東方半獣録   作:幻想郷のオリオン座

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狼は舞い降りた

あの子達の賭けに乗ると決めて、方々に働きかけた。

とは言え、準備の為にはまだ時間が必要かしら。

フィルが帰って来た場合の足止めは手配したけど

あまり時間は稼げないでしょうね…

出来れば、まだ帰ってこないことを祈りたいけど

 

「…ふぅ、ざっと数日って所かな。待たせたね」

「……」

 

言った側から帰ってくるなんて災難ね。

それに、予想より早く帰ってきたわ。

それにしても、何処かで寄り道でもしたのかしら、服装が違うわ。

 

「服装が違うわね」

「あぁ、燃やされちゃってね。全く月の奴らめ。

 あそこによらなきゃ良かったよ」

「月へ行ったって言うの?」

「あぁ、その通りだよ。ま、全滅はさせちゃ居ないけど。

 暇つぶしにちょっと寄っただけだしね。

 そのせいでちょっと日が暮れちゃってるけど

 妖怪達の時間は夜だろ? 丁度良いんじゃ無いかな?」

 

…やっぱり、彼女の程の実力があれば、月も敵では無いか。

なら、私が1人で時間を稼ぐというのも難しいかしらね。

 

「さ、折角帰ってきたんだ。歓迎のパーティーでも開いておくれよ。

 楽しそうな奴をさ。歓迎の夕ご飯でも構わないよ?」

「あら、それなら喉も渇いているのかしら? 歓迎の雨ならあげるわよ?」

「あはは、雨程度で喉が潤うもんか。最低でも滝でしょ?」

「なら、弾幕の滝とかどう?」

 

少しでも足止めをしないと、宇宙に追い出す方法はもう使えないはず。

最初の時だって、わざと食らったような物だと思うし。

 

「おいおい、もはや今の僕にルールは関係ない。弾幕だと? くだらないね」

「……」

 

腕を少し動かすだけで、私の弾幕を全て流した。

やっぱり、相当な実力…私1人では、いや、幻想郷全てで動いても

彼女を倒すことは不可能。

 

「無駄な事は、ん?」

 

私に飛びかかろうとした彼女の周りを暗い闇が覆った。

今は夕暮れ、周囲を闇が覆うなんて事はあり得ない。

 

「フィル! 暴れないで!」

「人食い妖怪…」

 

確かルーミアだったかしら…何故あの子が。

 

「その声はルーミアか。おいおい、力の無い雑魚妖怪が僕に構ってくるってさ

 正直、蚊よりも脅威にはならないと思うけど?」

「勝ち目が無くても、私は…いや、私達はお前を止めるのだ!」

「ん?」

 

歌が聞えた…この歌は確か夜雀。

何処かで聞いたような不吉な歌声だと思ったけど

そうか、あの時出会った夜雀…何でここに?

 

「おりゃおりゃ! 足止めするぞ!」

「おっと、暗闇だけど感覚で分かったよ、足場を凍らせたんだね」

 

氷精…何で力の無い妖怪や妖怪までもが彼女を足止めしようと?

 

「……チルノ、ルーミア、気を付けて」

「わ、わか、あっぶね!」

 

蛍の子まで居るのね、どうやら暗闇からの弾幕を知らせている見たい。

 

「いやぁ、驚きだよ驚き。まさかさ、君達に狙われるとは思わなかったよ。

 でも倒す気じゃ無いよね?」

「そうだ! あたい達はお前を助けるんだ!」

「おいおい、何だそりゃ。僕が君達に何かしたのかい?

 助けてあげたとか、そんな真似をしたっけ?」

「したかも知れないししてないかも知れない! あたいは覚えてない!」

「それなら、どうして僕を助けようとする?」

「そんなもん! 友達だからに決ってる!」

「…いつ友達になったっけ」

「うわ!」

 

地面が割れた…そのせいでバランスが崩れたのかフィルの周りを覆っていた闇が消える。

 

「ルーミアの闇が!」

「不味いのだ! バランス崩しちゃって…」

「お前達程度の雑魚が群れたところで、僕を倒せるわけ無いだろ?

 当然、お前達程度じゃ僕を救うことも出来やしない。

 弱い奴は何も出来ないのさ、ただ蹂躙されるだけだ」

「あ、あたい達が弱いのは分かってる。でも、それは諦める理由にはならないんだ!」

「そうなのだ! 私達は絶対にフィルを助けるのだ!」

「そんなに会話もしてないのに、どうしてそこまで必死になるかな」

「ほんの少ししかお話ししてないからに決ってるでしょ!」

「そうだ! もっと話をする為にも絶対に助ける!」

 

……本当、力が無いのに良くやるわよ。どう足掻いても叶う筈が無いのに

どれだけ抵抗しても、あの子を救うのは難しいのに。

あれだけの過去を持っている彼女を癒やせるほどの幸福を与える事は…難しい。

それなら、傷なんて知らないまま、一生過ごしていた方が幸せでしょう…

 

「くだらないね! 僕はお前らの事なんてどうでも良いんだよ!」

 

…何で、さっきまで余裕そうな表情を浮かべていたあの子が

あの程度の言葉で動揺して居るの?

何かを押し殺しているように苦しそうに怒っている…

 

「友達だとか、そんな下らない話はどうだって良いんだよ! 邪魔だ失せろ!」

「うわ!」

「チルノ!」

「身の程を知れ!」

 

ほんの短期間の間にフィルは4人を倒した。

4人はそのまま地面に仰向けで倒れる。

だけど、全員小さく息をしていた。

 

「ふん、分かったか」

「……ま、まだ…あたいは…」

「……そのまま寝てろ、もう来るな」

「ふぃ…フィル……」

「ほぅ、僕の名前言えたんだ。案外頭良いじゃないか。

 それじゃあ、そのままお行儀良く眠ってな。

 実力差が分からない程の馬鹿じゃ無いでしょ?」

「と、友達を見捨てるくらいなら…あ、あたいは馬鹿でも…い、良い…」

「無駄に格好いいじゃないか。実力が伴ってなけりゃ、

 ただの遠吠えにしかならないけどね。

 さぁ紫さん…お待たせしちゃったね…と思ったが、やっぱり今はいいや」

「ふぃ、ふぃ…る……」

 

そのままあの4人を放置してあの子は姿を消した。

……何で私がこの4人の心配をしないと行けないのか分からないけど

今は深追いするべきでは無い。何故か私はそう判断して

あの4人の手当をすることにした…致命傷は何処にも無い。

妖怪所か、人間でも少し放置すれば直るほどの軽い怪我。

だけど、相手の意識を奪える場所を的確に突いていた。

これだけの芸当…殺すよりも難しい。

……どうやら、手当の方を選んだのは正解だったようね。


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