瀬戸の艦娘   作:輪音

19 / 32



『艦これ』二次創作作品に於いて、国産紅茶や代用珈琲に触れた作品を読んだ覚えは殆ど無いと作者が言っていましたネ。
単に作者が知らないだけじゃないんですかネー。
書き手の皆さんはミリタリー的なこだわりに関心が強くても、国産紅茶や代用珈琲に興味はあんまりナッシングなのでしょうカ?
でも、ノープロブレム。
国産紅茶もけっこうおいしいデース。
やさしい味わいで飲みやすいデース。
作者の個人的なお薦めは知覧紅茶ネ。
他の国産紅茶もおいしいヨークシャー。
ヨークシャーの紅茶もおいしいデース。
なんてネ。
以上、作者代理の金剛でした。
シーユー。




紅茶

 

 

 

 

紅茶の歴史は珈琲同様、血まみれである。

その抗争は果てなきものになるかとさえ思われたが、皮肉なことに世界規模の戦争によってそれは中断された。

そして二度に渡る戦争が終結し、紅茶や珈琲の生産が活気づき、輸出入に活況が見られ出した頃、深海棲艦たちの侵攻が開始された。

紅茶や珈琲の輸入が出来ない中で、食にこだわりまくる日本人は国産紅茶と代用珈琲で趣味嗜好を満たさんとする。

比較的早めに解放された東南アジア諸国からの輸入品は日本人たちを歓喜せしめ、セイロンが奪還された際は紅茶好きの人間たちに不思議な踊りをさせた程だ。

 

人と魔の戦争は確かに終わった。

これからは、飽くなき終わりなき経済戦争が始まる。

世界各国は準備を始め、それを指揮する者たちの傍らには紅茶や珈琲。

特に珈琲はその強烈な香りと常習性で人々を魅了し続けることだろう。

 

 

岡山県南部海域に広がるは、笠岡諸島。

その中にある六門島(ろくもんとう)。

島の東に設けられた人工島の扇島(みしま)にて、試飲会が行われている。

こじゃれた洋館の広い室内。

キューバンマホガニーの机の上には、精緻な刺繍を施した真っ白な覆い布がかぶせられていた。

その上には英国製高級茶器群。

イングランドから運ばれた品。

張り詰めた雰囲気の多国籍の人間たちが、高級感ある室内にひしめいている。

真剣な面持ちで、複数の英国製洋式急須(ティーポット)を見つめる美少女。

洋式急須にはそれぞれ布の覆いがかぶせられており、それは駆逐艦たちの力作群。

くりっとした瞳に人懐こい感じの表情の娘が、にっこりと微笑む。

周囲の人間たちはどぎまぎした。

彼女は巫女衣装を改造したような服装をしていて、髪の左右はフィッシュボーンを変形させたようなというかお団子というかハイビスカスみたいというかそんな感じのシニョンめいたまとめ方をしている。

人ならざる娘の美しさに、人間たちは内心ため息をついた。

人に酷似したビスクドールが魂を得たならば、このような姿になるのだろうか?

砂時計の砂が落ちきったのを確認し、彼女は一つの洋式急須にかぶせられていた覆いを取り去った。

ツクリモノの娘は白地に青い龍の絵柄の洋式急須から、同じ柄の紅茶茶碗(ティーカップ)へと紅い液体を慎重に注いでゆく。

沸き上がる湯気と香気。

ふくいくたる薫りが周囲に広がった。

そして、一口飲んでほっとした表情を見せる。

 

「九州産の紅茶もなかなかネー。」

 

金剛型高速戦艦一番艦の金剛が破顔すると、彼女の姉妹を含め、人間どももその笑顔に見とれた。

彼女は次々に洋式急須から芳香溢れる液体を紅茶茶碗に注ぎ、水色(すいしょく)や香りや風味などを鑑定してゆく。

その簡潔にして鋭い言葉に一喜一憂する参加者たち。

艦娘の中で、紅茶の鑑定を厳しく行い得るのは二名。

一名は、『紅茶戦艦』または『最終兵器金剛』の異名を持つ金剛。

もう一名は、『陛下』又は『マム』の異名を持つウォースパイト。

どちらも戦時は阿修羅の如く戦場で暴れ回ったのだが、その詳しい実態を知るのは艦娘以外にいない。

両名は現在淑女にしか見えないが、どちらも芯から武闘派だ。

尚且つ人間たちに対して、まだ心を開いているとは言い難い。

気さくな喜作や可愛い新一によって艦娘たちの雪解けが始まっているとは言え、馴れ合うつもりなど無いことを表明していた。

とろけきった大和などの武勲艦やおっさんによじ登る駆逐艦たちなどに驚愕はしたものの、彼女たちの警戒心はまだ解かれていない。

 

 

人間どもがこれまでの歴史の中でなにを考えなにをしてきたかを、よくよく知っているから。

人間どもが艦娘へなにをしてきたかなにをしようとしていたかを、よくよく知っているから。

 

 

凛とした顔つきの彼女を見て、比叡、榛名、霧島といった妹たちがやさしく微笑む。

姉のためならなんでもするだろう妹たちがやさしく微笑む。

 

今回は国産紅茶の試飲会になったので、日本有数の紅茶好きである金剛が選ばれた。

ちなみに、この試飲会は極秘である。

試飲会は無事に終わり、国産紅茶の国際進出に於ける躍進はどうやら上手くいきそうだと商人たちは確信する。

建て直しに四苦八苦する国家が多い状況では、日本の立ち位置はとてもいい。

大儲け出来る下地は既にあるし、政府に食い込む余地は大いにあるのだから。

商社の面々は皮算用して、思わずにんまりとする。

侮蔑するような艦娘たちの表情に気づかないまま。

 

 

かつてギルバート・キース・チェスタートンは『狂人とは、理性を失った人のことではない。狂人とは、理性以外のすべてを失った人のことである。』と言ったが、では、理性と良心や倫理を失った人のことはなんと呼べばいいのだろうか?

人間は艦娘が信頼するに値する生き物なのだろうか?

 

 

夕食終わって歓談の時。

英国調の個室では密談が行われている。

日英艦娘の密やかなお茶会が開催されていた。

緑色のお茶を飲んで、桜餅を頬張る金剛とウォースパイト。

 

「岡山県産の煎茶もおいしいデース。」

「今度はこのお茶に合いそうなスコーンを焼いてみましょう。サクシュウ(作者註:作州。津山市のこと)のお茶にも興味があります。」

「このお茶は、群馬の焼きまんじゅうにも合いそうデスネー。」

「グンマ、ですか。」

「イエース、群馬はおいしいものがいっぱいネー。勿論、同じ関東圏の埼玉や茨城(いばらき)や栃木や千葉にもおいしいものはいっぱいあるヨー。」

「それは実に興味深いです。」

「日本各地のおいしいものを制覇して、みんなを笑顔にしてみせるネー!」

 

ふふふ、と笑うは歴然の戦艦たち。

いつでも修羅になり得る戦鬼たち。

二名の纏う影が千変万化してゆく。

 

あちらが不遜なる無法者になるのならば、何時でも地獄を見せてあげましょう。

人が驕りたかぶるのであれば、何時でも地獄逝きの片道切符を手配しましょう。

 

フクロウの赤ちゃんがひょこひょこと彼女たちに近づき、やさしく撫でられホウと鳴いた。

赤ちゃんの頭の上には桜の花びら。

あの百花繚乱たるお花見はとてもよかった。

またあのような楽しみがあってもいいわね。

生粋の戦乙女たちは、今の暮らしを取り敢えず肯定しようと密約を交わした。

後に言う、『桜餅の密約』である。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。