夢
それは戦の無い平和
砲撃の聞こえぬ世界
雷撃を喰らわぬ世界
爆撃の訪れない世界
刃傷沙汰の無き世界
毒物を盛られぬ世界
鈍器の殴打無き世界
他者を貶めない世界
平和
それは待ち望んでも
なかなか訪れぬ世界
されども人はそれを
渇望しては得られず
折角得かけては失い
ほんの一時擬似的な
それを愛玩してまた
呆気なく捨てるのだ
人ならざるものたち
麗しき愛に生きる者
戦闘本能に生きる者
小さな島で生活する
島に住む者
住まない者
おこぼれを狙う者
牙を失った者らが
生きてゆくは
瀬戸内海の島
あらゆる艦娘が住む
ここは人と魔の戦いが産み落とした
惑星地球の神住む島
彼女たちの躰に染みついた
硝煙のにおいは今も消えず
お茶の香りは打ち消せるか
そのむせるがごとき存在を
『抹茶』
艦娘たちが飲む緑茶は苦い
春の朝。
まだ日も昇らぬ時間。
冷涼な空気が島を包み込む中、一人の中年男が海を眺めていた。
心地よくも冷たくさえ感じる風が彼をやわらかくも執拗に撫で回す。
昨晩の応酬が如くに。
男は、島に住む美しい娘たちの食糧供給に思いを馳せた。
最初はどうなることかと思われたが、やればなんとかなるものだ。
水資源が豊かだったのが、ひとつの幸いだと彼は思った。
懸念だった生活のための住居は完成したモノを見るとまるで城か要塞だが、気にしない方が賢明かも知れない。
島に住む存在が爆発的に増加したため、働き手の輸出は日常業務のひとつである。
スイスの傭兵のように。
実際、現在半分程の娘たちが出稼ぎで奮闘している。
身元をこっそり隠しながら。
戦後の混乱期は、それを容易に可能ならしめていた。
猟。
漁。
農業。
開墾。
建設。
その他。
新たな生き甲斐を見つけた娘たちは、戦争を生き延びた喜びと新たな方向性の入手という双輪がためにやる気満々であった。
彼は不意に、彼女たちへ抹茶を振る舞おうと思い立つ。
岡山県はお茶の産地としても優秀で、高級茶葉の生産もしている程だ。
その産地の内のある茶園から、彼らは抹茶を貰えることになっていた。
それは純粋な好意。
ありがたいことだ。
菓子をあの娘に作ってもらわねば、と男は考えた。
不意に、なにやら気配を感じる。
振り返ると、そこには数名の娘。
微笑むは人に在らざるものたち。
彼女たちは艦娘。
海を戦場として、深海棲艦との激闘をくぐり抜けてきた猛者たち。
まさに勇者たち。
人と魔の戦いは終わった。
確かに、それは終わった。
複数の影が一つの影に寄り添いながら、島の道を動いてゆく。
それは時折、姿を変えながら。
岡山県笠岡市の笠岡諸島。
その島々の中にある、六門島(ろくもんとう)。
ワシは慌ただしい雰囲気の中、大量の抹茶を受け取る。
石臼で挽かれた茶は、香り豊かに辺りを満たしてゆく。
茶箱を持ってきた男は受領に付き合うてくれた大淀さんや間宮さんを見て、ほうけた顔をしょうる。
まあ、いずれ菖蒲(あやめ)か杜若(かきつばた)じゃけえの。
抹茶を飲むのに使う器じゃが、地元の備前焼の工房が善意で商いにならんもんをくれたんは大きい。
ありがてえことじゃ。
てきぱきとお茶の準備が進む。
終わったら、皆でお茶の時間。
天気がええけえ、野外で野点(のだて)じゃ。
「これがニッポンのティータイムデース!」
巫女服を着た娘さんが、海外の子たちになにやら説明しょうる。
ええことじゃ。
先ず、出された菓子を全部食べる。
間宮さんの作った絶品の羊羹じゃ。
でえれえうめえのう。
次に器を回し、抹茶を飲み干す。
大体、こげえなんが作法らしい。
駆逐艦の子や海防艦の子は、苦手そうな感じにしとる子が多いのう。
「苦いから、口直しがいるねえ。」
そう言って、ふらりと北上さんがワシに近づいてきた。
何事じゃろうか?
いきなり唇を奪われて、ワシはびっくりしてしもうた。
「あっ、その手がありましたか!」
こちらを見とったらしい大和さんが、大きな声でそげなことをゆうた。
あんたさん、なによおんで。
大和さんの膝の上にいる甥の新一がちらりと見えたものの、すぐに大きなお姉さんたちに囲まれたけえ、甥っ子がどねえなっとるかようわからん。
「提督、口直しの時間です。」
大淀さんが真面目な顔でそうゆうと、ワシの手を引いて林に向かって歩きだした。
吹雪ちゃんや何人かの子たちも一緒じゃ。
林は丁度木陰を作っとって、すぐには見えんようにはなっとるようじゃ。
好奇心の強そうな子たちがこっそりついてきょうる。
あんまり激しいことはしちゃおえんのう。