東方半獣録   作:幻想郷のオリオン座

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宇宙狼帰還する

2人に言われて、永琳さんの元に案内した。

こんな凄い人達がいきなり来るなんて驚くと思ったけど

永琳さんは全く動揺の色を見せていなかった。

むしろ、こうなることを知っていたかのような振る舞いだ。

完全にこの2人の行動も、私の行動も読んでいた感じ。

それを見届けた後、私は紅魔館に戻った。

 

「お嬢様、ただいま戻りました」

「フィル…はぁ、良かった。無事だったのね」

「はい、何とか」

 

かなり危なかった気がするけど、こうして何とか戻って来られた。

お嬢様の安堵した表情を見て、私は何故だか嬉しくなった。

理由は分からないけど…心配してくれていたというのが分かったからだと思う。

 

「でも、服はかなりボロボロね。あなたがそこまでボロボロになったって事は

 相当な相手だったと言う事かしら」

「はい…恐ろしく強かったです。慣れない空中戦でもありましたし」

「そう…でも本当、無事で良かったわ。すぐに咲夜に服を縫うように」

「そのお手間は不要です」

「あ!」

 

咲夜さんが不意に姿を見せた。

咲夜さんが出て来たと言う事はと考えた私は自分の服を見る。

完全に直っていた…流石咲夜さん、仕事が凄く速い。

私は何も感じなかった…本当に何でも出来て羨ましいよ。

 

「流石は咲夜ね」

「お褒めにあずかり光栄です」

「じゃあフィル。今日は休んで頂戴。大変だったでしょ?」

「はい、ありがとうございます」

 

お嬢様のお言葉に甘え、私は今日も休む事にした。

自分の部屋に戻り、いつも通りの部屋着に着替えてベットに座る。

ふんわりとした柔らかいベット…座っていると本当に楽に感じる。

 

「……」

 

でも、1人になるといつも色々な事を考えてしまう。

誰かと居れば、その人とどんな会話をしようかと考えるけど

1人の時間だと、色々な想像や妄想が私の中に浮かんでくる。

主な事は、私の正体に関する妄想。

私が何者なのか、未だに私は分かっていない。

だから、色々な可能性をどうしても考えてしまう。

どれだけ考えても分かる筈が無いのに。

 

「……」

 

自分の傷1つ無い腕を見て…やっぱり色々と想像する。

今まで聞いた話から考えても、私の回復速度は異常。

妖怪よりも回復速度が高いみたいだし。

何で妖怪よりも早く傷が癒えるのか…考える。

意味が無いのに考える。分かるわけが無いのに考える。

当然だけど、答えは出て来ないし可能性の考察も出来ない。

こんなのはおかしいという情報しか、私の中からは出て来なかった。

 

「うぅ…」

 

やっぱり誰かと一緒に居る方が安心するなぁ。

でも、今日はもう寝よう! 凄く疲れたしね。

…変な夢、見ないと良いけど…うぅ、おやすみなさい!

 

 

 

 

「……ん?」

 

うーん、確か眠ってたと思うんだけどなぁ。

外は真っ暗になってるし…でも、何でか目が覚めちゃった。

どうも、変な視線を感じる気がして…

 

「フィル-」

「……あれ?」

 

誰かが私を呼んだ気がする…少し幼い声で。

この声は…フランお嬢様!?

 

「え!? フランお嬢様!?」

「そう、私だよ」

 

暗い部屋の中で光る赤い瞳。

その瞳の持ち主はフランお嬢様だった。

何でフランお嬢様が私の部屋に? 今時間は…午前2時。

私が眠ったのは、確か午後8時くらいだったから6時間寝てたんだ。

 

「えっと…何故私如きのお部屋に…」

「怒りに来たの」

「え!? な、何か粗相を!」

「帰ってきたなら私にも声を掛けてよね!」

「あ!」

 

そ、そう言えば…お嬢様に言われてすぐに部屋に戻ったんだった。

 

「確かに私は眠ってたけどさ、それでも会いに来て欲しかったな-」

「あ、ご就寝なされてたんですね」

「吸血鬼は本来夜型だからね、お姉様はお昼に起きてる事が多いけど。

 まぁ、夜でも起きてるんだけどね。眠るのはたまにだし」

「そうなんですか…流石吸血鬼、毎日睡眠は必要無いんですね」

「まぁね、今日は私は眠ってたけど。

 だから、今起きてお姉様にフィルの事を聞いたの。

 そして、怒りに来たの。私に挨拶をしないとは何事かー!」

「す、すみませんすみません! わ、わざとではないんです!

 ついついすぐに眠ろうかなって思っちゃって!」

「駄目、許さない」

「そ、そんなぁ…私はどうすれば…」

「許して欲しかったら、私と散歩をするのよ!」

「え?」

 

さ、散歩? あ、今から一緒に散歩をして欲しいと言うことかな?

 

「今から私と夜の幻想郷を散歩しないと私はフィルを許さないぞー!」

「わ、分かりました! す、すぐに身支度をします!」

「よろしい」

 

私は急いでメイド服に着替えた。

これが私の仕事着だし、フランお嬢様と同伴するのであれば

身支度はしっかりしていないと紅魔館の名を汚すことになるからね。

えっと、髪型は…あ、跳ねてる。もう、いつも跳ねちゃうんだよね。

特に耳の裏辺りが凄く跳ねるよ…クシを通して…うん! これで良し!

自分の姿を鏡で見るのは、何だか珍しい気がする。

今まで殆どしてなかったからね…何でかは分からないけど鏡は苦手だし。

不思議と鏡は恐い…幽霊とか出て来そうとかじゃないのに…

特に明るい時間に鏡を見るのは恐かった…普通は夜なのに、何でだろう。

 

「……何で?」

 

私は自分でもよく分かってない苦手な物が多い気がする。

記憶を失ってるから、その記憶を失ってる間に…あ、いや…そうだよね

少し思い返してみれば分かる簡単な事だった。

 

私は前に夢で見てた…自分の嫌な思い出を。

私が鏡を嫌ってるのは…幽霊が出そうとかではなく

鏡に映る…自分の姿がいやだったから。

 

明るい時間に見るのがいやだったのも…明るければ明るいほど

ハッキリと自分の姿が見えたから。

でも、顔が嫌だって訳じゃなくて…鏡に映ってしまうこの耳が嫌だったのかな?

……昔の事は思い出さない方が良い…前に私に話し掛けてきた声はそう言ってた。

本当に…その通りなのかも知れない。だけど、絶対に思い出したい両親の記憶。

私は絶対に思い出す。知らなくて良い過去だろうとも

その過去に、お父さんとお母さんが居るのなら…私はそれを思い出す。

 

「……よし、マフラーも巻いて…これで身支度完了」

 

いつも通りにマフラーを自分の首に巻く。

いつもどんな時でも暖かいこのマフラーを。

 

「あ、準備できたのね。それじゃあ、夜の幻想郷に繰り出すわよ!」

「はい…でも、あまり遅くなりすぎるとお嬢様に怒られるので程々に」

「分かってるって、ちょっと回るだけよ」

 

こんな毎日がずっと続きますように。

そんな当たり前で常に私が考えてる事を改めて願った。

……この毎日が夢でありませんように…今更夢だったなんて事は無いだろうけどね。

だって…フランお嬢様の楽しそうな声もしっかりと聞えているんだから。


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