東方半獣録   作:幻想郷のオリオン座

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情報を集めて

…今回、フィルを止めるには私達だけじゃ無理だ。

お姉様だってそんな風に考えてた。

それに、今回の話は私達だけの問題じゃ無いと思う。

フィルは色々な所に行って、色々な人とお話しして

色々な人と戦って、色々な人と遊んだ…私と違って。

私はずっと地下に閉じこもって、外に出た後も基本的に

お姉様やフィルと一緒に行動してただけ。

 

「…人間の里」

 

本来なら、吸血鬼である私がお昼の時間帯にやってくる場所じゃ無い。

いや、お昼の時間帯以外でも来るべき場所じゃ無い。

私は人から直接血を吸っちゃ駄目だって言われてる。

フィルは例外だけど、フィルを除けば、私は自主的に血を吸っては居ない。

 

「妹様、人里の調査は私めが。妹様は日陰で待機を」

「…私が行ったら、駄目?」

「いえ、そこまで厳しくは無いと思いますが」

「なら、私も行かせて」

「しかし、妹様は人との会話などはあまり好まないのでは?」

「こんな時にそんな事を言うわけ無いじゃん。フィルの為なんだから」

「……では、手分けをしましょう。妹様は命蓮寺と言う寺に向ってください。

 そちらにいる人物は協力してくださるはずです。

 あの場にいらした、聖白蓮さんがそこには居ますので」

「分かった、日傘を貸して」

「はい…お気を付けて」

 

咲夜は私に日傘を手渡し、そのまま人里へ向った。

私は咲夜が言っていた命蓮寺があると言う場所へ向う。

大きなお寺だったから、場所はすぐに分かった。

人里の近くだね。

 

「こんにちは」

 

吸血鬼は招かれないと家には入れないとか聞いた気がする。

まぁ、私はその気になればそんなの関係無しに入れるんだけど

喧嘩をしに来たわけじゃ無いから、挨拶から入ろう。

フィルも良く最初に挨拶をしてたから、挨拶は大事なんだと思うし。

 

「はい、お入りください」

「失礼しまーす」

 

中から声が聞えてきて、私はそのままお寺の中に入った。

これがお寺かぁ、博麗神社よりも大きいのね。

でも、紅魔館よりは断然小さいかもね。

 

「いらっしゃいま…おや、あなたは紅魔館の吸血鬼。

 確か、妹さんの方でしたか」

 

私を出迎えてくれたのは虎の体色のような金と黒の混ざった髪

頭上に不似合いな花を模した飾りを乗せていた。

虎柄の腰巻きをつけているし、背中には白い輪を背負っている。

また左手には槍を持ってる、お姉様もたまに使うわね、あんな大きな槍。

お姉様の場合は槍を投げてるような感じだけどね。

そして右手にはおでんみたいなよく分からない道具を持ってる。

何かの武器かも知れないわね、左手に槍を持ってるくらいだし。

 

「私はフランドール・スカーレット。

 妹の方って呼ばないで欲しいわ、フランと呼んで」

「これは失礼しました、フランさん。今日は何かご用で?

 残念ながら、現在は聖も外出中でしてね」

「何処かに行ったの?」

「はい、命蓮寺総出でフィルさんを救う方法を模索しております。

 私はその間、この命蓮寺を守るよう指示を受けておりましてね」

「そうなんだ…ねぇ」

「はい」

「なんでフィルにそこまでしてくれるの?」

 

皆が動くくらいフィルの事を大事にしてくれている。

フィルが凄く優しくて、丁寧で、一緒に居て楽しいのは分かる。

私とお姉様はずっとフィルと一緒だからそれは分かる。

でもこの人達はどうなのかしら? 一緒に居たようには思えない。

それなのにフィルの為にそこまでしてくれる理由は何なんだろう。

 

「…あの歌を聴いてしまえば、誰だってあの子を救いたいと思いますよ」

「歌?」

「えぇ、ライブの時です。本当に楽しそうで、私達を楽しませようと頑張ってました。

 その頑張る姿に心を打たれた人は沢山居るはずです。

 私達も、その中の1人だったと言うだけのことですよ」

「それだけ? それだけの理由でそこまでするの?」

「えぇ、一緒にお話しをしたいですからね。沢山」

「…10年よ? 話が出来ないとしても10年程度すればフィルは目覚める」

「聖も言ってました。しかし、10年後のフィルさんは恐らく記憶が無いことでしょう。

 外の世界で封印し幻想郷に招き入れたときと同じ様に

 紫さんは再びフィルさんの記憶を消去する筈。それでは意味が無いんですよ。

 そんな事をすれば、10年後に出会えるフィルさんは私達が知ってるフィルさんじゃ無い」

「……その通りね」

 

そこまで、考えてなかった……ただ10年間お話しできなくなるのがいやだから…

私には、それだけの理由で十分だったから考える必要が無かった。

でもそうね、深く考えればそんな風に考えられるんだ。

 

「それにですね、そんな方法で封印しても問題の先送りにしかならない。

 だから、根本的にフィルさんを救う方法を探したいと言ってました。

 勿論、私も同じ気持ちです。あの笑顔と歌声を再び見て、聞くために。

 しかし、私に課せられた指令は命蓮寺の留守番なんですけどね」

 

少し恥ずかしそうに彼女は笑った。

あんな事を言っておきながら、自分は留守番してるだけって言うのは

確かに恥ずかしい気持ちになるかも知れないわね。

 

「じゃあ、私に今まで集めた情報を教えて欲しいの。

 私もフィルを救いたい、その為に情報は集めたいの」

「はい、分かりました。ではお話ししましょう。

 とは言え、現状お話しできるのは予想だけですが

 予想すら知らないよりは、知っていた方が良いでしょう」

「ん、分かった」

「妹様」

「咲夜!」

 

あの虎の人から色々と話を聞こうとすると、咲夜が姿を現した。

 

「おや、あなたは紅魔館のメイドさんですね」

「えぇ、そう言うあなたは毘沙門天だったかしら? 随分と暇そうね」

「この暇な時間を守り抜くのが私の今の使命なので」

「…そ、で、妹様とどんな話をしてたの?」

「我々命蓮寺が立てた予想をお話ししようとしていただけです。

 決して勧誘をしようとしていたわけでは無いのでご安心を」

「そう。じゃあ、話して頂戴な。私も今回得た情報を話すから」

「何か見付けたの?」

「はい、面白そうな人間を発見しましてね。

 ただ、それよりまずはあちらの予想を聞いてみましょうか」

「はい、分かりました…フィルさんを救う方法はやはり祈りでしょう。

 紫さんもそうおっしゃっていたらしいですしね」

「そう、じゃあ私の情報も当りかしらね、その予想が当っているのであれば」

「一応、話は聞かせて貰おうかしら」

「紫…あなたは力を封印する方でしょう? 私達の考えを聞いても」

「一撃だけあなた達に賭けてみようと思ってね。

 失敗した場合はフィルを封印するけど

 それにあなた達だけではちょっと心許ないでしょう?」

「……私の一存では決められないわ、私は従者、主の意向にし」

「協力して!」

「妹様!?」

「お姉様じゃないけど、私が答えたの、問題無いでしょ?」

「…分かりました」

 

フィルを救う方法…まだ予想段階だけど、可能性があるかも知れないって事。

フィル、絶対に助けるから待ってて。


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