東方半獣録   作:幻想郷のオリオン座

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天狗達の挑戦

事態が最悪なのは間違いない…幻想郷存続の危機。

それを察したのか天魔様や大天狗様は行動を起した。

彼女へ攻撃を仕掛けるという行動を。

 

だけど、結果は惨敗、まるで勝負にはならなかった。

多数の烏天狗と白狼天狗を動かし、本人達まで動いても

まるでフィルには届かなかった…

 

幻想郷の賢者まで恐れるこの事態が、そんなに甘い事では無いとよく分かった。

だけど…それだけで私達が戦うのを諦める理由にはならなかった。

だって私達は既に、勝ち目が無いと言う事を知っていて挑んだんだから。

 

「……はぁ、はぁ」

「白狼天狗の雑魚が…まだ立つのかい?」

 

周囲を見渡しても、立っているのは私だけだった…

何で私は立っている? あれだけの攻撃を受けたのに。

私だけはこの場で立っている? そんなの…戦う理由が他とは違うから。

 

「例え……例え敵わないと知っていても…あなたを止める」

「どうして?」

「本当のあなたを知ってるからに決ってる」

「…ほんの少しだけ一緒に行動した程度で、本当の僕を知って居るだなんて片腹痛いね」

「それだけの時間で十分だって程に魅力的だったと言うだけ。

 一緒にペットショップを見て回ったり、幻想郷を見回ったり。

 本当他愛ないかも知れないけど、私はその休みの時間が本当に楽しかった。

 

 それはきっと…あなたと文さんが居たから。

 あなたの笑顔は本当に素晴らしかった…でも、今のあなたは痛ましい。

 今のあなたが浮かべている僅かな笑みは何処か物寂しげで見ていて辛い!」

「これが僕の真の姿だったとしたら? 今までの姿は

 僕が自分の暗い過去を覆い隠して無理に振る舞っていたとしたら?」

「それは無いと断言できますね…

 本当に隠して居たとすれば……あんな笑顔を見せられるはずが無いでしょう?」

 

私への問いに答えたのは…さっきまで倒れていたはずの文さんだった。

文さんはその言葉と共に、ゆっくりと立ち上がる…満足に動けないのに。

 

「あ、文さん…ボロボロなのに…どうして…」

「あやや…椛、あなたに言われるとは思わなかったわ…分かるでしょ?」

 

そう、文さんだってフィルと一緒に過ごした時間があった。

下手すれば、私よりも文さんはフィルと一緒に行動してたんだ…

私と同じくらいフィルに対して思い入れがあるのは…当然だった。

 

「烏天狗の方も起き上がるのか…何で立ち上がれるんだい?

 君達の身体は既にボロボロだろうに」

「身体の傷なんてどうせすぐに治りますよ、妖怪ですからね。

 でも、妖怪は心の傷に弱いんです。

 だからね、身体の傷よりも、あなたを放置して後悔する方が

 私にとっては辛いからと言うだけですよ、フィルさん。

 

 まぁ、新聞記者として、1人に肩入れするのはあまり良い事ではありませんが

 ほら、お気に入りの取材相手に恩を売るというのも悪くは無いかなと思いまして」

「何をしても、僕が君達に恩を感じることは無いよ。

 だって、君達が何をしても僕には何も出来ないんだから。

 影響を与えることも、僕を止めることも君達には叶わない」

「そんなの、やってみなきゃ分からないじゃ無いですか、椛。動けるなら手伝ってね」

「当然です、むしろ文さんが手伝って下さい」

 

不思議と力がみなぎってきた…ドンドン力があふれていく。

今までの私からは想像出来ないほどに早く動くことも出来た。

 

「っと、さっきより早いね、でも無駄だよ!」

 

私の攻撃はあっさりと避けられる…やっぱりまだ届かない…

更に追撃…避けられるわけが無い!

 

「それ!」

「っとと」

 

フィルの攻撃が私に当る直前に、文さんによる攻撃が飛んで来た。

フィルは文さんの加速にも多少は動揺したようで、私から距離を取った。

 

「お前も速くなったな…何があったんだい?」

「さぁ、私にも良くは分かりませんが力があふれてくるんですよ」

「そう…ま、どれだけ力を溢れさせても、お前らじゃ私には敵わない」

 

その言葉の通りだったのかも知れない。私達のちょっとしたパワーアップよりも

フィルが少しだけ力を込めた方が爆発的に能力が高くなっていた。

 

「うぅ!」

「や、やっぱり…まるで格が違う…」

「受入れろ、そして認めろ、君達じゃ僕には到底敵わないと。

 だから大人しく眠れ…命までは奪わない」

「それで…分かりましたと眠ってる奴が…この状態で立っているとでも?」

「フィル…私はあなたを救いたい…また私の息抜きに…付き合って欲しいから」

「あやや、椛が息抜きだなんて言葉を言うとは…少しは変ったわね…

 ならますます負けられない…絶対に救い出すから」

「もう…何か私だけ蚊帳の外で嫌なんだけど…外出歩けば良かったわ」

「はたて」

 

さっきまで倒れていたはたてさんも立ち上がった。

普段外には出ないインドア派が、ここで起き上がるんだ…

 

「文…この子助けたら、私も誘いなさいよ…一人だけ仲間外れは嫌だし」

「ふふ、良いでしょう。この子を助けたら、4人で幻想郷を巡りましょうか。

 新聞記者の基本…改めて教えてあげるわ」

「きっと楽しいですし…期待してて下さいね」

「おいおいおい、何良いムードになってるんだか。

 雑魚が3人になった程度で僕を止められると思うのかい?」

「思わないけど、やるわ…何事もまずはやってみるが大事だからね」

「……本当に馬鹿だな」

 

私達は3人同時にフィルに向って攻撃を仕掛けた。

その後どうなったか…そんなの、分かりきってる結末にたどり着いただけだった。

 

「うぅ…」

「……くぅ」

「本当…最…悪」

 

私達3人は為す術無く、フィルに倒された…身体が上手く動かない。

意識が少しだけ遠のいて…そんなに怪我はしてないのに…

 

「決まり切ってた未来に挑んだ気分はどうだい?

 無駄な抵抗をした気分は? …まぁいいや、そこで眠ってな。

 最初からこの結末は分かりきってた。力不足を嘆くことは無い。

 ただこれがどう足掻いても変えられない、どうしようも無い現実だったと言うだけだよ。

 

 むしろ君達は誇って良い。不可能に挑めるのは勇気ある奴だけだからね。

 最も、結果が付いてこなければその行動はただの滑稽でしか無い訳だけどね」

「それでも…私達は挑み続ける…当たり前を取り戻す…その為に。

 天狗は…変化を望む妖怪では…無いのですよ」

「この変化は変えられない。戻せない…だから眠ってろ。

 大丈夫、何もしなければ僕は君達の日常に手は出さない。

 君達に興味は無いんだ…被害は無いよ」

「あやや…お気に入りの取材相手が居なくなる…と言うのは

 新聞記者である…私にとって…は、十分過ぎる程に…嫌な…変化ですよ…」

 

意識が無くなっていく…止めないといけないのに…なんて無力…

私は何も出来ない…あの子の為に…いや…きっとまだ…何かある…筈…

あ、あぁ…暗闇の中に意識が吸い込まれていく…もう何も聞えない…


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