蛇足とかいわない。
それは、ラウンジで軽食を取ろうかとカウンターに腰かけていた時のことだった。
「なあ、隊長」
振り向けば、そこにはギルがいた。
そして、その微妙な表情を見ただけで、
何を言わんとしているのかが大体分かってしまう。
先んじて、アバドンさんのことか、と苦笑しながら言ってみた。
するとギルは口元をひきつらせ、
「・・・やめてくれ、マジに反省してるんだ」
と呻いていた。
一言詫びてから、ギルへ同席を勧める。
数瞬だけ迷ってから、隣の席に座ったギル。
そしてギルは、落ち着くなり、溜め息をついていた。
「いや、悪いな・・・だが、どうもうまくいかなくてな・・・」
何が、と問うまでもない。
先日リッカにちょっと失礼なことを言ってしまったギルは、
あれ以来、彼女に頭が上がらないらしかった。
「神機の新設計のことで話したいことがあってな、
話にいくんだが・・・どうにも気まずい」
本来であれば、ちょっとした笑い話で済むはずだったのだ。
例えば、言ったのがギルでなく、ロミオやエミールであったなら。
あるいは、言われたのがナナやエリナであったなら、
それこそ殴り飛ばして終わりだったろう。
そもそも、リッカはどちらかと言えばユーモアの分かる人柄で、
その程度は笑って流せる大人の女性でもある。
しかし今回に限っては、なんといっても間が悪かった。
その時のリッカと自分は、ちょうど所謂「その手の話題」をしていて、
意識がいつもと違う方へ向いていた。
それゆえ、その時の彼女の心が、
普段よりも「乙女的センチメンタリズム」――――
それとなく相談してみた際、真壁ハルオミが恥ずかしげもなくそう呼んだ心理状態――――
であったために、本来微笑ましい類であったはずの失言はその場で解消しきれず、
なんとなく禍根を残す形になってしまったのだ。
むしろアバドンってかわいいし、そう言ってあげたら?と提案してみる。
女性の顔を一瞬にせよアラガミと見間違ったという点でやはり問題なのだろうが、
コンゴウやらオウガテイルやらに比べれば、アバドンはかなり愛らしい造形をしている。
しかしギルは閉口して、
「・・・それじゃなんのフォローにもなってないだろ、茶化すんじゃない」
という反応。
半ば以上本気の助言だったのだが、そう言われては仕方ない。
そして何より、ギルは十割は本気で悩んでいた。
「向こうも、そこまで根に持っているわけじゃないみたいなんだが・・・」
というよりはむしろ、珍しく感情任せの態度に出てしまったことを、
彼女の方が悔やんでいる節さえあった。
つまりは、怒り慣れていないのだ。
彼女の視点からすれば至極当然の反応であったと自分もギルも思っているし、
女性陣に今回の件を知られたら、「あのリッカさんになんてことを言うのか」
と外野からも鉄拳制裁されかねない案件だというのが共通見解なのだが、
そこは常識人ゆえの苦悩なのかもしれない。
それゆえ余計にこじれているというか、お互いにどうしたものかと燻っている状態だ。
ギルもどちらかと言えば自身に非を探し、見かけによらず抱え込むタイプでもあるので、
むしろ思いきり怒ってくれた方が謝りやすいと思うのだろう。
色々と不運が重なった結果ではあるが、この場合どこに非があるかと言えば、
自分達二人の連帯責任である、と言うこともできる。
・・・むしろ、デリカシーに欠けるやり取りを繰り返していた自分の方が
罪深いと言われても仕方がない。
なので、自分は全面的に協力しなければならない、一緒に解決しよう、
という旨をギルに告げる。
「ああ・・・お前と彼女がどんな話をしてたのかは知らないが、
まあ、そう言ってくれると助かる」
まさかギルのことで唆していたとは言えない。
「言い訳したくはないが・・・俺は、こういうのは本当に駄目だからな。
ハルさんほど上手くなりたいとも思わないが」
同意しておく。
「ただ、少なくとも・・・世話になっている人には礼を尽くしたい。協力してくれ」
ギルの目に強い光が灯り、それに呼応してみせるように、力強く頷く。
そうして、わだかまりを解消するための、ちょっと大袈裟で回りくどい、
不器用な報謝作戦は始まった。
軽食を作ってきてくれた千倉ムツミが、
決意を秘めた神妙な表情で頷き合っている二人を見て、不思議そうな顔をしたのだった。