岡山県の中央よりやや北西にあるんは、城下町の高梁市(たかはしし)。
その昔、備中松山藩と呼ばれた地じゃ。
大石内蔵助ともゆかりのある場所じゃ。
お盆の時期に江戸時代から行われている夏祭りは、備中松山踊りとゆう。
水谷(みずのや)勝隆公によって提唱されたそれは、岡山県三大祭りの一つとして今も夏の風物詩となっとる。
ワシは甥っ子の新一と愉快な艦娘の面々及び島の商会や商店の人々を連れ、笠岡諸島の六門島(ろくもんとう)からポンポン船を経由して笠岡駅に到着。
山陽本線に乗って倉敷駅まで行き、そこから伯備線の汽車に乗り継いで高梁駅へ到着し、深夜まで踊りに踊って濃厚な夜を過ごしたのじゃった。
なんか知らんけど、警察官や目付きの鋭い男がようけえおったな。
艦娘の皆がキラキラと輝いとったけえ、とてもよかったと思った。
日常に帰れば、普段の生活が待っとる。
お盆を過ぎて暑さも一段落し、大和さんが新一を肩車しつつ畑仕事に精を出す日々。
ある日、島でも祭りをしたいと吹雪ちゃんや彼女の姉妹やなんか沢山の艦娘たちから請われてしもうた。
そげえにしたいんかのう。
もみくちゃにされて、参った参った。
新一と大和さんが木陰で和やかにサイダーを飲んどる。
お姉さん系の艦娘たちが、その周りで穏やかな表情をしとる。
新一もやるのう。
夕方、わけえ艦娘たちに囲まれる。
こげなんじゃ、逃げられやせんが。
「花火を上げましょう!」
「駆けっこをしようよ!」
「走るのだったら負けないよ!」
「いっちばーん!」
「ぱんぱかぱーん!」
「それじゃ運動会です。」
「いいじゃない。昼は運動会で夜は盆踊りにしてしまえば。」
「ねえ、提督。この島での伝統的な夏祭りは無いの?」
みなが一斉にわやわやようるけえ、なんかようわからん。
ん?
夏祭り?
この島で?
「そうじゃなあ。蔵の文献でも読んでみるか。」
「それでは不肖この大淀、お手伝い致します!」
ぬおおっ!
大淀さん、いつの間にワシの後ろにおったんかな!
驚くがな。
それに、そげなとこをもみもみしたらおえんがな。
蔵の中の古い文献を漁っとったら、だいぶん昔はお盆過ぎに夏祭りをしとったらしい。
江戸時代にはそれなりの規模でやっとったらしいが、人口の減少や伝承が薄れてゆく中でいつしか忘れ去られたようじゃ。
どうするかのう。
中でも射的が重要な位置にあって、昔は弓をつこうておったが、大正の頃にはコルク銃をつこうとったそうじゃ。
二丁見つかり、そういえば小さい頃に撃ったこともあったことを思い出した。
埃(ほこり)だらけな輪投げの道具も出てきたし、なんか蔵の中の艦娘がどんどん増えてきょうるの。
そげなとこをむにむにしたらおえんがな。
そうじゃなあ。
射的と的矢と輪投げと……メリケン製の綿菓子機も出てきたし、かき氷機も出てきた。
洒落者の爺さんの趣味かのう。
ようこげなものをこうたのう。
機械類は、頼めば明石さんと夕張さんが直してくれるじゃろ。
と思っとったら、いつの間にか明石さんと夕張さんがすぐそばにおって、道具類を全部持っていってくれた。
ワシをぺたぺた触る娘がおるけど、ワシはビリケンさんと違うぞ。
氷は大和さんや武蔵さんといったお姉さん系艦娘が作ってくれるゆうたけえ、任せとこう。
どうやって作るんかのう。
「乙女の秘密です。」と大和さんはゆうとったが、まあ、追及はせんどこう。
間宮さんが「私のを見ますか?」と赤い顔で聞いてきたんじゃがやめといた。
大淀さんと間宮さんもえらく張り切っとって、昼はみんなに試作品を食わせとったが、夜はワシが食われてしもうた。
まあ、それはどうでもええことじゃな。
よく晴れた風の強い日。
島の夏祭りが始まった。
紅白幕に応援団。
まさに運動会の様相じゃ。
赤組白組どんどこどん。
ドンドンと大砲みたいな音と共に、駆けっこしてゆく娘たち。
玉入れ綱引き徒競走。
お昼はみんなでお弁当。
みんなで仲よくお弁当。
戦う戦う娘たち。
キラキラ光る娘たち。
やれ行けそれ行けどんどんと。
最後は決戦川中島。
上杉武田の総力戦。
勝つも負けるもこの一戦。
行くはもののふ負けてはならじ。
激突激突大決戦。
接近接戦白兵戦。
さあさあ皆様ごろうじろ。
戦い終わって日が暮れて。
皆で勝敗分かち合う。
勝っても負けても恨みっこなしよ。
夜は盆踊りが待っているのだから。
踊ればぐんぐん仲が深まってゆく。
那珂ちゃんの歌に合わせてさあご一緒に。
見ごたえのある紅白戦じゃった。
さあ、全員で氷菓を喰らおうぞ。
前に作った葛をアイスキャンディにつこうてみたそうじゃが、なかなかの味じゃ。
溶けにくいのもええ点じゃと思う。
まさに皆の努力の結晶とゆうとこじゃし、もろうた果実の果汁も旨みを増す要因じゃ。
西瓜、葡萄、白桃、それにすもも。
爽やかな夏の味わいはうめえのう。
日が傾き、夜が近づく。
赤紫に染まる空に笑顔が沢山。
夏祭り夜の部、開幕じゃ。
櫓(やぐら)で太鼓がどんどこどん。
おかっぱ頭の娘さんや長い髪の娘さんが勢いよく太鼓を叩きょうる。
綿菓子機は大和さんに抱っこされた新一が担当し、恥ずかしながらもきちんとやっとる。
輪投げも的矢も盛況じゃ。
一番人気は射的。
行列が出来とる。
蔵に二丁あったコルク銃は何故か六丁に増えとって、パンパン艦娘の皆が真剣な顔で撃っとった。
まるで兵隊さんみたいじゃ。
……ああ、皆兵隊さんじゃったの。
コルクの形が形じゃからそげえに当たらん感じもするんじゃが、よう当たりょうる。
ワシもやってみたが、全然当たりゃあせんが。
「提督のここの大砲はよく当たるから、大丈夫だよ。」
おうふ。
女の子がそげなところをぱんぱん気軽に叩いたらおえんがな。
注意したら、娘はごめんねーと言いながらニヤリと嗤ようる。
その直後、夜空に大輪の花が咲いた。
【註釈】
ようけえ→沢山、多く
そげえに→そんなに
ようる→言っている
せんどこう→しないでおこう
そげな→そんな
おえん→駄目、いけない
こげな→このような
こうた→買った
もろうた→もらった