潜水艦。
艦娘の中では最も運用が難しいと言われる艦種。
長門と大淀によって秘密裡に輸送艦内会議室へと呼ばれた彼女たちは、とある秘密任務を授かった。
作戦名は『海底二万哩(マイル)』。
「お前たちに特殊任務を与える。」
「世界の海に沈んでいる財宝を入手してください。」
頷く潜水艦たちに肌のとても白い娘たち。
豪華なお宝を積んだまま沈んだ船は多い。
それらの財貨を入手出来れば、彼女たちの経済力が飛躍的に高まる。
この島が独立勢力として生き延びるためにも、大金の入手は必須項目であった。
肥沃な島は今年も豊作だろうし、海産物も豊漁になるであろう。
だが、それでは足りない。
圧倒的にすべて足りない。
マルタやサンマリノやリヒテンシュタイン辺りの独立性を保つのが、今のところの目標だ。
海の妖精たちと仲魔になった者たちの協力があれば、ここに楽園を構築することも可能だと思われる。
財界政界のお偉方は間宮羊羮で買収だ。
稀少且つ高級な甘味の誘惑は強力無比。
一度でも食べたら、忘れられない旨さ。
豊かな慈味に深い余韻は正に一騎当千。
それと、酒は更なる高品質化を目指す。
庶民的普及酒と高級酒を並行して醸す。
既に複数の引き合いが来はじめていた。
稀少性と高評価。これが肝心要なのだ。
この戦後の混乱期を活用せぬ手は無い。
「『海底二万哩』作戦担当艦隊の、『深海御宝探検隊』抜錨なのね!」
「邪魔する奴らは、ぜーんぶお利口魚雷の餌食でち!」
「これ、『侵食魚雷』って書いてあるけど使えるのかな?」
「お酒がたんまりあると嬉しいな。」
「呑みすぎは駄目よ。帰投するまでは我慢しなさい。」
「オタカラ、タンマリ、ウレシイ。」
深海を得意とする者たちによって、稀少な財宝が次々に獲得される。
艦娘を受け入れなかった世界各国の政界要人や経済界のお偉方や大金持ちだが、海から引き上げられたお宝に対しては目の色を変えて自らの邸宅に受け入れようとした。
人の欲に果ては無い。
リヒテンシュタインに住むメルカッツ伯爵を通じ、ササンのオークションに貴重な品々が続々出品される。
中世頃と思われる磁器や漆器や陶器など。
刀剣類や宝飾類や衣類なども出品された。
いずれも初出品の珍しき品々。
考古学的にも価値の高い品々。
美術館や博物館も鵜の目鷹の目で注目中。
出品者は匿名の日本人という。
スイスのベルンに本拠を置く個人向け資産運用金融機関のミュラー伯爵が出品者の保証人ということもあり、大量に放出された旧き名品群は好事家たちの耳目を惹いて白熱した接戦が連日連夜繰り広げられた。
フィレンツェはメリチ家の『イル・マニフィコ』(偉大なる男の意、尊称)やウッツァーノ家、ミラノ公スフォルツァ、アメリカのコルト家やスミス家やウィンチェスター家、東方帝政ロシアのロマノフ家も積極的に参入したため、戦後初のロンドンでの大規模オークション会場は世界各地の大金持ちが集う一大決戦地と化した。
ソヴィエト連邦や大陸の高官たちも、代理人を通じて本人たち的に言うとこっそり入札していた。
したたかな欧州の魑魅魍魎世界に棲息する人々からはバレバレだったが。
中東の強国たるアスラン王国からは、やさしく気高く優雅で麗しい少年王の『獅子王』アルスラーン様がお付きの武官文官たちと共にオークション会場に現れ、大きな話題になった。
晴れ渡った夜空のように深い色の瞳に、市井の人々を尊重する気遣いに満ちた高貴なる性質。
極めて温厚篤実にして繊細、相手の気持ちを汲む能力に非常にすぐれるお方。
彼に魅了されない人がいるだろうか?
