焼鳥。
または焼き鳥。
それは、鶏肉をくまなくおいしく食べる方策のひとつ。
塩派とタレ派とが、果てしなき抗争を繰り広げている。
皮から内臓に至る様々な部位を切り刻み、串に刺し、団扇(うちわ)であおぎながら焼いてゆく。
それが焼鳥。
岡山県南部の笠岡諸島の六門島(ろくもんとう)は現在、焼鳥祭の真っ最中であった。
欧州でなにやらいろいろと売れたお陰らしい。
大量の鶏や鳥類、山羊や豚や牛などが島に運び込まれた。
けものなフレンズの公園まで作れそうな程の勢いだった。
島の主たる気さくな喜作を始め、給糧艦や腕自慢の艦娘たちが獣の肉を焼いている。
溶鉱炉の如く真っ赤な夕焼け空に、煙がたなびいていた。
鶏肉の骨を使って出汁が取られたポトフも提供され、ハイカラじゃなと焼いている合間におっさんはハフハフ言いながら汁物を口に運んでもらっている。
匙と椀を持った、お世話役の大淀はにっこりしながら彼に密接する。
喜作の隣にいる間宮はさりげなく胸を当ててくるし、吹雪や北上は手伝う中で自然な風を装ってぺたぺた触ってくるため、彼は若い娘たちの悪戯にひたすら困惑するのだった。
おじちゃんおじちゃん先生先生司令官提督と、彼が音楽の先生を行うようになってから親密化した幼げな艦娘たちが、純粋な好意を向けてくる。
彼によじ登る艦娘まで現れた。
提督さんたちもこげにすりゃあよかったんじゃねかろうかのう、と思いつつおっさんは彼女たちへ笑顔を向ける。
彼の甥っ子である新一は大和を中心とする護衛艦群に囲まれ、ちやほやされていた。
長門や武蔵辺りからするとあれはどうかなと思えるのだが、興味津々で彼らを見つめる艦娘が増えてきているのは事実だ。
喜作と対策会議を何回か行っているが、男性二人の人柄や性癖趣味嗜好などを艦娘たちから聞かれる機会が増加している。
新一がうっかりお姉ちゃんみたいな人がいいと口を滑らせた時は、お姉ちゃん艦娘が急増したものだった。
おませな駆逐艦たちが「私がお姉ちゃんだよ!」と言いながら少年に肉薄し、他の艦種の子に撃退されていた。
青葉衣笠姉妹が独自に発行している壁新聞の『喜作さん新一君速報』は、かなりの好評を博しているとか。
ちなみにその壁新聞は艦娘寮に貼られているので、おっちゃんやぼんに見つかる可能性は先ず無い。
わざわざこれを口にする者もいない。
秘匿性は充分だった。
この島の変化は、ゆるやかだが確実に訪れ始めていた。
三〇〇名ほどいる艦娘たちの胃袋を満たすには、まだまだ時間がかかるだろう。
せっせと焼いては、並ぶ艦娘たちにほいほいと渡してゆく。
お手伝いの艦娘も増えてゆき、喜作の口元へは団子や豆かんやお好み焼きなどが運ばれていった。
絶妙な連携でおっちゃんは攻略されているのだった。
どうやら、出島の扇島(みしま)に屋台が出来ているみたいだ。
いつの間にやら篝火(かがりび)が焚かれ、那珂ちゃんが歌い始めた。
いつものことである。
何故かその周りで踊る、駆逐艦海防艦潜水艦たち。
ヨイヤサ、エイヤサ、ホイホイサッサホイサッサ。
妖精たちも踊りまくっていた。
彼らまで焼鳥を堪能している。
喜作は夏までに浴衣を用意せにゃあおえんのうと考えたが、大量に反物を購入出来るだろうかとも思った。
そもそも和裁が出来るのか?
供給がまだまだ安定していない状況。
艦娘たちで強ばった顔の者は段々減ってきているけれども、足りないものだらけだ。
どうにかならんかのう。
いや。
どうにかせんとおえんのう。
そう決意した喜作は、うんと背伸びする。
やめじゃやめじゃやめじゃ。
めんでえことは後回しじゃ。
彼に気づいてわらわらと寄ってきた、駆逐艦たちへ手を振る。
すぐさま抱きつかれてしまい、彼は身動きが取れなくなった。
どっかの遊び場にでも、連れていけたらええんじゃけどなあ。
なにか催しを考えようと思うおっさんは、やがて艦娘たちから揉みくちゃにされる。
なにか旨そうな菓子でも作ってもらおうかのうと、可愛い娘たちにしがみつかれつつ冷静に考える中年男であった。