東方半獣録   作:幻想郷のオリオン座

111 / 245
不安な夢

あの夢を見た後から、私は寝ることに不安を抱くようになった。

もし、またあの夢を見たら? とか、そんな不安を抱く。

だけど、その夢は私の過去…なら、もしかしたら…って思うけど

そんな風に思うと同時に、あの聞えてきた誰かの言葉が

再び脳裏に蘇ってしまう。

思い出さない方が良い、後悔をする、今の幸せを受入れろ…

もし、私の中にもう1人の私が居て、その私が私の過去を知っていて。

…知っているから、思い出さない方が良いと忠告してくれている。

 

「……」

「フィル」

「……」

 

私って…本当になんなの? 私の過去に何があるの?

知りたくない…でも、それでも私は思い出したい。

自分の過去は良いけど、お父さんとお母さんの事を…思い出したい。

あんな風に、きっと私を今まで慰めてきてくれたんだ。

まだ、夢の中にはお母さんしか出て来てないけど

きっとお父さんも、優しい人なんだと思う。

会いたい…例えあえないとしても…せめて、思い出したい。

このままじゃ、私は…

 

「フィル!」

「はぅ!」

 

し、尻尾が! 尻尾が押しつぶされる! 

 

「ったく、何してるの? ボーッとして」

「は! す、すみません咲夜さん! い、今すぐ掃除を再開しますね!」

「……フィル」

「は、はい?」

「何かあったの? 何だか最近、ボーッとしてること増えてるわよ?」

「い、いえ、そんな事は…」

「あなたが真面目な事を、私は知ってる、いつも仕事に集中してるし

 掃除も徹底してる、料理はまだ下手だけど、分量と火加減は上手いわ。

 短期間でここまで成長出来たのは、あなたの集中力が凄いからよ。

 だからこそ不思議なの、どんな些細な事でも集中して取り込むあなたが

 何故、最近はそんな風にボーッとしている事が多くなったのかをね」

「……そ、その…ちょ、ちょっと仕事から離れてた時期が長くてさ、サボり気味にな」

 

……あ、あれ? 何かが私の顔を掠めた……な、ナイフ…?

 

「それ以上くだらない嘘を吐くというなら、容赦しないわよ」

「あ…あはは…は…す、すみませんでした!」

「よろしい、では話なさい、別に大事に至る事じゃ無ければ

 こんなに強要はしないけど、あなたの態度を見ていると

 どう考えても重大な事でしょう? 相談をするのは大事よ」

「は、はい…」

 

うぅ、さ、咲夜さんには敵わないなぁ、大人しく全部話そう。

 

「あ、少し待ってて、仕事を全部片付けてくるから

 あなたは動かず、そのイスに座って待ってなさい」

 

…い、いつの間にかイスに座ってた、私の部屋…ほ、本当に一瞬だよ…

 

「待たせたわね、さ、話を聞かせて貰いましょう」

「も、もう終わったんですか?」

「私を誰だと思ってるの? ほら、話なさい」

「は、はい…」

 

私は咲夜さんに夢の話と、その謎の声の事も全て隠さず話した。

今まで、ずっとどうしようと考えていたけど、いざ話してみると。

案外、スッキリする物だと分かった…話せてよかった。

 

「自分の過去かもしれない夢があまりにも悲惨…更には謎の声ね。

 そりゃ、確かにあまり話したい内容では無いわね」

「はい…すみません、こんな話を」

「私が強要したのよ? あなたが謝る必要は無いわ。

 でも、一応は話した方が良いと思うわよ、お嬢様にも。

 いえ、最悪お嬢様に話さなかったとしても、八雲 紫には話すべきだと思うわ」

「何故ですか? 紫さんにはあまり関係が」

「あの賢者はあなたの事を色々と知ってるんでしょ?

 なら、あなたのその異変も分かるかもしれないわ」

「あ!」

「だから話してきなさい、今日の仕事は終わらせてあるから」

「はい…ありがとうございます」

「構わないわ、そうだ、お嬢様にはお話しするの?」

「……いえ、心配を掛けるわけにはいきませんから」

「そ、分かったわ、ただ一応、あなたが外出すると言う事は伝えておくわ。

 理由ははぐらかしておくから、安心して行ってきなさい」

「はい」

 

…咲夜さんから許可も貰い、私は急いで紅魔館から飛び出した。

その時、視線を感じたような気がしたけど、気にせず進んだ。

 

 

 

「……咲夜、あなたも世話焼きね」

「なんの事でございましょうか?」

「ま、私もフィルの異変、気にはなってたのよ、何か解決すれば良いけど」

「……全て、分かってたのですか?」

「えぇ、あなたが私に適当な理由を言うであろう事もね」

「お嬢様には敵いませんわ」

「ふん、よく言うわ」

 

 

しばらく走って、ふと思ったけど…紫さんとどうやったら出会えるの?

紫さんは神出鬼没! 何処に居るかも何処から来るかも分からない人!

