瀬戸の艦娘   作:輪音

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言うなれば
艦娘たちは運命共同体
互いに助け合い
互いに庇い合い
互いに信頼し合う
一人が皆のために
皆が一人のために
それ故に
戦場で生きられる
嘘を言うなっ!
猜疑心に満ちた
暗い瞳の提督たちが
作り物の娘たちを笑う
お前も、お前も、お前も!
人間のために死ね!

『流転』
なんのために
艦娘たちは
生まれてきたのか




流転

 

 

岡山県笠岡市六門島(ろくもんとう)。

笠岡諸島の真鍋島(まなべしま)と六島(むしま)の間にある小さな島で、現在の住民は二人。

中年の井東喜作と小学四年生の鬼頭新一。

彼らは山羊と鶏を飼い、葡萄や蜜柑や薩摩芋などを育て、葡萄酒『瀬戸の月夜』や芋焼酎『鬼頭嘉右衛門』や蜜柑の皮を使った混成酒の『エルキュール』を醸造蒸留しながら生活している。

 

穏やかな瀬戸内海の豊かな海の幸に恵まれた島。

そこへ、三〇〇名に満たない数の新しい住民が増える。

行き場を無くした艦娘だ。

戦争が終われば、不用品。

意思持つ兵器は不要故に。

国際的には、自主的に武装解除し退役したことになっている。

余生を送るために、小さな島でひっそり暮らすとされている。

汚れた人間たちは、喉元過ぎれば熱さ忘れる者が殆どだった。

英雄たちは政治的力を持つ前に、静かに処分されてしまった。

古今東西、人間の行うことは変わらない。

権力を持つ者たちの腸は腐りきっている。

人の姿をしたバケモノ、が権力者的見解。

艦娘たちは魔物に近い存在とされている。

愚かな、それはとても愚かな判断だった。

 

 

 

島へ向かう準備は着々と進んでいた。

孤島に住むおっさんが来てから翌日。

呉鎮守府は慌ただしい雰囲気だった。

希望と不安と猜疑心とが内心渦巻く艦娘たちの中で、きらきら光る娘が三名いる。

大淀、間宮、吹雪。

大淀と間宮は喜作の世話役として悲痛な決意の元に立候補し、その犠牲的精神には全員感服していた。

だが、蓋を開けてみるとなんだか様子が異なる。

両名とも、時折にへらと笑ってさえいた。

思い出し笑いだったが、皆知らなかった。

笑う、ということさえ稀だったからかも。

なにがそんなに楽しいのだろう?

何故か両名ともがに股であった。

皆に心配されたが、真っ赤になりつつ大丈夫ですと彼女たちは返事をした。

なにか昨夜にあったのだろうか?

なにかあの男にされたのかと問われると、両名は更に赤くなるのであった。

吹雪は喜作の気さくさを褒めている。

誉め過ぎだと思うくらい褒めている。

きらきら輝きながら彼を褒めている。

今までこんな事態は起こらなかった。

各艦種代表たちを含め、艦娘たちは困惑の空気に包まれている。

総旗艦の長門さえもあまりの変化に戸惑っていた。

一晩であんなに変化するものなのか?

一体、井東喜作とは何者なのだろう?

彼を提督司令官呼びする者さえいる。

総旗艦たる者としての責任感から、長門は大淀間宮に今夜から私が世話役を代わろうかと申し出た。

犠牲者は少ない方がいい。

なにをされようとも、この長門、すべて受け止めてみせようと不安を圧し殺しつつ。

途端、提督のお世話は私たちがずっとずっと対応しますので大丈夫ですと断られた。

長門の困惑は続く。

 

 

厨房。

おいしいものはみんなの燃料。

料理長の間宮が時々にへらと笑うので、手伝いの料理上手系艦娘たちは首をかしげていた。

鳳翔が問う。

 

「あの、間宮さん。ちょっと聞いてもいいですか?」

「えっ? はっ? 私、なにかやっちゃいました?」

 

狼狽(うろた)えようがおかしい。

何故か、がに股だし。

 

「その、時折にへらと笑われていて、なにかとてもいいことがあったのだろうとは思うのですが、それは井東さんからなにか言われたりされたりした結果なのですか?」

 

途端、真っ赤に染まる間宮の顔。

そして、それは色っぽくなった。

思わず、どきりとする厨房の娘たち。

 

「あ、あの、提督……いえ、喜作さんはとてもいい方で、私たちが信頼して間違いない方だと思います。」

 

 

