瀬戸の艦娘   作:輪音

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久々の更新ですが、短い話になってしまいました。
お楽しみいただけましたら幸いです。


酒粕

 

 

 

この辺りでは珍しく雪の降った日に、県南にある複数の造り酒屋からぼっけえ量の酒粕をもろうた。

砦(とりで)じみたごっちい屋敷が出来たんと偶然合わせたようにくれたけえ、これでお祝いでもしようかのう。

世の中が平和になって増産に向かようるけえ、これはぎょうさん酒を醸した残滓(ざんし)じゃな。

岡山県にもようけ造り酒屋があるけえ、ここ笠岡諸島の六門島(ろくもんとう)にも恩恵が来たわ。

なんともありがてえことじゃなあ。

 

酒粕の使い方はいろいろあるが、粕汁がええかな。

余ったら、甘酒でも作ろうかのう。

酒粕を初めて見る子も少なからずおって、そういう子たちにもこれは酒を搾った残りなんじゃと教えとく。

鳳翔さんや間宮さんといった料理上手の娘たちに酒粕を渡し、ワシは味噌の仕込みに入った。

蔵で醸しとる芋焼酎や蜜柑の混成酒の具合を確かめながら、酒の微かな匂いが辺りに漂っとるのを嬉しゅう思う。

みんな喜んでくれるとええなあ。

 

ワシが作る甘酒を呑みたいゆう希望者は、思うた以上に多かった。

大和さんに後ろから抱き抱えられた甥の新一を助手にして、板状の酒粕を細こうちぎりつつ大鍋に投入してゆく。

井戸水を加えながら掻き混ぜ、火を調整しながらゆっくりゆっくり溶かしていった。

明け方から朝方にかけて降った雪は既に溶けきっとって、酒粕も鍋の中で形を失っていきょうる。

大和さん、顔があけえけど大丈夫じゃろうか?

なんか、ハアハアとようるし。

熱でもあるんじゃなかろうか?

気になったんで、聞いてみた。

 

「大和さん、具合がわりいんなら、休んだ方がええんじゃねえんか?」

「え? あ、えと、その、大和は大丈夫です!」

「じゃけど、あんたさん、鼻血を出しとるが。」

「こ、これは、その、単なるオイル漏れです!」

「そげなか。」

「そげです!」

 

なら、ええか。

 

 

新築祝いの宴(うたげ)は始めの内、なごやかな雰囲気じゃった。

流石は皆元軍隊におっただけのことはあるなあ、と感心しとった。

じゃが。

甘酒をふるもうた時から、なんとも怪しくなってしもうたんじゃ。

発端は駆逐艦の子たちじゃった。

吹雪ちゃんがぺろんと服を脱いでしもうて、他の子はもぺろんぺろんとやってしもうた。

おまけに止めてもらおう思うた北上さんも服をぽろんぽろんと脱いでしもたし、大人な雰囲気の子たちが次々風呂場へでも行くかのような姿になってしもうた。

そげんに度数がたこうはねえ筈なのに、これはしもうたことをしたのう。

ワシは収拾を図ろうと思うたが、娘たちにこうもしがみつかれてしもうてはどうにもならんがな。

おお!

長門さんが立ち上がってくれた。

これで少しは状況がようなろう。

 

「たまにはこうして破目を外すのも悪くはないだろう。長門の名に於いて、今夜は無礼講を許す。存分に楽しむがいい。」

 

おうっ! と叫んで新たに産まれたままの姿に変化してゆく子がある。

おえんがな、長門さん。

……酔っとるんか?

新一が肌色の塊にもみくちゃにされとる。

なんとかせにゃおえんとは思うが、多勢に無勢じゃが。

吹雪ちゃん、そげえなことをここでしちゃおえん!

鳳翔さんに間宮さんに他の子たちもわやしたらおえん!

 

 

結局、その夜のワシは何名もの娘っ子たちにもみくちゃにされてしもうた。

 

 

 




【註】

ぼっけえ→とても、大変

ごっちい→ごつい、大層な

ようけ→沢山

あけえ→赤い

ようる→言っている

わりい→悪い

そげなか→そうなんですか

じゃが→だが

そげんに→そんなに

おえんがな→いけませんね

わや→わやくちゃ

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