扇島(みしま)。
岡山県笠岡諸島にある六門島(ろくもんとう)東部へ設けられし、扇型人工島。
建築妖精たちの本領を発揮した『作品』のひとつで、六門島とは表門橋で繋がっている。
艦娘が唯一、島外の人々と交流可能な場所として建設された。
扇島の大きさは、北側と南側がそれぞれ七〇メートル、東側が二三三メートル、西側が一九〇メートル。
およそ四〇〇〇坪で、一.五ヘクタールの面積を有する。
艦娘を籠の鳥とし飼い殺しすることが当たり前だと考えていた日本政府は、人権保護団体や野党や艦娘支援会などからの激しい批判追求が相次ぐ状況に辟易した。
そんな政府高官たちは、おためごかしに外部者との交流用人工島を提案した。
江戸時代の長崎出島が頭の中にあったのだろうか。
妖精たちはそれを逆手に取って、真田丸的な要衝を築き上げつつある。
用意周到にも、建築許可までさりげなく取得して。
扇島の中心的施設は和蘭商館。
長崎出島のオランダ商館を参考にしたらしい。
目ざといオランダ商人のヤン・ファン・マウリッツが『マウリッツ商会』を立ち上げ、この商館を拠点と定めた。
機に敏なオランダあきんどの面目躍如である。
日本政府は始めこれを禁止しようとしたのだが、欧州の貴族や財閥などからの度重なる外圧によってあっさり認めた。
これにより、日本は外交三流国であることを改めて世界へ知らしめることになる。
商館内装の壁紙や天井には和紙に木版で連続模様を刷った唐紙(からかみ)を用い、出島風古典的ビリヤード台も二台置かれている。
一階には洋食屋の『ヘトル亭』があり、艦娘も利用可能だ。
ちなみにヘトルとはポルトガル語で商館長次席のこと。
また商館傍には、保管所としての土蔵が複数作られた。
鹿鳴館を参考にしたと思われる『はいから館』が現在建築中であり、島外の人々と艦娘との社交場として期待されている。
一階には洋食屋の『クルティウス亭』があり、こちらも艦娘も利用可能。
扇島内の畑ではチューリップを栽培する予定で、薬草園と菜園も築かれている。
近いうちに日蘭風菓子屋の波留麻屋が開店する予定だ。
マウリッツの片腕であるファン・レーケとその部下のエッセルは、改めて艦娘たちの美しさに驚いた。
「なんてこった、パリよりも美人が多いじゃないか!」
「ここに来て、ホントによかったなあ。」
「ああ、まったくだ。」
「ところでだな。」
「なんだ?」
「彼女たち、何故ショベルやピッケルなどを装備しているんだ?」
「ああ、なんでもクズモチとやらを作るためにクズバインの根っこを掘りに行くんだってさ。」
「旨いのかねえ?」
「食べたらわかるさ。」
「それもそうだな。」
甘葛(あまづら)作りで味をしめた艦娘たちとおっさんと少年は、次に本葛粉作りへ取りかかった。
最終的にそれは葛餅になる予定だ。
葛粉という名のトウモロコシや馬鈴薯などの澱粉でない、本物の葛粉つまり本葛粉を手作りするのだ!
旨いものを食べたいという気持ちが、意気軒昂に繋がるのである。
例によって例の如く、人海戦術でむにゃむにゃした一行は葛が生えて困った土地へと艦隊を次々に派遣した。
こういう名目なら島外に出られるのは盲点だった。
葛に困った人たちは助かるし、島の住民たちは旨いものを食べられる。
これぞまさに二者両得だ。
よかたいよかたい。
前回参加した数奇者たちや和菓子職人などもちゃっかり参加している。
葛に詳しい霞・間宮・鳳翔・伊良湖などの各隊に別れ、葛だらけの荒れ地に向かう。
日本全国に荒れ地は多い。
至るところ、クズだらけ。
葛よ、葛。みんなクズよ。
葛掘りは重労働だが、人を超えた力が振るえる艦娘たちにとっては丁度いい仕事だ。
掘られた葛の根はほんのりと甘い匂いがして、葛餅を早くも連想した食いしん坊万歳たちがわくわくする。
葛の根は丈夫な繊維質を持ち、静岡県にはそれを使った『葛布』という工芸品さえある。
かなりの量が集められたので、根はけっこう多い。
本葛粉を作った後、葛布作りに取りかかろうという話になった。
葛の根を搾って出た白っぽい液は翌日真っ黒な液に変わり、その上澄みを捨てて本葛粉精製作業が開始される。
精製を終えたら天日干し。
高揚する面々。
では葛餅を作ろう。
粉の五倍の水で溶いて、弱火で加熱して固まってきたらこれを冷やす。
固まった澱粉は水溶性が無いので、氷水にそのまま浸けても問題ない。
冷えたら、きな粉と黒蜜をかけて召し上がれ。
葛湯を飲みながら、ワシは喜びに沸く艦娘たちを見てほっこりした気持ちになる。
「しれいかーん!」
走ってきた吹雪ちゃんが、ワシに抱きついてきた。
甘えん坊さんじゃのう。
おうふっ、そげなとこをぐりぐりしたらおえんが。
「ふふ、司令官の弱点発見です。」
「男なら全員漏れなく弱点じゃ。」
「葛餅ってさ、侘び寂びだよね。」
北上さんが後ろから抱きついてきた。
おうふっ。
付けとらんがな、この子。
ぐりぐり押し付けてくる。
「今夜もいっぱい仲よくしましょうね。」
「そうだね、仲よくするのはいいよね。」
両方の耳から囁かれ、ワシは震えた。
どうやら、今夜も大変なことになりそうじゃ。
ふう。