瀬戸の艦娘   作:輪音

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相撲

 

 

角力(すもう)

かつて

なにも身に付けぬまま

闘いあった

神への奉納神事

女相撲

平和な時代に

見世物とされた興業

女と男の夜戦は相撲

夜の格闘技

パンクラチオン

 

『相撲』

場外の駆け引きが

女たちを惑わせる

 

 

 

呉鎮守府地下闘技場。

別名、マッスル・インフェルノ。

そこで今、艦娘たちによる奇祭が開催されている。

或いは秘祭、とでも言えばいい存在なのだろうか?

近々『普通の女の子のようなモノ』にならざるを得ない、艦娘たちが祭る行い。

男子禁制の行事を、井東喜作は特別観戦していた。

一糸まとわぬ艦娘たちが、己の技術を駆使して真っ向からぶつかり合う。

大本営への予算の申請が認められなかった彼女たちは、ならばとばかりに裸体格闘技を実践することに決めた。

それは人智を超えた力の発露。

最軽量級の海防艦とて、鬼気迫る雰囲気で嬉々としつつの格闘戦の開始。

激しい闘気の応酬。

唸るは胸部の双丘。

跳ねるは女の鼓動。

膨らむ双方の覇気。

揺らめく影が蜃気楼を生み出し、幻影が女力士たちを惑わせる。

馴れ合いの八百長試合では、けして見ること能わぬ意地の激突。

権力闘争に明け暮れ、本質を見失い自浄作用さえ持たぬ人々では行えない死闘。

弱き者へ振るう暴力しか持たないモノどもが、けして辿り着けぬセカイの花戦。

 

 

大淀さんと間宮さんとが近づいてきた。

見慣れたとまではまだいかぬ肢体じゃ。

照明の中でその美しさをあますことなく、ワシの眼前で披露してくれとる。

堂々とされとると気後れするが。

せめて、マワシだけでもしてくれとったらえかったんじゃがのう。

魅力的過ぎて、目のやり場にぼっけえ困るがな。

 

「負けませんから。」

 

大淀さんがワシの目を見つめながら、決意表明した。

 

「私にも譲れないものがあります。」

 

間宮さんもワシを見つめながら言う。

奮闘の結果として大淀さんは軽巡洋艦部門優勝、間宮さんは特殊艦艇部門優勝となった。

 

吹雪ちゃんが近づいてきた。

なんかその、でーれーきらきらしとるみてえじゃ。

にこにこしつつ、ワシに無邪気に抱きついてくる。

吹雪ちゃん、そがあにされるとえっと困るんじゃ。

 

「みんな、やっつけちゃうんだからっ!」

 

そして、えろうキラキラした吹雪ちゃんは駆逐艦部門で優勝した。

 

各艦種部門優勝者が決定した後、総合優勝者を決めようという話になってしもうた。

即座に諾と応じ、気合いを魂の遊底に再装填する優勝者たち。

おとろしいのう。

やはり、根は軍人さんじゃが。

大淀さんと間宮さんの一戦は、気迫が満ち過ぎておっとろしい程じゃった。

紙一重の大外刈で敗れた間宮さんは、ワシの目の前で大開陳してしもうた。

その後猛獣同士の如き激突の末に吹雪ちゃんが大淀さんを破り、重巡洋艦部門優勝者の摩耶ちゃんさえも倒してしもうた。

まさに番狂わせじゃな。

みんな丸見えじゃがな。

ありがたいやら恥ずかしいやら。

決勝戦で戦艦部門優勝者の長門さんと激戦を繰り広げたが、吹雪ちゃんはものの見事に負けてしもうた。

敗者に声をかける勝者。

 

「見事だったぞ、吹雪。日頃の修練を存分に感じさせてもらった。よくぞ私相手にここまで粘ったな。」

「でも、私、負けました。」

「生きているじゃないか。」

「勝たなくてはいけなかったんです。」

「いいぞ、その心構え。それは、艦娘である我々に必要不可欠なものだ。艤装が無くなろうと、我々は戦士だ。たとえ素手でも敵をほふってみせようぞ。ふふふ……この風、この肌触り、この匂いこそ戦場よ。」

 

 

取組の最後は大和さんと武蔵さんじゃ。

特別枠じゃゆうて、誰とも戦っとらん。

この二名でなくてはおえんらしいのう。

吹雪ちゃんとかぶりつきで取組を見つめたんじゃが、思わず鼻血が出てしもうた。

 

 

 

艦娘たちが六門島へ移動する当日。

結局、厳重な報道管制のために記者は一人も現れなかった。

仮に現れたとしても、厳重な検閲の末に毒とも薬ともつかないような記事が新聞や雑誌の紙面を飾るだけだ。

もしくはラヂヲの電波に乗るばかり。

ならば、取材に来る意味が全然無い。

政府と軍部双方を敵に回して勝てる存在など、欧米勢くらいのものだ。

 

軍部は新造艦や外国艦で装備を固める方針らしく、当面は海賊や反政府組織や深海棲艦の残党を相手にするのが中心業務になるだろう。

戦後は世界の中心的存在になる筈が、外交での致命的失敗によって目論見は頓挫。

はっきり言って無能だが、政府は大本営発表を用いて事実を歪曲した。

 

歪んだ線路を汽車が走る。

いつ脱線してもおかしくない。

 

「総員、呉鎮守府に敬礼!」

 

長門の敬礼に合わせ、艦娘全員が整然と一糸乱れぬ敬礼をする。

長きお別れ。

ロング・グッドバイ。

 

 

陸軍輸送船の『虎王』が六門島(りくもんとう)の小さな港に着いた。

「はっやーい!」とか「いっちばーん!」とかの元気な声が聞こえ、解放感に満ちた声が島へ抜ける。

島の住民である鬼頭新一は、沢山のきれいな女の子たちが船からぞろぞろ降りてくる風景に驚愕した。

少年を見つけ、豊かな双丘を震わせた何名かが少年の元へ殺到してゆく。

それはまさに泰山鳴動。

山がいよいよ動き出す。

連峰。

艦娘山脈。

青い山脈。

万丈の山々が瞬く間に形成される。

函国関程の堅固な要塞が完成した。

EFGH包囲網とでも言うべきか。

 

なんだなんだ、とばかりに島暮らしの犬やら山羊やらがぞろぞろと艦娘たちの前に現れた。

戯れる艦娘もいる。

こわごわと、黒い靴下を履いたみたいな山羊に触れる艦娘総旗艦の戦艦長門。

途端、悪戯好きの雌から見事なうっちゃりを喰らわされる。

その姿にどっと笑う艦娘たち。

照れて頭をかく、最強の艦娘。

 

 

そして、彼女たちの島暮らしは始まった。

 

 

 

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