瀬戸の艦娘   作:輪音

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不干渉の約定は
秘密裡に解かれた
歴史を裏から担う
忍者が岡山県へと
解き放たれる
咲き誇る胡蝶の大輪花
百鬼夜行も恐れず戦う
心を鋼鉄にぞ武装して

渦巻く疑惑
愚昧なる政治家が騙る
見通しなき未来示して
したたかな交渉出来ぬ
強きにへつらう者たち
弱きを愚弄する者たち
無秩序という法に従う
金の亡者たちが跋扈す
落書きめいた管理社会
理想謳う
曇らぬ決意を余所にし
宵闇しぶく
真紅の霧が夜空に咲く
夏の宵の宴

夏の入道雲が
風雲急を告げる
降りしきる雨は
梅雨模様
待ち濡れる艦娘たちは
男たちになにを見るか
ツクリモノの呪縛
潰えぬ明るい未来はあるのか
戦慄の秘術は明かされるのか
野生美に満ち満ちた
豊麗なる乙女の蠱惑
銀の雨が島に降り注ぐ
煙る中に輝く幽愁の花
深沈たる姿
憤怒と無念を孕みつつ
愛しき者のために
彼女たちは駈ける
せめぎ合うは化生
妖異みなぎる人外
清廉な魂は負の遺産を砕けるか
清明と情愛
死の閃光をも恐れぬノルド乙女
純情可憐な花は夜叉と化するか
懊悩は一縷の救いを生み出すか
巡る悲劇の連環を
その痛切な一撃は絶ち斬れるか
無慈悲な男たちが笑う
足元の深き泥濘に気付かぬまま
思い馳せる乙女は何処に向かう
潮騒を裂く叫び声
悲痛な心の叫び声
葛藤は島を巡って
忍ぶ者追い詰める
過ぎし日の誓いは
守られるのか
夕霞に待ち受ける
赤き残照
淡く儚い
思いを抱けば
無明の淵とて
こわくはない

祈りはそして
強き力となる

守るべき人々のため
愛しき人々のために
猛き鳥たちが
翼広げて大空に舞う
己のすべてを懸けて
妄執の不死鳥は既に
激しさを失い
局面の変化に戸惑う

絆は誠か
穢れは無いか
闇はやさしく微笑み
人の心を誘う
泡の如く
思いは消えゆく
しかれども
しかれども
幾代にも渡って
願いは継承されゆく

また相寄らん
幾世を生きて
添い遂げん
今宵の願い




梅雨

 

 

 

 

