東方半獣録   作:幻想郷のオリオン座

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ライブの為にも

紫さんとあの女苑だったっけ、その女の子との戦いが始まった。

状態は紫さんが圧倒的に優勢に思える。

女苑と言われていた子の攻撃を軽くいなして反撃をして居る。

 

私達には絶対に勝てない、あの子はそんな事を言ってた。

でも、今見ている限りだと全然そんな風には見えない。

紫さん相手に、手も足も出ていないこの状況で…

 

「ち、やっぱり厄介ね、幻想郷の賢者」

「達者なのは口先だけだったようね、所詮その程度の動きじゃ

 私には敵わないわよ? あまりにも見え見えですもの」

「く!」

 

紫さんは相手を挑発できるほどに余裕を持っている。

向こうの攻撃は殆ど当ってないし当然と言えば当然だけど。

向こうの攻撃は隙間で流し、逆に相手に飛ばすという行動。

 

接近戦を仕掛けても、簡単に場所を変えられ、背後からの攻撃を食らう。

女苑と言われていた少女のスタイルは思いっきり格闘スタイル。

私も分類的にはそっちだけど、その私の目から見ても

彼女の動きは遅いしあまりにも大振りに感じた。

 

力任せに攻撃をして、間合いの取り方も上手くは無い。

だから、なんであの2人には勝てないという噂があるのかは分からなかった。

まわりを飛んでる紫苑だったっけ、その女の子も

あまり攻撃には参加していないのだから。

 

「ふん、やっぱり面倒なのは多いね」

「えぇ、あなた達よりも上位の存在は幻想郷には多いからね」

「はん、でも、あなたは私達には絶対に勝てないわ」

「その自身がどこから来るのか分かりませんわね」

「なら、目に物見せてあげるわよ!」

 

動きが変った、何かを仕掛けてこようとしているんだ。

でも、その行動を見た紫さんの表情は不敵なままだ。

何かを仕掛けてこようとしていることは分かっているのに

防御をしようともしていない。

 

「そこ!」

 

あの女の子が少し変った攻撃を仕掛けてくる。

同時に、何だか私は体に違和感を感じたし

目の前の女の子が紫苑という女の子に変化した。

 

「よし、取り憑いた! これで女苑の勝ちは確定した!

 ……あれ、女苑? 何処に行ったの?」

「これって…どう言うことですか?」

「む、お前。何故自由に動いている?

 女苑のスレイブになって自由を奪われている筈なのに……。」

「スレイブ?」

 

そう言う情報が全く無い私には何のことだかさっぱりだった。

 

「貧乏神は誰かに取り憑いて必ず負けさせる事が出来る能力を持っているの。

 そして、妹の疫病神はスレイブを交換する形で貧乏神を強制的に憑依させる事が出来る。

 つまり、強制的に対戦相手を敗北させる事が出来るという訳よ。

 まさに、最凶最悪の二人よ、まぁ、あなたには全く関係が無い上に

 全く効果が無い無意味な能力でしか無いんだけど」

「どう言うことですか? 私には効果が無い?」

「女苑に憑いたお前は身体の自由が利かなくなるはず……。なのになんで動いている?」

「よく見なさいな、あなたはマスター側になってるのよ」

「え?」

「そしてフィルがマスターよ。私がマスターとスレイブの境界を逆にしたの。

 だから入れ替わったスレイブは私とあなたの妹」

「しまった! 嵌められたよ! 私が敵のスレイブになっちゃった!」

 

うぅ、私が完全に蚊帳の外だぁ、何の話をしてるのかさっぱりだよぉ!

 

「なんて事!? 私は紫に取り憑いていないの?

 と言うことは自分のスレイブにはまさか!」

「ご名答。これでは疫病神の能力も貧乏神の能力も意味ないわね。

 さ、フィル。私はこれ以上協力は出来ないので、この貧乏神をサクッと倒してね」

「ゆ、紫さん! 私状況がさっぱりなんですけど!?

 私は能力が効かないらしいのに、どうしてこんな手を!?

 そもそも、スレイブとかマスターって何ですか!?」

「最初に言ったでしょ? 完全敗北を味合わせてあげるって」

「く、つまり、私達の作戦を全て完膚無きまでに潰して負けさせるって事だったの!?」

「そう言う事、まぁ、必要の無い工程だったと思うけどね。

 あなた達2人はフィルが1人だけ動けば、それだけで終わる話よ」

「マスターとスレイブを入れ替えるなんて、そんな事出来る奴がいるとは!」

「ああ、もう駄目だー。姉さん一人で勝てるはずがない!

 戦闘でも役立たずだし、根暗で貧乏くさくてしみったれで自分では何もしようとしないし、

 文句ばっかり言ってて何一つ良いところのない姉さん一人なんてー。

 大体ねぇ。一度も勝利の経験がない貧乏神が賢者があんな風に言う半獣に挑む何て!

 もう絶望的だー。完全敗北だー!」

 

な、何だか妹さんの方が凄い嘆いてる…

 

「あの…悪口はあまり良くないんじゃ」

「事実でしょ、さ、フィル。あの雑魚貧乏神をさくっとやっちゃいなさい」

「女苑、お前達……。みんな馬鹿にしやがって。そんなに言う事ないじゃない!

 私の名は、依神紫苑。泣く子も不幸にする貧乏神だ!」

「な、何だか負のオーラっぽい物が!」

「今まで本気を出さなかったのには訳がある。

 私が本気を出すと、自分も含めて全ての者が不幸になるからだ!

