初恋ジュースはお湯割りで   作:ポラーシュターン

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先輩最低です

 

「土下座しかないんじゃないですか」

 

 

 

頼れる後輩、エリナが口にしたのは、情け容赦のない一言だった。

 

「・・・土下座か」

「はい、土下座です」

 

その取り付く島もない答えに、流石のギルも閉口している。

 

エリナはまるで自分がその被害を受けたかのように、腕組みをし、

じとっとした冷たい目線で、二人を低い場所から見下ろしていた。

 

「・・・極東は優しい人ばっかりなので、誰もお二人を責めないと思いますけど。

だからこそ、私があえてその役目を務めさせてもらいますね」

「・・・」

 

返す言葉もなく、ギルも自分も、肩身の狭い思いをして縮こまっていた。

ここで並んで正座した方が良いかもしれない。

 

それぐらい、エリナは辛辣な態度を貫いていた。

 

 

「すごく罪の重いことをしたって、分かってますよね」

後輩として丁寧語が板についてきたエリナだが、それ故か、

あるいはエリナが意図的にそうしているのか。

その口調は普段より格段に硬く冷たいものに感じる。

 

「・・・・・・ああ、とても失礼なことを言った」

「それだけじゃないんですけど」

という、エリナの素っ気ない呟きには、思わずといった様子でギルが顔を上げていた。

 

目が合ったエリナは、女教官のようにすっと目を細めて、さらに厳しい表情に。

 

「・・・もしかして、分かってませんか」

「・・・・・・悪い」

 

頭二つ分は低いのではというエリナから放たれる眼光に負けてしまったギル。

直後、エリナは急に気が抜けたかのように、はあ、と大きな溜め息をついていた。

 

「あっきれた・・・先輩方も、そういうとこはエミールとあんまり変わんないか・・・」

 

そんな独り言を呟いてから、蔑みを通り越して、哀れみの表情を向けてくるエリナ。

あまりにあまりな言い方だが、

何と言われようと、きっとエリナの方が正しいのだろうという漠然とした諦念があって、

二人は何の反論もせず、しょんぼりとするほかなかった。

女性って強い。

口には出さなくとも、俯いた顔でエリナを横目に視線を交わしたので、

ギルもまったく同じことを考えているのが分かったのだった。

 

 

「・・・正直、男の人にそれが理解できると思えないんだよね」

何故こうまで話が拗れたのか、

自分達よりも遥かに理解しているらしいエリナにそれを問うと、

髪の毛を弄りながら、物憂げにそんな事を言われてしまった。

 

さもありなんという感じではあったが、

当事者としてはそれで頷いてしまうわけにはいかない。

 

それでも、と食い下がってみると、エリナは少し困ったような顔で唸った。

 

理由を訊くと、どう言ったものかと数瞬考えるような素振り。

 

先輩のプライドなど元からあってないようなものなので、半ば自棄になって聞き込む。

 

出来の悪い教え子にも分かりやすく、と自虐的に言ってみると、

それには流石のエリナも吹き出して笑っていた。

 

しかし「そうじゃないよ先輩」と彼女は言って、迷っていた理由を告げる。

 

その答えは思いがけないものだった。

 

「理解されたらされたで、リッカさんが可哀想だから」

「な・・・」

 

内容は分からないが、それを知るべきではない、ということだ。

本人へ謝るために聞き込みをしていたら、

本人のために答えは知るなと言われてしまったのだ。

 

唯一の解答だと思っていたら先が行き止まりだった状況に、

流石のギルも途方に暮れたようだった。

 

「じゃあ、どうすればいいんだ・・・?」

「分からないなりにやってみるしかないと思うけど」

 

一応、愛想が尽きたというわけではないらしく、エリナは色々と教えてくれる。

 

 

・・・曰く、蒸し返すな。曰く、言外に伝えろ。などなど。

 

 

ただ、やはりその内容はわざと理由をぼかしていて、

具体的なことは言わないようにしているようだった。

 

そこは他人に教えてもらったり、見様見真似だけでは意味はないから、

後は自分で考えろ、ということなのだろう。

 

御尤もだった。

 

 

そしてエリナは最後にまとめを告げる。

 

「何かしたいって気持ちは褒めていいとこだから、まずは方向修正した方がいいよ。

謝るとかじゃなくて、その件とは無関係に何かしてあげること」

 

含蓄のある教えを後輩から授かった二人は、その後もあれこれと駄目出しをされてから、

後はなんとかなるはずというお言葉を頂戴した。

 

 

二人はひとまず礼を言って、内心では首を傾げながらその場を立ち去ることになる。

 

曖昧ながらも不思議と的を射ているように聞こえたエリナの言葉は、

ある意味でやはり最も解決に近い助言だったのは、後々になって分かったことだった。

 

腕組みをしてその背中を見送るエリナは、情けない兄に呆れたような眼ではありながら、

慣れないことに奮闘する弟を応援するかのように、淡い苦笑を浮かべているのだった。

 

「・・・ふむ、珍しい顔つきをしているなエリナ。まるで慈母神のようだ。

いつも荒れ狂う戦乙女の如く戦場を駆ける君に、

どのような奇跡が起きればそうした表情へと至るのか、俄然興味がある。

ラウンジで紅茶でも飲みながら是非聴かせてもら――――」

 

「アンタは誰よりもデリカシーを勉強しろ!!」

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