蒸した梅雨模様の雨空。

日本政府の要人たちが集まっている筈の国会議事堂。

高級な服を着た、愚物な俗物たちが醜悪なにおいを撒き散らしていた。

彼らは揃って蒸し暑くなるような気配を漂わせ、愚にもつかぬおなごの話題で更に品性を下げてゆく。

天下を語らず、太平を語らず。

国民の生活のことも考えない。

語るは欲望まみれのことのみ。

政治ごっこをする権威主義者。

衆愚政治が場を腐らせている。

それを天井裏から見つめる、軍学者めいた姿の男がいた。

五世紀と数十年生きてきた意味は、どこにあったのだろうかと彼はため息をつく。

その日、滋賀県南部に位置する甲賀市及び三重県北西部に位置する伊賀市の女性調査員たちが二名ずつ議事堂へ召喚された。

彼女たちの忍務は、岡山県笠岡諸島に位置する六門島(ろくもんとう)での監視その他が主なもの。

その孤島東部に位置する、人工島の扇島(みしま)に居住するオランダ人たちの監視も忍務に含まれている。

政府はようやっと、外国に対する防諜に力を入れようと重い腰を上げつつあった。

外交官がへっぽこ揃いで頭領が鳥頭。

日本の外交力は三流かそれ以下と評価されている。

首相の首は頻繁に取り替えられ、それはまるで出来の悪い玩具だ。

官僚任せの政治は腐敗し、深海棲艦に勝利した意味は日々加速度的に失われつつあった。

あまりに遅まきながら、彼らはなんとかしようと手を打ち始める。

既に情報は相当流れているが、それはもう過ぎたこととして今後の諜報戦をなんとかしようという泥縄式。

まさに日本政府らしい仕事ぶりだ。

なにもわかっていない連中が頭脳部である限り、どげんもこげんもならぬだろう。

それは兎も角。

元艦娘たちを戦後に小島へ封じ込めたまではよいのだが、飼い殺しにしている筈の彼女たちに不安を感じる権力者たちが次の手を打ったのだ。

遅きに失した感はあるのだが、やらぬよりはずっとましであろうと彼らは考えた。

彼らにだって、そこそこの思考力はあるのだ。

頭がいいと、自身でうぬぼれているのだから。

近視眼的で視野狭窄で閉鎖的でダメダメだが。

 

甲賀忍びの名は、陽炎(かげろう)とお胡夷。

代々受け継がれてきた名だが、妖艶にして思慮深い陽炎は速水里沙と名乗り、無邪気にして豊満な肉体美のお胡夷は喜村波留華と名乗ることに相成った。

 

伊賀忍びの名は、朱絹(あけぎぬ)と蛍火。

彼女たちも代々引き継がれてきた名を変え、冷静沈着な朱絹は綿目美沙と名乗り、可憐な乙女の蛍火は佐波城深幸と名乗ることに相成った。

 

いずれも手練の業を誇る戦忍びたち。

太平の世に埋もれる筈だった女戦士。

人外の力を持つ娘たちは、元艦娘たちに拮抗し得る能力の持ち主として選ばれた。

それが吉と出るか或いは凶と出るか。

 

四名の美人くノ一たちは、西へと向かう。

己の美貌にあまり頓着しないおなごたち。

 

新たな波乱が、六門島へ訪れようとしていた。

 

 

 

蒸しあちいのう。

梅雨時は蒸し蒸ししてかなわん。

最近、島がちいとおおきゅうなっとる気もするんじゃけど、気のせいじゃろうなあ。

あの生け簀はいつの間に出来たんじゃろうか?

まあ、ええか。

ようけ食いもんはいるからのう。

大本営だった組織から、この島へ連絡があったのは数日前。

新たに人工島の扇島へ、『風太郎商店』とゆう店が作られることになったそうじゃ。

利便性を上げるための生活雑貨店ゆうか、駄菓子とかも置いとる多目的店舗ゆうか。

なんでも、滋賀県出身の娘さんたちと三重県出身の娘さんたちとで経営するらしい。

いっぺん会(お)うてみたが、みんな美人さんじゃのう。

でえれえもんじゃ。

おどろいてしもうたが。

なんでか知らんけど大淀さんや間宮さんらが夜寝屋で汗だくになりながら、血相変えてワシに捨てんでくれみたいなことを言い出した。

なにをようるんじゃろう?

説得するのに往生したわ。

お店の娘さんたちが挨拶に来た時は、なんとも大変じゃった。

おっとろしい程警戒した艦娘たちに困惑する店の娘さんたち。

まあまあとなだめながら、なんとかしといた。

 

 

 

