この世界がループしていることを俺は知っている 作:超高校級の切望
魔法の絨毯は高いらしい。つまり、使用者が魔法で浮かばせているのではなく、魔法で飛ぶように調整した絨毯を操っているようだ。
そして箒は小学生ののび太に乗れれば乗れというあたり、自転車にあたるのだろう。
「野比君、君はこんな事も出来ないのかね? 物体浮遊術は魔法の基本ではないか」
クスクスと響く笑い声。出来ない誰かを侮辱する笑声は、科学世界も魔法世界も変わらないらしい。
ぬいぐるみを浮かせていた先生は教卓におろすとやってみなさいと促す。当然、やったこともなければ学んだこともないのび太に出来るわけがない。
因みに呪文は『チンカラホイ』。この呪文一つで様々な魔法を発動出来るらしい。
学校終わりの野球でチンカラホイとボールを増やし、チンカラホイと浮かぶバッドを召喚し、グローブを増やす。
守備もベース移動も箒を使う。
のび太は打てなかった。アレだけあるボールの一つにも当たっていない。周りの反応からして、こちらの世界ののび太も落ちこぼれらしいが何故誘うのだろう。
「………歴史はだいたい似たようなものか」
科学の代わりに発展した魔法、魔法道具。戦争も銃弾の代わりに魔法が飛び交い、飛行機の代わりに絨毯や箒が爆弾を落とす。
船も形こそ戦艦のようだが動力部はなし。魔法で動く。
逆に科学が迷信とされている。発展しないどころか科学世界の魔法よろしく存在しないものとして扱われているのだ。なので魔法少女マミもこちらの世界では科学少女マミ。
最も、その科学もだいぶ無茶苦茶だが。因みにドラえもんは未来から来た猫型魔法人形。恐竜は過去に居たらしい。
大まかな歴史の流れは同じ。偉人、戦争、革命、同盟、発展………元の世界の似たようなものだ。それが過去から形作られたからなのか、或は隣接する平行世界では歴史の転換は影響し合うのか………。
「大抵の魔法ならESPで再現可能だが…………さて、のび太達を石に変えた奴等はこの魔法世界にいるのかね?」
箒の上に立ちながら街を見下ろすマワリ。とんでもないバランス感覚。
ニンニン修行セット『水上歩行の術』に入っていた水ぐもで練習した成果だ。
「さて、毎年起こる大冒険は、この世界に関係あるのかね」
と、不意に空を見上げるマワリ。
真っ昼間からよく見える流れ星があった。太陽の光が散らばった青空でもよく見えるはずだ。何せ光を飲み込む黒い炎に包まれているのだから。
「………消えた」
轟音もなく、唐突に消えた。燃え尽きたのか、あるいは。
「行ってみるか」
「あ、マワリ!」
「のび太にドラえもん。しずかちゃんもか」
森に向かって飛んでいるとしずかに乗せてもらったのび太とタケコプターで飛ぶドラえもんがいた。
彼等も森に向かっているらしい。
「いいなあ、マワリはもう魔法が使えるんだ」
「常日頃から訓練してるからな」
ESPをだが。
「それより見えてきたぞ。星はあの辺りに落ちた筈だが…………」
森の一部が枯れていた。焼け焦げたのようにも見える、黒く染まった森。枝に触れるとボロリと崩れた。
「ただの流れ星なんかじゃないぞこれは…………!?」
突如爆音。森の一角が吹き飛んだ。
土煙から飛び出してきたのは黒い動物。猿にも猫にも見える。羽もないのに空飛んでた。
忌々しげに土煙を睨めば慌てた様子のジャイアンとスネ夫。黒い猿は直ぐに飛び出す。どうやらあの猿が2人を襲っているらしい。
「ギミイィィィ!!」
毒々しい紫の雷が放たれ2人に当たる。一瞬黒い膜に覆われ、箒が墨に変わり2人は落ちていく。
「チンカラホイっと………」
超能力で浮かせる。2人の下を何かが通り過ぎた。
魔法の絨毯だ。上に乗っている少女が驚いた様子で2人を見上げた。脇見運転だ…………木に突っ込みそうになり慌てて飛び上がった。
「ふぅ……危なかった。ええと、大丈夫?」
「とりあえず、絨毯に乗せていいか?」
「ええ」
ニコリと微笑む。その笑みをみた宙吊りのジャイアンとスネ夫は頬を赤く染めた。確かに相当な美少女だ。
「貴方達、大丈夫だった?」
「「は、はい…」」
