平和が訪れた
爆発的野心を抱いて
映画関係者たちが
新たなセカイを模索する
そうだ
羅馬(ローマ)を舞台にした
映画を作ろう
かつて偉大な文化を築いた地で
新たなキネマを作ろう
そして
新人女優と名優が
撮影に臨んだ
三ヵ月の時間をかけて
丹念に撮影された
やがて
屈指の作品が完成した
平和を象徴する作品が
生み出された
『羅馬』
それは
人々の夢が詰まった
果てなきセカイに繋がる場所
私の名前はローマ。
誇り高きイタリア艦娘。
日本生まれの日本育ち。
ご飯と味噌汁と漬け物を食べるのが当たり前な、なんちゃってイタリア娘。
世界のために戦い、イタリアへ帰る日を夢見た。
かすかな記憶の中に眠るイタリア。
美しきイタリア。
だけど。
戦争が終わっても、私は、いえ、私たちイタリア艦娘は祖国と信じる国へ戻ることを許されなかった。
それはメリケン艦娘もブリテン艦娘もフランス艦娘もソヴィエト艦娘も同様だった。
嘆き悲しむのは、日本艦娘も同じだった。
彼女たちも祖国には受け入れられなかったのだ。
世界の平和に貢献した筈の私たちは、世界各国の政府にとって厄介な存在に過ぎなかったらしい。
私たちは地中海に似た気候のクレの基地に集められ、煉瓦と鋼鉄の監獄で過ごすことが決定されようとしていた。
そこへ中年の日本人男性が現れ、私たちを引き取ることに決まった。
ロクモントウの生活は悪くない。
イタリアを想うと悲しくもなるけど、海外艦娘たちのまとめ役として気丈に振る舞わなくてはならない。
オオイがかなり気にかけてくれ、会話している内に私たちはいつの間にか親友になっていた。
彼女はどうやら、ロマンティストのように見える。
オオイはキタカミの話や姉妹たちの話をよくする。
私もリットリオやポーラなどの話をする。
彼女はやさしく気遣いのよく出来る娘だ。
きっといい嫁になれるだろう。
相手がいればの話だけれども。
ローマで三ヵ月撮影されたという、『ローマの休日』が日本でも上映されると聞いて私たちはキサクになんとしても観たいと迫った。
この好機を逃してなるものか、と。
キサクは艦娘全員が映画を観ることが出来るようにと、随分駆け回ってくれたようだ。
オカヤマのとある映画館館主が意気に感じてくれたらしく、くだんの映画の上映期間終了後にロクモントウで特別上映会を開いてくれることになった。
政府もダイホンエイも特に横槍を入れるつもりは無いようだ。
他に、検閲を受けた日本の映画二作も上映してくれるという。
オノミチからトーキョーの子供たちに会いに行く老夫婦の話とサムライたちが村を守る話で、どちらも人気のある映画だとか。
人間の好意に感謝しよう。
ただ。
キサクが謎の言葉を呟いていたのが気になる。
「なんで接吻したらおえんのなら?」
セップンとはなんだろう?
後でオオイに尋ねてみるとしよう。
ローマ。
私が冠する名前の元になった、麗しの都の名前。
その都を舞台にした映画。
これが興奮せずにいられようか?
『キネマ詳報』の『ローマの休日』特集号を、擦りきれそうなくらいに読み込む。
ヒロシマでもフクヤマでもカサオカでもオカヤマでも売り切れだったそうで、皆がっかりしていたところ、行商人のモコクがふらりと持ってきたのだった。
彼はこの映画を観たそうで、皆の前で矢継ぎ早の質問を受けていた。
まるで大規模作戦に臨むような表情の艦娘たちに、普段無表情のモコクが青白くさえ見えた。
真実の口。
スペイン広場で食べるジェラート。
スクーターのヴェスパ。
夢が止めどなく広がる。
ローマ。
私のローマ。
いつかきっと訪れてみせる。
密かに誓い、私は近い内に訪れるだろう上映会へと思いを馳せるのだった。