「こちらの神様が埴丸(はにまる)様じゃ。」
「「「「「埴丸様?」」」」」
冬の昼下がり。
柄杓(ひしゃく)と桶と手拭いを持ったワシは大淀さん間宮さん長門さんに加え、なついてくれとる吹雪ちゃんとワシに興味があるとゆう武蔵さんを連れて六門島(ろくもんとう)北部のスサノオ山頂上まで登った。
山の名の由来は、高天原(たかまがはら)を追い出されたスサノオ様がこの山で腰かけて休んだことに由来するゆう話じゃ。
頂上に祀(まつ)られとるのは埴丸様。
なんでも、古い古い神様とゆう話じゃ。
古墳時代にはこの辺りに豪族が拠点を置いとって、その頃から埴丸様を祀っとったらしい。
見た目は素焼きの埴輪の兵士。
隣に同じく素焼きの馬がおる。
祠(ほこら)の中からこの島をずっとずっと守ってくださっとる、ありがたい神様じゃ。
「神様か。」
長門さんがじっと見つめとる。
その横顔へと話しかけてみた。
「艦娘さんたちも、ある意味神様じゃな。」
「そんな大層なものじゃないさ。」
長門さんの顔が赤く見える。
なんぞ緊張しとるんかのう?
ヒトの姿にありて、ヒト為らざるモノ。
ならば、それはなんじゃゆう話じゃな。
これ、吹雪ちゃん、下穿きが見えとる。
しゃがんだら、はっきり見えるんじゃ。
長門さんや武蔵さんの下穿きも見える。
おえんがな。
大淀さんと間宮さんが、何故かニヤニヤしながらこっちを見とる。
ワシは美人さんたちから目を逸らし、近くの泉で桶に水を汲んだ。
手分けして埴丸様と馬と祠をきれいに拭き、それは直に終わった。
霞ちゃんに握ってもらったおにぎりと蜜柑をお供え物にし、拝んでから山下りする。
昔話によると、昔樵(きこり)がここの泉で鉞(まさかり)を落としたそうな。
その時点で突っ込み感満載じゃが、その樵が嘆いておるとそれはそれはきれいなご婦人が現れたそうな。
狢(むじな)か狐じゃな、たぶん。
そいつらがおなごに化けたんじゃ。
お前が落としたのは金の鉞かそれとも銀の鉞かと、ご婦人は両手にそれらをたずさえて聞いたそうな。
二刀流じゃ。
坂田金時や三国志の徐晃もびっくりじゃ。
驚いた樵は、こう答えたそうな。
自分が落としたのは備中国重が丹念に打った鉞であって、実用性無く装飾品の金銀の鉞では仕事にならぬと。
がっかりしたかに見えるご婦人は元の鉞を樵に返し、金銀の鉞も正直者への褒美として与えたという。
そして、島を訪れた金持ちが金銀の鉞を高く買い取り、樵はきれいな嫁を得てこの島を長く繁栄させたそうじゃ。
どっとはらい。
泉の逸話を話すと、全員感心しとった。
感心するような話かのう?
右隣の武蔵さんが話しかけてきた。
「この小さな島にも、神話や逸話などが複数あるのだな。」
「近隣の島じゃと、少し前に獄門島で美少女姉妹連続殺人事件があったのう。」
「大事件じゃないか!」
「東京から探偵が来て引っ掻き回したとか事件を解決したとか、いろんな噂話が当時飛びかっとったのう。特に週刊文美春(ふみはる)のカストリ記者たちがどえれえしつこく関係者たちに付きまとって、全員魚の餌になってしもうたそうじゃ。なんでも、犯人が怒り狂って斧でどたまをかち割ったり紐でくびり殺したり毒を飲ませたりしたらしい。」
「そ、そうか。」
左隣の大淀さんが意気盛んに話しかけてきた。
「提……じゃなくて喜作さん、埴丸様のお守りを作りましょう、お守り。海難防止、安産祈願、大願成就、学業成就、交通安全、などなど。巫女役は金剛姉妹や扶桑姉妹たちや手の空いた駆逐艦たち辺りに任せましょうか。」
「なんでもありじゃのう。」
明日は広島方面に船を出して、いろいろ買っておくかのう。
ぎょうさんぎょうさん買っとかんと、あっという間に備蓄が無くなるけえな。
知り合いの備前鍛冶に日用品を打ってもらっとるが、ええつ(あいつ)は気まぐれじゃけえな。
前を歩いとった吹雪ちゃんが転んでしもうた。
抱き起こしたワシは、ついつい口にした。
「間宮さん、今夜は湯豆腐がええのう。」
「はい、丁度今作っている豆腐が使えますね。」
よくわかっとらんらしい吹雪ちゃんは首を捻り、じゃあお手伝いしますねと言った。
「喜作殿、間宮に、今度かすてらとかの甘いお菓子を作ってもらってもいいか?」
一見無表情に見える武蔵さんが、ボソッとワシの耳元でそう囁いた。