瀬戸の艦娘   作:輪音

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洋琴

 

 

 

 

感情論をぶつけあって、潰し合いをするのは愚の骨頂。

少数を是として、多数を全否定するのもまた愚の骨頂。

理知的且つ論理的に議論することの出来る者たちは案外少ない。

 

議論することよりも全否定することばかりに燃える者たちは、自分たちを助けてくれた存在が孤島に押し込められひっそり暮らしていることに激昂した。

或いは、そういうふりをした。

国会でも野党が珍しく連携し、与党を追及する。

証人喚問が行われ、大本営に勤務していた人間や提督と呼ばれていた人物たちが証言してゆく。

彼らは責任転嫁がお家芸の日本人として、複数の関係機関に散々飛び火させた。

浮気が発覚したり、横領が発覚した者も現れてしまった。

被害拡大を防ぐため、与党は艦娘たちへささやかに支援することを決定した。

識者たちの意見と実態調査をまとめ、それが『完了』次第、『比較的速やかに』支援を行うことと定めた。

 

 

全国各地で廃校になった学校は、意外と多い。

人口が緩やかに増えつつあるとは言え、世界的に穿(うが)たれた傷痕が癒えるには少なくとも半世紀を要すると言われている。

壊滅的な打撃を受け、国家の形を保てていない地域から日本政府への支援要請が相次いでいた。

艦娘を派遣して欲しいと懇願する人々さえ数多くいた。

世界が再出発するのにはまだまだ相当の時間がかかる。

子供の数が増えて欲しいものだが、実態としてはそれに程遠い状況だ。

岡山県笠岡市南部にある、笠岡諸島。

そこにある六門島(ろくもんとう)。

廃校になった学校の関係者から、机や椅子は必要かとの打診が島の喜作へ行われた。

気さくな喜作はこれを快諾し、ついでに楽器も送られてくることになる。

それはかなりの年代物。

廃校と共に処分予定の品々だったが、捨てるよりも活かす方をその人物は選択する。

結果、島には古いドイツ製のグランドピアノが送られてくる結果となった。

日本語にすると洋琴。

色褪せた楽譜も多数送られる。

 

 

喜作がピアノを弾けることを知った時、艦娘たちは驚いた。

冴えない感じのおっさんが、繊細な曲を奏でる。

それはまさに驚愕の事態。

早速、アイドルの那珂ちゃんは伴奏をせがみ、喜作の弾く曲に合わせて歌うのだった。

歌舞音曲を禁じられていなかったのも幸いした。

やさしい旋律。

おっさんの元へ駆逐艦たちが集まり、それは先生と生徒の関係に似たものを生み出してゆく。

その中には島風や曙霞満潮といった娘もおり、喜作はぎこちないながらも彼女たちと音楽を通じて交流するのだった。

 

赤とんぼ

荒城の月

椰子の実

 

そういった、日本の名曲が歌われてゆく。

急遽即席音楽教師になった那珂ちゃんが手本として歌い、それを駆逐艦たちが真似していった。

青葉と衣笠がそれを取材し、数々の制限の隙間をぬって外部に発信する。

美談を好む報道機関各社が、政府に取材許可を打診した。

政府は渋る。

美談がやがて政府への非難に変わるのをおそれたからだ。

最近は城を作っているらしい。

大したことの無い代物らしい。

中世の城郭を参考にしているという話である。

政府は特例法を楯にし、取材を却下し続ける。

将来のことなど、ろくに考えず。

艦娘たちの待遇改善に目を背け。

国の安定を図るのが先決と宣い。

適当なザル政策を乱発してゆく。

不意に現れる外圧に怯えながら。

その中に、艦娘たちを慮(おもんはか)ったものは何一つ存在しない。

 

 

 

喜作の周りには、多国籍の駆逐艦や海防艦が集まるようになってきた。

人間不信の娘たちも徐々に彼へ心を開きつつある。

善意の塊である喜作を支持する彼女たちは、時に彼を司令官または提督と呼んでしまう。

それは明らかに過ちではないかとも思われたが、それがしっくりくる娘もいた。

 

 

桜の舞う島で風が吹く。

新たな予兆を秘めつつ。

膨らむは新芽。

夢溢れる新芽。

 

 

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