岡山県笠岡市の南部に位置する笠岡諸島。
そこに艦娘たちがわんさか暮らす島あり。
その名を六門島(ろくもんとう)という。
律令制の昔には貴人を流す島のひとつとされ、隠岐島に流される程では無い貴族が時折流された。
島には流人(るにん)と最低限の世話人と見張りの兵士しか住まず、誠に殺風景だったそうな。
律令制を更に遡(さかのぼ)ると豪族が此処に拠点を置き、暮らしていたという。
雑穀ならばそれなりに自生するし、魚は豊富に釣れる。
昨今は蜜柑が多数生って、酒を醸し、芋も作っている。
数名でのんびり暮らすならば、ぼちぼちの生活が可能。
ここは本来、そんな島だ。
寝物語に、喜作は島の昔話を大淀間宮吹雪北上にする。
室内には、濃密な空気が流れていた。
以前喜作と一緒に寝ていた新一は大和を筆頭とする艦娘たちが完全に取り込んでいて、今夜も賑々しいことだろう。
島の人口は現在、戦国時代だった頃のソレに近づいている。
戦闘力的には、今の方が圧倒的に上だ。
昔の話をした結果、古墳を見に行こうということになった。
以前見た埴丸様とはまた異なるらしい。
日曜日ということで新一も古墳見学会に参加する流れとなり、興味を持った艦娘たちの遠足も兼ねることとなる。
参加者の大半が駆逐艦で、今まで喜作や新一と行動を共にしなかった者も含まれていた。
空は晴れ。
行楽日和。
出発進行。
そんなに時間をかけることなく到着。
島はそんなにもばかでかくないのだ。
古墳もさほど大きくなく珍しくもない。
だが、艦娘たちにとっては初見的存在。
初めて見る古墳に興奮する子さえいた。
中は荒らされておらず、当時のままだ。
形状は円墳(えんぷん)と呼ばれる丸い姿をしており、発掘隊が調査をすれば詳しいことが分かるだろう。
じゃが断る、と喜作が以前に調査を断っていた。
罰当たりなことをしょうたらおえんのじゃと、彼は言ったのだ。
葬られた存在が祟り神にならないとの保証は存在しない。
寝た子を起こすような真似は許されんと、彼は申し出をことごとく突っぱねた。
貴人か豪族が葬られたのだろうと推察はされているけれども、おっさんの目の黒い内は調査出来ないし、島の継承者たる新一もおそらく許可を出さないだろう。
宮内庁がなにか言わない限りは。
この島には幾つもの不思議が眠っている。
艦娘たちはそう感じていた。
神秘の島だ。
喜作や新一を警戒していた艦娘たちも、そろそろ慣れ始めている。
そんな艦娘たちをやさしく見つめながら、管理者側の大淀は眼鏡をぴかりぴかりと光らせるのだった。
「『皐月の節会(せちえ)』をこれより開始する。総員、掛かれっ!」
総旗艦たる長門の号令が発せられ、艦娘たちが応とこたえて端午の節句の菓子を次々に作ってゆく。
武家屋敷っぽくなってきた建物の近くには紙製の鯉のぼりが風をはらんで翻り、青空にはためいていた。
六門島では女児が島にいる時だけ行われてきた古い行事で、今回は文献を元に再現されることになった。
急に暑くなるこの時期に、菖蒲湯に浸かったり悪鬼羅刹を祓ったりして女児の健やかな成長を願う儀式。
平安時代から行われていたという。
海外艦たちにとって、今回は追儺(ついな)に続く日本的なお祭りである。
彼女たちは明らかに浮き足立っていた。
予算の関係で雛祭りは見送られたが、その分端午の節句にかける勢いは島の元々の住人たる気さくな喜作や可愛らしい新一でさえも驚く程である。
何処から仕入れたのか、錆だらけ穴だらけ傷だらけでボロボロの甲冑(かっちゅう)を何領も運んできて明石を筆頭とする魔改造軍団がトンテンカントンテンカンと修理とはまるで異なる方向性のナニかを施し、立派な鎧武者を生み出した。
