初恋ジュースはお湯割りで   作:ポラーシュターン

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弄りがいのある人

「あーあ、どうしても神機の話になっちゃうなあ。ごめんね?」

 

両手をついて天井を仰ぐように見上げ、ちらっとこちらを見て、

リッカはそんなことを言う。

 

何故謝るのかまるで分からないが、

リッカから神機を取り上げたら何が残るんだ、と思う。

 

「あーっ、ひどいなぁ!」

・・・思っただけのつもりが口に出ていたらしく、

しまった、と口を抑えるも時すでに遅し。

 

「流石に傷つくなぁ、私だってこれでも・・・」

と何か言いかけたが、今の顔がオイルで黒白なのを思い出したのか、

「説得力ないか・・・」と肩を落としている。

 

彼女の仕事であり趣味である整備士としての諸々は、

そのまま彼女のアイデンティティになっていると思う。

 

決してそれが悪いとかそういう意味ではないのだが、彼女としては複雑なようで。

 

「・・・いいよ、どうせ神機弄りしかすることのない無趣味な整備士だよ・・・」

と、そのうち完全にへそを曲げてしまった。

 

自分も神機が好きだし、と弁解にならない弁解を試みるも、

「どういう意味かなあ・・・」とアンニュイに呟くリッカ。

 

どうも本気で落ち込ませてしまったらしい、しまった、

言い過ぎたと慌てて謝るが、無反応。

 

これはいよいよまずいのでは、と焦り始めたのだが、

その辺りで、ふふ、と彼女の口端から笑い声が漏れた。

 

「・・・キミってやっぱり、面白いね?」

悪戯っぽく微笑むリッカ。

 

してやられた、と苦笑してしまう。

 

途中からは、こちらを焦らせるためのお芝居だったようだった。

 

 

ただそのうち幾らかは本気だったろうし、どのみち失言なのは間違いなかったので、

それでもと一応謝っておく。

 

 

「大丈夫、気にしてないって・・・っていうか、事実だしね?」

 

彼女が神機に触らない日はない。

 

それは彼女の仕事であり趣味でもあって、彼女のアイデンティティの大半でもある。

 

ただ、それならば、と思うことがある。

 

実際のところ、彼女の方から神機以外の話が振られることはほとんどない。

 

 

なので、あえてそれとはかけ離れた話題をこちらから振ってみたらどうなのだろう。

 

 

そしてかけ離れた話題とは、即ち。

 

「へ、話を戻すって・・・? あ、あぁ、ギルがどうしてるかって話か。

そうだね、いつの間にかキミの話にシフトしちゃったけど・・・」

 

先程まで作業していた新型神機のことが頭に残っているらしいこともあってか、

リッカはついつい神機やアラガミの未知の部分に興味が飛んでいく傾向にある。

 

ただ、それと関連する話題であることに間違いはないので、

彼女も不思議そうな顔はしない。

ギルも神機弄りが趣味だよね、と呼び水としてそんなことを口にする。

 

「そうだね・・・活性化してる神機に触れるのは結局、持ち主だけだからね」

 

ギルの神機のチューニングに付き合っていた時も、確かそんな話をしていたと思う。

 

「私たちが戦場についていくことは出来ないし、その場でもし不調が出ても、

自分でなんとかできるっていうのは素晴らしいことだと思う・・・

もちろん、そうならないように整備しておくのが私たちの仕事だけど」

 

と、また仕事の話に逸れていくリッカに苦笑しながら、最近のことを訊く。

 

「うん?うん、ギルともこういうことはたまに話すよ」

極東に来てから神機に興味を持ったというギルは、

神機のメンテナンスのこともそうだが、

最近はリッカにもあれこれ質問している姿をよく見かける。

 

今となっては、感覚的にしか分からない自分より、

神機の仕組みについてはよほど詳しく、話も合うだろう。

 

「え、うん・・・うん?」

 

なので、神機繋がりで、他の話題と言えば、と思い、

そういうつもりで訊いたのだが。

 

リッカはこの段になって、ようやくその趣旨を理解したようだった。

 

「え・・・え、うえぇっ?!」

 

そのオイル塗れの真っ黒な顔では分からなかったが、

しかしその時、耳までが赤くなったのを確かに見た。

 

「いやっ、その・・・そりゃ、神機の調整のことはよく話すし、

第四世代の感応制御の設計の話とかまで出来るのは、

ゴッドイーターのみんなはもちろん、整備班を含めてもギル、ぐらい、だけど・・・」

 

やはりその手の話には疎いらしく、リッカはしどろもどろにそんなことを言う。

 

「う、え、ええと・・・そんなこと、考えたことなかったな・・・」

 

概ね予想通りではあったが、予想以上に新鮮な反応を見せるリッカが微笑ましくて、

つい横顔を眺めてしまう。

 

「うーん・・・っていうかなんでキミにそんな事心配されなきゃ・・・

よりによって・・・いや、そうじゃなくて」

 

と、しばらく悶々としていたらしいリッカ。

 

そして彼女は恨めしげにこちらを一瞥した後、

深々と溜め息をついて。

 

「はあ・・・喋っているのはだいたい私の方なのに、

なんでいつも主導権、取られちゃうかなあ・・・」

 

そんなことをぼやいていた。

 

確かに、こと神機の話を中心として語り役なのは基本的にリッカの方だし、

極東支部のお悩み相談所と化しつつある自分は、いつも聞き手に回る事の方が多い。

 

しかし、リッカが言うほど会話の主導権を握ってなどいるだろうか。

 

今まで特にそれを意識したことがなかったので、こちらとしては反応に窮してしまう。

 

急に矛先を向けられ、困惑するこちらの様子を、リッカはどこか不思議そうに見ていた。

 

しかしやがて、彼女はふっと息を漏らして苦笑する。

 

「ま、それもキミだからかな・・」

 

と、目を細め、何やら諦めたような風に呟いていた。

 

どういうことかと尋ねると、秘密、とだけ言われてしまった。

 

 

含みのあるその笑みはしかし、先程よりは幾分、穏やかな色の方が多く含まれている。

 

 

何を言われたのかはよく分からなかったが、その横顔はどこか吹っ切れたように

晴れ晴れとして見えたので、不思議と悪い気はしなかったのだった。

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