「すごい絨毯さばきでしたね」
「ありがとう。これでも絨毯のA級ライセンス持ってるから」
と、その時。ザワザワと森が揺れる。鳥が慌てて空へ逃げた。
「また地震………」
「ま、またこんなに大きいのが………」
「ま、またって…………?」
こちらの世界ではここ最近連日大きな地震が起きているらしい。スネ夫がこの世の終わりだーと叫ぶ。
「早くここを離れましょう! ここは怪しげな気配で満ちているわ。この森が枯れてしまったのも、何か強い魔力を浴びたせいよ」
怪しげな気配。さっきの猿か? あるいは、もっと別の何か。まあ、さっきの猿が近くにいる可能性を考えれば長居するべきではないだろう。
「あ、僕のドイツ製が!」
「俺のも!」
「このまま連れて行くから大丈夫。貴方達ものる?」
魔法の絨毯はこの世界では車に相当する。絨毯を持たない家庭は憧れがあるのか、しずかちゃんが乗り、魔法に憧れたのび太とドラえもんものった。
マワリもせっかくなので乗ることにした。
やがてたどり着く湖畔の屋敷。動く石像が矢を構えようとしたが少女に止められる。
「うわあ、すごい警備」
「これは魔物に対する備えよ」
「魔物?」
「そう、最近地震や異常気象が増えているのは……魔界星が近づいて行きているからだって、父が言っていたわ」
「魔界星………?」
扉を開ける。
中は教会のような作りになっており、明かりがない。
「真っ暗だ…」
「パパ、私よ」
と、少女が呼びかけると扉が勢いよく閉まる。唯一の光源を失い暗闇に閉ざされるなか、部屋を照らす光が灯る。
「ようこそ皆さん。魔物に出会ってその程度の傷とは、君達は運が良い」
部屋中に飾られたステンドグラス。その中の一つ、禿げた小太りの男の絵が、そのままニュッと飛び出してきた。
「傷の手当てをしてあげよう。奥の部屋にどうぞ」
「あ、貴方は!」
「満月牧師!」
「如何にも、私は満月だ」
確か、魔法学の研究者だったか。科学世界では宇宙研究の権威だったか…………。魔界星……こっちでも星の外に関わる仕事か。
「満月牧師、魔物って言ってましたけど。あの黒い流れ星も、魔界星っていうのと何か関係があるんですか?」
「……………今、恐ろしいことが地球に起ころうとしているのだ」
満月牧師の娘、満月美夜子に治療されデレデレのジャイアンとスネ夫。マワリはほんやくコンニャクを食って書庫から借りた本を読んでいる。
「君たちは、悪魔の存在を信じているかね?」
その昔存在した魔法種族。人類の進化に押され、全滅したとされている。だが、満月牧師は古文書を紐解く中、恐るべき真実に気付く。
「我々人類は、元々悪魔から魔法を授かり、今の魔法文明を築き上げたというのだ。そして、その悪魔族とは地球上の生物ではなく、魔界星という天体からやってきたものだったのだ、と」
つまり魔法とは宇宙技術だったのか。なんか、昔見た魔法少女のアニメを思い出す。
魔界星は、歴史上何度も地球に接近した。恐竜の絶滅、ノアの大洪水………地球上の生物を滅亡の危機に追い込む謎の天変地異。それらは全て魔界星の接近によって引き起こされた。
「そして今、その魔界星が再び地球に接近しつつある。だが、私が必死に警告しても、誰も魔界星や悪魔の存在を信じようとせん。しかし、これは事実なのだ……魔界星が、世界の終わりが目に見える所まで来てからでは手遅れなのだ」
のび太がゴクリと唾を飲み込む。
「でも、ママは信じてくれたわ」
「美夜子、ママのことはもう」
「でも、ママは!」
「たとえ誰かを救うためでも、悪魔の力を借りることなど許されることではない!!」
パン! とティーカップが割れた。
「ああ、ワシは………!」
「………怪我はない?」
美夜子がティーカップの欠片を宙に浮かべる。
「美夜子………」
「いいの……ごめんなさい」
「…………………」
美夜子の母親。つまりは、悪魔との契約はどう見繕ってもここ数年の出来事。迫る魔界星………偶然ではないのだろう。
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