初恋ジュースはお湯割りで   作:ポラーシュターン

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仲直りのスペシャリスト

楠リッカ改め、燻るリッカに機嫌を直してもらう。

 

そういう名目で始まった自分とギルの、

謝罪と、埋め合わせと、日頃の恩返しと、その他諸々を兼ねた感謝計画。

ちょっとしたことで大袈裟なという気もするが、

誰かの悩みや困り事の度に、いくらでも派手に騒ぎを引き起こし、

そのうちに細かいことがどうでもよくなるような結果を叩き出すのが、

極東らしいやり方だ。

まさか自分達にそれを当て嵌めることになるとは思わなかったが、

自らを突き動かすのは、そうするのが一番だという漠然とした直感だった。

ところがそこには思い違いとすれ違いによる、

妙ちくりんに拗れた事情が立ちはだかっている。

先ず、ギルは自分の失言こそが悪いと思っているが、

実際にリッカが気にしているのはそうでもないということ。

それはささやかな一撃でもって解消されているはずで、

彼女がもやもやしているのは別問題。

そしてその大本は、もちろん自分があれこれ言ったせいであることだが、

内心の葛藤について、おそらくは、

その理由の全てを本人さえも分かっていないであろうということ。

なので、ただ謝るだけでは解決しない。

 

が、お互いそんな心境を説明もしづらい。

 

かといって、このままなんとなくふんわりとしているのも気まずい。

 

では、どうしたものか。

どこかに、乱麻を断つ快刀はありはしないだろうか。

その手のことに疎い二人が知恵を絞っても、

発想に限界があるという結論に行き着いた自分達は方針を見出す。

 

 

 

・・・・・・それは所謂、聞き込みという名の地道な前段階だった。

 

「ええ~?リッカさんを怒らせたぁ?」

 

その素っ頓狂な声に、慌てて二人がかりでその口を抑えていた。

「もごもご」

最初の相談相手・・・香月ナナは、興味津々という顔でギルと自分を見比べつつ、

そんな状態でもお構いなしに何事かを喋ろうとしていた。

 

人聞きが悪いと咄嗟に出た行動だったが、よくよく考えると、

相手はリッカ以上に開放的な出で立ちをしたナナ。

 

それを二人で取り押さえているのはどこからどう見ても犯罪的な光景だったので、

慌ててその手を離す。

 

「ぷは」

 

と、半目になって、ナナ。

 

「いやはや・・・いったい、二人そろって何をやらかしちゃったのかな~?」

 

語尾を伸ばしてそう訊いてくるその顔は、あからさまにニヤついていた。

 

なにせ怒ったというのが、普段そんな姿を見ることのないリッカで、

怒られたというのがブラッドの隊長と兄貴分なのだ。

 

ナナから見て、そんな話が面白くないわけがない。

ギルが苦い表情をしながら、かいつまんでその事情を説明していく。

真っ黒な顔のくだりで、

「夢中なリッカさんってかわいいよねえ」

とナナも笑っていたが、

 

そこから先はあまりゴシップ向きでもないビターな内容で、

それもギルが真面目な顔で相談しにきていると知って、

意地悪げな表情をやめ、素直に相槌を打っていた。

 

「ふーん・・・?」

 

大体のところを聞き終えたナナは、頬に指をあてながら、

しばらく不思議そうに顎を上げている。

 

そして目をくるりと回し、一言。

 

「なんだか、隊長さん達らしくない失敗だねぇ」

 

誰の何が良いでも悪いでもなく、らしくない、

という彼女の率直な言い方は、なんとも的確だった。

 

「・・・面目ない。だからこそ困ってるってのも、ある」

「あはは、なんか新鮮~」

 

ぐうの音も出ない二人を見てナナは朗らかに笑う。

 

そして、そんな様子を見かねてか、ぽん、と手を叩いて彼女は言った。

 

「ようし、ではこの香月ナナが、そんなお二人に助太刀しちゃいましょう!」

 

ナナがこんなに頼もしく見えるとは、と後にギルは語る。

 

誰とでも仲良くなれる性格の彼女が立ち上がると、

なんだか急にお姉さんになったような雰囲気だった。

 

「仲直りの秘訣はその気持ちを伝えること!これに限る!」

 

指を立て、ナナは得意げに講釈する。

 

「でも、なんだかややこしくなっちゃったときは、言葉だけじゃあいけないよー」

 

こくこく、と子供のように頷く二人。

 

その内容はすんなりと納得のいくものではあったが、

その時点で二人は、次にナナが何を口にするかを察していた。

 

「気持ちを伝えるのにベストなアイテム!

それは幸せになれる、美味しいもの!そう、なんといっても、お――――」

「悪いが、おでんパンはナシだ」

「ええー!!」

 

・・・ギルのにべもない一言で、ナナ、絶叫。

彼女の猫耳めいた髪が、その心境を表すかのように、ぴーん、と立っていた。

 

「私からおでんパンとったら何も残らないよー?!」

 

自分で言うか、と笑いそうになりながら、

この世の終わりのような顔をしているナナをなだめ、落ち着かせる。

 

ギルも少々申し訳なさそうに、

「聞いておいてなんだが、それを渡しても彼女は喜ば・・・

いや、あー、喜びはするだろうが、解決にならない。

・・・というか、持っていくのがおでんパンじゃ誰の口添えかバレバレだろう」

 

「そっかぁ・・・リッカさん、美味しそうに食べてくれるんだけど、ダメかぁ」

 

お互いの好物をシェアするナナとリッカの光景が思い浮かぶ。

 

おでんパンと、冷やしカレードリンク。

 

意外と合うのかもしれない、と思わなくもない。

 

「うーん、そうだよねぇ・・・おでんパンには私の気持ちが100パーセント!

・・・だけど、渡したいのは隊長さんとギルで100パーセントにしなくちゃだよねー」

「ああ・・・少し違うが、まあその通りだ。すまないが」

「しょうがないかー」

 

と、ナナはすんなりと引き下がり、はてどうしたものかと考え込んでくれる。

 

その割り切りの良さは見習いたい、としみじみ思う。

 

ところがそんな感慨を抱いている間に、

うーんと唸っていた彼女は急にぱっと顔を輝かせ、こんなことを言った。

 

「わかった!それなら私が、それとなーくリッカさんに聞いてみるね!」

 

「な、なに?」

「こういうのはモヤモヤしてちゃ始まらないよ!」

確かにそれはそうだが、と狼狽している間にナナは迷いなく立ち上がる。

「何か良いこと聞けたら教えるから、任せてねー!」

 

そう言って彼女は止める間もなく、ラウンジから飛び出していってしまった。

 

慌てて、その背中を呼び止めようとする。

 

しかしその前に、意外にもギルにそれを制止された。

 

神妙な顔で、ギルは首を振ってみせる。

 

「いや、あれは止めても無駄な時のナナだ・・・

それに、ああいう時のあいつの行動は、そう悪いことにはならない」

と、ちょっと不安げにも見えたが、ギルはそんな事を言う。

 

確かに、一見突飛に見えても、ナナの行動力は不思議と正解に辿り着くことの方が多い。

その行動力を自分達の為に発揮してくれたナナには感謝しておかなくては、

と走り去っていった方を見て、そう思いなおすことにした。

 

「あいつにもそのうち礼をしなくちゃな・・・

だが、俺たちは俺たちでやれることを続けよう」

 

待ちの姿勢ではそれこそ面目が立たない。

二人は聞き込み調査を続けることにした。

 

 

・・・曲者揃いの極東支部の面々にそうした相談をすることが、

どんな事態を引き起こすことになるか気づかないまま。

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