岡山県南部に位置する笠岡諸島の六門島(ろくもんとう)。
その島で喜作と新一を守護せしケモノたちの統括役たるニホンオオカミの六郎丸と巴は、人間風に言うと大層困惑していた。
その原因は狐の赤ちゃん。
いつの間にか、島にいた。
彼らの警戒網をすり抜けて島にいる。
フクロウの赤ちゃんもそうだったが、なにやら異変が起きているのかもしれない。
ヒトの言葉が話せないとは、こんなにもどかしいことなのか。報告すら出来ない。
その当の赤ちゃんは、疑うことを知らないのか六郎丸と巴に随分となついている。
人なつっこい個体なのかもしれない。
守護者たちの困惑は続く。
大淀さんが手編みの手袋をくれた。
間宮さんが手編みの帽子をくれた。
さっそく装備してみる。
うん、ぴったりじゃが。
まだまだ寒い日が続きょうるけえな、なんじゃあ、洒落た言い方をすると早春賦というやつかのう。
狐とフクロウの赤ちゃんがやってきて、フクロウはワシの肩に止まり、狐はワシの天然襟巻となる。
まだまだ風邪の冷てえ日がちょくちょくあるけえ、あったけえんは大事じゃ。
恒例となりつつある、『食べられる野草』探し。
今回はオカジュンサイとも呼ばれるギシギシが対象だ。
なんせそこかしこにある雑草めいた野草が、蓴菜(じゅんさい)のように食べられるというのだ。
無料と手間暇を天秤にかけ、今回も無料が勝ってしまった。
負けを知りたい。
『極力柔らかめの新芽』という条件で、かつてあの華々しい軍艦マーチで見送られた歴戦の艦娘たちが嬉々とした表情で野の草をむしる。
その姿を彼女たちの上司だった提督たちが見たならば驚愕するだろうか、或いは自ら参加するだろうか。
おっさんや子供と共ににこにこしながら収穫に励む少女たちの表情に、少なくとも迷いなど見られない。
ハーベスト!
あちこちで取ってきたら、よく水洗いして茶色い薄皮を丁寧に取り除く。
その後、毒性を除去するべく、塩水で茹でてゆく。
茹でたら醤油をかけて召し上がれ。
天麩羅にしたり、蕎麦の具にしたり、お吸い物にしたりして口にしてゆく。
異形の娘たちは、同時期に摘んだカラシナのお浸しも併せて食べていった。
お気に召した艦娘がちらほらいたようで、再度探索に出掛ける娘までいた。
喜作はそれを見て、新しい収入源を考えるのであった。
あちこちの島や漁港でダメになったボロ船や老朽船は何艘かタダで貰ってきた。
明石らに頼めば、復活する船が複数あるかもしれない。
腹が、減った。
くうっと鳴る。
今度あんこう鍋が食べてみたいもんじゃと彼は思った。
小粒の大豆を比較的多く入手出来たので、手作りの納豆を作ろうという話になった。
艦娘によって得手不得手はあるものの、栄養価の高い発酵食品を見逃す手などない 。
島で特産品や物産を試行錯誤したりしながら材料探しするのが、艦娘たちの日課だ。
藁集めに勤(いそ)しむが、時期的なせいもあるのか稲藁がなかなか入手出来ない。
中年の喜作が「ススキでもええんじゃないのか。」と言い出したことから方向転換。
枯草納豆の製作が始まった。
大豆を一晩水に浸し、圧力鍋で加熱。
枯草を二度煮してにおいを取り、藁づとを作って煮豆を入れる。
四〇度で丸一日温め続けると完成だ。
現物を見た艦娘たちの歓声が上がる。
よろしい、ならば実食だ。
苦手な者もそれなりに食べられる、好きな者はけっこう好む味わいに仕上がった。
なにか方向性が明後日の方に向きつつあるように見えないでもなくなりつつある。
喜ぶ娘たち。
喜ぶ男たち。
約一週間後。
出島的な扇島(みしま)に住むオランダ人たちから多様なお菓子の詰め合わせを沢山貰い、艦娘たちは文字通り狂喜乱舞した。