東方半獣録   作:幻想郷のオリオン座

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霧の湖より響く歌声

夜の幻想郷を歩き回るのは何回目だろう。

結構な頻度で歩いてる気がするよ。

お昼の間よりも歩いてる気がする。

お昼の間って、私は色々な場所に飛ばされてたりするからね。

紫さんの私が幻想郷に馴染めるようにって言うお気遣いだけど。

 

「うーん、フィル! やっぱり夜の空気は良いよね」

「そうですね、何だか澄んでる気がします」

 

幻想郷の空気はお昼だろうと夜だろうと、凄く澄んでるけどね。

だって、幻想郷は自然豊かな世界なんだもん。

空気が澄んでいない筈が無いよ。

 

「ん? 歌声?」

「どうしたの?」

 

霧の湖を歩いているときに聞えてきた綺麗な歌声。

誰だろう。こんな時間にどうして歌を?

確かにここには家とかがないから歌ってても迷惑にはならないけど。

 

「いえ、綺麗な歌声が聞えまして」

「んー…あぁ、確かに綺麗な歌声が聞えるね」

「そうでしょう?」

 

やっぱりフランお嬢様にも聞えてたんだね。

聞き間違いとかじゃなくて少し安心したよ。

でも…聞き間違いの方が良かったのかな?

それなら、ただの勘違いだけど、これが実際に聞えるという場合の可能性は…

ゆ、幽霊? とか…そんな可能性だってあるわけだし…

す、少し恐いけど確認しないと気が済まない。

 

「歌が聞えるのは湖の真ん中辺りだね、行こうか」

「あ、はい!」

 

でも、フランお嬢様は飛べるけど私は飛べないような…

あ、飛べた! まだ薬の効果は切れてなかったんだ。

よーし、これなら声が聞える場所まですぐにいける。

 

「あ、見えた…あれかな?」

「そうみたいですね」

 

湖の中腹にある小さな島に人魚が座って歌っていた。

人魚さんだけど和服を着てて下半身の部分は魚で薄い青色だった。

髪型は深く綺麗な青色で肩につかない位の縦ロール

耳の位置には人魚見たいなひれのようなものがついている。

服装は全体的に深緑色の和装で凄く落ち着いてる色合いに見える。

下半身のスカート? のように見える部分に鱗のように布が重なってて

そのうち1枚だけ薄灰色をしている。

何であそこだけ色が違うんだろう。少し不思議。

そして、フリルの量は多めで、肩紐とスカート裾全体に白いフリルが沢山付いてる。

帯は紫色で橙色の帯紐を蝶々結びのようにして結んでいた。

 

「綺麗な歌声だね、人魚さん」

「ひょわぁ!」

 

フランお嬢様がその人魚さんに声を掛ける。

人魚さんは驚きながらも逃げる事はしなかった。

そんなに驚いたなら逃げそうだけど、足が竦んでとかかな。

 

「きゅ、吸血鬼! え!? いや確かに夜は吸血鬼の時間ですけど!

 そんなご高名な妖怪様が何故こんな所に!?

 ふ、普段出会わないのに! い、命だけは-!」

「大丈夫だよ、私は人間以外に興味はないの」

「食料として…ですか?」

「まぁね」

 

それって…興味無い奴が邪魔してきたら容赦なく仕留めるって感じかな?

意外と興味を持たれない方が危険なんじゃ…

 

「でも、私は興味があります」

「え?」

「……お刺身」

「は! 何この恐怖! た、食べないでください!」

「天ぷら? でも、お刺身の方が美味しいんでしょうか?」

「知らないわよ。でも、湖に人魚かぁ…初めて知ったなぁ」

「そう言えば、湖の人魚さんってどんな魚なんでしょうか…

 あ、いや、少し思い出しました! 確か影狼さんが姫って言ってて

 文さんがわかさぎって言ってたから…多分その人ですね!

 と言う事は、わかさぎ! なら唐揚げもありですね」

「た、食べる前提で話さないで! 止めて食べないでぇ!

 私なんか食べても美味しくないわよぉ!」

「恐いなら逃げれば良いのに。まぁ、逃げたら追いかけるけどね」

「ひぃ!」

「……やっぱりお刺身が美味しいはずです! 身の部分は下半身の部分だけで

 …でも、人魚さんの下半身を切断したら凄いことになる気が…」

「そうです! 凄いことになりますから助けてぇ!」

「……うーん、大きな身は魅力的ですけど…悲惨な姿は見たくありませんし

 我慢します」

「よ、良かった…」

 

冷静に考えてみると、半分人間だし意外と私と似てたりするのかも?

半獣…いやいや、人魚と半獣は違うかな。

人魚は半分人間でも、半分人間の血が入ってるわけでは無いしね。

 

「でもそう言えば、人魚のお肉を食べたら不老不死になれるとか」

「そ、そんなの嘘に決ってるじゃないですか! あはは!

 そ、そもそも! 人魚なんて雑魚妖怪のお肉に

 そんな凄い効果がある訳無いですし!」

「人魚って弱いって聞くけど本当なんだね」

「す、水中では少しは強いんですけどね! そう! 水中では!」

「わざわざ相手の得意なテリトリーで戦う奴は居ないよ?」

「返す言葉もございません」

 

水中だったらどうなるんだろう…凄く早く泳ぐんだろうなぁ。

 

「まぁ、私なら例えあなたが水中に逃げたところできゅっとしてドカーンだけど」

「勝てる気がしない…」

「吸血鬼と人魚よ? あなたに勝算があるとでも?」

「うぅ…」

「まぁまぁ、フランお嬢様…そんな喧嘩腰にならなくても」

「それもそうね、ごめんね、ちょっとからかいたくなって。

 まぁ、強さ云々は後にして。歌、上手ね」

「あ、はい、人魚ですから」

「私は歌ってあまり詳しくなくてね」

「そうなんですか?」

「うん、聞かないもん。495年間ずっと部屋に居たんだから。

 だから、私には全てが新鮮なの」

「私も記憶が無いので何もかもが新鮮です!」

「記憶喪失って言うのも、悪くないのね」

「記憶…無いんですね」

「ありません。だから、記憶を取り戻す為に私は頑張ろうと思ってます!」

「お、応援してますね。草の根妖怪である私には何も出来そうにありませんけど」

「歌を歌ってよ。それで良いよ」

「…では、私が覚えてる歌を歌わせていただきます!」

 

歌…私も、色々な歌を知ってみたいなぁ。

その内、誰かと一緒に歌ってみたいし。

ちょっと調べてみるのも良いかも知れない。

菫子さん達と一緒に歌った時…凄く楽しかったし。

 

「ナイフで刻まれるような痛みを隠して歩く

 貴方はそれも知らずにあの子に夢中みたいー」

 

歌は沢山ある。全部を覚えるのは無理だろうけど

大好きになる歌を見付ける事は簡単だよね!

またあんな風に歌えるときが来たときに、私が1番好きになった曲を歌おう。

そして、一緒に楽しもう。1人で楽しむのも良いけど

やっぱり私は1人よりも…沢山で楽むほうが好きなんだろうから。


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