いや、いない。
その筈である。
まさに姫殿下の面目躍如だ。
周囲の人々を癒しの波動で悩殺しながら素晴らしき少年王は東洋の珍しき物品にきらきらと目を輝かせたもうて、縦横無尽に知略を駆使することで有名な王佐の軍師は身命を賭して数多落札せんと大発奮し意気込むのだった。
質素堅実な服装を好まれる殿下はその後部下の暴走をたしなめ、私は見るだけで満足なのだとのたまわれたのであった。
結果、姫殿下と同行されていた美しき母親のタハミーネ皇太后向けと思われる、小さな磁器を一点落札されただけという。
冷ややかにも見えるご母堂の対応にも無垢なるやさしさで微笑む少年王の度量の広さは多くの人々に感銘を与えたもうて、『かの国の強さは王の強さなり』と感服せしめたもうたのだった。
会期中、アスラン王国隣国のルシタニア王国国王インノケンティウス三世が姫殿下の母君にはぁはぁと興奮しながらちょっかいを出し、重鎮のモンフェラート上級大将に淡々とたしなめられていた。
それは醜聞を大層好む野卑下品下衆な覗き見大好き系バルバロイ的恥知らずな蛮族記者たちの恰好の餌食となり、電話回線電報伝書鳩などを通じてロンドンから世界各国に即座に発信される。
高尚な人ばかりが、この世に生きているのではない。
マスメディアの発言を鵜呑みにする人は意外に多い。
斯くて、大本営発表は別の形で今も生き続けている。
自分自身の頭で考えることを拒否するのは楽だから。
兎に角頷けば、世論に合致しているかに見えるから。
考えることは意外と莫大なエネルギーを要するから。
これを聞いたルシタニア王国国王王弟兼宰相の中年独身男性苦労系は、「あのアホタレがっ! またもや、世界中に恥をさらしおって!」と激怒したという。
彼の苦労はこれからも続く。
このオークション会場での最大の話題となった言葉は、「艦娘に一度会ってみたいものだ。」という素晴らしきアルスラーン様のものだった。
姉が最近ふわふわになってきている。
呉にいた頃は、しょっちゅう険しい顔をしていたものだが。
落差がかなりでかいな。
変われば変わるものだ。
「それでですね、提……新一君と一緒にいるとふわーって気持ちになってくるんですよ。ふわーって。わかります?」
「さあな、わからん。」
「ふふ、武蔵にもわからないことがあるんですね。新一君の周りにいる子たちと、今度『鬼頭艦隊』を結成するんですよ。貴女も参加しませんか?」
「私は私で判断する。……大和、お前は今幸せか?」
「はい! 勿論です! 提督は私の御宝ですから!」
北欧にサーブゆう航空機の会社があるそうじゃ。
そこの車がこの六門島(ろくもんとう)へやって来た。
なんと、ワシへの贈り物らしい。
……えらく高そうな舶来品じゃが。
ワシの隣では明石さんが大興奮して抱きついてきょうるし、夕張ちゃんや秋津洲ちゃんも興奮しとるように見える。
北上ちゃんも、「北欧って侘び寂びだよねえ。」などと言っとる。
目をキラキラさせた明石さんが、ぴょんぴょん跳ねながら言った。
「これは一九四七年式のサーブ92ですね! 少々旧い車ですが、状態はとてもいいですよ。この濃緑色は生産国のスウェーデンの森の色を表しているのだと思います。航空機製造会社のサーブが、初めて販売した自動車だそうですよ。スウェーデン人技術者のグンナー・ユングストロームが設計を手掛け、車体はモノコック構造を採用。小型軽量を旨とする、二五馬力二気筒式内燃機関を搭載。重心高を下げて操縦性を上げるところがにくいですね。空想科学小説の挿し絵を描いていたこともある工業意匠家のシクステン・サッソンが巧みに構成した外観は、『素晴らしき未来』を形にしたモノだと考えます。」
「お、おう。そねえにええ車なんか。」
「ええ、それはもう。喜作さん、この車を分解整備していいですか? いいですか? いいですよね?」
「あ、明石さんたちがちゃんとやってくれるんじゃったら、かまわんわ。」
「よーし、みんな! 気合いを入れてばらすわよっ!」
おーっ! という声が足元からも聞こえる。
妖精たちも気合い充分のようじゃ。
ドイツのゾーリンゲンゆうとこの包丁や鋏もいただいたし、ステッドラーゆう会社の青い洒落た鉛筆も消しゴムももろうた。
フィンランドに住む童話作家のヤンソンゆう人が書いた『小さなトロールと大きな洪水』の英訳版を、今、ウォースパイトさんがせっせと日本語に翻訳しとる。
秋雲ちゃんが原作の挿し絵を模写して、一生懸命紙芝居風に描いとる。
訳した部分を毎日駆逐艦たちに、実に丁寧に読み聞かせとるのは流石陛下じゃ。
秋雲ちゃんの紙芝居が効果を出しとる。これぞ二人三脚の日英同盟じゃ。
外国作品を日本語版に翻訳してゆく仕事ゆうのも、ええかもしれんなあ。
他にもいろんなもんが来とる。
リンツゆうスイスのチョコレートが向こうの伯爵さんからぎょうさん送られてきて、みんなも興奮しとった。
あれは旨かったのう。
しかし、なんでこげえに沢山の舶来品がこねえに辺鄙(へんぴ)な島に届けられるんじゃろうか?
神戸や横濱や東京ならまだわかるんじゃがのう。
このレルヒェゆう雲雀(ひばり)の姿が彫られた鋏はすっとした形で、よう切れる。
流石はドイツ製品じゃのう。
みんなが喜んどる姿は、ワシにとって御宝じゃ。
この笑顔を守らにゃおえん。
大淀さんがとことこと近づいてきて、ワシの耳元で色っぽく囁いた。
「イタリア製の下着が手に入ったんです。今晩、お見せしますね。」