういうことに関して無頓着だった。
「いや、単に伸びたからまとめたっていうか・・・ヒバリもそうでしょ?」
でしょ、と言われても自分は見たことがないが、
そういえば大森タツミが何か言っていた気がする。
今のヒバリちゃんもいいけど昔のヒバリちゃんもそれはもう、どうたらこうたら。
「はは、彼らしいね」
リッカは楽しげに言う。
ただ、ヒバリの場合はリッカと違う理由なのでは?と思わなくもない。
「え、あー、ヒバリが結んでるのは元からか・・・
じゃあ彼女の場合はイメチェン、だったのかな」
リッカはいまいちピンとこない様子でそう呟いていた。
自分の場合、伸ばす予定はあるのか、と訊いてみた。
「ん?伸ばす?」
察しの良いリッカにしては珍しいことに、この話題だとやりとりが一つ分遅れる。
「いや、そのつもりはないかな。こうしてるのも仕事の邪魔になるからだし・・・」
と、束ねた髪をいじくりながら彼女は言う。
その眼には、なんでそんなことを?という不思議そうな色が浮かんでいる。
「・・・え、似合うと思うって? ・・・はは、いーや、騙されないよ」
ちょっと動きを止めてから、リッカは可笑しそうに笑っていた。
全く冗談ではないのだが、彼女にとっては考えも及ばない姿らしい。
頬を掻きながら、どことなく視線を泳がせていたリッカが、
ふと意地悪そうな目つきをしてくる。
「・・・というか、ひょっとして、キミの好みってそういう感じ?」
今の俺のムーブメントは・・・髪、だ。
・・・ではなく、単にちょっと思っただけだと弁解するのだが、
彼女は矛先を変えない。
「極東には髪の長い人って少ないけど・・・ああ、ユノさんとか、まさにだね?」
極東の歌姫の姿を思い返し、確かに、と思うが、素直にそれに頷くのは罠だ。
断固として無反応を貫き通すと、リッカは楽しげに肩を揺らす。
「ごめんごめん。でも君って普段そういう話しないからさ、つい、ね?」
お手上げのポーズをすると、リッカは「あはは」と声を上げて笑っていた。
「ああでも、ユノさんで思い出したけど・・・私も小さい頃は、
お姫様みたいな恰好に憧れてたかな」
小さい頃?と訊き返すと、
「うん、何か言いたいことでもあるのかな?」とにっこり笑顔を返された。
謝辞。
「うん、よろしい。というわけで私も、まったく気にしていないわけじゃないよ?
・・・ライフスタイルと合わないだけで」
さもありなん、とリッカの苦笑に合わせる。
「まあ、いつか引退したら・・・とは思わなくもないけど、ね?」
自分で言いながら、それは想像できない、という半笑いの表情だった。
同じく、リッカが整備士をやめた姿など想像もつかない。
だがそれがまた前向きな姿なら、それはそれで見てみたい気もする。
「んん? んー・・・それじゃあ、まあ、キミにも長生きしてもらわないとね?」
リッカはちょっと困ったようにも見える笑顔で言った。
確かに、整備士とゴッドイーターの平均寿命を比べたら、その差は歴然だろう。
単にそういう事を言っているのかと思ったら、
彼女は壁を見つめ、照れくさそうに呟いていた。
「・・・ふふ、引退後か・・・その時、キミが私の近くにいるんだ?」
考えたことのない未来予想図。
それはことのほか、彼女にとって心くすぐるものがあったらしい。
保証はできないけど、努力はするよ、と言うと、
現実主義だなあ、と呆れられてしまった。
「でもま、何事も現実的じゃないとね・・・お姫様は無理でも・・・・・・」
と、言葉を濁して、視線をくるりと一回転させてから。
「まあ・・・その時、キミがどうしてもって言うんだったら、考えてみてもいいよ?」
・・・前髪をつまみながら言ったリッカの横顔には、
その時が楽しみだ、と書かれているようにも見えた。