この世界がループしていることを俺は知っている 作:超高校級の切望
翌日、大きな渓谷の間を超える一同。
谷に挟まれているが幅が広く、陽の光の恩恵により底には森がある。
「あ、あわわ! ドラえも〜ん!」
「どうも調子が悪いね……」
「今日は、早めに降りたほうが」
「そうだね」
長持ちする方法を選んだとはいえ、無限の電力があるわけではない。そろそろ限界が近いのだろうと己のタケコプターを見るマワリ。時折回転速度が落ちる。
「トロいな〜のび太は」
「いっつもお前がブレーキに──なう!?」
普段ののび太のトロさを知っているジャイアン達はのび太の失態と思ったようだが、スネ夫も回る。
「全部のタケコプターが限界なんだよ! なんとかこの谷を超えちゃおう」
「……………」
ドラえもんの言葉に同意しながら、マワリはふと無数に立ち並ぶ石柱の頂点を見る。
「ねえ、岩が白いよ」
「塩じゃねえの?」
「わ、わ………わー!?」
「のび太さん!?」
それがなにか考える前に、のび太が回転しながら落ちていく。慌ててドラえもんとしずかちゃんが助けに行く中マワリは岩に近づく。この匂いに色………鳥の糞だ。数匹の鳥が同じ場所で用を足す習性………ではないだろう、先端が白い石柱の数からして。
「お前等! 下の森に降りるぞ!」
「え?」
「なんだよ急に、まだ谷を超えてないぞ? ………ん?」
「見てこれ、卵!」
「これって………鳥の巣?」
しかし判断が遅かったようだ。用足の場でさえ、縄張りに違いないというのに卵まで。他種族が卵にここまで接近するなど、明確な敵対行為だ。
「雀みたいな鳥だと良いけど」
「んな訳あるか!」
振り返ったその先に、大量の翼竜の影。キイキイきながら迫ってくる。
「逃げろ全速力!」
ドラえもんの叫びに慌てて速度を上げる一同。彼等をめがけ、翼竜の群れが追ってくる。
「プテラノドン!?」
「違う! もっとでかい!」
「ケツァコアトルス!」
「あのサイズの生き物がなんで自由に飛んでやがる!?」
生物が羽ばたいて飛べる最大重量は筋肉や重量の関係から40キロ前後と言われている。故にあの手の翼竜は滑空していたと考えられるが、めちゃくちゃ自由に追ってきてる。
「うわ!?」
「ジャイアン!!」
と、ジャイアンが回転して落ちそうになるのをのび太が助ける。が、のび太まで回る。
「桃太郎印のきびだんご〜! あう!?」
きびだんごを取り出したドラえもんだったが突き出た石柱にぶつかり回転しながらきびだんごをばら撒いてしまう。
「何やってんだ!?」
「ごめんよ〜!」
「くそ!」
マワリは取り出した骨の笛を吹く。削り方を変えた新しい笛を吹く。
シュアアア! と言う独特の音に何匹かは反応するが、卵に近づかれた興奮状態故に直ぐに向かってくる。
「チッ、駄目だな」
と、その時だ。無数の光がケツァルコアトルの群へ向かい、爆発。
焼け焦げた肉片が辺りに飛び散る。
立ち上る爆煙を突き破るのは二十一世紀初頭時点で判明している航空力学ではまず飛行するはずのない鉄の塊。
反撃も逃亡も行えず、一方的に虐殺される。
この死体、未来の化石として見つかったらどんな死因だったことになるのだろうか、とマワリはふと、そんな事を考えた。
「また会えたね、のび太くん」
話しかけてきたのは黒マスクの男。部下らしき男達はこちらを子供と見下しニヤニヤ笑っている。
「こんなところまで追ってくるなんて!」
「ピー助は渡さないよ!」
「ピュイ?」
名前が叫ばれ、呼びれたかと思ったとかピー助が顔を出す。警戒心がまるでない。動物を自然に返す際の問題にもなっているのだったか?
「ははは。これはこれは、先に言われてしまったね。少なくとも我々は、君の命の恩人なんだがね」
「現在命の危険にさらされる要因となったタイムマシンの故障は、そちらに襲われたからと聞いているが?」
「おお! それは失敬。ぜひ私達の基地に来るといい、部品をお譲りしよう……ただねぇ、何事も無料というわけにはいかない」
ピー助ほど人に懐いた恐竜は、彼等をしても見たことがないらしい。好事家に高く売れるという。
「わかったぞ! 恐竜ハンターだな!」
「タイムマシンを操るだけのことはあるな、タヌキ型ロボット君」
「たぬきじゃなーい!」
キラリと、男の胸に縄に縛られた恐竜を形取ったバッチが光った。
「ねえ、恐竜ハンターって?」
「中生代の珍しい生き物を捕まえたり殺したりして、金持ちに売るんだ。でもそれは航時法という法律で禁じられているんだ」
地球環境、特に原生生物の影響に考慮した結果だ。
例えば人類の祖先が全滅すれば、人類誕生そのものがなかったことになる。
そしたらそもそも環境破壊がなかったことになるのでは?
「ははは、恐竜は沢山いるんだ。何匹狩ろうとどうってことないさ」
と、恐竜の頭蓋骨を模した飾りを使ったドラム缶を打ち抜く恐竜ハンター。あれ、液体燃料で動くのか。
「ピー助は渡さないぞ!」
「まあまあそう結論を急いじゃいけないよ。子供だけの冒険もさぞや大変だろう」
そう言うと、部下達がゼブラ柄の箱を持ってくる。マワリ達の時代の玩具が詰め込まれていた。
「これは私からのプレゼントだ。それに、前にも言ったように相当の代金を払う。それに我々のタイムマシンで、君達を日本までお繰り返してあげよう」
「………犯罪行為を知ってる子供を、素直に? 渡航記録………時航記録? そういうのを、航時法を定めた者達にも知られてなさそうな俺達を?」
こっそり殺して、知らぬ存ぜぬを通せる相手に、犯罪者がそこまでするのだろうか?
「それとも知られてるのか」
「さあねぇ、たぬき君のタイムマシンが古臭いものでなければ、 航時記録が自動更新されているんじゃないかなあ」
場合によってはそのまま誰にも知られることなく殺せる、と。
「勘違いしないでくれ。密猟者が、そのまま人を撃ち殺せるかな? 君のそれは、考えすぎというものだよ」
「…………まあ、否定はしない」
「今夜皆でゆっくり話し合いなさい。あそうだ、私の基地に来ないか。この川下の地下にあるんだ」
「誰が行くもんか!」
「フッ。良いだろう、明日の朝また来よう。早くママのところに帰るか、ここで化石になるか………よぉく考え給え」
その言葉を最後に恐竜ハンター達は去っていく。
スネ夫が名残惜しそうに見送り、後に残るのは川を汚す廃液と玩具箱。
あんなに信用できない交渉は初めてだ。