艦娘はある意味温室育ちのお嬢様たちだ。
彼女たちは戦場と鎮守府警備府泊地以外の殆どを知らず、人間の男にしても提督副提督提督補参謀憲兵整備士事務員調理師以外の殆どを知らない。
『箱庭姫』と彼女たちを呼ぶ者もいる。
箱庭から外へ出たら、どうなるだろう?
その答を知る者はいない。
岡山県笠岡市南部に広がる、笠岡諸島。
六門島(ろくもんとう)という名前の孤島に彼女たちは住んでいる。
温室に咲く花々のように。
ある日、明石と夕張が島に温室を作ろうと言い出す。
南方の果物を食べたい駆逐艦たちは即座に賛成した。
美しい花々をいっぱい見たい巡洋艦たちも賛成する。
他の艦種の艦娘たちも反対する理由が特になかった。
とんてんかんとんてんかんと工事する内容が増える。
監視している面々はまたもや報告書が分厚くなると嘆いたけれども、彼女たちの笑顔に勝てる者は誰もいなかった。
東京都四谷で創業されたばかりの東京ライフル研究所から取り寄せた純正望遠照準器付き空気銃は、奮発して買っただけあってほんまにええ買いもんじゃった。
二二口径の五.五ミリ。
今まで持っとった兵林館の空気銃が四.五ミリじゃったから、パワアアップちゅうやつじゃな。
こないだ人工島の扇島(みしま)におるオランダ人がドイツ製空気銃を持っとったけえ試しに撃たせてもろうたが、あれもええ銃じゃったなあ。
なにより、空気銃は金があんまりかからんけえ楽じゃわ。
鳥とか兎とかをあれでぱんぱん撃って、解体して熟成させていただくんじゃ。
猪や鹿を撃つには散弾銃がいる。
笠岡市や井原市辺りで仕留めたらこっちへ回してもらえるように知人への連絡はしといたけえ、その結果として氷室には冷凍された獣肉が幾つもぶら下がっとる。
間宮羊羹との物々交換じゃったが、あれはええ取り引きじゃった。
大淀さんに兵林館の空気銃を撃たしてみたら、うもうに(作者註:上手に)的に当てとる。
流石は艦娘じゃなあ。
他の子たちも撃ってみたいと言うんで撃たせてみたら、当たる当たる大当たりじゃ。
ドイツ製の空気銃を今度何挺か送ってもらえるよう、オランダ人たちに頼んでみる。
あちらから送ってもらったゆう、大変珍しいチューリップの球根を見せてもろうた。
チューリップって儲かるんかのう?
どうやら薔薇園も作りたいらしい。
夢はでっかく果てしなくがええの。
吹雪ちゃん辺りは南方の果物が食べたいらしく、バナナだマンゴーだなどと言うとる。
バナナゆうたら、高級品じゃけえな。
台湾とかヒリピンのが有名じゃなあ。
小笠原の島でも作っとるらしいがな。
集まってきた子たちが食べたそうにしとったけど、どうにもならんのう。
間宮さんと鳳翔さんに相談してみたら、バナナカステラを作ってくれた。
バナナの形をしとる、白餡入りのカステラ菓子じゃ。ハイカラじゃのう。
岡山県でも作っとる店があるらしい。
そう言えば、昔食べたことがあった。
骨頭の妖精が杖を振って、ガラス張りの温室作りを指揮しとる。
それを見ながら、みんなで出来立てのバナナカステラを頬張る。
でえれえうめえがな。
みんながぼっけえにこにこ出来るようにせにゃあ、おえんのう。
今日は鹿肉と猪肉を使ったハンバーグにしますからね、と間宮さんが言った。
付け合わせはドイツ風ポテトサラダとイタリア風パスタにしますと鳳翔さん。
それはアーリオ・オリオ・ペペロンチーノね、とイタリア艦娘の子がゆうた。
なんじゃ、そのハイカラさんに聞こえる食べもんは。
そのなんとかなんとかゆうパスタは、唐辛子とニンニクだけで作れるらしい。
新一の周辺でも大和さんたちが盛り上がっとる。
ソヴィエトだかロシアの艦娘たちがボルシチがどうのとかピロシキがどうのとかゆうとって、ブリヌイゆう料理を今度作ってみると間宮さんがゆうとる。
なんかようわからんが、パンケーキゆう食べもんの一種らしい。
ちっこいそうじゃ。
ハイカラじゃのう。
明日は、家鴨(あひる)を買い付けに行かにゃあいけん。
みんなの食生活を充実させるんが、ワシの使命じゃけえ。
「おーおー、提督、燃えてるねえ。」
いつの間にか、北上さんがワシの背後におった。
「今夜も一緒に燃えてみる?」
にやにやしながら、彼女がゆうた。
困っていると、にやにや顔が増えてきょうる。
そしてワシはおいしくいただいた。
ぼっけえうまかった。