瀬戸の艦娘   作:輪音

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野草

 

 

 

 

一九四三年、陸軍獣医學校研究部が『食べられる野草』という書籍を出版した。

今回はこれを参考にして、あちこちに生えている雑草野草を入手して食料にする魂胆だ。

無料。

それはなんと素晴らしい言葉なのだろう。

資金自体は欧米でのオークションを通じて入手しているが、やはり無料の誘惑は抗(あらが)い難い。

なにより、人海戦術が使えるのだ。

これを利用しない手はない。

 

芹、薺(ナズナ)、ハハコグサ、ハコベ、ホトケノザ、ギシギシ、スイバ、野蒜(ノビル)。

冬の野草も割合多い。

食料を求めるため、かつて精強を誇った艦娘たちの艦隊が嬉々として野山や河川敷を駆け巡る。

欧州から訪れし諜報員兼任の商人たちはその状況を見て呆気に取られつつも、詳細に報告書をまとめて本国へと送るのだった。

まるで、普通の女の子みたいじゃないか。

日々生きることに懸命なだけじゃないか。

そう思いながら。

現場と会議室の温度差は埋まること無し。

 

 

広島県愛媛県香川県など近隣諸国の数奇者たちが集まった、岡山県笠岡諸島は六門島(ろくもんとう)東部にある人工島の扇島(みしま)の広場。

寒空の下、熱気溢れる人々とツクリモノの娘たちが野草試食会を開催する。

 

「これはまるで春の七草じゃのう。」

「おじさん、これおいしいですよ。」

 

島の元々の住人である井東喜作と鬼頭新一には、真っ先に粥が振る舞われた。

七草粥を土台にした中華粥である。

瀬戸内海の海の幸も入っていて、慈味豊かだ。

粥の入った大鍋の近くでは近隣の料理人やテキ屋たちによる屋台が並び、縁日に似た雰囲気が醸し出されている。

任侠の面々は艦娘たちに対して侍が主君の姫に対するような心持ちで接しており、畏敬の念さえ感じられる程だ。

意外かもしれないが彼らは結構信心深い面を持っており、採算度外視で艦娘たちへ屋台の料理を振る舞っている。

荒くれどもが感じ入るそれは、艦娘たちの菩薩にも似通った気配なのかもしれない。

 

敬虔な異教徒たちに困惑しつつ、濃いめの味付けにしてもらった中華粥を食べる南蛮人たち。

不思議な食感の穀物に野生の香草。

シーフード風味のリゾット的料理。

紅毛人辺りなら喜ぶかもしれない。

幸い、彼らは食に柔軟なのだった。

たまには肉料理を食べたいと思い、のんびり周囲を歩く山羊に目を向ける。

乳とチーズを生み出す存在。

駆逐艦の艦娘が撫でると、目を細めてメエメエ鳴きだした。

じっと眺めていた彼らへと、不意に猪の腸詰めが渡される。

添えられているのは、潰し馬鈴薯に酢と塩を振ったものだ。

視線の先には喜作。

気さくなおっさん。

 

「あんたらの国の味とは違う思うんじゃけど、こちらで手作りしてみたんじゃ。食べてみられえ。」

 

素朴な形の腸詰め。

焼かれたそれは、芳香を放っている。

おそるおそる食べてみた彼らは、思った以上の風味のよさに驚愕した。

どうやら、香草も入っているらしい。

潰し馬鈴薯もホクホクしておいしい。

 

「野草も入れてみたんじゃけど、どうじゃろうか?」

 

オランダ語など喋れよう筈も無い喜作は、お国言葉丸出しで話しかけた。

 

「トテモオイシイデス。」

「ハーブガキイテイテ、コレハヨイモノデスネ。」

「おお、気に入ってもらえてなによりじゃ。まだまだあるけえ、沢山お食べんせえ。」

 

この男が、本当に脅威になるのであろうか?

なにか我々は勘違いしているのではないか?

オランダ人たちは腸詰めのお代わりをしながら、遠い本国へと思いを馳せるのだった。

 

 

春はまだ少し遠い。

 

 

 

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