うぅ! どうしよう…このままじゃ、紫さんを探して今日1日中幻想郷を駆け回ることに…

あまり遅くまで出歩きたくは無いのに…うぅ、どうしよう。

 

「どうしよう…うぅ!」

「何だ? 何か困り事かい?」

「ん?」

 

色々と迷っている私に話し掛けてきた人は

黒や白や赤のメッシュがある、何だかカラフルな感じの髪の毛で

小さな二本の角が頭に生えて居た、瞳の色は赤色。で、ぱっとみ鬼みたいに見える。

でも、服装が勇義さんとは全然違うし、この服装も凄く独特だった。

矢印がいくつも連なったような装飾があるワンピース…かな。

でも、そこはまだマシ、1番特徴的なのが

腰と胸元にあるリボン、上下逆さまになってる。

両方が上下逆さまだって事は、意図的にって事だよね?

それに、足元は素足にサンダルを履いてて動きにくそうだし

右腕にだけブレスレットを付けている。

それにしても、少し服が乱れてるせいで、ピンクの肌着が見えてるよ…

幻想郷には独特な服の人は多いけど…この人が1番凄いかもしれない。

 

「よかったら聞いてやっても良いぞ、特別にな!」

「本当ですか?」

「あぁ、言って見ろ」

「えっとですね、実は人を探しててですね、こう言う帽子を被ってて」

「そうかそうか、ふーん」

 

あ、これは聞いてないや、確かに聞いてやっても良いぞと言ってたけど

これはきっと、話し終わった後に聞くだけだがな、とか言う奴だ。

 

「あ、やっぱり良いです、話をする時間が無駄そうなので」

「な! 何でだよ!」

「いえ、大体流れが分かったと言いますか、最後に聞くだけだがな、とか言う奴でしょう?」

「なんでそれ…いや! そんな事はしない!」

「いえ、分かってます、と言う訳で急ぎますので」

「待て!」

「嫌です」

「はぁ!? おいこらぁ!」

 

何となく私の堪が、あの人には関わらない方が良いと告げている。

でも、何かずっと追いかけてくる…どうしよう。

 

「もぅ、なんでずっと追いかけてくるんですか? 止めてくださいよ」

「や、やなこった、お前の指図は知らない…」

「息…荒れてますよ? わざわざ走ってこなくても…飛べばよかったのに」

「し、知るか! そ、それより、お前の態度が気に入らない…」

「確かに酷い態度でしたごめんなさい、それじゃあまた」

「待てって! 何でそんなに逃げようとするんだよ!?」

「えっと…あまり時間が無いから」

「それならずっと付いていく! お前の後を追いかけ回す!」

「……」

 

あ、面倒なタイプだ、天邪鬼だ、駄目と言われたことをやって

やってと言われたことをやらない、相手が嫌がる事をやろうとするタイプだ。

こ、困ったなぁ、こういう人はどうすれば良いんだろう…あ、そうだ。

 

「じゃあ、諦めました、それなら付いてきて一緒に探してください」

「やなこった! お前に付いてなんか行く物か!」

「そんなー…」

「あばよ!」

 

……ふぅ、やっと帰ってくれた、やっぱり逆の事を言えば良かったんだ。

よし、それじゃあ、急いで紫さんを探して。

 

「やっぱ待った! 何か乗せられた気がする! 何か騙された気がする!

 お前、さては詐欺師だな! 実は付いてきて欲しくないとか思ってるな!」

「いえ、お話し相手が居れば、私も楽しいので」

「よし、なら私は消える!」

 

ふふ、何だかチョロい…初めてこんな気分になったよ。

 

「……まさか、抜け出してたとは驚いたわね」

「げ! お前は!」

「やはり、殺すべきだったわね」

「ま、待て! こ、この娘がどうなっても良いのか!?」

 

あ、何か私、人質にされてる…? そんな感じはしないけど。

でも、背後に回られてるわけだし、人質にされてる感じであってるのかな?

一応、両手も拘束されてるし。

 

「ふっふっふ、私が弾幕を放てば、この娘はお陀仏だぜ」

「……あら、恐いわね」

「助けてください紫さん」

「ふふふ、さぁ、この娘を解放して欲しくば、私を見逃して」

「……フィル、やりなさい」

「はい」

「へ? おご!」

 

でも、私の背後を取って、両手を拘束しても、私には尻尾があるんだよね。

背後じゃ無くて正面だったら分からないけど、背後なら尻尾で叩けちゃう。

 

「一撃ね、この天邪鬼」

「やり過ぎましたかね…?」

「いえ、これでも優しい程よ、本来、殺す予定だったし」

「恐いんですけど!?」

「流石にあそこまで純粋な悪意を持ってる奴を放置はね。

 さて、今度は早々逃げ出せない場所にぶち込みましょうか」

「はぁ…その、この人何をした人なんですか?」

「幻想郷をひっくり返そうとしたのよ、自分の為だけに。

 他人の為や、弱い奴のためや利用されてただけ、とかなら

 まだ良いけど、こいつの場合は完全に自分の為で利用してた立場なの。

 純粋な悪意には純粋な殺意で対抗するだけよ」

「お、落ち着いてくださいよ…紫さん…」

「まぁ良いわ、後は適当に処理しておく、それで? あなたはどうして?」

「あ、はい、紫さんを探してました」

「そうなの? 何かあったの?」

「はい、お話ししますね」

 

ちょっとした騒動があったけど、何とか紫さんと合流出来てよかったよ。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。