 もういい、勝ち負けなんて興味は無い。私が本気になった以上、ここにいる全員を負けさせてやる。

 半獣も私も、女苑、お前もだ!」

「す、凄い気迫ですよ紫さん! 無茶な手を使わなかった方が良かったんじゃ!?」

「誰も得をしない。誰も幸せにならない。全員が等しく不幸の世界を見せてやる!」

「全員が等しく不幸な世界なんてありゃしませんよ、何かその口振り、イラッとしました」

「貧乏神と疫病神で最凶最悪の二人だって? 笑わせるな!

 最凶最悪は一人で十分。それこそが私、貧乏神の依神紫苑だ! 貧しさに怯えて死ね!」

「居場所がある奴がほざくな! 貧しさなんざどうでも良いんだよ!」

「な、何か雰囲気が!」

「ま、参ったわね、負のオーラに触発されちゃったのかしら…

 似ている部分あるし」

「あんたを倒して、私はすぐにライブに戻るんだ! 最高のライブの続きをする!

 邪魔をしないで欲しいね! 貧乏神如きが!」

「…まだ、大丈夫か」

 

まわりを負のオーラが包む、でも、私にはライブの歓声と楽しいリズムが聞えてる。

一瞬、私は暴走しそうになったけど、ライブの音はそんな私をつなぎ止めた。

負のオーラに包まれて、自分に飲まれそうになったけど。

 

「でも、私は私! 最後のライブを無駄には出来ないから!

 不幸になるのは、あんたら2人で十分だぁ!」

「うぅ! 何で!? 私の負のオーラの影響を全く感じない!」

「全力を出したところ悪いけど、どうやら私にはあなたの力は通用しないようだから。

 だからきっと、不幸になるのはあなただけ、でも、それは可哀想」

「くぅ!」

「だから、速攻で潰させて貰いますよ、誰も得しない戦いなど

 長続きさせるだけ無駄でしょうしね」

「うぁ!」

 

負のオーラに包まれても、私の動きは全く衰えない。

私の攻撃は全部紫苑さんに当っている。

 

「姉さんの不幸パワーが効いてないって言うの!?」

「本気を出せばまとめて不幸にしてしまう体質。

 でも残念ながら、あの子にあなたの不幸は全く意味が無い」

「つ!」

「あなた達が神である以上…あなた達は、あの子には勝てないのだから」

「これで終りですよ! この不毛な戦いは完全決着!」拘束「小さな鎖」

「あ!」

「トドメだぁ!」

「わぁああ!」

 

私の攻撃は確実に紫苑さんを捉えた。

同時に、まわりに展開されていた負のオーラが全て消え去る。

まるで空間が割れるように、紫苑さんを中心に消え去っていく。

 

「姉さん!」

「不幸で不毛な戦いはこれでお終いですね!

 これからは一緒に楽しみましょう! ライブは皆で楽しまないと」

「……」

 

きっと、この人はこんな能力を欲しいと思って手にしたわけじゃ無い。

自分もまわりも全部不幸にしてしまう能力なんて、欲する人は居ないから。

 

「……良いの? 私、貧乏神よ? 一緒に居たら不幸になる」

「大丈夫ですよ、不幸になったらまた幸せを目指して走れば良いだけです。

 走ろうとしないで、ずっと不幸のままで居続けようと思わない限り

 きっと、どんな境遇でも幸せをつかみ取る道は作れますから!!」

「…でも」

「はい、分かります。今まで望まない力で色々と失敗した。

 それなのに、今更頑張ろうなんて思えないかも知れない。

 だけど、今は幸せになってください。一瞬でも良い

 

 最高の幸せを経験出来ればきっと、また幸せを目指して走れますから!

 だから、ライブ。一緒に楽しみましょうね。

 今宵この一瞬だけの幸せ。それは誰がなんと言おうと現実で、幻じゃ無いんだから」

「……私はあんな事をしたのに?」

「紫さんがよく言ってます。幻想郷は全てを受入れるって。

 だから、あなたの事も受入れてくれます。

 そして、このライブ、私達が皆さんに幸せを送ります!

 ライブを見た全ての人に幸せを届けてみせます!

 勿論、あなたも例外じゃありません! 

 私達! 皆さんに最高の時間をお届けしますから!」

 

短い間のライブ期間。それだけで、私の胸は一杯になった。

この人にも胸一杯の感動を与えてあげたい。

皆の前で歌うんだ、皆の為に、私の為に!

 

「……ありがとう、2度目の幸せ…経験させて貰うから」

「姉さん…」

「……これで終りね。フィル、協力ありがとう。

 ライブ行ってらっしゃい、ここでこいつらと見てるわ」

「はい! 一緒に盛り上げましょう、このライブ!

 皆の心に響かせ、皆の心を満たすような最高のライブにしますから!」

 

私はすぐにメルランさん達が演奏してるステージに降り立つ。

 

「来た!」

「わぁああ!」

 

私が到着すると、会場から大きな歓声が響いてきた。

そして、ステージに最も近い観客席には

 

「待ってたわよ、フィル! 私達が来たタイミングに居ないとか驚いたけどね」

「やったねお姉様!」

 

レミリアお嬢様とフランお嬢様、咲夜さん、パチュリーさん、美鈴さん

小悪魔さん…紅魔館の皆さんが、そこに居た。

 

「待ってたわよ! フィル!」

「派手にやってたね」

「お待たせしました! 歌いますよ!」

「ん、じゃあ、演奏再開! さぁ行くわよ! 皆」

「皆の胸を満たすような、最高のライブを始めましょう! 今宵は飄逸なエゴイスト!」

 

最終日、今までの中で最も晴れやかな気分でこの歌を歌った。

懸念も無くなって、私もまたこの場所で一緒にライブを盛り上げられる!

最高の気分! お嬢様達が楽しんでくれる最高のステージにしなきゃ!


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