東方半獣録   作:幻想郷のオリオン座

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地獄の女神

「この答えに辿り着くまで思ったより時間が掛ったわね。

 人間を使うという奇策を打ったのだから、すぐに気付くと思ったのですが……」

「こ、こんにちは」

 

案内された場所に着くと、見たことの無い女の人が姿を見せた。

私はこの人の事は分からないけど、きっとこの人は私の事を知っている。

あの話の仕方から、この人と私は1度出会っている筈なんだ。

でも、出会っているのはきっと私であって私では無い誰か…それ位分かる。

 

「おや、今回は前回と比べ随分と雰囲気が違いますね。まるで別人の様に」

「はい、きっと今の私は別人です」

「…何を言ってるかイマイチわかりませんが、それは後で問うとして

 今はこちらのネタばらしといきましょう。

 月の民は夢の世界に逃げ込んだ。

 月の都に居られなくなった月の民はそうするだろうと私は読んでいた。

 勿論、私は先手を打った。夢の世界に刺客を送り込んでいたのです。

 さあ出ておいで! 地獄の女神、ヘカーティアよ」

「んもう。待ちくたびれたわよん」

 

彼女の合図で姿を見せた人。

赤髪で、長さは肩らへんまで伸ばしたセミロング。

そしてかなり特徴的な服装。

白い文字でWelcome Hellと描かれた黒いTシャツを着ている。

WelcomeとHellの間に赤いハートマークがあり、返り血のようなプリントもついている。

何となくおどろおどろしいけど、何でか

Tシャツは肩が出ている、言わばオフショルダーだった。

かなり攻撃的なプリントだけど、服の雰囲気は挑発的といえるのかな?

スカートは濃い色の緑・赤・青の三色カラーのチェックが入ったミニスカートで

裾部分に黒いフリルと小さなレースがついている。

靴は履いていない…兎さん達も靴は履いてなかったけど。

あぁ、そうか、そもそも空を飛んでいるんだし靴を履く必要は無いのかな。

次に特徴的だったのはその周りに浮かんでいたアクセサリー。

頭に黒い帽子を被っていて、今は赤い球体を浮かべている…というか、乗せてる?

そして、首輪から3方向に鎖が伸びていて、左右に伸びた鎖の先には

青い球体…いや、多分あれは地球をもした球体。

でも、地球儀とは違う…まるでミニチュアサイズの地球だった。

そしてもう一つは黄色い球体…これも正確じゃ無いかな。

こっちは月だ、これも模型なんかじゃ無くて

同じくミニチュアサイズの月…両方、まるで本物。

本物を本物とは別に本物の球体として取っているように見える。

まるで神様のように…地獄の女神って言われてたけど……もしかして地獄以外も?

そんな驚きもあるけど、もう一つの驚きは

私はこの人を知っていると言うことだった。

いや違う、知ってるのはこの人の極一部だけ。

そう、私が知っているのはこの人の声だけだった。

 

「さぁ、ようやくこの時が来たのね、腕が鳴るわぁ」

「敵は目の前の人間です、半獣ですがね」

「……!? 人間? 人間…なの? 半獣の? ふーん……どれどれ」

「えっと、あの、あなたはもしかして前に紅魔館に来て紫さんと話してた」

「……なる程ね、少し疑ってたけど杞憂だったかしら。

 まぁ、どちらにせよ素晴らしい素材であると言う事は間違いないわ。

 よく見付けたわね、純狐」

「見つけたのは月の民だけど……まあお陰で陰鬱だった地上生活も楽しくなりそうだわ」

「え?」

「どうする? 二人でやるの? それとも私の三体全てを使って四人で?」

「いや……流石にそれは勿体ない。正々堂々、一人ずつ勝負しよう」

「勿体ないねぇ、四人で仕掛けて勝負が着くほどヤワじゃ無いとは思うけど

 ま、1対1って言うのも悪くないわね」

「わ、私は月の民さえ解放してくれれば戦うのは」

「何を言ってるの? 私達が戦いたいと言ってるんのよ?

 まぁ、あなたが戦わないというなら私は月の民を縛り続けるだけよ?」

 

それはそうだけど…でも、私の堪が言ってる。

この人は強い、強すぎるって…戦っても勝てない。

でも、雰囲気からして本気を出そうとはしていないようだけど…

もし、本気を出されたら、私に勝算なんて皆無!

 

「全くあいつら、夢の中だと無防備なんですもの、簡単だったわ。

 起きてるときは狡猾だというのに、安全な場所だと考えてる場所では

 何処までも無防備って言うのは、実に滑稽だったわよ」

「…つ、月の民を解放してください! そうしないと幻想郷が危ないんです!

 例え勝ち目が無い相手だろうとも! 私は、お嬢様達を守る為なら!

 例えあなたを道連れにしようとも! あなたを倒します!」

「ふふ、可愛いわね、勝算が無いと分かって震えながら強がる姿も。

 その身を賭して戦おうとする理由も。可愛いからちょっと遊んであげるわ。

 本来なら、半獣程度相手にしないんだけど、『貴方は私に牙を向けた』

 それだけの理由で貴方を地獄へ堕とす。ただそれだけの理由だ! 死んでも悔しがれ!」

 

勝てない、それ位は分かってる。私は勘が鋭い。

それを今ほど憎むことは無いと思う。

でも! 私は戦わないといけない! 例え勝ち目が無くても!

例え道連れにしてでも! お嬢様達の為に、私はその恩に報いるために!

ペットとして! お嬢様達の為に! 私はこの牙を向ける!


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