東方半獣録   作:幻想郷のオリオン座

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暴走する狼

い、今までこんな速度で戦ったことは無かった。

私自身、こんな速度で自分が動けるとも思わなかった。

夢世界の私の異常な速度、その速度に付いていける私の速度。

ここまで速い相手は今まで居なかった、こんなのと私が一瞬でも戦えている

この瞬間も全く信じられない状態だった。

 

「やっぱり私が1番の障害ね」

「どう言う! もう何が何だか分からない!」

「教えてあげるわ、あなたの正体をね」

「え? うわ!」

 

こ、こんな全力で戦ってる状態で話なんて聞けないよ!

身体が無意識に反応して、私の攻撃をドンドン躱している。

でも、私はこの状態を全く理解できていないって言うこの場面。

ちょっと前まで、皆と一緒にライブで盛り上がってたはずなのに!

 

「ちょ、ちょっとちょっと! 何よこれ! どうなってるのよ!」

「び、貧乏神に疫病神…」

「や、八雲紫! これは何よ! 私達が夢世界の住民探して

 最後の住民を捕まえに来たけど、誰!? あれ!? 冗談じゃ無いって!」

「そう、あれよ…夢世界のフィル…彼女が最凶最悪の夢の暴れん坊」

「て、天人の方じゃ無かったの!?」

「あんなのと比べたら駄目よ…雲泥の差…天と地以上の差がある」

「無理無理! あんなの止められない! 動きが見えないって!」

「2人見えるし…」

「2人居るからね…1人は現実世界のフィル、もう1人は夢世界のフィルよ。

 正直…夢世界のフィルを止められるのは、現実世界のフィルだけ」

「じゃあ、放置で良いんじゃない?」

「駄目よ、急いで止めないと…このままだと

 憑依異変の比じゃ無い事になる! 過去最悪の異変が起こるわ!」

「はぁ? 訳が分からないんですけど?」

 

私もこの状況には全くついて行けてない。

夢世界の私の動きには付いていけるけど、状況は全く呑み込めない。

 

「急いで現実世界のフィルに加勢して!」

「え? ルール違反じゃ」

「ルールとかそんなのはどうでも良い! そんなのを考える暇は無い! 藍!」

「分かりました!」

 

藍さんと紫さんが参加してくれるみたい、これなら。

 

「分かってるだろ? 頭数を増やしたところで、私は止められないと!」

「く! 近付けないか」

「あなた達も手も足も出てないじゃん!」

「とにかく加勢を急いで! 間に合わなくなる!」

「紫さん! どう言うことなんですか!? 何なんですか!? 私は何!?」

「教えてくれる筈が無いでしょ? だから私が教えてあげる。

 あなたの忌々しい過去を、どうしようも無い現実を」

「止めなさい! それは駄目!」

「ふん、このマフラーも必要無いだろ?」

「あ!」

「不味い!」

 

私のマフラーが、夢世界の私に奪われた。

マフラーは引き裂かれて、もう直る状態じゃ無くなる。

引き裂かれたマフラーの破片は風に乗ってバラバラに飛んでいった。

同時に…私の中に何だか嫌な思い出が蘇ってきた。

 

「あ……あぁ……」

「くぅ! 不味い!」

 

異常な程に溢れてくる力…嫌な思い出…

 

「さぁ、思い出せ」

「……黙れ!」

 

ハッキリとした意識は無かった、でもその薄らいだ意識の中で

私は夢世界の私の胸を貫いているように見えた。

同時に、夢世界の私はその姿を崩していく。

 

「……これでやっと…復讐できる…全部をさらけ出して…

 あの忌々しい思い出を、忌々しい人間達を…滅ぼせる」

「紫様! 紫様! 放心してる場合じゃ! 指示を! 指示をお願いします!」

「……藍」

「は、はい!」

「幻想郷のこと…任せたわよ、前に伝えたとおりに」

「え? 紫様! まさか! 止めてください!」

「……紫さん、どうしたんですかぁ? そんな恐い顔をして」

「……恐い顔なのはあなたの方よ、フィル」

「えへ、えへへ…そうかも…そうかも知れません。

 もう、私は笑えないかも知れない…こんなのを思いだしたら」

「……フィル」

「紫さんは…ずっと守っててくれたんですね……私を…ずっと」

「……いえ、私はあなたを守れなかった、こんな事態にしてしまったんだから」

 

嫌な思い出が溢れてきた、人への憎しみも全て理解できた。

いつしか忘れた、人里に入ったときの嫌な感覚も。

外の世界に飛び出してしまったときの嫌な感覚も。

私のオカルトが、どうしてそんなに恐ろしい物だったのかも。

 

全部繋がった…そう、私は幻想郷に来る前に人類に復讐を誓ったんだ。

私達を迫害して殺そうとした憎き人類を滅ぼそうとしてたんだ。

 

「……何もしてないのに命を狙われ続けて…

 ただ自身の身を守っただけなのに化け物呼ばわり。

 私1人の為に軍隊なんて出撃させて…私達を追い込んで…

 何もしてないのに…ただ生まれただけなのに人間は私を追い出した。

 私を殺そうとした、あんな酷い目に何度も遭わせてきて…

 だから滅ぼそうとした、そうだった…そうだった……」

「だから、僕は人類を全て食らうことにしたんだ

 神殺しの魔狼、フェンリルとして」

「……」

「ようやくこの時が来たね、僕としては来て欲しくは無かった。

 折角手に入れた平和を、今度は自分の手で壊すことになるなんてね。

 でも、もう僕は壊れてしまった、だから居場所はどうでも良い」

「フェンリルの人格…」

「そうさ、これがもう1人の僕だ、フィルであってフィルでは無い

 もう1人の僕…僕達はフィルの守護者だ。

 あの子が救いを求めたとき、僕は姿を現す。

 あの子が自分に押しつぶされそうになった時、僕は姿を現す。

 この世界を全て食らう、どうしようも無い魔狼として

 全ての神々を食らい、世界を滅ぼす破壊者として!」

 

 

 

最悪の事態になった、ただの憑依異変がこんな事態に…

 

「あ…あぁ……な、何よこれ…何なのこれ!」

「お前達のせいだ! お前達があんな異変を起したから!」

「藍! 落ち着いて!」

「聞いてないわよ! こんな事になるなんて誰も教えてくれなかった!」

「いや、僕は感謝してるよ。お前ら2匹のお陰でフィルは完全に吹っ切れた。

 これがフィルが望んだ道…まぁ、お礼としてまずはお前ら2匹から食ってやろう。

 貧乏神と疫病神じゃ、腹の足しにもならないだろうけどね」

「じょ、女苑だけは逃げて! わ、私が少しだけ足止めする!」

「はぁ!? 何言ってるのよ姉さん! 勝てるわけ無いでしょ!?」

「2人で一緒に居ても同じ、ここは姉さんを信じて」

「嫌よ! 離れるわけ!」

「えぇ、離れないで良いわ…この手段は使いたくなかったけど」

「ん? おっと」

「宇宙って、興味ある? 一緒に行くのも悪くないでしょ?」

 

最後の手段はこれしか無い、いくらフィルでも…宇宙空間だったら。

でも、私も一緒に行かないと駄目でしょうね。

だけど、幻想郷の為なら…私の愛する幻想郷を守る為なら恐怖は無いわ。

 

「紫様!」


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