女忍びたちは多少自分たちの見目がよかろうことを理解していたけれども、ここまで敵愾心(てきがいしん)を持たれることまでは予想すら出来ていなかった。

島のぬしである冴えない中年男と可愛い小学生の男の子へ少しばかり愛想を振っただけなのだが、それは思いがけぬ程の劇的な化学反応をもたらした。

特に大和が荒れに荒れまくり出した。

普段の理知的姿から考えられない程。

人の形をした暴風雨が吹き荒れゆく。

戦艦級の元艦娘たちが抑えに入る程。

最初に彼女を鎮めようとした駆逐艦や軽巡洋艦たちが、彼女の生み出した衝撃波によって呆気なく吹き飛ばされたためだった。

幸い手加減した為、娘たちは軽傷で済んだ。

しかし、暴風雨は鎮まりなどしない。

艦娘寮は大激戦地へと変貌を遂げた。

咄嗟に大和を抑えようとした扶桑山城伊勢日向が一撃大破し、大騒ぎになる。

紅茶戦艦姉妹も続々と中破してゆく。

遅れて戦場へ到着した武蔵も清霜と共に、全力で姉を抑えに入っていた。

正規空母たちも中破艦が目立ちだす。

素肌をかなり露にせし霧島が機転を効かせ、大和が溺愛している少年を呼びに行った。

新一の会心のなでなでとお手々すりすりと無垢な上目遣いにより、最悪の事態は回避される。

白いカッターシャツに黒い半ズボンという姿もよかったのだろう。

毎日の登下校時に見ている筈だが。

怒涛の三連迫撃が効を奏したのだ。

おそるべきは、可愛らしい少年よ。

艦娘たちの愛憎の恐ろしさを、忍びたちは数日で存分に味わい尽くした。

これはとても報告書に書けぬ。

頭を抱えて悩むワルキューレ。

内々に留めようと話し合った。

尚、オランダ人たちは躊躇することなく、これらの詳細を欧州へ送った。

そこに遠慮だとか憐れむだとか推し量るなんてことは、一切見られない。

その報告はとある長寿の忍びによって、途中で巧みに握り潰された。

防諜任務達成である。

 

 

手練れの中忍級たる女忍びたちは、素早く貢ぎ物を繰り出した。

滋賀県のお菓子として、くノ一最中やでっち羊羮や弦之介煎餅。

三重県のお菓子として、かたやき、浜焼煎餅、それから朧饅頭。

船便にて島に送られてきた。

ニヤリと笑う、悪人顔の軍学者めいた姿の男が軽やかに食べ物を運ぶ。

微妙な顔の部下たちに、意外にも面倒見のいい超高齢の彼は当惑した。

伝説が幾つも眠るこの島で、なにがあったというのだろうか?

到着後、すぐに贈答される。

それはかなりの量であった。

食べ物の効果は絶大だった。

喜びに沸く島に住む者たち。

何故だか大漁旗を持った娘たちが、そこかしこで走り始める。

女忍びはようやく安堵する。

不戦の約定を結ばねばなるまいて。

そう、しみじみと思う女戦士たち。

 

 

雨が降ったり止んだりしょうるな。

岡山県は全国一降雨量の少ない県なんじゃがのう。

降雨の合間に咲いた薔薇をみょうたら(作者註:見ていたら)、いつの間にか商店の娘さんが傍におった。

着物姿に割烹着。

地味じゃが、美人さんはどげな姿でもよう映えるのう。

 

「おお、まるで立川文庫に出てくる忍者みたいに神出鬼没ですのう。」

「え、えっ? ええと……。」

 

誉め言葉のつもりでゆうてみたが、何故か顔がひきつっとる。

 

「どげんしました?」

「い、いえ、私はただの売り子ですから、忍者みたいなことなんてとてもとても出来ませんわ。お、おほほ。」

「それもそうですのう。あはは。」

 

そこへ、ずんずんとどこからか北上さんがやって来た。

むんずと手を掴まれ、強い力でぐいっと引っ張られる。

 

「提……喜作さん。ちょっとこっちへ来てくれる?」

「そいじゃあ、お嬢さん、またの。」

 

にこにこする娘さん。

睨み付ける北上さん。

よろしゅうねえのう。

 

二人で歩いていると、北上さんが言った。

 

「提督って、ああいう女が趣味なの?」

 

なんのことじゃろうか?

 

「ワシはただ、今しがたあの娘さんと会うただけじゃが。あげに睨むのは、あんましようねえで。」

「わかった。気を付ける。で、それはホントなの?」

「ほんとじゃ。嘘をゆう理由なぞなんもなかろう。」

「提督を信じるよ。」

「当たり前(めえ)じゃが。」

 

そしてワシは発声器官を塞がれた。

なんとも、強く激しい力じゃった。

 

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