瀬戸の艦娘   作:輪音

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表現中の一部、鳳翔を大淀に変更しました。



岩屋

 

 

 

岡山県南部に位置する笠岡諸島。

その島々の中に、ワシと甥っ子の新一と艦娘などの住む六門島(ろくもんとう)がある。

天の岩戸がこの島にあったという伝説を爺様から幼少時に聞かされたもんじゃが、アメノウズメとサルタヒコの出会った場所が六門島との話をするもんまでおる。

県内の成羽町(なりわちょう)発祥の伝統神事である、『備中神楽』との関連性を指摘する学者さんもおるそうじゃ。

あっちはスサノオノミコトとヤマタノオロチの話もあるんじゃったな、確か。

ちごうたかのう。

ヤマタノオロチが製鉄法自体を意味し、天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)が尻尾から出てくるのは作刀の暗喩だとの説もある。

それと、あの剣は草薙剣とも言うのう。

まあ、ワシにはどうでもええ話じゃが。

 

 

今日はその伝説が伝わる『鬼の岩屋』の探検じゃ。

洞窟探検ゆうか確認作業をせにゃおえんけえ、調べてみんとの。

注連縄(しめなわ)も古くなってきとるから、新しく作らんとおえんのう。

行きたいもんを連れてゆくとゆうたらみんな行くゆうて、なんだか遠足になってしもうた。

あの洞窟は、艦娘全員が入れるかのう?

懐中電灯の数が少ないので、赤穂浪士が用いた龕灯(がんどう)を見よう見まねとゆうかうろ覚えで作る。

以前真鍋島に旅芸人の一座が来て忠臣蔵の劇をした時に龕灯が壊れたんでワシが作ったんじゃが、あん時の品をお手本に作り直しじゃ。

これは携帯用灯明じゃな。

ランプがあればこげえなことなどせんでもええんじゃが、ねえもんはねえ。

ねえなら作りゃあええが。

明石さんや夕張さんを中心にして、工作の得意な子がどんどん作ってゆく。

でえれえ器用じゃなあ。

明石さんを誉めたら、大淀さんと間宮さんから肘鉄を喰らった。

なんでじゃ?

 

 

洞窟入口に高張提灯を用意する。

魔除けの籠目紋仕様になっとる。

昔から籠目紋をつこうとるが、土御門(つちみかど)家が関係しとるとかしとらんとかなんかようわからん。

知っとるもんが兵隊に行って死んどったりするから、口伝が残っとらんくて中途半端になったりしょうる。

おえんが、とは思うんじゃけどしょうがねえわなあ。

提灯を見て御用だ、御用だ、とにこにこしながらゆう子たちに気分がやわらぐのう。

それはいろいろ違うんじゃが、まあ、指摘するのも野暮じゃろ。

洞窟入口前では間宮さんや鳳翔さんらがおにぎりをこさえたり、味噌汁や漬け物の用意をしとる。

探検が終わったらご飯じゃな。

 

探照灯という艤装の装備を持っとる子たちがおって、それらは蓄電池で使える仕様に明石さんが改造したそうな。

器用な人じゃのう。

それらは兵器扱いじゃなく、書類の書き換えで備品扱いにしたらしい。

 

 

懐中電灯に散弾銃を持ち、探検隊の準備をして洞窟に入ると中は意外に深い。

足元がゆるやかな階段状になっとって、地下へ地下へと人を飲み込もうとしとるようじゃな。

入っちゃおえん言われてずっと入らんかったけえ、中がどうなっとるんかさっぱりわからん。

ご先祖様の作成した地図には黄泉の国まで続いとるなんて世迷い言まで書かれとるけえ、眉にツバつけとかんといかんがな。

深いのは確かなようじゃ。

新一は大和さんがおんぶしとる。

交代制でおんぶを変えるらしい。

おんぶしましょうかと周りの娘たちに言われたが、そげなことが出来る訳ねえがな。

気を引き締めて、探索開始じゃ。

 

「全艦、抜錨!」

 

総旗艦の長門さんがそう言って、ワシら怪しい探検隊は洞窟へ入ってゆく。

 

 

 

「洞窟って、この辺は多いんですか?」

 

しばらくして、隣の吹雪ちゃんが質問してきた。

 

「そうじゃなあ、岡山県じゃと県北の新見(にいみ)や真庭に多いんじゃがな。新見の井倉洞が特に有名じゃ。」

「成程。それで、この洞窟はどこまで続いているんでしょう?」

「黄泉の国に繋がっとるゆう、しょうもねえ与汰話も聞いたことがあるのう。」

 

みんなでわいわいがやがやゆうて、中を調べてゆく。

先頭はワシと吹雪ちゃんと北上さんと戦艦の艦娘たちじゃ。

慎重に慎重に辺りを調べる。

狸かなんかおるかもしれんと思うたが、コウモリがおるくらいじゃな。

 

やがて、小学校の体育館みたいに広い空間に辿り着いた。

艦娘全員が入ってもまだ大丈夫で、なにかここで儀式でもやっとったんじゃろか?

焦げた薪とか古びた机とか錆びた刀とかがあってなにかしょうたらしいのはわかったけど、なにをしょうたかはちっともわからん。

どうやらここで行き止まりのようじゃ。

吹雪ちゃんの龕灯から蝋燭を取り出してみたら炎が揺らいだので、どこかから風が来とるらしい。

火が消えんけえ、窒息することも無さそうじゃ。

 

結局、そのまま洞窟から出た。

まあ、また今度調べてみるか。

 

 

 

丁度備中松山踊りの時期じゃったんで臨時汽車を出してもらえるように、呉の後輩に圧力をかけてみた。

お盆の時期じゃから機関車と客車の調達に苦戦したようじゃが、お国のために働いた艦娘たちへの慰労と思えば、遺漏なく出来るじゃろう?

祭にゆくのはみんな初めてじゃそうな。

こりゃあ、どうしても連れていかにゃあおえん。

 

汽車は山陽本線笠岡駅を出発し、倉敷駅で伯備線に変更となって北上し、総社駅を経由して備中高梁(たかはし)駅に到着。

到着後はそのまま駅前通りで繰り広げられる祭を見学し、屋台で買い物などを堪能ゆう寸法じゃ。

祭を見学した後はまた汽車に乗って笠岡駅まで戻り、船に乗って六門島へ戻る。

 

その内、倉敷の美観地区へ行って、大原美術館へも行かんとおえんのう。

岡山県と兵庫県の県境にある鬼首村(おにこべむら)の亀の湯へ、みんなで出掛けるのもよさそうじゃ。

嬉しそうに話しかける娘たちへやさしく声をかけ、眠りに入る。

この島でもなにか秋祭りでもやろうかのう。

もう少ししたら蜜柑の収穫時期じゃ。

いろいろと忙しくなりそうじゃなあ。

 

 


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