海の幸豊富な瀬戸内海。
その岡山県領域に位置する笠岡諸島。
真鍋島や獄門島などのある中に、六門島(ろくもんとう)と呼ばれる島がある。
そして今、その島ではあちこちで貰ったり破格値で購入した廃船的各種舟艇(しゅうてい)の大改修工事が行われていた。
その指揮を取っているのは明石。
従うのは手先の器用な艦娘たち。
ちまちま集めていた資材を投じての大仕事である。
町工場のような作業場は工廠と称していたが、明らかに鎮守府のそれとは比べ物にならない規模のものだ。
きちんと政府にも許可は取ってあるから問題ない。
許可を得ようとした時の、権力の走狗たちの態度は噴飯ものだった。
いや、こう言っては狗が可哀想だ。
そう、外道。
彼らは外道。
古典的な任侠の人たちが最も嫌いし、外道。
役人たちはまごうことなき外道集団だった。
インケツな政府の木っ端役人たちは散々嫌みを言いながら、国の英雄たちにするべきではないような態度を取り続けた。
自分たちの方がずーっと偉いもんね、というまっことあほうな態度を取り続けた。
当事者の艦娘や喜作や新一よりも、監視役のオランダ人たちや間諜たちの方が激怒していたのは印象的であった。
何故彼らがそんなに怒っているのか、島の者たちが戸惑う程だった。
そんなことがあったが、現在絶讚全力投球作業中だ。
熱気の立ち籠る工廠はかなり暑く、水着着用の艦娘などはまだマシな姿の方だった。
「ほれ、あんたら、差し入れじゃ。」
そこへ、島のヌシの気さくな喜作がやって来た。
彼の手には手搾りの蜜柑果汁水がある。
わーっと彼のそばに寄っていく娘たち。
半裸に近い者もいて、おっさんの目には毒であった。
ごくごくと、喉を鳴らしながら飲んでゆく少女たち。
あと数日で全舟艇の一応の改修が終わり、試験運用を行えるという。
シャカリキになっただけのことはある。
誇らしげに胸を反らす明石。
顔を赤くする喜作。
「その、明石さん。見えようるで。」
「はい? なにがですか?」
「その、あんたのお乳じゃが。」
「ああ、おっぱいですか。見ます?」
着ていたシャツを脱ぎ出す明石。
プッと吹き出すおっさん。
上半身になにもまとわなくなった彼女は、にこにこ微笑んでいる。
「ああ、脱ぐと涼しくなりますね。」
「お、おう、そうじゃな。」
「どうされたんですか、喜作さん?」
「う、うん、儂はあんたらのことをもっと理解せにゃあおえんと思うてな。」
「あの、前屈みになられていますが、どこか悪いんですか? 修理しましょうか?」
「あ、あんな、人間は修理するんじゃなくて治療するんじゃ。」
「ああ、人間はそうでしたね。では撫でればいいですか? 『手当て』は人間にも効くと思いますが。」
「撫でられたら、昇天するかもしれん。」
「えっ、それはいけません。すぐ診療を。喜作さん、脱いでください!」
「も、ものの喩えじゃ! 大丈夫! 大丈夫!」
わらわらと半裸の少女たちがおっさんの元に集まってゆく。
口々に心配する声。
おっさんに危機迫るの巻。
喜作の顔は青くなりゆく。
明石は必死になってゆく。
そこへ北上がやって来た。
彼女も工廠要員として大車輪的活躍中。
彼女の姿も明石とどっこいどっこいだ。
「提督。ちょっと用事があるからこっちに来てよ。」
「あのう、北上さん。喜作さんは下半身に問題が生じているようなのですが。」
「大丈夫、大丈夫。出すもの出せば、治るから。」
「は、はあ。」
「確かに『目の毒』ではあるから、気の毒でもあるかな?」
「北上さん、はよう向こうへ行こう。」
「おお、提督、今日は積極的だねえ。」
「ワシ、そげえにギラギラしとるか?」
「ううん、いつもはとっても紳士的だけど一旦変わると野獣になるよね。」
「そこはなんとも否定しきれんのう。」
「あの、本当に本当に大丈夫ですか?」
「ああ、明石さん、でえじょうぶじゃけえ、なんも心配せんでもええんじゃ。」
「私に出来ることがありましたらなんでもしますから、お気軽に言ってくださいね。」
「よかったね、提督。なんでもしてくれるって。」
「言葉の綾じゃ。付け入ったらおえん。」
翌朝、明石はすっきりした顔の喜作に出会えたので心底喜んだ。
提督に近い位置にいる人物が無事なのを喜ぶのは、艦娘の基本。
戦時中は殆どの提督たちから知らん顔されていたがここは違う。
大淀間宮吹雪北上と一緒なのはいつものことだが、吹雪型駆逐艦や球磨型軽巡洋艦たちは少しさみしい思いをしているらしい。
それは大和を始めとする、新一少年の周囲にいる艦娘たちの姉妹艦たちにも言えることだ。
なにが起こっているのだろう?
自分の剥き出しの胸部を見て、喜作さんは動揺していた。
何故なのだろう?
もしかして、触りたかったのだろうか?
入浴していると、他の艦娘から触られることがある。
そうなのだろうか?
統合された同姿艦の記憶を探っても、理由が判明しない。
大体売店か工廠に籠ってばかりで、提督や人間との交流など殆ど無かった。
大抵は同僚の大淀から連絡が来て、その指示に従ってばかりなのであった。
そうだ、大淀に相談してみよう。
彼女は常に喜作さんの傍にいる。
少し気楽になれた明石は工廠へ向かう。
早く、全舟艇を実用可能状態にしたい。
それが今の自分の任務。
自分に与えられた仕事。
艦娘たちがいつも明るく過ごせるように、全力を尽くすのだ。
後方支援に徹していた自分に出来る、それは誠意ある仕事だ。
ふと思った。
喜作さんと一緒にお風呂に入ってみたら、なにかわかるのではなかろうか?
よし、今夜にも試してみよう。
大淀にはその後で相談するか。
何度も何度も試すことが当たり前な明石にとって、それは何気ない考えだ。
足取り軽やかに彼女は工廠に到着し、早速作業に取り掛かる。
そう言えば、喜作さんに興味津々の艦娘もいたわね。
彼女たちも誘ってみるか。
黒板にさらさらとそれらを暗号で書き記し、よしと頷いてぼろ船だったとは思えない程に仕上がりつつある舟艇を愛おしそうに撫でた。
喜作さんを撫でてみたら、いや撫でてもらったらどうなのかなと研究心を起こしながら。