執務室。

艦娘たちが笠岡諸島の六門島へと正式に移転する手続きは、滞りなく終わった。

気合いに充ち満ちた大淀が、阿修羅の如き勢いで書類業務を終了させたからだ。

時々にへらと笑いながら万年筆を書面に走らせる大淀を見て、提督は首をかしげた。

いつもは能面みたいというか、仏頂面というか、鉄面皮というか。

きれいだが面白みの無い艦娘、というのが今までの大淀に対する提督の評価だった。

それが今は、表情豊かな美少女と化している。

まるで別人だ。

こちらまで吸い込まれそうだ、となり、首を振って提督は書類作業を再開する。

『艦娘に魅入られてはならない』が軍関係者の鉄則。

それで何人死んだことか。

彼は下半身の変化を生理現象だと考え、先輩は一体なにを彼女にしたのだと思った。

 

 

工作艦明石。

艦娘たちの医師的位置にいる存在だ。

今、彼女は助手の夕張や秋津洲と共に困惑している。

相談に訪れた吹雪の悩みを全然解決出来ないからだ。

 

下穿きが汚れた彼女はその原因がわからなかった故に、明石の元を訪れた。

オイル漏れではない、と判明する。

だが、その先皆目見当が付かない。

艦娘は排泄しない。

艦娘には生理が無い。

だからオリモノも無い。

無病息災が艦娘の本領。

その筈だった。

なんらかの液体が下穿きを湿らせたことは明白だったが、その液体がなんなのか明石にも夕張にもましてや秋津洲にもわからなかった。

戦闘妖精としての力が失われたための、なんらかの副作用或いは弊害かもしれない。

もし、これが全員に見られる症状で人間に知られたら即時に処分されるやも知れぬ。

危険性は現在見られない。

能力の低下も見られない。

明石も夕張も秋津洲も下穿きが汚れたことは、発汗以外に無かった。

この汚れは、汗とは明確に異なる。

吹雪の鼠径部とその周辺を検査するが、異常は特に見られない。

別段、破損した訳でもなさそうだ。

軽い発熱と気分の高揚が見られる。

脳神経が特にやられた訳でもなさそうではあるし、今のところは受け答えも尋常だ。

結果、経過を見ようとの結論に至った。

吹雪の事例を鑑(かんが)み、体調が不調な者やなにか体に違和感を感じる者はすぐ相談に来るようにと、青葉と衣笠を通じて全員に通達した。

難病疫病の類ではないわよね、と明石は内心おそれた。

流石に不安を打ち明けることはしない。

パニックは容易に伝播する性質を持つ。

こんな時にそんなことを仕出かす訳にはいかない。

もし暴動に発展したら、全員討伐対象になりことごとく轟沈するだろう。

最悪の事態を想定し、明石は身震いした。

長門にだけは報告する必要があるだろう。

どうぞどうぞなんでもありませんように。

彼女は神仏に祈った。

この世界に顕現した人ならぬ戦乙女は、静かに皆の平穏を願うのだった。

 

 

 

艦娘たちの六門島への移動には、軍用の輸送船を使うそうじゃ。

まったく、こげなきれいな娘さんたちに酷いことなぞしよって。

しかしまあ、俵をひょいひょい運ぶ姿はなんとも勇ましいのう。

新一も別嬪の女の子がいっぱい増えるけえ、でえれえ驚くじゃろうなあ。

誰か新一の嫁さんになってくれたらありがてえんじゃけど、そげえにうもうはいかんじゃろう。

しかし、なんじゃ。

艦娘は女学生みたいな恰好の子から踊り子のような姿の子まで、いろいろおるのう。

髪の毛もいろんな色がある。

ハイカラさんたちじゃのう。

ちいと破廉恥な気もするが、あれが正式な戦闘衣裳らしいからなんかようわからん。

よし、他のもんたちには『ハイカラさん』で押し通そう。

大正の頃には『モボ』とか『モガ』ゆう奴らがおったそうじゃけえ、適当にようたらわかりゃあせんて。

 

ワシはワシが出来る限りの善意をお嬢さんたちに行うまでじゃ。

それだけじゃ。

ええ天気になったのう。

吹雪ちゃんもずいぶん機嫌がいい。

 

大淀さんと間宮さんと昨晩あげなことをしてしもうた。

二人とも、大丈夫じゃろうか?

ついついやり過ぎてしもうた。

ワシも初めてじゃったからな。

次はもっとやさしくせんとな。

 

おお、二人が手を振りながら近づいてきょうる。

ほんま、別嬪さんたちじゃ。

ワシはまっこと果報者じゃのう。

流転する艦娘に幸あらんことを。

ワシは天の神様と仏様に祈った。

 

 

 

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