おっさんが鎧を試着すると、きゃあきゃあと歓声が起こる。
明石は彼をぺたぺた触りながら、何故大淀たちが険しい目付きで自分たちを見つめるのかと困惑した。
嗚呼、そうか。
彼女たちも着たいのか。
明石は艦娘たちも着られるような、紙製鎧の製作に取り掛かるのだった。
餅菓子が蒸され始める。
期待の気持ちが膨らむ。
嗚呼、平和とはまことに素晴らしいものぞ。
清霜などの駆逐艦たちがおっさんの鎧武者姿を見て、これを着たい着たいと言った。
それは、新たに作られし紙製鎧をまとった姫武将たちが何名も生まれる結果となる。
着用希望者が殺到したために駆逐艦限定とされ、残念に思う艦娘も複数いたようだ。
お祭り後に鎧を着たいとする艦娘も複数いるらしい。
喜作からの進言もあり、駆逐艦全員の紙鎧が作られることになった。
気分は戦国時代である。
その紙鎧は濾過された柿渋塗料を用いた本格派の作りで、それを着た武闘派の夕立や時雨や白露、朝潮満潮霰などの駆逐艦たちに追いかけられる鬼仕様の喜作が見られた。
一応、古式の様式に基づいてはいる。
彼の顔立ちは鬼向きだ。
本人が気にしていないので、思いきり殺れる。
それは艦娘たちの闘争本能を満たすために重要な資質だ。
得物は斧や鍬や鎌など。
丸めた新聞紙ではない。
気分は村上水軍である。
どちらかというと、山賊だか落武者狩りの農民に見えるが。
海外艦たちも雄叫びを上げながら、喜作を追いかけていた。
彼女たちは、先日の追儺で着ていた装束を身につけている。
こちらは丸めた新聞紙を振り回していた。
追儺で使った弓矢を持ち出す者さえいる。
ぶんぶんと鋭い風切り音が聞こえてきた。
おっさんは、ややひきつったかに見える表情で走っている。
やり過ぎるなよ、と長門や武蔵たちに言われて満面の笑みを浮かべる戦鬼たち。
これではどちらが鬼役かわかったものではない。
彼女たちもだいぶんこの島に馴染んできた模様。
ちなみに鬼仕様の新一は既に、でれでれの大和や陸奥や愛宕などに捕獲されていた。武勲艦たちは、なにやら大興奮している感じだ。
追儺となにやらごちゃ混ぜになっているようだったが、そんなの関係ねえとばかりに艦娘たちはこの行事を満喫しているようである。
結果的には間違っているとも言い難い。
お堅いことを言う者はこの島にいない。
面白かったら、それでよかろうなのだ。
粽は日本仕様だけでなく中華風肉ちまきも作られ、柏餅は濾し餡潰し餡味噌餡草餅仕様なども多数作られた。
点心を蒸す者や餃子を焼く者、焼きそばやお好み焼きを作る者などもいて、既に周囲は混沌化し始めている。
那珂ちゃんはいつの間にか組まれた櫓(やぐら)の上で備中松山踊りの曲を歌い出し、それに合わせて踊る妖精や艦娘たちで賑やかになり始めていた。
骨頭の妖精が体から茨のようなモノを出して、周囲からオオ、と喜ばれている。
柏餅の葉を食べる食べない論争が起こる場所もあり、たまたま島を訪れていた菓子職人が巻き込まれていた。
鬼仕様の喜作が荒縄でぐるぐる巻きにされ、海賊仕様の艦娘たちがえいえいおー! と勝鬨(かちどき)をあげる。
もはや、なんの祭りかわからなくなってきた。
それでも、艦娘たちには喜ばしい行事の模様。
楽しければ、それでよかろうなのだ。
企画者側である大淀がため息をつき、長門や武蔵たちがまあまあと宥(なだ)める。
料理上手の間宮や鳳翔たちが、肉じゃがや煮物煮魚焼き魚などを運んできた。
歓声が上がる。
勝鬨が上がる。
人間が数名しかいない島で、沢山の人ならざるモノたちはおいしいものを腹一杯食べた。
さあ、菖蒲湯が待っている。
明るい声が島を満たしゆく。
とっぴんぱらりのぷう。